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第22章 パーソナリティ障害と摂食障害

第22章 パーソナリティ障害と摂食障害

ポイント
・どのパーソナリティ障害でも摂食障害を引き起こすことがある。
・摂食障害には神経性無食欲症と神経性大食症がある。
・境界性、演技性、強迫性、自己愛性は摂食障害を併発する可能性が高い。
・摂食障害を持つ患者の多くは同時に大うつ病に苦しむ。

パイを1ホール、クッキーを一袋、チョコバーを二つ。もちろん全部吐きました。
-----大食症患者

神経性無食欲症は1600年代から報告がある。現代社会ではよく見られる病気である。若い女性は誰が一番痩せているかを競っている。ウェブサイトでは医師や親に知られずに体重をコントロールする方法を教えている。有病率は0.5-1%であり、多くの人は思春期早期に発症している。若い男性の患者も徐々に増加している。フロイトによれば性的活動に対しての神経症性の不安が原因で少女らは思春期に食欲をなくすのだという。Hilda Bruch は若い女性はこの病気で自己コントロールを手に入れ、無力感に打ち勝つと考えた。
神経症性無食欲症の人は普通の体重を維持することを拒否する。わずかでも体重が増加することを恐れるし、体型に関して誤った思い込みがある。無月経になることがある。食事制限している人が多い。他人からはやせていると言われるが自分は太っていると思っている。自分から医者に行くことはまれで、家族が無理矢理連れて行くことが多い。
妄想性パーソナリティ障害があって神経症性無食欲症がある人は、他人が体重や体型に関して自分をだましているのではないかと信じている。他人を羨む。攻撃されていると信じる。
スキゾイド・パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になると、親しい社交は回避し、楽しいことをほとんどしなくなる。
スキゾタイパル・パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になるとどうして食べられないかについて奇妙な信念を抱き、行動がエキセントリックになる。
反社会性パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になると、衣類などを万引きしたり、無責任でいい加減になったりもする。良心の呵責がない。
境界性パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になることは非常に多い。患者は半狂乱で見捨てられることを回避しようとする。対人関係は嵐のように激しい。セルフイメージは特に身体に関して障害がある。衝動性は強く、薬物乱用、無謀運転、自殺企図に至ることがある。
演技性パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になることもまたよくある。注目の中心になりたくて、不適切に性的である。自己をドラマ化することが多いし被暗示性が高い。
自己愛性パーソナリティ障害で神経症性無食欲症が併発すると誇大的で果てしもなく美を夢想して、痩せさえすればと願う。あまりに特権的で他人を利用するので付き合っているのは難しい。
回避性パーソナリティ障害で神経症性無食欲症がある人は、拒絶を恐れて引きこもる。
依存性パーソナリティ障害で神経症性無食欲症がある人は、親や夫のような支配者の下にいたがる。痩せていなければ見捨てられると思い込み、非常に絶望的になる。
神経症性無食欲症では強迫性パーソナリティ障害が一番よく見られるパーソナリティ障害である。完全な体重や常時の食事制限に容易にとらわれてしまう。仕事の能率を上げることに熱中する。強迫性パーソナリティ障害の慎重であることや融通の利かない点は神経症性無食欲症に完全に一致している。

神経性大食症の人はむちゃ食いをして嘔吐するか下剤を使って下痢を起こしたりする。彼らもまた体型や体重にとらわれている。むちゃ食いでは普通は食べられないくらいの量を短時間に食べてしまう。甘いお菓子が好きでアイスクリームやケーキを食べる。多くの大食の人は症状を恥じていて隠したがる。
妄想性パーソナリティ障害では過食嘔吐を隠し通すことができる。
スキゾタイパル・パーソナリティ障害ではたとえば悪魔が食べ物を奪ってしまうなど食事についての奇妙な信念を抱く。
反社会性パーソナリティ障害では食べ物を盗み、嘔吐を楽しむ。
境界性パーソナリティ障害では誰かとけんかをしたり、抗議の意味で嘔吐したりする。強烈な怒りなどの感情はむちゃ食いをいくらか落ち着ける面がある。
演技性パーソナリティ障害では見せつけてやりたい人たちの前で食べられないことを演技して見せたりする。
自己愛性パーソナリティ障害では他人を利用して自分中心に振る舞う。
強迫性パーソナリティ障害ではすべてを食べることを基準にして考えるが、嘔吐と排泄で中和している。

キーポイント
大食症では嘔吐や下痢で排出をしていることがある。排出しない場合には、絶食したり、運動したりして、食べ過ぎた分を処理する。

症例スケッチ

アンナは最初のインタビューで快活で協力的だった。肌は青白く、何重にも洋服を重ね着していてどれほど痩せているのかよく分からなかった。アンナは37歳だった。食欲と過去2回の入院について質問したところ、大丈夫、心配する必要はないとの返事だった。話し方は穏やかで筋が通っていたし正しかった。幻覚や妄想はなかった。私には神経症性無食欲症(制限型)と強迫性パーソナリティ障害であることは明らかだった。プロザック20mg/日を2週間分処方し、その後は倍にして40mgにした。薬剤のせいで体重が増えることはあるのか、彼女は注意深く質問した。この抗うつ薬は体重増加をもたらさない数少ないものの一つであることを保証した。プロザックが強迫的な体重測定、完璧癖、強迫的な食事制限を和らげてくれればいいと医師として思った。4週間たって体重増加はなく気分はよくなり積極的な様子に見えて強迫症状は少なくなった。5週の後、安心感が出てセーターを何枚か脱いだ(夏だった)。彼女の腕はほうきの柄のようで驚きはしなかったが心配になった。今後入院しなくてもよい程度の体重なのかどうか難しいところだった。朝昼夕のメニューを聞いたとき彼女は嘘をついた。ダイエットコーラとにんじんだけが栄養だったこともあったようだ。
治療の焦点を摂食障害に移すにつれて、彼女は欠席がちになった。仕事場面での対人関係はあまり負担ではなかった様子だったので、私はそこに焦点を当てた。よい面としては、彼女は大食がなく、下剤を使用することもなかった。3ヶ月以上の間、他の人たちから孤立してボーイフレンドもなかったのだが、違法薬剤も使わなかったし、アルコールも飲まなかった。アンナは離婚した両親のそれぞれに年に数回会っていた。結婚した姉がいて、電話で話すことが時々あった。数年間の間、月経はなかった。13歳のとき彼女はまるまると太っていて、学校の男の子たちはあざけり笑った。支配的な母親は怒り、減量の本を持ってきて二人でダイエットを始めた。目標に達したとき母親はダイエットを中止した。しかしアンナはその後もダイエットを続け、痩せていった。そのことを彼女はパワフルと感じた。母親はアンナの無食欲を無視していたのだが、ついにアンナは失神して病院に運ばれた。医師は入院を勧めてた。17歳の時彼女は5’6’’(165センチ)で、たったの90ポンド(40.7kg)だった。ナースが毎日体重測定するのでアンナは入院病棟が嫌いだった。もし彼女が食事を食べたくないとか、体重を減らしたいとか言えば、ベッドから出してもらえなかった。彼女には独自の強迫症的な日課があったのだが、病院のナースはそれを許してくれなかった。患者の一人が、体重測定の前に水をグラスに5杯飲めばごまかせると教えた。アンナはバスローブのポケットに石ころを入れて体重をごまかしたこともあった。退院してから、精神科医の診察には行かなかった。体重は108ポンドまでいったが彼女は耐えられなかった。30歳になったとき不眠で自発的に精神科医を受診した。そのとき体重は再び90ポンドまで減っていた。精神科医はパキシル20mgを処方した。4週間後、よく眠れて、気分もよく、強迫性症状も少なくなったのだが、体重が125ポンド(それは彼女の身長の標準体重)までいったので彼女は怖くなってしまった。友人はほめたし、ある男性はデートを申し込んだ。しかしそれでも体重増加に耐えられなかったので彼女は薬をやめてしまった。そして太ったお腹を鏡で見て彼女が思ったのは巨大な太ももだった。

ディスカッション

7年前に私が彼女を初診するまでに、彼女は神経症性無食欲症と強迫性パーソナリティ障害の診断基準をすべて満たしていた。治療の始まりには、ラポールを確立することと陽性転移が大切だった。アンナはいつも治療を中止すると医師を脅かしていた。薬物療法に加えて、食べることと体重増加に関して肯定的に強化するようなアプローチの認知行動療法がベストな治療選択だった。強迫性パーソナリティ障害に関しては、体重を減らすのではなく、増えないようにチェックする方向で強迫性を閉じ込めるようにした。


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第21章 パーソナリティ障害と認知症

第21章 パーソナリティ障害と認知症

ポイント
・認知症の種類としては、アルツハイマー病、血管性、パーキンソン病、ハンチントン病、身体病、レビー小体型などがある。
・認知症はパーソナリティ障害の症状を強めたり弱めたりする。
・認知症で見られる性格変化はパーソナリティ障害とは違う。
・せん妄と記憶喪失は認知症とは違う。

高齢者の場合、大切な何かの喪失、ストレス増大、経済的苦境、老齢変化、健康悪化などがパーソナリティ障害の症状を悪化させる。
-----handbook of Personality disorders,ed.Jeffrey Magnavita

認知症は多方面にわたる認知機能欠損が特徴である。その中には記憶障害、失語、失行、失認、執行機能の障害などがある。失語では会話、読字、かつ/または書字の障害が出る。失行は動きたいように動けなくなる、失認は対象を認知する能力が損なわれる。執行機能は複雑な行動や抽象的思考を計画し、自発的に動き、中止する機能を指す。

キーポイント
記憶障害は認知証の始まりにもある症状で、終わりまである症状でもある。

認知症患者は新しいことを覚えることができないし、覚えたことをすぐに忘れる。鍵や貴重品を置き忘れ、親しい隣人を訪ねようと思っても道が分からない。ときには家族の顔や名前が分からなくなる。
もちろん、こうした認知機能の障害はすべて社交や仕事で問題を引き起こす。患者は仕事、買い物、服を着ること、入浴、その他日常の活動ができなくなる。
認知症の始まりの年齢は原因によるが、通常は人生の晩年である。有病率は65-69歳で約1.5%、85歳以上で16-25%である。通常認知症は進行性で非可逆的な経過を取るが、原因によっては可逆的である。
アルツハイマー病では、機能脱落は徐々に始まり、進行性である。他の認知症の可能性が除外されてはじめて診断される。
妄想性パーソナリティ障害の人はアルツハイマー病の始まりには、不信と疑惑が激しくなるが、最後には妄想もすっかり忘れてしまう。
スキゾイド・パーソナリティ障害の場合にアルツハイマー病になると引きこもりが激しくなる。アルツハイマー病の最終局面では、他人に全く無関心になり、あるいは一部のケースでは逆に親しく振る舞ったりする。
スキゾタイパル・パーソナリティ障害ではアルツハイマー病が始まると最初は妄想が強くなり、進行するにつれて完全にエキセントリックになる。反社会性パーソナリティ障害では認知症の経過全体を通じて、攻撃性と衝動性が強くなる。
境界性パーソナリティ障害では特に扱いが困難である。彼らはさらにけんかしやすくなり、同時に極めて妄想性になる。しばしば他人に暴力を振るい、また自分を傷つけることもある。
演技性パーソナリティ障害では感情のむらによって行動し他人の注意をひきつける。自己愛性パーソナリティ障害では自分で横柄な態度を取っているのに、いつも他人に奉仕を期待する。回避性パーソナリティ障害では認知症の始まりから他人を遠ざけるようになる。しかし進行するにつれてお世話係とうまくやるようになる。認知機能が低下して自分の不適切さが気にならなくなるようだ。
依存的パーソナリティ障害では、お世話係に完全に依存して、最後には依存する必要も分からなくなる。強迫性パーソナリティ障害では、認知症が進展するにつれて強迫観念が強くなるが、その時期を超えると、そうする能力も失われる。
血管性認知症は以前は多発梗塞性認知症と呼ばれた。アルツハイマー病に似て記憶障害、失語、失行、失認、執行機能障害が起こる。加えて、局所神経症状が出る。たとえば深部腱反射の亢進、歩行障害その他がある。これは脳のいろいろな部分で血管梗塞が起こるからであり、すなわち、動脈壁に血栓ができて血流が妨げられ神経細胞が破壊されるからである。アルツハイマー病患者として記述されている場合にも、いろいろなパーソナリティ障害の症状が影響を受けている。
レヴィー小体型認知症では、ドパミン神経細胞が破壊され、幻視が特徴である。興味深いことに、パーソナリティ障害の症状はほかの認知症がある場合と同じように影響を受ける。

症例スケッチ

エルビアは20年間イタリアンレストランを経営してきた。62歳。ウエイターとしてスタートして、マネージャーに昇格し、ついにオーナーになった。彼女はタフなビジネスウーマンとして知られ、従業員とけんかはする、顧客を熱愛する、食べ過ぎることを愛し、無謀運転をする、大量飲酒する。レストランは彼女にとってすべてで、特に彼女に「重要な他者」や直接の家族がいなくなってからはそうだった。
ある夕方、お気に入りの客がディナーにやってきた。エルビアはいつものように丁重に席を勧めて、名前はWillだったのだがTedと言ってしまった。エルビアは彼の名前をずっと覚えていてくれたし、彼の好きなメニューも覚えていてくれたので、彼は深く気分を害してしまった。別の時には二人のウェイトレスにいつもの給料を支払うのを忘れてしまった。彼らは怒って文句をつけた。エルビアは謝って、二人を事務所に連れて行った。ところが金庫の番号が思い出せなくて悩んでしまった。ウェイトレス二人は驚きのまなざしを交わした。エルビアが金庫の番号を忘れた場面など見たことがなかったのだ。彼女はやっとのことで番号を書いたメモを見つけて金庫を開けた。エルビアはお金を数えて、さらにまた数え直した。お金を数えることは彼女の一番得意なことだったので二人のウェイトレスはどこか具合が悪いのかと聞いた。エルビアは問題はないと答えたが、二人は給料を数えるのを手伝わなければならなかった。
また客と従業員はエルビアが時間も不確かで皿やコップのような簡単なものの名前も言えないことに気付いた。年のせいだとみんなが思った。遠くのいとこが助けに呼ばれた。数ヶ月の交渉の後、アシスタント・マネージャーが彼女のレストランを買い取り、エルビアは看護ケア付きの施設に入居した。二人のウェイトレスが6ヶ月後に彼女を訪ねて施設に行ったところ、エルビアは彼女らを認識できなかった。彼女は一人を「マンマ」、もう一人を「お姉ちゃん」と呼んだ。

ディスカッション

このスケッチはアルツハイマータイプの認知症(AD)の典型例である。エルビアは65歳以下なので初老期発症である。アルツハイマー病は女性に多い。エルビアは意識障害もなく、妄想やうつ病もないので、複雑なタイプではなかった。ADはゆっくりと進行性の病気なので、おそらく人に気付かれる何年も前からエルビアはアルツハイマー病だったのだろう。周囲の人は彼女の境界性パーソナリティ障害に先に気がついただろう。怒り、攻撃性、よい人(客)と悪い人(スタッフの一部)に人々を分割(スプリッティング)していること、などが明白な証拠である。認知症の始まりには行動が活発になり、進行してからは静かになり引きこもった。
ADの原因は現在も不明である。脳の顕微鏡的変化としては神経原繊維変化と老人斑がある。肉眼解剖的変化としては前頭葉と側頭葉の萎縮がある。検死解剖がADの確定診断の唯一の方法である。ダウン症候群の人はADの有病率が高く、40歳代でADになる。
人格変化としては感情の不安定、衝動コントロール不良、怒りの突発、顕著なアパシー(無感情)、妄想傾向(パラノイア)がある。エルビアはこのどれも当てはまるが、彼女の境界性パーソナリティ障害でも、このことを説明できる。実際はこれらは彼女にとっては新しい症状ではなかった。もしこれらが新しい症状であり、60歳代で始まったものならば、性格変化と言えるだろうが、実際には彼女はⅡ軸障害を最初から持っていた。いろいろなタイプの認知症で多くの患者は性格変化を起こすが、医師は最初からパーソナリティ障害を持っていなかったか、確認する必要がある。

せん妄は、意識障害の一種であり、普通は認知症とともに始まるものではない。エルビアがせん妄を呈したとして、短期間のことであり、始まりと終わりがあり、たぶん何かの身体的原因があると考えられる(たとえば薬剤過量)。せん妄はADやパーソナリティ障害から当然に生じるものではない。
記憶喪失は記憶の障害で、通常は意識障害や認知症のコンテクストでは用いられない。
 
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紹介が簡単すぎるので色々と誤解が生じるのかもしれない
極めて簡単な紹介と思って下さい

境界性パーソナリティ障害に気付くとか気付かないということに関しても
そう簡単なことではない

むしろ逆に、人に対して腹を立てたときに、発達障害ではないかとか、アスペルガーではないか、パーソナリティ障害ではないかとか、過剰診断する場合の方が多いので注意が必要である


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第20章 パーソナリティ障害とADHD

第20章 パーソナリティ障害とADHD

ポイント
・パーソナリティ障害の人は誰でも注意欠陥多動性障害(ADHD)でもある可能性がある。
・ADHDの場合によく見られるパーソナリティ障害は、反社会性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害である。
・自己敗北型(自滅型)パーソナリティ障害もADHDによく見られる。
・ADHDが診断されるのは学童期に多く、パーソナリティ障害の診断は成人期初期にされることが多い。

活動性が高く注意の持続が短いというような特徴がある場合には第一にADHDを考えるべきである。
-----Kaplan and Sadock's Synopsis of Psychiatry, on ADHD

注意欠陥多動性障害(ADHD)は注意の持続ができず、かつ/または、多動性、衝動性が見られ、7歳以前に明らかになる。多くの例では、診断されるのは10歳か11歳くらい、あるいは10代である。中には成人してから診断される人もいる。
パーソナリティ障害の診断は成人してから下されることが多い。
ADHDは家庭、学校または職場で明らかになるが、学校での注意持続の障害は成績低下につながり、仕事では粗雑な結果しか出せないし、まとまりのないものになる。もし注意の持続が必要な場合には、患者は困ることになる。
強迫性パーソナリティ障害(OCPD)があればADHDの人には有利である。しかしADHDはたいていはOCPDではない。その代わり、ADHDでは反社会性パーソナリティ障害がよく見られる。彼らは衝動的で、不注意であり、他人の権利を踏みにじり、社会的規範を守れない。無責任と仕事のときの気まぐれな態度がADHDの診断の大きなステップになる。すべてのADHDが反社会性パーソナリティ障害であるというのではない。ADHDの多くは嘘をつけないし、他人をだますこともできないし、他人とけんかすることもできない。

素行障害もまた他人の基本的権利が侵害されるタイプである。他人や動物に対する攻撃性、物品を壊す、盗むなどが見られる。子供時代や思春期に発症し、18歳を過ぎていたら反社会性パーソナリティ障害と診断される。
境界性パーソナリティ障害がADHDを伴うこともよくあり、我々がBPDでよく見る不安定な対人関係がさらに拡大される。もちろん、衝動性は強い。BPDとADHDを併発する場合は、不注意にお金を浪費し、危険な性交渉に熱中し、無謀な運転をし、むちゃ食いも見られる。自殺の危険も高くなる。ADHDはⅠ軸でありBPDはⅡ軸である。
ADHDと演技性パーソナリティ障害を併発している場合、注目の中心になろうとして、挑発的な行動をすることがある。感情はむらがあり急速に変化する。親密な対人関係が両者ともに困難である。両者とも対人関係を損なうことがある。あとで満足するということがどちらの人にとっても難しい。ADHD患者は常に新奇なものを追い求めている。演技性パーソナリティ障害も同じ。

キーポイント
患者が自己敗北的(自滅型)ならば、ADHDと自己敗北型パーソナリティ障害を考えよ。

症例スケッチ
 
チャックは32歳、本の編集者、華々しい新しい仕事を取ってきて同僚を助けるという評判だった。彼の力量はすばらしかったので、チャックの上司は彼の習慣を大目に見ていた。彼は遅刻常習者であり、オフィスを片付けられず、仕事を最後まで仕上げることができなかった。少なくともここのところはそうだ。
会議があると、メンバーはチャックが約束の時間に少なくとも20分遅れて出てくるものといつも思っていた。新しい書き手や訪問者は時間通りに現れるものと思って待っていると失望させられた。忘れられた課題はそのままになってしまった。ケアレスミスが彼のほかの大部分はすばらしい作品を損なっていた。
滅多にないことだが、上級編集者がチャックのオフィスを訪ねたとき、チャックの机の上はめちゃめちゃだった。原稿と本とノートとペンが散乱していた。
「どこに何があるか分かるのか?」とボスは聞いた。
「大丈夫、全部分かっています」とチャックが答えたので、
「じゃあ、パットンの原稿はどこ?」と聞いたところ、
チャックは飛び上がっておどおどして小さな机の端に不安定に積み上がった書類の束を引っかき回した。
「多分、窓の下でしょう」彼は窓の下に走って行って別の乱雑な書類の束を探し回った。
「彼はE-メールでも入稿しているはずです」チャックはコンピュータに向かいクリックをはじめた。
「見つけたら見せて下さいね」上司はできるだけ優しく声をかけた。しかし、作品を獲得した経歴は認めるとしても、こうした不愉快でまとまりのない職員にどれだけ我慢ができるものかと思っていた。
その午後遅くなってから、ボスはチャックに再度原稿を要求した。チャックは自滅を招くような態度で、すっかり忘れてしまった。チャックは上司がその部門の職員数を減らしたいと思っていることを知っていたにもかかわらずである。
次の日チャックは自分の会社で最近出版したADHDについての本を手に取ってみた。著者はチャックの問題について書いていた。詳細に関する注意の欠如、ケアレスミス、人の話をじっと聞くことができない、仕事を完成できない、まとまりのない行動、持続的な精神集中を要する仕事ができないこと、ものをなくすこと、忘れやすいこと。(著者はチャックの自己敗北型行動については書いていなかった。)本の最後には精神薬理学者のリストがあった。
その中の一人を受診したところ、ADHDかつ自己敗北型パーソナリティ障害と診断された。医師はAdderall XR 10mg (amphetamine and dextroamphetamine)一日二回を処方した。二週間後、チャックは原稿が容易に読めるようになった。オフィスもアパートもきれいに片付けた。大事な日付は覚えていられたし、上司の指示に集中できた。もちろん、彼は依然として自滅的行動を取り、いつも約束に遅れるし、会議では不適切な発言をしている。

ディスカッション
 
チャックは成人期後半なって診断されたADHDである。よくあることだが、優秀なのに、注意の欠損を補うために余計な努力をしていた。ADHDの有病率は学業年齢の子供で約3-7%である。成人での有病率は今のところ知られていないが、診断されることが徐々に普通になっている。男性が女性よりも多く、4:1またはそれ以上である。第一度近親者ではより多く見られる。これが遺伝のせいなのか環境のせいなのか、研究が必要である。ADHDの神経生物学は1971年にドパミン系とノルアドレナリン系の神経回路が探索されて以来研究されていて、皮質下機能に対する前頭皮質抑制系のコントロールが弱いという仮説がある。現在まで、CTやMRIで前頭皮質、小脳、皮質下構造の体積が減少していることが見いだされている。Adderallのような神経刺激剤が使用されると、ドパミンとノルアドレナリンの再取り込みが抑制されて能力が向上する。チャックのような患者を治療する様々な試みがある。



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第19章 パーソナリティ障害と強迫性障害(OCD)

第19章 パーソナリティ障害と強迫性障害(OCD)

ポイント
・強迫性障害(OCD)と強迫性パーソナリティ障害(OCPD)を混同しないこと。
・どんなパーソナリティ障害でも強迫性障害になることがあるが、演技性パーソナリティ障害は可能性が少ない。
・強迫性障害は基本的に不安性障害である。
・強迫性障害と強迫性パーソナリティ障害が合併することはある。

強迫性障害患者はしばしば症状を宇宙からの侵略者のように思う。このありがたくない侵略者は彼らの人生のコースを変えてしまう。
-----Drs.Eugen Neziroglu and Jose A. Yaryure Tobias

強迫性障害(OCD)では、強迫観念または強迫行為があり、一日一時間以上時間を費やしたり、非常な苦痛を感じたりしている。強迫観念はしつこい観念、思考または衝動で、侵入的で不適切である。自我親和的ではない。患者はこれらの考えを考えざるをえない。そしてその考えは自分自身の心から出たものだと認識している。もし患者が、思考吹入のように、その考えが誰かによって強制されたものだと感じるなら、それはOCDではない。清潔と秩序に関して考えを巡らし、その考えを抑圧しようとする。強迫行為は手洗いや数かぞえのような、不安を減じる反復行動である。強迫行為は患者が回避したいと思っている出来事と現実的には関係していない。手が不潔と考えたとしても、1回ではなく10回洗えばいいというものでもないし、不吉な数字を回避したからと言って、現実に何かがよくなるものでもない。
強迫性パーソナリティ障害の特徴は強迫観念や強迫行為の存在ではない。それは強迫性障害の特徴であって、混同しないことが大切だ。秩序、完璧性、コントロールに心を占領され、それが成人期初期から始まる。
強迫性パーソナリティ障害患者は摂食障害、抜毛癖、薬剤依存、心気症、性的倒錯、大うつ病がある時の罪責感などを併発することがある。そして食事、抜毛、以下同様に関して単なる癖の範囲を超えていれば、OCDがあると分類され合併していると考えてよい。
妄想性パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば、人々が忠誠心なく信用出来ないという考えにとりつかれる。
スキゾイドパーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば常に孤独な活動を選ぶように強制されるかのようである。
スキゾタイパルパーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば人が彼について話すとき常に否定的であるとという考えにとりつかれる。一方、反社会的パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば彼が他人を騙そうとしている時でさえ、彼に対してはすべての人が肯定的であるかのように強迫的に行動する。
境界性パーソナリティ障害でOCDがⅠ軸にあれば他人に対しての怒りを強迫的に行動化することがある。
演技性パーソナリティ障害ではOCDがⅠ軸にあれば、強迫的と言うよりは衝動的で、時には他人の興味を引くように強迫的に話たりする。彼らはⅠ軸のOCDをもっとも持ちそうにない人たちである。
自己愛性パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば自分の偉大な美や知性のファンタジーに取り憑かれることがある。
回避性パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば強迫的に他人を回避する。依存的パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば他人が彼を助けに来てくれるのを待つことに取り憑かれることがある。
OCDやOCPDをもつ人々にとって秩序に心を奪われることは強迫観念や強迫行為につながる。OCPD患者はあまりにも完璧主義者なので、プロジェクトを強迫的に完成しようとし、しかしシジフォスの神話のように決して達成されない。

キーポイント
患者が厳格で頑固であっても、強迫観念的でも強迫行為的でもないなら、診断は単にOCPDである。

患者集団によって文化的に正統と認められた風俗習慣が反映されている行為に関しては除外する必要がある。
例えば、患者の宗教グループが食事前に手を三回洗うことを要求しているなら、OCDとは考えない。ただ彼が一日に12回手洗いをして家族や友人が彼に苦情をいうならそれはOCDである。

症例スケッチ

一目見ただけで誰もがマークは完璧な人生を送ってきたと思うだろう。背が高くハンサムで完全に身づくろいして、35歳の弁護士で、自分の弁護士事務所を持ち、二人の秘書と一人の事務員を雇っていた。
しかしマークは強迫性障害と格闘していた。一つの明白な症状は仕事を強迫的に何度もチェックすることだった。仕事の速度が耐えがたいほど遅いので、たいていの弁護士の3倍の時間がかかった。午前6時に始めたとしても、終わるのはしばしば夜10時であり、それでも彼のケースの事務量は軽いのだった。
従業員はマークは奇妙だと思った。彼らは毎日彼が何かの儀式をするのを見ていたし、それを助けるように頼まれた。
机に座る前に、ペンと本を円形に並べないと気がすまなかった。このパターンがセットされないと、彼は仕事をはじめることができなかった。彼は従業員に机の上にファイルを置くときには2つセットで置くように要求した。そして部屋の右側からだけ入るように要求した。彼がひざ掛けを左右対称にように気をつけていることを従業員は知らなかった。3ヶ月前に彼は従業員に左側だけから入るように頼んだ。
一度秘書が机から本を動かした時、マークは激怒した。その本が机の上に戻されるまで仕事ができなかった。職員は知らなかったが、彼はしばしばイライラして、気分のむらがあり、慢性的な空虚感があった。対人関係は強烈で不安定であり、その点では彼は境界性パーソナリティ障害と診断されただろう。
マークの従業員は通常は注意深く彼の奇妙な要求に従っていた。そして彼らは彼の好みの秩序に部屋を保つことに多くの時間を費やした。
仕事が終わっている時でもマークは毎晩9時に帰宅する事ができなかった。何かし残した大事な仕事がありそうな気がした。ある日マークはもう何回も見たはずの請求書をチェックしないではいられなかった。請求書の合計は正しいと確認するのだが、またすぐに疑問が生じる。3時間を費やしたが、そのおかげでその日しなければならなかった大事な申請書を忘れてしまった。そんなことがあって、彼は治療を受けなければならないと決心した。
マークが受診した精神科医はOCDとBPDと診断した。マークはレクサプロを処方され、6週間で60ミリまで増量された。その量で彼は安心を感じた。チェック儀式を中止して、各ケースに費やす時間は約半分に減った。

ディスカッション
OCDは比較的よく見られる疾患で、アメリカで600万人。男女同数でしばしば家系内で遺伝する。OCDでは帯状束が過活動になっているとの報告がある。多くの患者は抗うつ薬、特にSSRIによく反応する。このことは、OCDが特にセロトニンの神経伝達系の問題であることを示しているとする理論もある。認知行動療法が有効である。行動療法は強迫思考よりも強迫行為に有効である。
マークのケースはOCDの典型例である。厳しい強迫観念を満足させるために強迫性の反復行為をして、結果として長時間労働して成功した弁護士である。事務所にいる時間は長いのだがOCDがあるので成果はあまり上がらない。この病気のよい点として粘り強さがある。彼はいったん仕事を始めると完了するまで諦めない。薬剤が彼の固執性を消すことはない。薬剤で能率がややよくなることはある。数ヶ月の治療の後、マークの強迫性障害は75%減少した。怒りと気分のむらは少なくなったがⅡ軸の境界性パーソナリティ障害の診断を取り消すほどではない。



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第18章 パーソナリティ障害とシゾフレニー

第18章 パーソナリティ障害とシゾフレニー

ポイント
・シゾフレニーはどのパーソナリティ障害とも合併する可能性がある。妄想性パーソナリティ障害、スキゾタイパル・パーソナリティ障害、スキゾイド・パーソナリティ障害は除く。
・シゾフレニー患者は病前にスキゾイド・パーソナリティ障害、スキゾタイパル・パーソナリティ障害、妄想性パーソナリティ障害と診断されることがある。
・シゾフレニーともっとも普通に合併するのは強迫性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害である。
・もし患者が妄想かつ/または幻覚を一ヶ月またはそれ以上の間経験しているなら、単にパーソナリティ障害ではなくてシゾフレニーである可能性が非常に高い。

(シゾフレニーという)この言葉はよく誤解されている。特に専門外の人たちに多重人格と思われているようだ。
-----Kaplan and Sadock’s Synopsis of Psychiatry

シゾフレニーの症状は陰性症状と陽性症状に分類されることが多い。陽性症状には妄想、幻覚、まとまりのない会話と行動などがある。陰性症状としては情動の範囲と強度が制限されること、感情の平板化、無言、意欲低下などがある。
1930年にブロイラーはシゾフレニーの4つのAを記述し、それは現在でも有用である。(1)Association 連合 つまり連合弛緩、(2)Affect 感情、不適切で平板な感情、(3)Autism 自閉 世界から遠ざかり自分の内面とだけ関わり合う、(4)Ambivalence 二律背反 決心できずどっちにするか迷う。

妄想性、スキゾイド、スキゾタイパル・パーソナリティ障害については、DSM-IV-TRでは除外診断基準があり、シゾフレニー、精神病性特徴を伴う双極性障害および他の精神病の経過の中でのみ発生した行動パターンではないこととされている。もし患者がシゾフレニーのような慢性のⅠ軸疾患を持ち、それが病前から存在するパーソナリティ障害によって悪化するならば、そのパーソナリティ障害は「病前」からのものと考えられる。シゾフレニーに関してはⅡ軸診断として妄想性、スキゾイド、スキゾタイパル・パーソナリティ障害はないと考えておくのが、混乱がなくてよいと思う。

キーポイント
スキゾタイパル、妄想性、境界性パーソナリティ障害はすべて妄想を伴うことがあるが、シゾフレニーのような幻覚を伴うことはない。

もし患者に幻聴や幻視があるなら、診断としてはシゾフレニーを考えるべきだ。たとえ患者の妄想が始まったばかりで、医師が妄想性パーソナリティ障害、スキゾタイパル・パーソナリティ障害あるいは境界性パーソナリティ障害として治療していたとしても、診断変更すべきである。いったん精神病領域に入り、明らかな幻覚がある場合、診断が単なるパーソナリティ障害というのでは不充分である。もちろん、双極Ⅰ型、一過性精神病あるいは物質誘発性障害についても考慮すべきである。

キーポイント
ストレスはⅡ軸パーソナリティ障害を持つ患者にⅠ軸疾患をもたらす可能性がある。

症例スケッチ
サラは22歳、銀行員。並んで仕事をしている5人の銀行員と区別がつかないと言われても気にしない人だった。客が彼女を無視しても、違う名前で呼ばれても気にしないでいられた。しかし彼女の謙遜は精神の健康のサインではなかった。細かいことを気にしないでいいことだと人は思うらしいが、彼女の場合はむしろ、精神の混乱の最初の徴候だった。
サラは銀行での仕事を楽しんでいた。口座を維持することやコンピュータに数字を入力することに責任を感じていた。彼女は詳細にこだわり、自分が正しいかどうか計算のあとで検算し何時間も余計な時間を費やした。彼女は人付き合いが苦手だった。同僚はみんな彼女を嫌っていた。ひとりぼっちにして、彼女を「奇妙」だと考えた。彼女にはその方がよかったし、たまにランチやパーティに誘われても断った。上司は仕事をやり遂げる能力を尊重していた。
サラが勤めて丸一年たったとき、問題は起こった。ある日、彼女がコンピュータに数字を入れ始めると、突然、どこかから声がした。「サラ、ダメなやつ、怠け者。お前が横領しているのを知っているぞ。」コンピュータが彼女に話しかけたのだと思った。コンピュータにはそんな機能はついていないと知ってはいたが、彼女はそう思うしかなかった。誰か、何かが、彼女が横領をしているのだと考えているらしいと分かって、ほんとうに驚いた。
そのよ、サラは眠れなかった。彼女を告発する声について考え続けていた。次の日はもっと悪かった。FBIが彼女のコンピュータに装置を埋め込んで見張っていると考え始めた。その装置で彼女のすべての動きが察知できると思った。またサラは同僚たちが彼女についてささやき合っているのを聞いたと考えた。彼女のアパートでは、銀行から横領する計画について話す声が聞こえたと思った。FBIのカメラがアパートにも付けられたと思ったので服を脱ぐのも風呂に入るのも怖くなった。FBIに裸を見られたくないので、シャワーもやめたし洋服を取り替えることもやめた。普段彼女の身繕いは完全だったのに、服装は乱れたままになった。
仕事でコンピュータに触るのが怖くなった。サラが電話で何も話さないので母親は異常に気がついた。母親がサラのアパートに行ったとき、サラが部屋の隅で両手で耳をふさいでいたのを見て、母親はサラを救急に連れて行った。精神科医はサラを3週間入院させた。サラは最初の精神病症状を経験したのだと診断された。ジプレキサ10ミリを投与され、職場に戻った。彼女は症状再燃することなく2年が経ち、服薬中止に挑戦した。

ディスカッション

サラのスケッチはシゾフレニーの人のいろいろな側面を描いている。病前性格として彼女は強迫性パーソナリティ障害を持っていた。完璧主義で、秩序を愛し、厳格で、働き過ぎで、詳細にこだわった。また内向的でひきこもりだった。自我機能が低下していたので他の人が彼女を目立たない人と思っても満足していた。職業人としてはよくやっていたし上司は評価していた。シゾフレニーの人は、コンピュータ・プログラミングのような対人関係を要求されない仕事ならば例外的なくらいにうまくこなすことがしばしばある。
サラのように、シゾフレニーの人は思春期から成人期初期に発病することが多い。サラの精神病症状は6ヶ月間持続した。彼女が横領しているという声は幻聴である。FBIが彼女を監視しているというのは妄想である。精神病を隠そうとして彼女の行動は不適切になった。幻聴に対して笑ったり、しかめっ面をしたりした。コンピュータに触るのが怖かったので事務仕事は苦痛になった。彼女の行動が奇妙だったので同僚はある程度噂をしただろう。サラはさらに引きこもり、陽性症状として幻覚、妄想、奇妙な行動、さらに陰性症状として浅い感情、無言、意欲低下を呈していた。
シゾフレニーは全世界に広がっており有病率は約1%である。シゾフレニーの人は仕事、対人関係、セルフケアの各方面で機能低下が見られる。1960年代以来、治療に有効な薬剤が開発されてきた。精神病を引き起こすと考えられているドパミン濃度を、薬剤は低下させる。新しい非定型抗精神病薬では患者は仕事に戻れるし、時に対人関係も取り戻し、セルフケア能力も改善する。
サラの強迫性パーソナリティ障害は精神病症状が強い時には目立たず、病前の機能を回復した時には再度目立つようになった。ある意味では、強迫性パーソナリティ障害は彼女とともにあり、彼女の精神機能を向上させているのかもしれない。

強迫性症状が存在するうちはシゾフレニーの症状が目立たず、シゾフレニーの症状が強くなってくると強迫性症状が消えてしまう現象は昔から観察されていて、上のような解釈もあるが、一方で、伝統的に、強迫性症状がシゾフレニーの防波堤になっているとの解釈もある。強迫性症状があったので薬剤を投与したところ、強迫性症状は消えたものの、シゾフレニーの症状が出現したという典型的な話である。防波堤という意味は、シゾフレニーの生じ用を形成する以前の予兆的な症状を、強迫性障害の儀式的行為や思考によって回収していると言うべきか、発展を防止しているというべきか。強迫性思考・行為という自我違和的な領域で症状を処理してしまえれば、シゾフレニーという、自我親和的な領域の処理が必要ではなくなるだろうという話なのだが、思弁的すぎて、何のことか了解不能と言われればそうかもしれないとは思う。

現在は全世界的にうつ病の時代から双極性の時代に移行しつつあるので、なおさらシゾフレニーの時代は過去のものになりつつある。グルタミン酸関係の薬剤が開発されて環境が整えば再度シゾフレニーの時代が訪れ、診断もシゾフレニー優位にシフトしていくのだろうと思う。

実際の診断では、人格の手触りとしてシゾフレニーの疑いがあるときに、診断基準を満たさない程度であれば、考えるべきなのがクラスターAで、301.0 妄想性パーソナリティ障害 Paranoid personality disorder、301.20 スキゾイドパーソナリティ障害 Schizoid personality disorder、301.22 統合失調型パーソナリティ障害 Schizotypal personality disorderの3つが最初に鑑別スべきⅡ軸障害となる。これらはシゾフレニーと移行のないものもあるし、ストレスの程度によっては移行するものもある。また遺伝的にシゾフレニーとの近縁が言われる場合も、それを否定される場合もある。
しかしシゾフレにーが人類に普遍的で約1%とよく言われるからには、その周辺性格としての3つも、同程度に普遍的であって良いはずであるが、そうとも思えない。
たとえば富士山の頂上付近と裾野付近をシゾフレニーとクラスターAパーソナリティ障害と考えると、思弁的には整合的であるが、現実にはそうでもないらしい。
実際、シゾフレニーの薄められたものというような印象は正しくないことがある。妄想性パーソナリティ障害は何も薄められてはいないだろうと思う。ただ医療になじまないだけだろうと思う。言い方を変えれば、今のところ、薬剤もないくらい強力なものとも言える。
パラノイア中核論というような議論もあり、これはパラノイアということばの問題もあるのだろうが、なかなか交通整理が難しい部分である。

個人的にはシゾフレニーの症状を陽性症状と陰性症状に分類して考えるなど、100年も時代を逆行する行為に思える。また、幻覚妄想と無神経に並べているのも、その性質についてよく考えたことがおそらく一度もないだろうと思われるくらいである。幻覚を構成する幻聴とその他、たとえば幻視は、根本的に性質を事にするものが混入しているのであり、シゾフレニーの指標となりうるものは、幻聴であり、特に、その被害的意味内容であり、また、能動性の剥奪である。

パーソナリティ障害を考える時に、カテゴリー分類、ディメンション分類、スペクトラム分類などの分類方式があり、一つの現実をどのように切り取るかの方法の話だろうと思う。
科学というものはそれら類似のものをどのような側面で測定し位置づけるかという作業である。何を測定し、どのように並べるか。 パーソナリティ障害全体はまだその入口にあるのだろうと考えられる。


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第17章 パーソナリティ障害とパニック発作

第17章 パーソナリティ障害とパニック発作

ポイント
・どのようなパーソナリティ障害もパニック発作を起こす可能性がある。
・パニック障害で最もよく見られるのは依存性パーソナリティ障害と回避性パーソナリティ障害である。
・パニック障害は容易に治療できるが、パーソナリティ障害は難しい。
・未治療のパニック発作患者はアゴラフォビアになることがあり、さらには回避性パーソナリティ障害となることがある。

パニック障害は極めてありふれた病気で、生涯有病率は1.5-3.5%である。不安性障害それ自体は一般人口に見られる精神科的問題の中でも最も頻度の高いもののひとつである。
どこで起こるか分からず、何が理由なのかも分からず、強烈な恐怖と不快感が起こるのがパニック発作である。
パニック発作は内部刺激や外部刺激によって誘発されるものではない。単純恐怖症はそのような刺激によって誘発される。
パニック障害の経過の後半になって、パニック発作が、以前にパニック発作が起こった状況が引き金となって起こることがある。

キーポイント
もし患者がある特定の状況や出来事にいつも症状を呈するなら、それは不安発作であって、パニック発作ではない。

パニック発作は10分でピークに達し、以下の4つまたはそれ以上がある。動悸、心臓のバクバク、心拍数の増加、発汗、震え、息切れ、窒息感、胸痛、吐き気、めまい、脱現実感・離人感、コントロールを失う恐怖、死ぬ恐怖、感覚異常、悪寒、ホットフラッシュ。
患者はしばしば救急に搬送され、心臓発作があったのかと思われる。パニック発作と分かると、精神科医に治療を受けるように言われる。
パニック障害と診断するためには、患者には反復する予期しないパニック症状がなければならず、また、最低一ヶ月、パニック発作が起こるのではないかと心配していなければならない。
もし患者がパニック発作について心配していないなら、それは多分パニック障害ではなく、いろいろなパーソナリティ障害が患者の不安の表現の仕方に影響を与えているのだと考えられる。
たとえば、妄想性パーソナリティ障害は自分にパニック発作がある事実を隠したがる。この情報自体が悪用されるかもしれないからである。
境界性パーソナリティ障害では、世間の不正への怒りを表現するためにパニック発作が使われるかもしれない。
演技性パーソナリティ障害では、パニック発作は誇張されて、医療職員の注目を最大にすることができるかもしれない。
またスキゾイド・パーソナリティ障害では、パニック発作があれば、一層引きこもるだろう。
依存性パーソナリティ障害では、一人で放置されてはいけないことの証明としてパニック発作が利用されるかもしれない。
回避性パーソナリティ障害では、他人や状況から遠ざかるための完璧な言い訳になる。彼らはパラック発作を恐れているのでどこにも行かず何もしない。これらの患者の場合、できるだけ早く場ニック発作と診断して治療することが必要である。そうすればアゴラフォビアにならないで済む。アゴラフォビアになると外出することが恐怖になる。
パニック障害患者の多くは20代に発症し、多くは女性である。ある理論では、脳の中の警報システムが誤作動することでパニック発作が起こると考える。脳の青斑核に警報システムがあると考えられている。そこにアドレナリン系神経が集中している。これらの神経細胞の軸索は大脳皮質、辺縁系、視床、視床下部と連絡している。警報システムの誤作動が起こると、ノルアドレナリン系の過剰放出が起こる。パニック発作患者の脳はアドレナリンの洪水になり、現実には何も起きていないのに、びっくりして、「闘争するか逃走するか」の引き金が引かれる。初期の人類がこのシステムを発達させたのは敵から身を守り危険から逃れるためだっただろう。どんな警報システムでも同じだが、容易に誤作動する。データによれば、脳のGABAやセロトニン系の異常によってもパニック発作は起こる。明らかに神経系の生化学的なバランスが崩れてパニック発作は起こっている。多くの人が言うように患者のイマジネーションで引き起こされるものではないようだ。抗うつ薬はパニック発作の治療に使われる(第3節に詳論)。薬剤は青斑核のレセプターをダウンレギュレーションする。レセプターのダウンレギュレーションは間違った警報システムの治療プロセスである。パニック発作の1年間の抗うつ薬治療は約50%で、その後の話ニック発作から解放された人生をもたらす。

症例スケッチ
ペニーは23歳の警察官、女性には珍しい職業に誇りを持っている。9歳の頃からずっと、父の警察官の制服を見て、警官になりたいと思っていた。基礎トレーニングでは優秀で、積極的に仕事をし、同僚が嫌がる仕事も進んで引き受けた。
ペニーはいつも自分が「特別」と信じていたし、両親、パートナー、友人からの賞賛が必要だった。一人になると、セレブを狂信者から救い出し、世界中で有名になることを夢想した。
ある日、ペニーに恐ろしいことが起こり、彼女の人生は一変した。彼女はパトカーの助手席に乗って。パートナーと一緒に万引き犯人を逮捕しに行く途中だった。突然、前に投げ出されるように感じた。ダッシュボードを夢中でつかもうとした。心臓はバクバクして体は震えた。吐き気、めまい、息切れが彼女を襲った。最悪だったのは、あたかも彼女が自分の外に出てしまい、自分が死ぬのを見るような感じがしたことだ。パートナーはカーブで車を寄せて、彼女を助けようとした。彼女をなだめることができなかったので、パトカーで救急施設に向かった。血液検査と心電図はすべて正常だった。次の日内科医を受診した。再び何も異常はないと言われた。気を楽にして働き過ぎをやめるように言われた。ペニーは自分の仕事が大変だとは思っていなかった。彼女は仕事に戻って同じようにハードに働いた。最初の出来事の後二週間して次のパニック発作が起こった。その二日後には三回目の発作が起こった。どれもみな屋外で起こったので、ペニーは発作と屋外を関連付けて考えた。しかしいつ発作が起こるのかを予言することはできなかった。彼女はいつも神経質になり、最大限の知力と体力を必要とする場面で発作が起こったらどうしようかと悩んだ。発作を待つのは発作が起こっているのと同じくらい気分の悪いものだった。かつて心配もなく元気にできていた場所で心配になり憂うつになった。パニック発作は彼女の自己評価を自己愛的に傷つけたと言えるだろう。地下鉄で二人の強盗をつかまえようとしたとき、パニック発作に襲われて、強盗を取り逃がしそうになり、ペニーは事務職に変更になった。いつもパニック発作を予期してイライラして困った。同僚は気を遣って忍び足で歩くような具合だった。最終的に、ペニーはボーイフレンドに職場まで送ってもらい、一日の終わりには家に連れて帰ってもらわなければならなかった。彼女としては女性も独立して勇気があることを自分自身にも家族にも示したかったので、警官を続けたいと思っていた。自分がこれほどまでに他者に依存的になっていることについて、彼女は不愉快だった。2年の間、このように彼女は苦しみ、不安クリニックの宣伝を見つけ、精神科医に相談した。容易にパーソナリティ障害と診断され、ゾロフト25ミリが処方された。徐々に増量して数日で100ミリとした。3週間100ミリで維持し、ペニーのパニック発作は落ち着いた。2年間も我慢できたことが信じられなかった。ペニーは生活と仕事を再度拡張しないではいられなかった。再び外の仕事に戻った。パトカーでを乗り回すのは気持ちがよかった。パニック発作を予期して怖がることもなかった。ボーイフレンドに職場との往復に付き合ってもらう必要もなくなった。ペニーは以前のすべてが取り戻せたことに驚きつつ満足している。

ディスカッション
ペニーのパニック障害のケースは特別なものではない。パニック障害の患者は最初は心臓の発作かと思われて救急に搬送されることが多い。標準的な身体問題の除外をして、パニック障害と診断される。ペニーの場合、最初にパニック障害と診断されていたならば、2年にわたるつらさと仕事能力の低下は避けられただろう。
未治療のパニック発作患者はアゴラフォビアに発展することがある。この回避行動によって旅行も移動も制限される。アゴラフォビアがあると移動のたびに誰かについていて欲しくなる。アゴラフォビアの人は一人で外出できないのが普通であり、人混みも、電車も苦手、橋を渡る、バス、電車、自動車に乗る、などができなくなる。アゴラフォビアの人の中には家から出られなくなる人もいる。

ペニーの場合はパニック障害が前面に目立つものの、背景には自己愛性パーソナリティ障害がある。彼女はパニック障害のゆえに自分は「特別」だと思い、パニック障害によって傷つけられて、かつてできていたことができなくなったと感じた。机に座って事務仕事をしていると退屈になり、人々を救うファンタジーにますます耽っていった。やっとのことでパニック障害が治ると、彼女は再度傲慢で特権的になった。自己愛性パーソナリティ障害のない人はもっと謙虚になることを学び、健康を取り戻したことを感謝するだろう。

パニック障害は治療を中断すれば再発することがある。治療が成功したパニック障害患者の中で約30-90%は再発する。ペニーは薬剤を中断しないように注意すべきだろう。少なくとも年に数回の精神科医による経過観察が必要である。



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第16章 パーソナリティ障害と双極性障害

第16章 パーソナリティ障害と双極性障害

ポイント
・双極性障害と同時に見られるパーソナリティ障害の中で多いものは境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害である。
・ラビッド・サイクラーの場合にはパーソナリティ障害は隠されてしまう。
・双極性障害が躁病や軽躁病のあとで精神病状態になっている場合、スキゾタイパル・パーソナリティ障害を考える。
・躁病と同じくうつ病は薬剤で治療可能である。しかし背景にあるパーソナリティ障害は変えられると思わないほうがいいだろう。

双極性障害の表面をひっかくと、下に隠れていた境界性パーソナリティ障害が見える
-----Unknown

境界性パーソナリティ障害と双極性障害の両方を持つ患者に敵意を向けられることは、多くの医師が経験していることだ。
双極Ⅰ型の患者が躁状態だったり軽躁状態だったりすると、患者は自分や他人に対して肉体的にも感情的にも攻撃的になり、自殺の形を取る。境界性パーソナリティ障害の患者は双極性障害と似たような敵意かつ/または攻撃性を呈する。
もし双極性障害患者が、躁状態でもなく軽躁状態でもなく、しかも自分を含めてすべての人に怒りを感じているとしたら、その患者はまた境界性パーソナリティ障害だろう。
もし双極性障害患者が自分は重要人物だと考えていて、過剰な賞賛を要求するならば、背景にあるのはおそらく自己愛性パーソナリティ障害だろう。

キーポイント
双極性障害と診断するには、高揚した気分からうつ気分への変化が必要である。

単極性うつ病と双極性障害はしばしば混同されている。大うつ病の定義は、以下の5つ以上が二週間持続しているものである。(1)抑うつ気分(悲哀)、(2)普段の生活での関心や喜びの減少、(3)体重減少または増加、(4)不眠または過眠、(5)不穏または抑制、(6)疲労またはエネルギー喪失、(7)無価値と感じる、不適切な罪悪感、(8)集中困難、(9)自殺念慮。
もしうつの時期に、自己評価の膨張、睡眠短縮、会話促迫、競合思考、注意散乱、愚行、などのような躁病エピヒードが見られたら、双極Ⅰ型である。
ときに双極Ⅰ型患者は躁病エピヒードの間に幻覚妄想をを経験する。
双極Ⅱ型患者が経験する軽躁病エピソードは、膨張的でイライラした気分の高まりが4日続き、自己評価の高まり、睡眠短縮、思考奔逸が見られる。
双極Ⅱ型患者では幻覚妄想はない。幻覚妄想があったら双極Ⅰ型である。
大うつ病かつ/または双極性障害のⅠ軸診断に、Ⅱ軸診断を加えようとすると、事態は複雑になる。
妄想性パーソナリティ障害患者が双極Ⅰ型を持っていたら、迫害的妄想と幻覚を周期的に呈するだろう。
境界性パーソナリティ障害患者が双極Ⅱ型を持っていて軽躁状態になった時、時にイライラがひどかったりするだろう。

症例スケッチ
ジャックは30歳、高校の英語教師。人生を通じて気分のアップダウンを経験してきた。この前の冬には、あまりにもうつが苦しかったので、この苦難をストップさせようと、高層マンションのテラスから身投げをしようかと思っていた。体重は20ポンド増えて睡眠時間は12時間だった。3月になってうつは寛解し、その約1ヶ月後に奇妙なことが起こり始めた。ジャックは2年間酒を飲まないでいたのだが、異常なエネルギーが満ちてきて、酒を毎日飲んでいた頃の感じを思い出した。学校では同僚が彼に活動性が亢進していることを指摘していた。彼があまりに早く教材を終わってしまうのでノートを取る時間もないと学生からは不満が出た。学生が質問すると、双極性障害患者にはよくあることだが、ジャックは彼らにガミガミ言った。創造的活力が満ち溢れ思春期の頃を思い出した。ある夜、かれは座って2つの短編小説と詩を書いた。高揚したついでに彼は大西洋岸の町まで旅行しギャンブルで、年収以上のお金を5時間で使ってしまった。異なる娼婦と三回性交渉を持った。ニューヨークに帰っても彼は依然として過剰興奮していて、セントラルパークの水たまりに飛び込んだりした。そのときは反対岸まで泳ぎきれるか試してみたかったと語った。警察がやってきて凍りそうに冷たい水から彼を助けだした。近くの救急救命室でオンコールの精神科医は暫定的に双極Ⅰ型と診断した。リスパダールと炭酸リチウムを処方され、ジャックはよく反応し、仕事はたった2、3日休んだだけで躁病エピソードは終わった。
彼なりのいつもの状態に戻ってみると、彼は依然として自分を「特別」と感じて、同僚や学生から賞賛を得たいと思った。彼は依然として誇大的であり、自分は「ヘミングウェイの様素晴らしい作家」と感じていた。依然として共感は欠如し自分の外見と能力の素晴らしさについて自慢げに思っていた。ジャックの自己愛性パーソナリティ障害はリスパダールと炭酸リチウムによっても治療されなかった。双極Ⅰ型については薬剤でよくコントロールされた。

ディスカッション

ジャックの抑うつ的な冬のエピソードは多くの双極性障害には典型的である。このパターンは季節性感情障害(seasonal affective disorder:SAD)として知られている。冬にメランコリーになり、春に躁病になる。ジャックが完全な躁病とうつ病の時期を経験する前は、気分循環症だった。つまり、毎年ふさわしい時期にうつになり別のふさわしい時期に躁になりというサイクルを反復する。ジャックの発症年齢は30歳で、これも双極性障害には典型的である。躁病エピヒードの時期には、動きまわり、喋りまくる。多くの双極性障害患者は躁病エピヒードの時期に自分の最も画期的なアイディアが浮かんだと思っている。もし彼らがこのエネルギーを上手に利用して仕事に生かせるようになれば、彼らは現実にうまく適応できる。問題は、彼らが正常状態に戻った時に、これらの考えの多くを忘れてしまうことである。リチウムを服用している多くの患者が言うには、リチウムは創造性を抑制する、だから彼らは服薬を早めに中止してしまうのだという。
双極性障害では判断力が損なわれる。ジャックは躁病エピヒードがの時期に、ギャンブルで大金をなくしたし、ハイリスク・パートナーとの無防備な性交渉をし、凍った水たまりに飛び込んだ。
アルコール症の病歴もまた双極性障害には典型的で、双極性障害とアルコール症または薬剤乱用は併発する。
彼が飲酒をやめていたおかげで彼の問題は小さくなったし、診断も確実になった。3週間してリスパダールは中止され、リチウムは服薬維持して健康を維持している。彼は自分が季節によってアップダウンの循環を繰り返していることを感じている(そしてもちろん彼は自己愛性パーソナリティ障害を持っている)。しかしかれはもう躁病エピソードもうつ病エピソードも経験しなくなっている。ジャックはその点ではとても運が良かった。必ずしもすべての患者でこのようにうまくいきわけではない。リチウムを投与していても躁病とうつ病の波を繰り返す人は多い。寛解を維持するために他の薬剤が必要な患者も多く、バルプロ酸、カルバマゼピン、ガバペンチン、ラモトリギンなどが用いられる。
双極性障害はシゾフレニーのようには崩壊性ではない。躁病や精神病性エピソードがあったとしても、通常は病前の状態にまで回復する。しかし、双極性障害で自己愛性パーソナリティ障害を持つ場合、患者は医師と必ずしも全ての問題を共有するわけではない。患者は医師に自分のいいところだけを見せようとするからだ。したがって、ジャックのような患者の場合は、もし協力してくれる人がいたら、家族の誰かと情報を共有するのがよい。
もし躁病のあとでジャックが正常状態に戻らないなら、スキゾタイパル・パーソナリティ障害を鑑別しなければならない。例えば、ジャックが自分の能力について奇妙な信念を抱いていたり、自身についての魔術的な考えを抱いていたり、あるいは外見が奇妙だったりした場合、診断としてはスキゾタイパル・パーソナリティ障害となる可能性がある。
ラピッド・サイクリング患者の場合、極めて素早く病像が交代し、多くの診断の可能性は隠蔽されてしまう。たいていのうつ病は最初は単極性に見えることを思いだそう。双極性は考慮されないことがしばしばである。したがって、抗うつ薬がどんどん処方されている。しかも精神科医ではない医師によって処方されている。そして実は双極性障害患者であった人が躁病を呈してはじめて精神科医が呼ばれる。双極性障害患者がうつ病のときには抗うつ薬は必要であるが、注意深く投与されなければならないし、気分安定薬や抗精神病薬と併用が必要な場合も多い。精神科医は詳細に病歴を調べ、単極性か双極性かを探る。食欲、睡眠、活動性、気分などのパターンが調べられる。時には、最初のうちは双極性障害であることを決定できない可能性もある。


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第15章 パーソナリティ障害と大うつ病

第15章 パーソナリティ障害と大うつ病

ポイント
・どんなパーソナリティ障害でも大うつ病を引き起こすことがある。
・うつ病の症状はパーソナリティ障害の特性により違いがある。
・一部のパーソナリティ障害では常時抑うつ的だというものの、実際はうつ病ではない場合がある。
・どのパーソナリティ障害であっても、うつ病に対しては通常使用している抗うつ薬が有効である。しかし精神療法はそれぞれで異なる。

うつ病という黒い犬に引きずり回された
-----Winston Churchill

DSMの作成者はなぜⅠ軸とⅡ軸を分けたのだろう?
臨床症状が何であっても(Ⅰ軸)、パーソナリティ障害が経過と転帰に大きな影響を与えることを言いたかったのだろう。
パーソナリティ障害に関しては医師の間で多くの論争があり、既存の診断にいろいろな患者を無理に押しこんでいるのではないかとの疑問もある。
診断基準には充分な科学的根拠がないと論じる人もいる。
また正常人格と異常人格の境界が恣意的だと論じる人もいる。
同じ分類をされている人達も内容はお互いに全く違うかもしれない。
いろいろと議論はあるものの、我々の多くは難しい患者を扱うときにはⅡ軸が非常に有用であると考えている。
問題なのは我々がつけた診断名によって健康保険の支払で不利が生じたり、他の医師が誤解することがあるということだ。

大うつ病は最もよく見られるⅠ軸の精神医学的診断であるが、うつ病の人の約20%だけしか治療に訪れないだろうと考えられている。
依存性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害のようなタイプのパーソナリティ障害では平均よりしばしば治療を求める。妄想性パーソナリティ障害、スキゾイドパーソナリティ障害、回避性パーソナリティ障害などではあまり治療を求めない。

キーポイント
次の症状が最低5つ、ほとんど毎日二週間続く場合、大うつ病を考える。不眠または過眠、過食、食欲不振、悲哀、自殺を考える、イライラ、罪責感、自己評価の低さ、集中低下、セックスや他の活動への興味の低下、不穏または疲労。

妄想性パーソナリティ障害ではうつ病になると敵意が激しくなりひきこもりも激しくなる。人前で泣くこともないし、自殺の考えは隠しているし、他の弱さも隠蔽しているだろう。従って、自殺の意図については特に慎重に評価する必要がある。

スキゾイド・パーソナリティ障害ではうつ病になるとアンヘドニア(失快楽症)がつよくなりひきこもりが激しくなる。患者は悲哀を充分に感じることができなくなるが、疲れやすくなる。他のうつ病の症状を注意深く探すこと。

スキゾタイパル・パーソナリティ障害では、うつ病になると不安が強くなり、信念の体系がさらに強固なものになる。幻覚妄想を伴う精神病性うつ病を呈していないか確認する必要がある。

反社会性パーソナリティ障害ではうつ病になるとさらに衝動的、攻撃的、不穏になる。犯罪的行為が増加しないか注意する必要がある。

境界性パーソナリティ障害ではうつ病になると他人と喧嘩しやすくなる。彼らの怒りは圧倒的に強い。自傷行為が増える。自殺の考えや行為に注意すること。

演技性パーソナリティ障害ではうつ病になると、泣いてあなたの注意と関心を引こうとする。うつのときには自分を支える能力がないのでいつもより状態が悪そうに見える。

自己愛性パーソナリティ障害ではうつ病になると、さらに傲慢になり他人を利用する傾向が強くなる。いつもより一層特権的になる。更に「特権的」な立場が得られると感じると泣くこともある。

回避性パーソナリティ障害ではうつ病になると、自己イメージが悪化しさらに不適応になり引きこもる。自殺をする心配はあまりないだろう。

依存性パーソナリティ障害ではうつ病になると、重要な対人関係に強く寄りかかり、最大の世話を引き出そうとする。

強迫性パーソナリティ障害ではうつ病になると、何事につけても一層ハードになる。彼らは日常の習慣に厳しく頑固に執着し、結局達成できない。

症例スケッチ
レイは59歳のダンス教師。いつも自分は美しくて「特別」だと思っている。幾つかのミュージカルでステージに立った。豪華な衣装をつけて、男性に長い足が素晴らしいといわれるようなストーリーがお好みだった。そのステージの後何年かは夫から賞賛され特権的な感覚を得ていた。残念なことに、夫がアルツハイマー病を発症した時、レイは大部分の時間を夫を世話して家で過ごさなければならなくなった。いつも疲れているし、精力的な生徒についていけないと思ったので、早い引退を決意した。いくらか休息を取れさえすれば、完全に健康になると確信していた。眠れないのは夫のせいであり、彼は彼女と同じあんぜん寝て、夜に最低4回起きてうろうろ歩きまわった。レイも起きて、夫の後をついてアパートを歩き、彼が危険な目にあわない様に気を配った。息子が電話してきたときは、彼女はよく泣いていたし、話す気力もない様子だった。食欲は減退していた。検診に行った時、内科医は身体的には健康であることを確認した。彼女がいつも持っていた人生への強い興味がなくなった。ある日、何年も生き延びるなんてしないで交通事故で死んでしまいたいとみんなに言って驚かれた。息子は彼女のうつ病を疑い、治療を勧めた。彼女は夫の病気のせいでうつなのだと主張した。かなり議論したあとで、レイは精神薬理学者を訪れた。病歴をまとめて、これがレイの経験する三度目の未治療の大うつ病エピソードである事が分かった。医師はレクサプロ10ミリを処方した。4週間して彼女の食欲と睡眠は回復し、精力が蘇り、「いつでも踊れる」くらいになった。困難に対してもいつものように合理的に考えられるようになり、夫の介護のためにナースを雇った。もちろん、彼女の「特別さ」、賞賛の要求、特権の感覚と傲慢さはそのまま変わらなかった。

キーポイント
Ⅰ軸は治療できることもあるがⅡ軸を癒すことは期待できない。

ディスカッション
レイは夫が認知症になってから、彼が与えてくれた賞賛を得られなくなった。これがレイのうつ病をひきおこした。しかしそれは大うつ病ではなかった可能性がある。例の場合には実際に大うつ病だった。彼女は大うつ病の診断基準をすべて満たしていたが、自分は否定した。多くの人は悲劇的なイベントを体験したら自分はうつ病になる権利があると思っているようだ。悲劇がなくなればすぐにうつ病も無癒されると思い、うつ病は出来事に左右されるのだと思うようだ。しかしこれは正しくない。もしうつ病が6ヶ月間続いたとすれば、その人の脳の生化学は変化してその人は臨床的にうつ病になるだろう。レイの自律神経症状、つまり、食欲減退、不眠、疲労、は確かに病状の反映である。

もし治療されずに放置されたとしたら、うつ病は自殺に至るかもしれない。うつ病は薬剤で治療可能である。抗うつ薬にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み抑制薬)からTCAs(三環系抗うつ薬)、MAOIs(モノアミンオキシダーゼ抑制薬)までいろいろある。常に新しい薬剤が開発されつつある。またCBT(認知行動療法)やその他の精神療法も使える。ECT(電気けいれん療法)も有効な治療法である。

抑うつ的な人々は家庭でも職場でも否定的な影響を与えている可能性がある。
失業しやすいし、友人や家族と疎遠になりやすい。彼らは未治療の状態だと怠け者で無能で付き合いにくい人に見えることがしばしばである。従って、パーソナリティ障害と大うつ病の両方を持つ人は困難も二倍になる。未治療のうつ病の結果は自殺と悲惨な人生であるが、治療者は治療可能な部分であるうつ病を見逃してはいけない。




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第14章 自己敗北型(自滅型)パーソナリティ障害(SdPD)

第14章 自己敗北型(自滅型)パーソナリティ障害(SdPD)

ポイント
・自己敗北型パーソナリティ障害(Self-Defeating Personality Disorder:SdPD)は常にフラストレーションを抱えている。
・彼らは自分の恥と間違いを探す。
・性的マゾヒズムや道徳的マゾヒズムに関係する。
・成功にまつわる罪悪感が自己敗北(挫折)の背景にある

When I was a young boy
Said put away those young boy ways
Now that I'm gettin' older
So much older
I love all those young boy days
With a girl like you
With a girl like you
Lord knows there are things we can do, baby
Just me and you
Come on and make it hurt

Hurt so good
Come on baby, make it hurt so good
Sometimes love don't feel like it should
You make it hurt so good

Don't have to be so exiting
Just tryin' to give myself
A little bit of fun, yeah
You always look so invitin'
You ain't as green as you are young
Hey baby, its you
Come on, girl, now, its you
Sink your teeth right through my bones, baby

Let's see what we can do
Come on and make it hurt

Hurt so good
Come on baby, make it hurt so good
Sometimes love don't feel like it should
You make it hurt so good

I ain't talkin' no big deals
I ain't made no plans myself
I ain't talkin' no high heels
Maybe we could walk around
All day long
Walk around
All day long

Hurt so good
Come on baby, make it hurt so good
Sometimes love don't feel like it should
You make it hurt so good

Hurt so good
Come on baby, now
Come on baby, make it hurt so good
Sometimes love don't feel like it should
You make it hurt so good

ーーーーー
Sometimes love don't feel like it should
You make it hurt so good
----------''Hurts So  Good," John Mellencamp

愛って、思ったほど甘くないね
痛いのがいいね

自己敗北型パーソナリティ障害(SdPD)患者では、スーパーエゴが過剰であり、一方でエゴが縮小している。
結果として、患者は自分を何度も罰せざるをえない。
我々はこれを道徳的マゾヒズムと呼ぶ。DSM-IV-TRには載っていないが精神医学ではよく知られている。性的マゾヒズムはDSMのリストに載っている。SdPDの患者は肉体的自虐行為や性的自虐行為をすることがよくある。
背景には患者の強い罪の感覚がある。
フラストレーションに悩むことは罪の意識を軽くするのに役立つ。

キーポイント
サディスティックな側面は見られるものの、たいていは抑圧されている。

通常、マゾヒスティックな行為とサディスティックな行為の両方の要素が一人の人の中に見られる。
サディズムとマゾヒズムは服従することと屈辱を与えることのスペクトラムの両極端である。
両者とも、傷つける不安や反応性自己愛性憤怒と関係している。
もとSdPD患者が精神療法を受けたら、無意識的罪悪感が過剰にあり、その結果として、自罰の必要性を自覚するに違いない。
またこれらの患者は子供時代に始まる抑圧された攻撃衝動が存在することを認めることが必要である。

症例スケッチ
ロベルタは心理学科の大学院生で人間の行動のいろいろな側面に関心を抱いている。
しかし彼女自身の行動が彼女にとってしばしばミステリーだった。学部学生時代はずっと悪戦苦闘してついに29歳で有名大学の全額補助奨学金を勝ち取った。表面上は幸せに仕事のスタートを切ったかのようだった。しかし彼女は授業に出席できなかったし宿題ができなかった。お気に入りの教授がいて、奨学金の推薦人になってくれた人だった。彼はロベルタのメンターにもなってくれた。彼が説明を求めた。ロベルタは誠実な答えを返すことができなかった。教授も授業も大好きだったが、一学期で3回しか出席できなかった。学期末論文の時期になってロベルタはまた別の問題を引き起こした。彼女の課題は彼女にとって明確だっし、下準備も充分だったのだが、最後の最後のところで提出しなかった。彼女のお気に入りの教授は彼女を仮及第にした。しかしロベルタは驚かなかった。学校生活全体を通じて彼女は同じ問題を何度も繰り返していたのだ。非常に聡明で才能にあふれていたが彼女は過去に2つの学校で退学になっていた。提出物の遅延だけが問題ではなかった。ロベルタは対人関係で挫折していた。同年代の男性と付き合うことをせず、若すぎる人か年を取り過ぎている人と付き合い、そのことで彼女は自分を笑い、周囲の人に笑って下さいなどと言っていた。他人が彼女を嘲りの対象としたときには彼女はそれをネガティブ・アテンションとして楽しんだ。ある日のデートでは彼女は苦痛なセックスをしてそれが気持ちいいことを発見した。もっと洞察を深めようとしてロベルタは大学の健康センターの精神科医に相談した。治療が始まるとロベルタは面接の約束を完全に忘れるか、最後の10分に現れるかした。精神科医は辛抱強くロベルタに、この行動が回避行動であることを説明した。彼女はよく理解してこの知識で武装して、自分の行動パターンを変えて診察に間に合うようになった。彼女は授業にも前よりは出席できるようになった。

ディスカッション

精神科医は、ロベルタの厳しい母親はロベルタが何をしても満足できなかっただろうと指摘した。ロベルタは厳しい母親に対して、厳しいスーパーエゴを形成することで反応した。スーパーエゴは彼女自身に罰を科すことを望んでいる。彼女の罪悪感は彼女を常に自己敗北的にして挫折させた。彼女は授業に出ても、論文を書いても、適切な男性を見つけても、満足感を得ることなく、自己評価を高くすることもなく、いつもフラストレーションを貯めていた。彼女はスーパーエゴをを満足させてエゴを挫折させている。つまり、彼女は道徳的なマゾヒストであった。しかし彼女を治療に導いたのは性的マゾヒズムであった。
DSM-III-Rでは、SdPDはさらに研究が必要な診断分類として提案されていた。議論の末、この分類はDSM-IVからは完全に消された。DSM-5でどのように扱いになるのかは分からない。

キーポイント
SpPDは新しい達成に対して抑うつまたは罪悪感で反応する。

彼らはいつも挫折したがっていることを思い出そう。

ーーーーー
301.89 マゾヒスティック・パーソナリティ障害(提案)
 以下のうち,少なくとも6つによって示される殉教の感情と自己敗北的な行動パターン
(1) 状況を変える機会があるにもかかわらず,他人から食い物にされたり,虐待されたり,つけこんだりされるような人間関係を維持していること
(2) 他人の利益のために,自分の利益をいつもほとんど犠牲にしていると信じている
(3) 他人に負担をかけたくないために,援助,贈り物,行為を拒絶する
(4) 真価を認められていないと,直接的に,または間接的に不平を言う
(5) 不当に感じたり過剰に心配することによって,成功やよい出来事に反応する
(6) 将来について常に悲観的であり,過去や現在の最悪の局面で頭が一杯になっている
(7) 自分の最悪の特徴についてのみ考え,良い特徴は無視する
(8) 自分の目標を追求することをしない
(9) くりかえし喜びの機会を拒絶する



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第13章 受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD) 

第13章 受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD) 

ポイント
・受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD)患者は不機嫌で不満そうにしている。
・仕事や社会的義務に関して受動的に抵抗する。
・権威を批判し軽蔑し反抗する。

なぜ私が仕事をしなければならないの?
----受動攻撃性パーソナリティ障害患者

受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD)の人は仕事や社交で否定的で受動的である。周囲の人は彼と交流するのがかなり大変だとすぐに分かる。彼は無意識に敵意を感じており、その敵意を直接に表現できないので、受動的に抵抗している。PAPD患者はグズグズと物事を先延ばしにし、抵抗し、言い訳をし、総じて自分を変えることがない。
彼らは何が必要で何が欲しいのか他人にはっきり言えない。人々は彼らがあたかも他人を罰しているか、操作しているかのように感じる。しかし彼らは単に依存的で、そのせいで損をしているだけである。PAPD患者は多くの人に誤解されていると感じて不満をもらす。治療に当たる医師は忍耐強く彼らの否定的な物の見方を理解しようとしなければならない。そして治療同盟が形成されたら、そのあとで、医師は患者が「本当はどんなに怒っているか」を指摘するといいかもしれない。
PAPD患者は怒りを直接に表現するように勇気づけられるが、それは彼らには非常に困難なことだ。子供の時に彼らは怒りを直接に表現して罰せられたと考えられるが、しかし今はそれこそが彼らに必要なことだ。もし医師が彼らの要求を満たしてしまったら患者は何も学ばない。かと言って拒絶すると、やっぱり!ということでPAPD患者は他人への非難を始めてしまう。絶妙なバランスが必要であり、治療者は支持的でなければならないが甘やかしてはならない。

怒りを感じる→要求する→拒絶される→やっぱり!どうせダメなんだ・他人を非難→非難して文句をつける人という立場で安定する→社会的経済的に行き詰まるがそれでも非難しているだけの人生を選びとる
 
というプロセスから
怒りを感じる→要求する→拒絶される→現実的に対処する
というプロセスに転換しなければならない。
医師が要求を拒絶しないとこのプロセスの練習にならない。
拒絶されても、受動攻撃的にならず、適応的に対処することが練習になる。

(キング牧師とかの非暴力的抵抗はこれとどう違うんでしょう?)

キーポイント
PAPDの患者は依存と独立という、反対の、葛藤する要求を持っている。

他者に依存しようとする一方で独立の欲求があるので、その結果として、どちらにも動けなくなる。生育の過程で、PAPD患者は怒りを抑圧し活動欲求を抑圧することを学んだ。長年活発な攻撃性を閉じ込めてきたので、それを解放することは簡単ではない。権威への反抗はPAPDに典型的な症状である。権威と問題なくうまくやっている同僚への羨望や非難が伴っているのだろう。
PAPD患者は常に失望していて人を非難している。

症例スケッチ

ジャンは25年間郵便局員として働いてきた。彼女は自分が仕事がうまくできないと思った時にはいつも、自分にはもっと重要な仕事がふさわしいのに、環境の犠牲になっているのだと自分に言い聞かせた。彼女はシングルマザーの子として生まれ、貧しく、母親は彼女を虐待し、高校を卒業させてもらえなかった。
郵便局では客に、ジャンはフロアーで一番遅くてダメな職員だと思われていた。上司が何回叱ってもグズグズしているだけだった。職を失う危険があることは承知していた。客たちが一日中何かと要求するのでジャンは頭にきた。
怒りを直接には表現しないで、外見を取り繕い、通常業務に対して受動的に抵抗した。誰か客が郵便局の窓で呼んでいたら、彼女はわざと無視して数分待たせて、書類を整理したりコーヒーを一口ずつ飲んだりした。やっと客の差し出した荷物や手紙を受け取ると、ぞんざいにつかんで秤に放り投げ、顔をしかめる。ジャンは客をいらいらさせるのが好きだった。同僚に何か頼まれると不機嫌になり言い訳をした。敵意のある反抗的態度をとったあとで悔い改める様子だった。同僚の窓口に行くとしても遅れるのがしばしばで、必要な書類を間違って置いた。ジャンはすぐに権威を批判して、自分よりも幸運だと思う人に対しての批判を声に出していた。

ディスカッション

ジャンは明白にPAPDを持っていた。彼女の否定的態度と受動的抵抗は彼女自身にとっても職場にとっても有害だった。ジャンは自分には能動的に行動する力がないと思っていたので受動的な行動をとった。
PAPD患者が治療を求めて医師を訪れることはめったにない。むしろ彼らはぐずぐず延期するのに忙しいのだ。不満を言い、抵抗し、非難する。
ジャンのケースで言えば、息子がクラック麻薬をやってリハビリを受ける必要があり、そのことで彼女は結局治療者に会うことになった。息子はジャンが支持的である限りは薬物をやめると約束したが、シャンはそれを取引されているようで不愉快に感じた。息子の精神科医はNA(ナルコーティック・アノニマス:薬物中毒者の匿名会)に出席するように二人に勧めた。ジャンが出席したところ、カウンセラーは彼女に、息子の薬物乱用への怒りを表現して良いのだと勇気づけられた。
通常、彼女にはそのようなことはできないのだが、そのときは突然激しい怒りを爆発させることができたので自分でも驚いた。
ときにPAPD患者は適切に行動するとこができるし、適切に怒る事もできる。特に家族を助けるときにはそれができる。

キーポイント
PAPD患者は失敗を他人のせいにして、いつも不平を言っている。

彼らは失敗を他人のせいにして、責任を取らない。権威者は容易にスケープゴートにされてしまう。個人的な不運について不満を述べ、他の人ならばもっとずっとうまくできていただろうと考える。彼らはアンビバレントである。彼らは表面的には空威張りをしているが、内面では全く自信がない。彼らはどうせ自分はうまくいくことなんかないんだと思っている敗北主義者なので、周囲の人は彼らをよく思わないし嫌うようになるだろう。

子供時代に彼らは反抗挑戦性障害(Oppositional Defiant Disorder)だったかもしれない。PAPDは大人になってから、性格傾向が柔軟性に欠け、不適応である場合に診断される。PAPDは現時点では特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)と考えられている。

彼らに大うつ病がある場合には抗うつ薬が処方されることもある。もちろん、薬剤は否定的思考のパターンをなくしてしまうものではない。認知行動療法が有効な場合がある。

ーーーーー
全般に、社会的、職業的に適切に行動する要請に対する受動的な抵抗パターンで、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち、少なくとも5つによって示される。
  1. 引き伸ばし、すなわち、しなければならないことを延期し、期限に間に合わない。
  2. やりたくないことをするよう言われた時、不機嫌、易怒的または理屈っぽくなる。
  3. 本当はしたくないような仕事には故意にゆっくり働いたり、悪い出来になるようにみせる。
  4. 正当な理由も無く、他人が自分に不合理な要求をするなどと主張する。
  5. 「忘れていた」と主張することで義務をまのがれる。
  6. 自分のやっていることについて、他人が思っているより、ずっとうまくやっていると考えている。
  7. どうしたらもっと能率よくなるかについて、他人の役に立つ示唆をいやがる。
  8. 自分の仕事の分担をやらないことで、他の人達の功績の邪魔をする。
  9. 権威ある地位の人々に対して、理由なく批判的または軽蔑的である。


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第12章 スキゾタイパル(シゾタイパル)パーソナリティ障害(SPD)

第12章 スキゾタイパル(シゾタイパル)パーソナリティ障害(SPD)

ポイント
・スキゾタイパル(シゾタイパル)パーソナリティ障害(SPD)は奇妙な信念、魔術的思考を持っている。
・感情は制限されていて、行動は風変わりである。
・身体幻覚があったり、妄想があったりする。

彼はすごく変わった人で、私の脊髄に振動を送ってよこす。
-----ニューヨーク市ベルヴュー病院センター入院担当ナース

スキゾタイパル・パーソナリティ障害(SPD)についてスキゾイド・パーソナリティ障害(第3章)と混乱しないように区別をはっきりさせよう。
SPD患者は対人関係において極端に不快を感じるが、それはスキゾイド・パーソナリティ障害の患者とは違っている。スキゾイドもまた通常の対人関係を快適に営むことができない。違いはスキゾタイパルは奇妙で妄想的であることである。スキゾイド・パーソナリティ障害の患者はそれほど奇妙ではない。ただ孤立しているだけである。
SPDでは迷信的で超常的なことに興味を持つ。他人はSPDをエキセントリックで普通と異なると感じる。一方でスキゾイドについてはこのようには感じない。
もうひとつ違いをあげると、SPD患者は対人関係を求めるのに、スキゾイドは関係を求めない。SPD患者が対人関係でトラブルを起こすのは、関係妄想的で奇妙な信念を抱き奇妙な声を聞き、不安症でパラノイアだからである。
SPD患者は他人を信じることができない。

魔法使いのおばあさん(スキゾタイパル)とひきこもりの美少女(スキゾイド)くらいの違いはある。

キーポイント
患者が体験している社交恐怖はⅡ軸のパーソナリティ障害かもしれない。

患者は社交恐怖で苦しんでいると単純に思っていたところが、病歴を検討し症状を再検討してみると、パーソナリティ障害が問題の背景にあったということがよくある。
特に患者が特に奇妙で思い込みが強い時にはパーソナリティ障害があることが多い。
もし患者と関わることが難しくて、患者の感情が制限されていてエキセントリックであり、しかも患者が幻覚も妄想もある派手な精神病でないならば、その人はSPDの可能性が高い。
社交恐怖のある人は社交場面やパフォーマンス場面を恐れ、恥をかくことを恐れる。彼らはその恐怖は過剰である事を知っているのだが、そのような場面を回避しようとする。しかし彼らは奇妙でもないし思い込みが強いのでもない。

SPDの症状はシゾフレニーでも見られる。初期のバージョンのDSMでは、SPDと他のクラスターAのパーソナリティ障害はシゾフレニーと分離すべきと考えられていたのだが、シゾフレニーからクラスターAに至るスペクトラム(連続体)と考えて治療や家族対応を考えることは有益であろうと思われている。

症例スケッチ
ジョージはハンサムな25歳、黒い服を緩く着て、ファッショナブルと言うよりは奇妙な感じに見える。
彼は他人が怖いと訴えた。彼の動きは固いし、帽子のつばは広くて、下に引いているので視線が合わないということもあり、人々にとってエイリアンという感じがした。
彼は社交恐怖の治療を求めて精神科医を訪れレキサプロ(エスシタロプラム)10ミリを処方された。1ヶ月後同僚とは前よりは困惑しないで気まずくないと報告した。
巨大企業のITスタッフとしてあちこち動きまわり、自分のデザインしたプログラムの使い方を説明した。このとき手が震えるのではないかと心配になった。ジョージの父はアルコール症で、幼い頃ジョージは虐待を受けていた。母親は付き合いにくい要求の多い人でジョージに完璧を求めた。学業とスケートで彼は素晴らしい成績だった。レクサプロのおかげで同僚とは少し気楽に付き合えるようになった。しかし地下鉄に乗っていて気がついたのだが、他人の「エネルギー」領域を侵略しないように、また侵略されないように立つ位置に気をつけなければならなかった。つまり膝を揃えて座り、首を下げて、手は膝の上に置く、この姿勢を崩すと男性ならば敵意を示し、女性なら「性的波動」を送っていることになるという。このことが分かって、精神科医は処方にエビリファイ5ミリを加えた。1週間して患者は少し気分がいいと報告した。

ディスカッション

地下鉄での彼の考えには多少理由があるとの議論もあるだろう。もし彼が足を広げて投げ出していれば、混み合っている時他の乗客は縄張り行動的だと思うだろうし、空間を侵略していると思うかもしれない、また女性ならば彼はいちゃつきたいのかと思うかもしれない。しかしジョージの考えは魔術的思考の一種であり、この奇妙な思い込みはSPDに分類されるだろう。
薬を服用した後で同僚と気分よく過ごせたことや地下鉄である程度リラックスして過ごせたことはSPDの診断を妨げるものではない。
服薬でパーソナリティ障害の患者が楽になることも多いが、決して「治癒」に至るのではない。SPDは、妄想性疾患、シゾフレニー、精神病性気分障害と鑑別する必要がある。

キーポイント
オカルトやおかしなことを信じている場合には、裁判官みたいにならないこと。

SPD患者は神秘的なことやオカルト的な考えに至ることがある。精神療法中に治療者はSPD患者を正してあげたいと強く思うだろうが、魔術的思考に反対して指示的になるのはやめたほうがいい。指示的でないほうが患者と治療同盟を進展させやすい。SPD患者の奇妙さに耐えて治療同盟を育てれば、患者には大いに助けになるだろう。
 
ーーーーー 
以下9つのうち5つ以上あれば、分裂病型人格障害を疑う。
  1. 関係念慮
  2. 迷信深かったり、テレパシー、第六感を信じている。
  3. 実際には存在しないはずの力や人物の存在を信じる。
  4. 考えや会話が奇妙である。(会話の内容が乏しかったり、ずれていたり、細かいことにこだわったり)
  5. 疑い深く、妄想じみた考えを持っている。
  6. 感情が不適切で乏しい。身振りそぶりが滅多にない。
  7. 外観や行動が奇妙で、風変わりである。
  8. 親しい友人がいない。家族以外に信じられる人がいない。
  9. 社会に対して過剰な不安をいつも持っている。それは妄想的な不安でもある。


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第11章 特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)

第11章 特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)

ポイント
・特定不能のパーソナリティ障害(Personality Disorder Not Otherwise Specified:PDNOS)は、どの分類にもぴったりしないものである。
・PDNOS患者は、パーソナリティ障害の全般的診断基準を満たす。
 
DSM-IV-TRの人格障害(パーソナリティ障害)の全般的診断基準は以下の6項目からなる。
  1. その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
    • 認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
    • 感情(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
    • 対人関係機能
    • 衝動の制御
  2. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
  3. その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  4. その様式は安定し、長期間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
  5. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。
  6. その持続的様式は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。
・現状では、受動攻撃性パーソナリティ障害と抑うつ性パーソナリティ障害はPDNOSである。
・PDNOS患者は何種類ものパーソナリティ障害の混合となっていることもある。

特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)は過去には「混合パーソナリティ」と呼ばれた。社会性機能と職業機能が障害されている。
受動攻撃性パーソナリティ障害、自己敗北型パーソナリティ障害そして抑うつ性パーソナリティ障害は特定不能のパーソナリティ障害に分類されている。
患者がどれにも分類できないパーソナリティ傾向や行動を呈するときはPDNOSが使われる。

キーポイント
もし患者が境界性、演技性、自己愛性の特徴を持ち、どれも目立つ要素であるなら、PDNOSと分類する。

医師は、容易にどの分類にも当てはめられない患者を診察することがよくある。残念ながら、現実生活はいつも我々の分類体系に合わせてくれるとは限らない。
DSM5が出版されれば分類に変更はあるかもしれないが、PDNOSは常に残るだろう。

症例スケッチ
幼い子供の頃からアンは寝室に一人で座り、考え込んでいることがよくあった。自分は無価値だと思い落胆して死ぬことを考えた。家族はなぜ彼女が悩んでいるのかよく分からなかった。しかし下に来て一緒に遊ぼうとか食事しようとか言わないほうがいいことは分かっていた。もし考えを妨げれば、叫んだり癇癪を起こしたりした。ブロンドの髪を編んで目は碧く、彼女は親しみやすくて可愛いかったのでなおさら、家族はいつも彼女の敵意の激しさに驚いた。
アンの落胆と憂うつは思春期から青年期にかけても続き気分の基調になった。高校時代には「ゴート族」と一緒にうろつきまわり、ダウン系ドラッグをみんなでやったりした。アンと友人は黒の服を着て赤いマニキュア、顔は死人のように白く塗った。17の時までにアンは3回飲酒運転でつかまっていた。学校精神科医からセレクサ(シタロプラム)と抗うつ薬を投与されていた。しかしそれは助けにならなかった。大学では学業は抜きん出ていたが「ダークサイド」に引きこまれていた。ボーイフレンドが鎮痛剤乱用を教えた。1日に1ダース使うはめになった。ハイなときには自分の不幸を考えないですんだ。テレビの前で「スペース・アウト」したりしていた。アンはいつも「こころが空っぽ」と感じるとこぼしていた。ある夜彼女はVicodin(麻薬含有の鎮痛剤)を過量服用して救急搬送されて精神科病棟に入院した。

ディスカッション

アンは抑うつ性パーソナリティ障害と分類することができる。彼女のいつもの気分は落胆、憂うつ、面白くないものだ。彼女は自分が不適切で無価値だと思っていて、悲観的でもあり自分自身に批判的であった。彼女はまた境界性パーソナリティ障害の特長を持っていて、空虚さ、物質乱用、イライラがあった。加えて彼女は自己愛的だった。
アンのような患者はPDNOSとして記述されるのが最適だろう。抑うつ性パーソナリティ障害は診断基準セットで今後の研究が必要である。彼女の薬物乱用と自殺企図に対するベストプランは入院と12ステップ・プログラムだろう。

キーポイント
医師は薬物乱用問題は治療できるが、PDNOSを改善できると期待しないほうがいい。

アンのタイプの患者は入院してAA(アルコーリックス・アノニマス)かNA(ナルコティックス・アノニマス)で経過を見るのがよい。しかし医師は彼女の気分を改善できると思わないほうがいいし、自分についての考えを変えたり、自己評価を高めたりすることはできないと思ったほうがいい。パーソナリティ障害はその本質からして治療不可能で悪名高いのだ。
 
ーーーーー
ICD-10だと次のようだ 

特定の人格障害(パーソナリティ障害)の診断ガイドライン(F60)【ICD-10:国際疾病分類】

特定のパーソナリティ障害は、通常、パーソナリティのいくつかの領域を含む、性格構造と行動傾向の重度の障害であり、ほとんど常に個人的あるいは社会的にかなりの崩壊を伴っている。パーソナリティ障害は小児期後期あるいは青年期に現れる傾向があり、成人期に入って明らかとなり持続する。それゆえ、パーソナリティ障害が16歳ないし17歳以前に適切に診断されるということは疑わしい。すべてのパーソナリティ障害に適用される全般的な診断ガイドラインを以下にあげ、補助的な記述はおのおのの亜型で示すことにする。

診断ガイドライン
粗大な大脳の損傷や疾病、あるいは他の精神科的障害に直接起因しない状態で、以下の基準を満たす。
きわめて調和を欠いた態度と行動を示し、通常いくつかの機能領域、たとえば感情、興奮、衝動統制、知覚と思考の様式、および他人との関係の仕方などにわたる。
異常行動パターンは持続し,長く存続するもので,精神疾患のエピソード中だけに限って起こるものではない。
異常行動パターンは広汎にわたり、個人的および社会的状況の広い範囲で適応不全が明らかである。
上記の症状発現は,常に小児期あるいは青年期に始まり,成人期に入っても持続する。
この障害は個人的な相当な苦痛を引き起こすが、それが明らかになるのはかなり経過した後からのこともある。
この障害は通常、しかしいつもではないが、職業的および社会的遂行能力の重大な障害を伴っている。
社会的な規範、規則および義務を考慮した上で、異なった文化に適合する特異的な診断基準をつくり出すことが必要であろう。以下にあげる主な亜型を診断するためには、記述されている特徴あるいは行動のうち少なくとも3つが存在するという明らかな証拠が必要である。 
 
ーーーーー
自虐的→自己敗北型→抑うつ性パーソナリティ障害 などと、名前を変え、視点を変えて、という例もあるようだ。
ヒステリー性→演技性という言い換えなど。


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第10章 強迫性パーソナリティ障害(OCPD)

第10章 強迫性パーソナリティ障害(OCPD)

ポイント
・強迫性パーソナリティ障害(Obsessive-Compulsive personality Disorder:OCPD)は完璧主義者で、秩序を好み、堅苦しい。
・OCPD患者は柔軟性よりも秩序を尊重する。
・物品、そしてしばしばお金を貯めこむ。
・働き過ぎる。しかしときに細部にとらわれるため仕事がはかどらない。

リッチすぎるってことはありません、痩せすぎってこともありません。
------------グローリア・ヴァンダビルト

強迫性パーソナリティ障害(Obsessive-Compulsive personality Disorder:OCPD)患者は秩序を好むこと、完璧主義、コントロールの欲求で知られる。
詳細にこだわるのでしばしば仕事の本筋からそれてしまい仕事を完成させられない。
倫理的な潔癖さと融通がきかないところがあって他人とトラブルになる。
人々は彼らをケチ、緊張が強い、不快と思う。
OCPD患者はコントロールと引換に自然さを失う。

キーポイント
OCPD患者は必ずしも強迫性障害(OCD)に苦しむわけではない。

OCDでは強迫観念かまたは強迫行為がある。
OCPDではどちらもない場合があり、ただある種の行動と思考のスタイルがあるだけである。
強迫思考は持続的反復的思考または衝動であり、患者は止めることができない。こうした思考は不安を引き起こす。
OCD患者は強迫思考を無視しようとし、それは自分の思考の産物であることを知る。シゾフレニーの場合はこれとは違い、どこか外部から思考がやってくると本人は信じている。
強迫行為はまたOCDで見られる。手洗い、整理整頓、数えるなどの精神の活動である。この行為や思考は不安を軽くするための対処である。しかし、強迫思考や強迫行為それ自体が、不快で、時間の浪費になる。もちろん、この思考や行為は薬剤や身体病に原因するものではない。
OCPDは女性よりも男性に多い。家族内伝達がある。かつての精神分析理論によれば、彼らは自分の感情を信頼しない、そして子供時代に厳しいしつけを受けた、隔離(isolation)、反動形成、合理化などの機制がOCPD患者のシステムを作っているという。

症例スケッチ
ロンは仕事している時が一番快適だった。24時間営業の大きなドラッグストアのチェーン店でマネージャーとして働いていて従業員が5人いた。彼は几帳面で正確で正直で、従業員にも同じ事を期待した。
従業員の一人であるジョンが毎週木曜日に早く帰っているのを見つけ、さらにタイレノール(鎮痛剤)のボトルを支払いをせずに持ち帰っているのを見つけた。その日はジョンが自分のシフトよりも一時間早く帰ろうとしていたのでロンはジョンの鞄を開けた。「思ったとおりだ」彼は言って、タイレノールの未開封のボトルを2つ、鞄に見つけた。「在庫表では紛失になっている。お前はくびだ!」
「ロン、説明させてくれ。母親が・・・」ジョンが許してくれと言った。
「言い訳はいらない。月曜日に本部に連絡して給料から差し引いておく。」
ジョンは22歳の高校中退、病気の母と公営住宅に住んでいた。
彼は泣き出した。「母親はガンなんだ。痛むからこの薬が必要なんだ。」他の従業員や客がジョンとロンの周りに集まった。一人の男が進み出てタイレノールの代金を自分が代わりに支払うと申し出た。
「いいえ、それはいけません。」ロンは言ってその客にお金を返した。ジョンは店から走り去った。他の従業員はロンにジョンを連れ戻してほしいと嘆願した。ロンはノーと言って、みんなに仕事に戻るように言った。
月曜日にロンは本店の上司に呼ばれた。「ジョンのことは聞いていますよ」彼女は大きな机の向こうから注意深く話した。
「クビじゃなくて、休暇にすればよかったと私たちは思っていますよ」
「何だって!彼は盗もうとしていた。私はそれを止めた。それが本当のことです。」ロンは誰かが自分をとがめるのを聞いて驚いた。彼はいつも上司には敬意を払っていた。上司が理解しないので彼は細かく説明しようとした。ボスはそれを遮って言った。「私たちはあなたが仕事を完了できないしスケジュールを守らないのが問題だと思っています」
「私はとても注意深いし正確です。きちんと仕事をしています。」ロンはまっすぐ立ち上がって言った。
「あなたは固すぎるでしょう。従業員はみんなあなたのことで苦情を言っています。申し訳ありませんが、謹慎とさせてください。」
「謹慎?私は誰よりの長い時間働いています!仕事が一番大事なんです。」
「ごめんなさいね。これは決定なんです。」
ロンは信じられなかった。彼は泥棒を見つけて会社のお金を守った。それなのに謹慎なんて!理屈が通らない。15年間彼は仕事に献身してきたし、誠実だった。
55歳になって他の職を探すのは難しいと途方に暮れた。彼には妻も子もいない。仕事に没頭しすぎた人生だった。

ディスカッション

ロンは法律的には正しかった。ジョンは盗んではいけなかった。しかしロンはもっと柔軟になってジョンの状況を理解し彼にもう一度チャンスをやっても良かった。ジョンは貧しい中で育ってみんなに好かれていた。彼はそれまで盗まずに我慢できていたのだが、母親が苦しんでいるのを見て衝動的に行動してしまった。
ロンは冷酷でジョンにも他の従業員にも人間として無関心だった。
彼は従業員に服従を強いて、彼の流儀で仕事するように要求した。しかしそれはしばしばベストな方法ではなかった。皮肉なことに、クビになったのはロンで、首がつながったのはジョンだった。ロンは結論の不正義については怒りを感じなかった。彼が考えたのは、首になるにあたって自分の机から何を持って帰るかという詳細だった。
彼は自分の感情と環境に対してのコントロールを維持する必要があった。
OCPDの患者はうつ病や不安症になっていなければ精神科医を訪れることはあまりない。自己愛パーソナリティ障害と鑑別しなければならないが、自己愛パーソナリティ障害の場合には、完全を求めると言うよりは、自分は完全であると信じている。
反社会性パーソナリティ障害は不寛容な点でOCPDと似ているが、他人を常に害する点で異なっている。
シゾイドパーソナリティ障害の人々はよそよそしくて形式的な点で似ているが、OCPDの場合はもっと不愉快な感情が明白で、仕事に没頭する。

キーポイント
OCPD患者を扱うベストな方法は、彼らの延々と続くリストを優しく中断することである。

OCPD患者は、治療者が優しくていねいに接することで、彼らの詳細にこだわる傾向を和らげることができる。
治療者は彼らの完璧への欲求を批判しない一方で、仕事は終わったほうがいいと指摘し続けることが大切である。
彼らは仕事を他人にお願いしようとは思わないし、スケジュールを空けるということも考えられない。
精神療法は支持的で洞察に導く方法が良いだろう。集団療法は利益があることがある。

ーーーーー
次の8つのうち4つ以上あてはまると強迫性人格障害を疑う。

  1. 何がなんだか分からないくらいに小さなこと、規則、構成、予定表などにこだわる。
  2. 必要以上に完璧主義にこだわりすぎて、達成できないことがある。
  3. 娯楽や友人関係を犠牲にしてまで仕事にのめり込む。
  4. ひとつの道徳、倫理、価値観にとらわれすぎて、融通が利かない。
  5. とくに思い出があるわけでもないのに使い古したモノや価値のないものを捨てることができない。
  6. 他人が自分のやり方に従わない限り、仕事を任せることができない。
  7. 自分のためにも他人のためにもお金に対してケチである。お金は将来の何時かに備えて蓄えておかなければならない。
  8. 頑固である。



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第9章 依存性パーソナリティ障害(DPD)

第9章 依存性パーソナリティ障害(DPD)

ポイント
・自分で決断できない
・支えと指導が必要。自分でできるとは感じない。
・他人の意見に反対できない。一人で何かするのは怖い。
・自分でしなさいと一人で置かれるのが怖い。その時は誰か世話してくれる人を探す。

一人になると見放されたように感じる。助けなしで自分一人では何もできないと思っている。
-----E.Fromm

依存性パーソナリティ障害(DPD)の人々は他者に過剰に依存する。
彼らが知的に高度であり才能に恵まれているとしても、自己評価があまりに低く、周囲にいる強い人に必死にしがみつこうとする。
彼らは従順で受動的な様子に見える。
彼らは虐待的な行為にも耐えることができるので重要な他者との関係を維持することができる。
「お世話係」はDPD患者にどのシャツを着なさいとか、どの人と付き合いなさい、どの学校に行きなさいなどと指示する。もしDPD患者が知的発達障害があったり認知症があったりするなら、そのような依存的な行動も理解できるが、知的に正常または高度な人なのに、他者にそのように依存することは、理解しにくく思われる。
しばしばDPD患者は悲観的で自責的である。一方で、「お世話係」を楽観的な人と見たり、すべての肯定的な徳を備えているとみなしたりする。

キーポイント
DPD患者は他者との関係を続けようとして極端に行き過ぎることがある。

ときには彼らは他者との関係を維持しようとして非倫理的で不道徳な行為をすることもある。
彼らは責任を取らないので、何かがうまくいかないと自分が依存しているその人のせいにする。
治療にあたっては、彼らの自己評価を高めるように配慮し、自分で考えて行動できることを証明してみせるのがよい。
しかしこれが難しいのは、彼らは常に自分にダメ出しをして他人を高く見ていることが原因である。
毎日何を着て何を食べるかを自分で決めて良いのだと自分に許可を出すことを、医師が補助する、そのような小さなことの積み重ねが、自信につながる。

症例スケッチ
ギニーは36歳のTV局のアシスタント・ディレクター。彼女としばらく時間を過ごしたあとでたいていの人が気づくのだが、ギニーは上司の過剰なくらいの指示がなければ些細な事も決められない。彼は52歳、力強くカリスマ性があり、上席プロデューサーでギニーとは正反対だった。
母親が死んだ後、ギニーは依存の対象を上司に切り替えた。以前は母親になんでも任せていたので結婚はしなかったし母親のアドバイスなしには何も決められなかった。同じ役割りを上司に期待し、彼女は上司のアドバイスが聞こえる範囲にいて色々と励ましてもらわないと何もできないようになった。ある日、夜遅くなった時、二人はベッドルームのスタジオセットにいたのだが、そのベッドで愛しあった。そのあと上司は彼女と距離をとって疑惑を避けようとした。不幸なことにギニーは上司がいつもそばにいるという安心感を失って支えを失ったような気がした。彼の細かな指示がなければ仕事がうまくできなかった。

ディスカッション
この時点でギニーは精神科医に診察を求めればよかった。彼女はDPDと診断されただろう。治療の中で昔ギニーが母親や上司を頼ったように精神科医を頼って良いことにしただろう。そして精神科医は彼女が独立するように育てるのである。例えば、「でも先生、私はどうすればいいの?」とギニーが聞いたら、「どうすればベストだと自分では思うの?」と質問の形で返し、直接は指示しないようにする。ギニーは最初は自分のアドバイスに自信がないが、何度も励まされて、彼女は肯定的な自己評価ができるようになり、独立していくようになる。
依存的行動は年齢や社会文化的集団のコンテクストの中で考える必用がある。たとえば、ギニーが幼い子供であったり、いくつもの障害を抱えた高齢者であったりすれば、依存的であることは普通のことである。36歳で、身体が健康で、中流のアメリカ家庭であれば、ギニーの依存性は過剰であり、病理的である。
DPDは気分障害やパニック障害の結果としての依存性、また身体病の結果としての依存性とは鑑別する必要がある。もしギニーのようにDPDで見捨てられることを恐れている人がいたら、自分が依存している人に気に入ってもらえるように熱心に努力するだろう。
残念なことに、ギニーは治療を求めず、最終的には対立する側のアシスタントディレクターによって冷遇された。降格されて給料も下げられた。上司は関係を続けなかったので彼女は無意識のうちに別の依存できる権威的な対象を求めた。

キーポイント
DPDは子供時代に分離体験をした人に発生する。

DPDは最初は精神分析家によって「口唇性格」として記述された。その特徴は、依存性、悲観的、受動的、被暗示性、忍耐力欠如である。
1924年にKarl Abrahamは仮説を立て、授乳期に甘やかされると口唇性格が依存性を発達させるとした。しかし現在の発達理論では否定されている。
子供時代に離別体験をして、適切な世話をされなかった人は、世話されることを過剰に求め、一人になると寄る辺なく感じる。彼らの恐れは、自分で自分を世話できないこと、そして人生の最初の世話役が失敗したのと同じように失敗するだろうということである。

ーーーーー
次の8つのうち5つ以上あてはまると依存性人格障害が疑われる
  1. 普段のことを決めるにも、他人からの執拗なまでのアドバイスがないとダメである。
  2. 自分の生活でほとんどの領域で他人に責任をとってもらわないといけない。
  3. 嫌われたり避けられたりするのが怖いため、他人の意見に反対することができない。
  4. 自分自身から何かを計画したりやったりすることができない。
  5. 他人からの愛情をえるために嫌なことまで自分から進んでやる。
  6. 自分自身では何もできないと思っているため、ちょっとでも1人になると不安になる。
  7. 親密な関係が途切れたとき、自分をかまってくれる相手を必死に捜す。
  8. 自分が世話をされず、見捨てられるのではないかと言う恐怖に異常におびえている。
ーーーーー
「しばしばDPD患者は悲観的で自責的である。一方で、「お世話係」を楽観的な人と見たり、すべての肯定的な徳を備えているとみなしたりする。」

この部分はprojectと表現していて、お世話係はそうであるべきだというファンタジーを押し
付けているので、ここである程度psychoticな要素が混入する。
防衛機制の種類としてpsychoticである。

また自分の能力を低く見るという点でreality testing が低下しているので、その点でもpsychoticである。
 
自我の内部で『悲観的自責的』の部分と『肯定的理想的』の部分が分離して、
『悲観的自責的』の部分は自分に向けられ、
『肯定的理想的』の部分は世話役に投影される。
これを統合することを考えると、容易に性的結合にも至る。

肯定的理想的な対象が現実に肯定的理想的であればそれは
psychoticと区別することは難しいが
一致は偶然に近く、本質はpsychoticである 


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第8章 回避性パーソナリティ障害(APD)

第8章 回避性パーソナリティ障害(APD)

ポイント
・回避性パーソナリティ障害(Avoidant personality disorder:APD)患者は他者との交流を恐れている。
・APD患者は人々が自分を非難し拒絶するだろうと信じている。
・彼らは劣等感と悩んでいる。自分は社会に適さないと思っている。
・仕事、人々、新しい状況を回避する。

一体なぜ彼は私に話したがるの?
-----Laura Wingfield in ガラスの動物園by Tennesse Williams

回避性パーソナリティ障害(APD)の患者は、他の人が自分を嫌っていると確信している。なにしろAPD患者はそもそも自分のことをダメだと思っているからである。
彼らはいつも人々が自分を批判して拒絶すると思い込んで悩んでいるので学業成績や仕事の業績は思わしくない。
彼らは環境に対して過剰警戒していて、他者の反応をチェックしている。人々が非常に支持的で養育的である場合を除いて、自分はいつでも人に拒絶されると予想している。
APD患者を扱うベストの方法はできるだけ彼らを肯定して自信を付けさせることである。
彼らは数多くの面接の後にやっとあなたを信頼するようになる。それまであなたは彼らに肯定的関心を向け、表明し続けるべきだ。
不幸なことに、彼らは拒絶されると思い込んでいるので、治療の最初には面接を回避するだろう。

キーポイント
APD患者は、無条件に受容されたと感じた場合、その人と親密になるだろう。

APD患者は拒絶に過敏になっているので人々との交わりを回避する。シゾタイパルやシゾイドの患者と異なり、APDでは対人関係能力はもっとある。しかし彼らがあまりに怖がるので人々は彼らを嘲笑する。人々は彼らを恥ずかしがりで控えめだと思う。職場では、指導的な立場にはめったにならず、能力よりもずっと低い場所で働く。医師が最初に診察するときには彼らは不安が強く自分について話すことさえ困難である。人口の1-10%程度と考えられている。文化や民族が異なれば回避的または内気と見えても、文化的に適切なこともある。従って診断にあたっては文化的側面を慎重に考慮すべきだ。

症例スケッチ
コリーヌは劇場で働いているが、10年もの間、小道具係として舞台裏で働いて満足なのか、同僚には不思議だった。同僚の多くは役者を夢見ているが切符売り場か舞台裏で働いていた。一度舞台のテーブルにティーポットを置くためにステージを横切ったことがあった。コリーヌはスポットライトに照らされて気を失いそうになった。彼女は高校を卒業してすぐに父親の紹介でこの職に就いた。大学に進もうと思って数ヶ月行ったのだが、クラスメートが怖かったし、宿題を忘れて、ついていけなくなった。新しいステージマネージャーが雇われた。彼は彼はハンサムでマナーが良かった。コリーヌは必死に彼を避けた。他の女性達は彼に言い寄ったりしていた。彼はコリーヌのことが好きで話しかけたいようだった。毎日彼女は彼のことを考えたが、自分は醜いので諦めようと決心していた。ついに彼女は勇気をふるって彼に話しかけようと思ったが、ステージに置くように言われていたラジオを手から落としてしまった。彼女はステージマネージャーに怒られるような気がした。その後は二度と彼に近づかないようにした。

ディスカッション

拒絶されるリスクをおかすくらいなら孤独のほうがいい、それほどまでに拒絶を恐れるのがAPD患者である。
小道具係というコリーヌの仕事はAPDの人にとってうってつけである。
彼女は舞台裏にいればいいし、他人との接触回避も容易である。コリーヌは子供時代から怖がりで孤独だった。思春期には仲間から離れて過ごした。大学を卒業できなかったのは病気のせいである。多くの場合APD患者は結婚して子供を育てるが、それは配偶者の保護と支えがあるからである。

APDの治療には個人精神療法と集団精神療法がある。個人精神療法では、治療者は受容的態度を維持して固い治療同盟を発展させるべきである。
コリーヌのケースでも分かるように、ほんのわずかの怒りでも非難と拒絶と解釈されることがある。彼女は治療を受けなかった。母親は彼女にデートするように勧めたが、コリーヌは怖さをどうにもできなかった。

キーポイント
APD患者には、世界が彼らを侮辱して拒絶していると見えるのだが、その世界を耐え忍ぶように学ぶ必要がある。

集団療法は、もしAPD患者を「集団の中に入ってもいい」と説得できたらの話だが、自分が他人にどう見られているかを理解する良い機会になる。
第一に、人々が彼らにOKだよ、劣ってなどいませんよと告げた時に、彼らはそれが信じられない。もし彼らがその集団に充分長く居られたら、そしてそこで聞いたことを信じられるなら、彼らは勇気づけられて、この世界は親しみやすい場所であって、参加してもいいと思うようになる。
薬剤はしばしば用いられ、SSRI、βブロッカー、ベンゾジアゼピンなどが使用される。βブロッカーは交感神経の過剰活動を抑制する。APD患者ではGABAレセプターに異常があると言われているのだが、ベンゾジアゼピンはGABAレセプターを調整する。

ーーーーー
以下の7つのうち4つ以上があてはまると回避性パーソナリティ障害が疑われます。

  1. 他人からの批判、拒否、拒絶をあまりにも恐れるために、仕事上大切な人と会わなければならないような状況を避ける。
  2. 好かれていると確信できなければ、人と関係を持ちたいと思わない。
  3. 恥をかかされること、バカにされることを恐れるために、親密な間柄でも遠慮がちである。
  4. 社会的状況の中では、批判されはしないだろうか、拒絶されはしないだろうかとこころを奪われる。
  5. 自分が人とうまくつきあえないと感じるため、新しい人間関係を築けない。
  6. 自分は社会的に不適切な人間で、長所がなく、人より劣っていると思っている。
  7. 恥ずかしいことになるかも知れないと言う理由で、何かにチャレンジしたり、新しいことをはじめたりすることに異常なほど消極的である。
ーーーーー
ICDではAvoidant personality disorderはAnxious personality disorder 不安性人格障害とも表現されている。












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第7章 自己愛性パーソナリティ障害(NPD)

第7章 自己愛性パーソナリティ障害(NPD)

ポイント
・自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は自分は「特別」だと思っていて、あなたの賞賛を必要としている。
・彼らは誇大的で成功の幻想に囚われている。
・特権的だと思っているので、他人を平気で利用したり、共感に欠ける。
・傲慢と羨望がNPDには大量に同居している。

ナルキッソスは池を見つめ、自分を賛美し、落ちて溺れた。
-----ギリシャ神話

自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は自分にうっとりしていて、他人にも同じようにうっとりするように期待する。他人がそうしないと、世界が自分に無関心であることに、NPD患者は怒り傲慢に振る舞う。彼らは完全な美、理想的な愛、成功、そうしたものの幻想に引きこもる。
もし誰かが病気で助けが必要な場合、NPD患者は彼らを無視して、困難に共感しない。NPDは慢性状態で治療困難で悪名高い。
この病気は他人よりもNPD患者自身に自己愛性の傷付きをもたらし、生涯苦しめる。たとえば、中年になること、または全般に歳を取ることは、NPD患者にとっては傷付きであり苦痛である。外見を失い、仕事を失い、家族を失う。多くの場合他人を羨んでいる。

キーポイント
NPD患者にあなたは普通の人ですと説得しても無駄である

NPD患者は誰にも共感しないので、誰かがNPD患者と共感することは難しい。
しかし最善を尽くして見よう。たとえばあなたは完全に盲目で、その上、他の誰も存在していないとイメージしてみよう。そうしたらNPD患者に共感できるかもしれない。
NPDについては例えばこんな話を聞くだろう。患者はバスに乗って座っている。周囲のことを全く忘れて携帯電話でおしゃべりをしている。妊婦と年老いた身体障害者がそばに立っている。患者が席を譲ることは決してないだろう。共感が足りないと説教しても無駄である。聞くはずがない。
また彼らは治療を継続しない。治療を続けなさいと言うよりは、自分を向上させるエクササイズだと思って自分の外側を見てみることを、優しく思い出させよう。
彼らはいつも自分を向上させたいと思っているから。

ときには医師は自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害との区別が難しいと思うだろう。どちらも自分には怒る特権があると信じている。しかしNPDが怒っているのは他人が自分の素晴らしさを賞賛しないからである。BPDが怒っているのは自分の欲求が満たされず自分が苦しめられていると感じた時である。

症例スケッチ
グローリアは独身で魅力的な32歳の女性。身体の手入れが特別によいことを自慢にしている。特に彼女の歯は映画女優のように白く、完全にまっすぐに並んでいる。子供の頃はいくつも虫歯があり、矯正歯科に通い、歯を何本か抜いている。思春期以降になって彼女は強迫的に歯の衛生に注意し始めた。外見を面に良くするために最新のファッションを身につけ、髪をブロンドに染めた。前歯にわずかな痛みを感じた時、歯医者に行ったところ、虫歯がひどくて抜歯する必要があると言われた。グローリアは信じられなかった。歯は抜かれて、グローリアは次々に後遺症に苦しんだ。歯ぐきから出血したり、口がヒリヒリしたり、痛んだりした。感情的な不愉快さが身体的問題よりも大きかった。グローリアは失った歯について考えるのを止められなかった。舌でいつもすき間を触っていた。毎朝鏡を見て精密に検査するたびに叫んだ。夜になるとふさぎこんでいつもの活動ができなかった。食欲はなくなり、眠れなくなった。グローリアの歯医者がインプラントを提案した時、彼女はためらい、次々に歯医者を訪れてどうしたら良いか聞いた。ある日、彼女は急いでいて転んで額を傷つけ5針縫った。グローリアは自分の外見に我慢できなかった。前歯が欠けて顔には傷がある。あんまりだった。数日は家から出なかった。いとこが彼女を精神科医に相談させた。強迫傾向のある大うつ病と診断された。

ディスカッション

グローリアは抗うつ薬を使用して強迫傾向とうつ病は改善した。彼女のNPDは簡単には良くならなかった。彼女は精神科医との治療に同意した。精神科医は彼女の一番長い間の対人関係から短い対人関係まで調べあげて、グローリアの社交関係の2つの重要な側面を指摘した。
第一に、彼女は親密な関係を怖がり、友人とあまり親密に付き合わなかった。親の話や子供の頃の話になると話題を変えていた。両親が彼女を肉体的にも心理的にも虐待していたのを知られるのが怖かった。彼女は自分のトラウマを隠していた。
第二に、彼女は傲慢で横柄で、他人には他人の考え方があると言われると怒った。あるボーイフレンドと6ヶ月続いたが、彼を犠牲にして自分のしたいことをしたがったので、喧嘩ばかりしていた。グローリアは友人ともっと親しくなるように励まされた。また他人の視点を楽しもうとトライした。しかしどちらも彼女には難しかった。

キーポイント
NPD患者は不安性障害やうつ病の治療を求めてクリニックを訪れる。

薬剤や認知行動療法で不安やうつが治ると患者のNPDが現れる。その時点であなたは治療を続けるように働きかける必要がある。誇大的な幻想を捨てるとか特別配慮の欲求を減らすとか期待してはいけない。
あなたの共感は彼らを驚かすし喜ばせる。彼らは誰も居ない世界で盲人だったのだと思いだそう。それだけで治療同盟を維持するに充分である。


ーーーーー
以下のうち5つ以上あてはまると、自己愛性人格障害が疑われます。
  1. 自分は特別重要な人間だと思っている。
  2. 限りない成功、権力、才能、美しさにとらわれていて何でもできる気になっている。
  3. 自分が特別であり、独特であり、一部の地位の高い人たちにしか理解されないものだと信じている。
  4. 過剰な賞賛を要求する。
  5. 特権意識を持っている。自分は当然優遇されるものだと信じている。
  6. 自分の目的を達成するために相手を不当に利用する。
  7. 他人の気持ちや欲求を理解しようとせず、気づこうともしない。
  8. 他人に嫉妬をする。逆に他人が自分をねたんでいると思い込んでいる。
  9. 尊大で傲慢な態度、行動をとる。



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第6章 演技性パーソナリティ障害(HPD)

第6章 演技性パーソナリティ障害(HPD)

ポイント
・演技性パーソナリティ障害(ヒストリオニック・パーソナリティ障害、HPD)は注目の中心にいたい。
・HPD患者は不適切なほど性的に誘惑的であり、挑発的であることがあることを知っておこう。
・感情は素早く変化するが、浅い。劇的で誇張された感情表現である。
・性欲を刺激する外見で注目を集める。
・HPDの患者に話を聞いてもさして内容がない。
・HPD患者はあなたをベストフレンドだと思っている。
・患者は非常に暗示にかかりやすい。だからあなたはことばに気をつけること。

私はいつも異邦人の親切に頼って生きてきた。
---欲望という名の電車 テネシー・ウィリアムス

演技性パーソナリティ障害(HPD)は臨床的に診断するのは容易だが、他のパーソナリティ障害と同様に、治療は難しい。
HPD患者は注目の中心になりたがる。その劇的な感情には困惑させられる。
しばしば彼らの外見も行動も性的に誘惑的である。
彼らは衝動的に興奮や新奇さを求める。
一般人口の2-3%であり、病院やクリニックでは15%くらいになるだろう。
通常女性のほうがHPDと診断されやすい。DSM5の委員会は性的マンネリを恐れるという項目を診断に含めるかどうかためらったが、それはこの項目は男性に多いタイプであって、女性にはあてはまらないからだろう。
ときに患者は数年に渡り少数の症状しか呈さないことがある。たぶん、エネルギーをなくしたか、行動コントロールを学んだかだろう。
DSMIV-TRでは以下の診断基準のうち5つを満たすだけでよい。

(1)注目の中心にいないと機嫌が悪い。
(2)他者との交流は不適切に性的、誘惑的、挑発的である。
(3)感情表出は素早く変化し浅い。
(4)注目を集めるために常に性的外見を用いる。
(5)話し方は過剰な印象を語るのみで詳細に乏しい。
(6)自分のことをドラマ仕立てにして話し、劇的で過剰な感情表出である。
(7)暗示にかかりやすく、容易に他人に影響される。
(8)対人関係を実際よりも親密だと考える。

症例スケッチ
スージーにはじめて会った時、私は男でなくてラッキーだと思った。私は女だから、彼女の挑発的なローカットのブラウスや短いスカートに、無理矢理に興味が無いふりをする必要がないのだ。それをラッキーだと思った。彼女は5’10’’のスレンダーな赤毛で20台。男性精神科医ならば彼女の魅力に悩まされていただろうことも理解できた。
私は全ての患者にそうしているように、適切な境界を我々の間に設けて維持し、面接の終わりは時間ピッタリに終わり、スージーにも料金は毎回支払ってもらった。スージーにはこの仕組に満足しなかった。面接を延長させようとしてしばしば終わりの2分前に「最高面白いこと」を話そうとした。彼女はまたしばしばお金を忘れてきた。最初の契約をきちんと守るように再度確認した。そして約束通りにできないのはなぜなのか考えようと方向付けた。
彼女は精神療法がお気に入りだったが、それは明確に彼女が注目の中心になれるからだった。私についての過剰に性的な発言や私の性生活についての質問には私は答えなかった。ただ彼女の転移感情を理解するために彼女が私について何を考えているかについては聞いた。彼女の性生活は一夜だけの関係の連続で、彼女は決して満足していなかった。
スージーの慢性うつ病の症状は、睡眠減少、食欲増大、すぐに気が散る、いらいらする、自殺の考えがある、などである。スージーのうつ病を治療するプランは、できるなら週に一度の精神分析的精神療法だった。数カ月後、治療はあまり進展していなかったので、私は服薬を勧めた。
スージーは大声で泣いて椅子で身を捩った。そして考えなおしてくれるように私に懇願した。
ゆっくりと注意深く、ベストな選択肢は薬物療法なのだと説明した。
私が恐れたのは、彼女が失望して、私がこれ以上薬物療法に固執したら彼女は自殺しようとするかもしれないということだった。
「その薬が本当に私を救うとあなたが思っているなら、飲んでみたい」とスージーは演劇的な口調で述べた。
彼女はゆっくりと脚を組んでそのときに短いスカートの奥のレースの黒い下着があらわになった。彼女は意味などないと否定するが誘惑的行動について私はいつでも解釈するようにしていた。この時も私が異性愛で助かった。彼女の誘惑に乗らないですんだ。私は処方箋にセルトラリンを書いて、3日は25ミリで、そのあと50ミリに増量することにした。
「とにかく、私たちはいい友達なんだもの。あなたに言われて断れないわよ」スージーは自分の言ったことを信じていた。彼女が私を精神療法家とか精神科医としてではなく「友達」と思っているのかと聞いたら、スージーはそうだと答えた。
「友達」という彼女の感覚を解釈しようとすると行き止まりになる。
自分が働いていたブティックの客も、同僚も、上司も、一夜限りのお相手も、みんな彼女にとってはベスト・フレンドだった。
彼女がこの感情を語ったとき、言及された多くの人は友人関係を否定しただろうし、それを聞いたら彼女は泣いただろうと思う。

キーポイント
パーソナリティ障害患者はⅡ軸診断であるが、うつ病、不安性障害、精神病などⅠ軸診断もつくことがある。

スージーはHPDの診断基準の8つすべてを満たしている。彼女は仕事先のブティックで、中心人物ではなかったから気に入らなかった。注目を集めようとして性的アピールの強い服装をして、私や他の人を不適切に誘惑した。感情は急速に揺れ動き話し方は大げさだった。私や彼のボーイフレンドといるときは暗示にかかりやすかった。我々は職業的な関係しかなかったのに、「すごい親友」と彼女は考えた。スージーは状況に応じて行動を変えることをしない。人々が反応せず不適切な場であっても彼女は誘惑的な振る舞いをした。

キーポイント
HPD患者では自殺の危険が高いが、多くの場合、自殺のそぶりをするだけで、他人の注目を引きたいだけである。しかしながら、危険の評価は慎重にすべきである。

症例スケッチ
私はスージーから夜の11時に緊急電話を受けた。
「すごい吐きけがするの。死んじゃうと思う」彼女ははっきり言った。
「まあ落ち着いて、スージー。何があったのか話して。」
「お腹に大きな泡があるの。破裂するわきっと。」
「吐きけは薬を飲んだときに起こるよくある副作用よ。ジンジャーエールを飲んでみて。少しはよくなるはずよ。」
大丈夫だとどんなに説得しても彼女は電話を続けた。
彼女はすすり泣いて納得しないので、救急室でなら診察できると提案した。彼女はそれを断り、やっと電話を切った。
それから数日の間、彼女は毎日私に電話をした。抗うつ薬は一錠飲んだだけで中止したのに、吐き気が続き頭に感じる奇妙な感じがあるという。
その後クリニックで診察をした時に彼女に「違う話題に移ったのはなぜなのか」聞いてみた。
「本当はゾロフトを飲んだ最初の夜は、ボーイフレンドといて、彼は抗うつ薬がどんなに悪いものか話し続けていた。私達のセックスライフをダメにしてしまうと言った。」彼女は前かがみになって自分の胸の谷間を見せながら話した。
「彼と話せば話すほど気持ち悪くなって、おしまいにはもうダメだった思った。それは電話で話したとおり。」
「今はどうなの?」彼女がひとり語りをはじめる前に私は遮った。
「私はもう普通には戻れない。私は人生を台無しにした」
それから私は20分かけて、25ミリの錠剤一錠で今回の苦しいことの全てが起こったはずがないことを説明した。終わり頃には彼女は納得したようだったが、抗うつ薬を再度飲むことには同意しなかった。さらに数週間して、彼女は治療に来なくなった。

キーポイント
HPD患者はいつも満足させられていないと唐突に治療中断することがある。

このようなほんの少量の薬剤が、スージーに過剰で異常な反応を引き起こしたのはなぜだろうか?
スージーは薬剤にノセボ反応を起こした。多くの医師はプラセボ効果はよく知っている。砂糖玉が患者に利益をもたらす。
ノセボ効果について知っている医師はあまり多くないかもしれないが、薬効のない物質であるが、意識的・無意識的に悪い作用が起こるのではないか予想するので、実際に悪い作用が起こってしまうものだ。HPD患者は暗示にかかりやすいのでプラセボ効果もノセボ効果も起こりやすい。
陰性転移、絶望、無力感、これらいずれもノセボ効果につながる。
スージーはプラセボ効果も容易に体験できたはずで、そうすれば治療は続けられ効果が見られたはずだと思う。
プラセボ効果に役立つ要素としては、陽性転移、絶望、自分は助かるという感じなどがある。
残念なことに、プラセボ効果もノセボ効果もあらかじめ知ることはできないし、計画することもできない。HPDでは特にそうである。患者の感情と転移は急速に変化するからである。

ーーーーー
DSMIV-TRではつぎのうち5つまたはそれ以上。
  1. 自分が注目の的になっていないと楽しくない。
  2. 他人との関係は、不適切に性的で魅惑的・挑発的な態度をとる。
  3. あさはかで感情を表に出す。
  4. 自分への関心を引くために身体的外見を利用する。
  5. 感情表現がオーバーなのだが、内容がついてこない。
  6. 芝居がかった態度や誇張して表現する。
  7. 他人や環境の影響を受けやすい。
  8. 対人関係を実際以上に親密なものとする。
となっています。

演技性人格障害::大きく4つの性格的特徴
  1. 自己顕示性  自分を実際よりもよく見せたい。
  2. 情緒不安定性  一見すると他人を振り回して行動しているように思われるが、その真実は実に小さく不完全なもので、危うさ、不安に満ちています。支配的に振る舞うことでかろうじて安定化を図っているのです。
  3. 被暗示性  情緒不安定と同じく、他人や環境に合わせることで、安定化を図るのです。
  4. 魅惑性  わざとらしく表面的で挑発的な態度にでるのは、背後に深い罪悪感を抱えていることが多いようです。このことは、患者を魅惑的な行動に走らせる一因となっています。










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第5章 境界性パーソナリティ障害(BPD)

第5章 境界性パーソナリティ障害(BPD)

ポイント
・境界性パーソナリティ障害(BPD)患者はあなたを含め、誰とでももめ事を起こす。不適切な怒りが理由である。
・彼らは人を理想化したり反対に無価値化したりする。そして一般に関係を悪くする。
・バランスの悪い自己の感覚があり、空虚さ、見捨てられる不安、ストレス誘発性の解離を抱えている。
・衝動性が特徴で、自殺の危険がある。イライラ、物質乱用、乱費が見られる。

これらの患者は神経症と精神病の境界領域に存在するはずである。
-----Otto Kernberg,M.D.

過去には、精神科医は境界性パーソナリティ障害(BPD)を「as-if」人格と呼んだり、「通院」シゾフレニーと考えたりした。彼らは自分自身や他人を、そして特に治療者を非難虐待攻撃するので、もっとも治療困難な患者である。彼らを理解する鍵は、他者を理想化したり無価値化したりする考え方の中にある。かれらはあなたのことを決して悪を行わない『天使』だと考える。この理想化の局面では、あなたは肯定的な性質だけを持つ。しかし次の瞬間、無価値化されて、否定的性質ばかりを持つ『悪魔』になる。境界性パーソナリティ障害患者は中間の見方をしない。我々はこの防衛機制を「スプリッティング」と呼んでいる。他人に対する見方が歪んでいるので彼らはしばしば怒り、イライラし、不安になる。

彼らの気分は非常に反応性に富むので、パラノイアから発揚状態に数分から数時間で変化する。そのことが彼らに関わる人々を困惑させる。

衝動性が境界性パーソナリティ障害のもう一つの標識である。
彼らは突然手首を切る。処方薬を大量服用する。あるいは銃弾で自殺すると脅す。彼らは容易に何かの薬物乱用になる。

BPDと関わる最善の方法は、固い限界を設定して、それを守ることである。時間、場所、料金できる限り固く取り決める。もし午前10時半と約束したらそのとおりにする。面接の場所を変えない。つまり、できるだけ同じクリニックで会う。常に自分の逆転移感情をモニターする。
逆転移感情はすべての患者についてモニターしておく必要があるが、BPDの場合はとくに必要である。
もしあなたが怒りを感じているなら、患者があなたを見て思い出している誰かに注目しよう。しかし解釈には注意が必要である。
このパーソナリィ障害の患者はほとんど解釈に我慢出来ない。特に否定的な解釈には我慢出来ない。

キーポイント-----
BPD患者は多分良くならないだろうということを覚悟しよう。他の場合は、一所懸命やれば少しは良くなるかもしれない。しかしBPD患者では期待してはいけない。患者に機能低下が起こらなければ、あなたはよくやっている。

症例スケッチ

パウラは32歳の医学研修生。人々がどんなに速く変わってしまうかに常に驚いている。ある瞬間、彼女はある教授を賞賛している。次の瞬間、彼を軽蔑している。彼女は自分の感じ方には問題がないと思っている。教授がそれほど速く変わってしまうのだと彼女は思っている。。彼女が研修している病院で、看護職員の半分がパウラをベスト研修生だと評価し、あとの半分の看護職員は彼女をひどく嫌っていた。パウラは年をとってから医学校で学んでいたので、働いて学費を払っていた。どんな仕事をしても彼女は同僚とものすごい喧嘩をした。また結婚生活でかなり喧嘩をしたので二人は結局離婚した。パウラは孤独でみんなに見捨てられた感じがした。そのことが彼女を見境のない、性病予防もしないセックスに駆り立てた。セックスに対して何かにとりつかれたような欲求を感じた。パートナーにコンドームをお願いすべきだと分かっているのに、彼女はそれをしなかった。その代わりに彼女はHIVテストを受け続けた。ある夜、心臓発作患者のケアにあたり彼女は恐怖を感じた。患者は6時間後に集中治療室で死亡した。ナースも主任レジデントもパウラが素晴らしい仕事をしたと認めた。しかし彼女は自分を非難することを止められなかった。オン・コールルームに一人でいたとき、バスルームに駆け込んでメスで手首を切った。血が滴り落ちるのを見て、彼女はほっとした。バスルームを綺麗にして、傷口は縛って止血した。そのあとむちゃ食いしてチョコチップクッキーの大袋を食べ尽くした。

ディスカッション

パウラはおそらくDSMIV-TRのBPDの基準を満たす。彼女は不安定な自己イメージを抱え、あるときは非常に有能であると感じ、次の瞬間には無価値であると感じている。同様に、BPD患者は過剰に理想化するか、過剰に無価値と考えるか、いずれかであって、パウラは教授や仕事の同僚にたいしてそのように感じた。彼女の対人関係は強烈でアンバランスである。一人でいるとき彼女は空虚で退屈で見捨てられた感じがした。彼女の不適切な怒りは彼女自身に向けられ、手首を切った。彼女の衝動性は見境のないセックスとむちゃ食いに向けられた。
パウラは病院のスタッフの「スプリッティング」を引き起こした。BPD患者は「完全によい all good」か「完全に悪い all bad」かで他人を見ると、理論家は提案している。BPD患者は子供の頃の「良い母親 good mother」イメージと「悪い母親 bad mother」イメージを心理的に統合できないでいるのである。それというのも親が虐待したからである、というのが理論の大筋である。「スプリッティング」メカニズムは自我が退行したレベルで用いられる。退行状態では、悪いイメージとは程遠い良いイメージを抱くことができて、その二つを統合することができない。

キーポイント
BPD患者はしばしば自分は特権的だと感じている。

BPD患者はあなたにもまた誰にでも、特別な好意を期待して要求する。
その好意が得られなければ、彼らは怒りを浴びせる。
これらの患者は精神療法が必要である。そしてうつ病や精神病のエピソードがある場合には薬物療法が必要なことがしばしばある。彼らの不安をベンゾジアゼピン系抗不安薬で治療することは勧められない。BPD患者は薬物依存しやすいからである。多くの医師は気分安定剤を使う。

ーーーーー
次の9つのうち5つ以上があてはまると境界性人格障害が疑われます。
見捨てられる不安が強いために愛情をつなぎとめるために必死に努力をする。
他人への評価が理想化したり、こき下ろしたりといった両極端で不安定なものである。 
同一性が混乱していて、自己像がはっきりしない。
衝動的で、ケンカ、過食、リストカット、衝動買い、アルコール、薬物、衝動的な性行為などが見られる。
自殺行為、自傷行為などをやろうとしたり、脅したりする。
感情が不安定。
いつも虚無感を覚える。
場に合わない激しい怒りをもち、コントロールできない。そのため、暴力に走ったりする。
ストレスがあると妄想的な考えや解離症状が出ることがある。



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第4章 反社会性パーソナリィ障害 Antisocial パーソナリィ障害(APD)


第4章 反社会性パーソナリィ障害 Antisocial パーソナリィ障害(APD)

ポイント
・反社会性パーソナリィ障害(APD)患者はしたい時にしたいことをやる。
・誰にでも嘘をついて騙す。
・衝動的でいらいらしていて攻撃的である。
・なくしたくなかったら、財布や貴重品を置きっぱなしにするな。彼らの前に置くのなら、置く方もどうかしている。

一秒ごとにカモが生まれている ----unknown

反社会性パーソナリィ障害(APD)患者は精神病質(サイコパシー)や社会病質(ソシオパシー)を持つと言われてきた。(言葉の定義は確定的ではないが、精神病質はDNAの病理に近く、社会病質は生育環境の病理に近い。)
彼らの病気は社会の法律に従うつもりがない、あるいは従うことができないというものである。
彼らは社会規範や法を破る。
患者の多くは子供の頃に行為障害(素行障害)を持っていた。
精神科医がAPDの治療を頼まれたとしたら、それは感謝されない仕事である。彼らのパーソナリィ障害は格別に扱いにくい。
精神薬理学や精神療法がどんなに進歩しても、医学の枠組みの外で処遇するのがベストである。

彼らは事において自己愛的であるばかりではなく、衝動的で攻撃的で嘘つきである。
彼らは命知らずだ。安全になってもなお、自分の命も他人の命も軽んじる。いったん他人を傷つけたとなると、合理化することもできるし無視することもできる。
彼らの超自我は消えてしまっていると、精神分析家は教えている。

キーポイント
APD患者は決まりを守る必要を感じない。

APD患者はたいていは何がルールであるかは知っている。ここが自閉症、精神病、発達遅滞、認知証患者とは違う。彼らは規則や法や標準に従わないことを選んだのである。人々はそれらに従って生きているので、APD患者は自分たちのことを他の人達よりも優秀だと思っている。優秀なのだから破ってもいいのだと考える。むりやり標準に合わせている必要はないと考える。目立つことを楽しめばいいのだが、彼らは創造的ではない。他人が苦しんでいても、彼らは何も思わない。

臨床スケッチ----------
ダニーは背の高い、がっしりした29歳、女性に魅力的と思われていることを知っている。仲間とボーリング場のあたりをうろうろして機会をうかがっていた。彼はそこで32歳の会計係パムと知り合った。映画と高価な新しいレストランに食事に誘った。ダニーはきちんとした服装で、最後の10ドルでパムのためにバラを買った。映画はプライベートな上映会で、彼は受付で自分の名前があるはずだと言い張った。映画館の支配人は彼の名前を見つけられなかったが、ダニーはチャーミングだったので通してもらえた。ロブスターとシャンペーンのディナーが終わって、ダニーはクレジット・カードを忘れたと言いパムが支払った。
5ヶ月後、ダニーはパムの部屋に移り住んだ。彼女からお金を借りて、給料が出たらすぐに返すと言った。パムはこっそり彼の外出中にe-メールを見て、彼が無職なのを知った。帰宅して問いただした。かれはパムをなだめて、長い話をした。それから数ヶ月彼はパムをだまし続けた。そして彼女に、ダニーは監獄にいたことがあること、6歳の男の子がいること、その子をサポートしていないことを知られて、部屋を追い出された。

ディスカッション

ダニーはDSM-IVのAPDの診断基準に当てはまる。
他人の権利を認めず踏みにじる広汎なパターンは15歳時から始まっていた。以下の3つまたはそれ以上に当てはまる。
(1)法律を尊重して社会規範に合わせることができない。同じことを何度もやって逮捕される。
(2)人をだます。繰り返し嘘をつく、偽名を使う、人をだまして利益を得たり楽しみを得たりする。
(3)衝動性。計画できない。
(4)イライラ、攻撃性。肉体的暴力、暴行。
(5)他人や自分の安全を軽視し向こう見ずなことをする。
(6)常に無責任。常勤職を続けることができない。借金を返さない。
(7)良心の欠如。他人を傷つけた、虐待した、他人から盗んだ場合に、無関心であったり、いいわけをしたりする。

APDは第一度近親者にAPDが多い。多ニーの父親もそうだった。ダニーの父親は無責任で虐待し、ダニーが10歳の時に離婚した。ダニーは母親と暮らしたが、父親は援助しなかった。APDは女性よりも男性に多い。男性で3%、女性で1%である。
精神療法は滅多に成功しない。しかしセルフヘルプグループは、もし患者が同意するなら、有益であるとされている。APDに関連しての怒り、不安、抑うつをコントロールするために薬剤が使われる。精神刺激剤がSDHDとAPDの合併の場合には勧められる。
APDは他のパーソナリティ障害と、またシゾフレニーと鑑別が必要である。

キーポイント----------
APD患者がきちんと振る舞ったからと言ってだまされてはいけない。

面接をすると、APD患者は驚くほど落ち着いて信頼できそうに見える。
外側はチャーミングで人の気にいられる態度であるが、緊張して敵意に満ちた内面があり、爆発してソシオバシーになる。
面接中にストレスが加わると、内面の精神病理が垣間見えることがある。
もしあなたがAPD患者にだまされたとして、被害にあったのはあなたが最初ではないだろうということを思い出しておきたい。
彼らを扱う最善の方法は、彼らの心の中の一番の関心事に付き合うことである。これは容易ではない。彼らの関心はあなたの関心とは違うからだ。彼は変わらないだろう。そのことで納得できない気持ちになるだろうが、しかしあなたは自分の一貫性を保たなければならない。

ーーーーー
1.他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以来起こり、以下のうち3つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 法にかなう行動という点で社会的規範に適合しないこと。これは逮捕の原因になる行為をくり返し行なうことで示される。
  2. 人をだます傾向。これは自分の利益や快楽のために嘘をつくこと、偽名を使うこと、または人をだますことをくり返すことによって示される。
  3. 衝動性、または将来の計画をたてられないこと。
  4. 易怒性および攻撃性、これは身体的なけんかまたは暴行をくり返すことによって示される。
  5. 自分または他人の安全を考えない向こう見ず。
  6. 一貫して無責任であること。これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということをくり返すことによって示される。
  7. 良心の呵責の欠如。これは他人を傷つけたり、いじめたり、または他人の物を盗んだりしたことに無関心であったり、それを正当化したりすることによって示される。
2.患者は少なくとも18歳以上である。
3.15歳以前発症の行為障害の論拠がある。
4.反社会的な行為が起きるのは、精神分裂病や躁病エピソードの経過中のみではない。











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第3章 シゾイドパーソナリィ障害 Schizoid Personality Disorder(SPD)

第3章 シゾイドパーソナリィ障害 Schizoid Personality Disorder(SPD).

ジソイドでもスキゾイドでも同じ。
schizophrenyをスキゾフレニーと発音する場合は、スキゾイドとなる。しかしシゾフレニーと発音するならschizoidはシゾイドとなる。どちらでもいいなら短いほうがいいのでシゾイドとしておく。小此木啓吾はシゾイドと言っていた。

そもそもドイツ精神医学で、病前性格としてのシゾチームと病気としてのシゾフレニーがあり、なにかその中間的なもの、単に性格傾向と言うにしては、すこしきつい感じ、しかし病気でもないというところなのだろう。
系列として、シゾチーム、シゾイド、シゾフレニーと並ぶ。
これをスキゾイドとスキゾフレニーでもいいが、シゾチームに関してはもう昔からシゾチームといっているし、アメリカ人がそもそも使わないことばのようで、スキゾチームという言い方も聞かないような気がする。
だからスキゾチームはなくてシゾチーム、するとあとは、シゾイドとシゾフレニーになる。

スキゾとパラノという時は、スキゾフレニーとパラノイアの対比で言っているのだと思う。
日本語のカタカナ読みをどうするかという瑣末な話。
漢字に翻訳するとシゾフレニーは統合失調症
シゾイドは統合失調質
シゾタイパルは統合失調型

でもシゾというのは、もみじの葉っぱのように『分かれている』という意味で。フレニーは精神の意味なので、分裂と言わずに「統合が失調している」がシゾに当たるのだろう。
DSMの翻訳の前書きのところには、ここで書いたことを参考に考えると、意味の分からない解説があったような気がする。

ほかにシゾタイパルがあり、これもスキゾタイパルでもいいと思う。

そもそも現代では統計学的にシゾチーム、シゾイド、シゾフレニーの系列の考え方は否定されているようなので用語も翻訳もバラバラでも構わない。むしろ別のものを使ったほうが誤解がないような気もする。

Narcissistic 自己愛的 の言葉にしても、ナルシスティックというのは省略のし過ぎで、ナルシシスティックになるでしょうね。面倒だし、まあ、カタカナで書く時はナルシスティックでいいといったのも小此木先生だった。


ポイント
・シゾイドパーソナリィ障害(SPD)は孤独を好む。
・他者との性行為やたていての楽しみごとは彼らにとって意味がない。
・称賛も批判も意味がない。
・感情は平板で他人に冷たい。しかし精神病のせいではない。

私は一人が好き。-----グレタ・ガルボ

他人と交わらないで一人で生きる人、社交しないで一人でいる人、これがシゾイドパーソナリィ障害(SPD)の古典的な例である。
コンピュータが好きな人が多くて、他人から遠ざかっていたい人たち。
感情的になる場面もないし、みんなのようにセックスや他の楽しみを味わうこともない。
家族の結婚やお葬式のような大事な行事もSPDの人たちは別段何の感情もなくパスしてしまう。

職業的機能も損なわれてしまう。SPDの人たちは他人と付き合わないので職場になじまない。
SPDが最初に現れるのは子供時代や思春期で、成績が悪かったり、孤独で、他の子供達にいじめられる。
他人との親しい関係がないので孤独になる。
第一度血縁に反応する程度で、基本的に非社会的である。
彼らにとって他人の感情は謎である。
ときには彼らは背景に取紛れてしまい、存在に気づかれないことがある。

SPD患者をあまりに早く社会化しようと試みるのはやめたほうがいい。特に治療の始めにはしないほうがいい。
付き合いを強要されると分かったら、彼らはあなたの圧力に頑強に抵抗するだろう。そしてあなたが最高に気にかけていることを信じないだろう。
治療して何年もたって、あなたにユーモアを示し、誰かとデートし、パーティに出かけるかもしれない。
そして彼らは、自分が浪費した時間を悔やむかもしれないし、全く無視されてきたと愚痴を言うかもしれない。
もちろん、あなたは彼らの行動を指摘することができるだろう。アイコンタクトがない、社交的笑顔がない、会話に参加しない。しかしそんなことを言われても、彼らの助けにはならない。
あなたのアドバイスを理解しないだろう。
どんなに励まして人と付き合いをさせようとしても、他人と一緒にいることを強要されるのは無理だろう。

キーポイント----------
シゾイドパーソナリィ障害の人は、ストレスが加わると、極めて短時間の精神病を経験することがある。そしてもし精神病状態が続くようなら、シゾフレニーや双極性障害を考えたほうがいい。--------

----------症例スケッチ
ジャネットは自然で美しいブロンド、ピンクの頬、透明な青い瞳。彼女が孤独愛好者だなんて誰もかつて一度も、考えたこともなかった。
ボーイフレンドはカリフォルニアに彼女はニューヨークに住んでいた。二人は実際にときどきは実際に会っていた。実際の交流はたいていはe-メールで、ジャネットはメールは好きだった。
しかしボーイフレンドは家の近くで女性を見つけて仲良くしていたようだった。
ジャネットは抑うつ的になったのだが、抑うつの感情には彼女は馴染みがなかった。というのは、普段から多くの時間を彼女はほとんど何も感じていないのだった。彼女がうつ病の治療を希望したので精神科医はセルトラリン100mgを処方した。4週間して薬が効いて彼女は気分が楽になった。精神科医は週に一度の精神療法も受けた方がいいと勧めた。
ジャネットが電話もe-メールも無視していたので、以前からあった関係二つは消滅してしまった。
同じことを現在のボーイフレンドにもしていることを治療の中で話していた。
しかし彼との関係を終わりにする気はないと言っていた。
精神科医はジャネットに、もう一度コミュニケーションの道を開くことはできますよと、いろいろな方法で伝えた。
彼女は同意したが、どの提案も受け容れず、治療に来なくなった。

ディスカッション
彼女の精神科医はおそらくジャネットをSPDと診断したと思う。彼女はDSM-IVの診断基準を満たしている。
社交関係からひきこもる広汎なパターンを呈している。対人関係場面で感情表出が限定されていて、それは成人期初期に始まっている。
さらに(1)親密な対人関係を求めないし楽しまない。(2)彼女はいつでも孤独な活動を選択する。(3)他人とのセックスにほとんど関心がない。(4)感情が冷たい。

キーポイント----------
SPD患者は奇妙だとは思われない。普通でよそよそしい感じがする。----------------

もし患者が孤独を好み、ただよそよそしいだけで、奇妙さがなかったなら、たぶんSPDだろう。
もし患者に奇妙なところがあり、たとえば、魔法使いが隣の部屋に引っ越してきたのでテレビが映らなくなったとか信じているのなら、診断はシゾタイパルパーソナリティ障害か精神病かだろう。

SPDの難しさは、多くの医師がSPDの社会的引きこもりや感情的なよそよそしさをパーソナリティ障害とは考えずに心理防衛機制と考えるところにある。
引きこもることによって自分を守っていると解釈すれば、あえて治療することには疑問が生じるだろう。
子供のSPDは成人のシゾフレニーの前触れであることがある。
ディメンジョン診断アプローチ(第31章参照)では、シゾイドパーソナリティは、孤独、猜疑心、自己反省のスコアが高い。

SPD患者はすべての出来事を自分のプライベートな境界の侵略ととらえることが多い。たとえば、患者の母親や誰かが患者の部屋に入ってきたとすれば、あまりに侵略的だと受け取るだろう。学校に行こうとして家を出たら、二度と親には連絡を取らない。親が電話しても患者は他人のふりをしたり電話を切ってしまったりする。そして電話番号を変えてしまう。
このSPD患者は、両親を遠くから見ていて、彼らにお金を送っているというファンタジーを持っていた。
学校では社交が全くできなかった。卒業してから、金融系で働き、他人から孤立したままだった。
この患者は自分を非常に醜いと思っていて、社交には不適応だった。実際には外見は完全に普通であり、患者と話したことのある人はみんなが、彼は普通だと信じた。
彼の現実検討能力は保たれていたが、自己評価は低かった。
賞賛されても批判されても彼には影響を与えないようだった。

大多数のSPD患者は親密な対人関係を決して持たないし、他人に感情的に反応しない。
他人から離れていることと感情が限定されていることはSPDの診断につながる。
加えて、SPDでは家系にシゾフレニーの人が多い。SPDからシゾフレニーに至る連続体(スペクトラム)が考えられ、健康な側がSPDで、重症の側がシゾフレニーである。

ーーーーー
そういう考えがあったし、いまもある、と言うべきだろう。
確定された説とは言えないような気がする。

DSMでは以下の項目が並んでいて、
4つまたはそれ以上と指定されている。
(1)家族の一員であることを含めて、親密な関係を持ちたいと思わない、またはそれを楽しく感じない。
(2)ほとんどいつも孤立した行動を選択する。
(3)他人と性体験を持つことに対する興味が、もしあったとしても、少ししかない。
(4)喜びを感じられるような活動が、もしあったとしても、少ししかない。
(5)親兄弟以外には、親しい友人または信頼できる友人がいない。
(6)他人の賞賛や批判に対して無関心にみえる。
(7)情緒的な冷たさ、よそよそしさ、または平板な感情。

このタイプは最近の高度情報化社会、核家族化、コンビニ、一人住まい、などにかなりぴったりのタイプである。
現代社会では誰かにそばにいて欲しいと思うと、その他人を束縛することになるので、かえって苦しくなることもある。そんな状況では、SPDは悪くない適応形態であるような気もする。
ただ、子孫を残すにはある程度の社会性や親密性が必要なので、その点では不利である。
つまり、個体生存には現代社会では問題がない。しかし種の維持には適さない。
そのような一面はあるのだと思う。

ーーーーー
グレタ・ガルボとかマリア・カラスとか、パリの街でひっそりと暮らしていた
I prefer to be alone. 


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第2章 妄想性パーソナリティ障害 Paranoid Personality Disorder PPD

第2章 妄想性パーソナリティ障害 Paranoid Personality Disorder PPD
 
ポイント
・妄想性パーソナリティ障害患者はすべての人が自分に危害を加えようとしていると思っている。信頼は限定的である。
・PPD患者は自分の性的パートナーに疑惑を抱き、すべての人の忠誠心に疑いを抱く。
・PPD患者は人を許さない。単純な状況に隠された意味を読み取る。
・他人を疑う理由は全くないかほとんどないにもかかわらず、疑う。

パラノイドだから騙されるんだ ---unknown

妄想性パーソナリティ障害患者を扱うときは心がくじかれる。
どんなに一所懸命になって信頼を得ようと思っても、多分成功しないだろう。
彼らはあなたを信用しない。
むしろ彼らはあなたが彼らを騙そうとしているのではないかと疑うのだ。
どんなに親切な意見も悪意あるものと受け取られる可能性がある。
精神療法は困難だし、薬を調合しても無駄である。
彼らの敵意と怒りは他人に投影されて、他人が敵意を抱いて怒っていると解釈される。

我々精神科医は何度も何度も質問に答える。患者は「あなたはどこに住んでいますか」と問い、我々は「私がどこに住んでいるかがどのようにあなたの治療に関係あるのですか?」と答える。
特に精神分析医は、患者のどんな質問も患者について何かを教えてくれるものなのだから、それを知れば充分であって、質問には答えるべきではないと教えられてきた。
妄想性パーソナリティ障害患者を扱う時は、患者の質問に対して質問で答えていると、ますます疑惑を深めるだけなのだ。
従って、妄想性パーソナリティ障害患者が上の質問をしたら、「近所に住んでいます」と答えよう。
真正面から答えれば、治療同盟が築けるかもしれない。
もちろん、正確な住所を知りたがるなら、それは不適切だと言っていい。
患者は無意識的に、自分が感じているとおりにあなたに感じさせようとしている。
患者を治療していて妄想性だと感じたら、妄想性パーソナリティ障害について考え始めると同時に、シゾフレニーや他の精神病を除外する事が必要である。

ヒント
妄想性パーソナリティ障害患者に対しては常にできるだけ正直に対応しよう。もし患者が正しいと思うことについて語るなら、正面から否定するだけでは事は済まない。

症例スケッチ

シンディ、49歳、ある夜、激しい腹痛。救急車を呼ぶ前に自分で何とかしようとした。制酸剤、湯たんぽ、深呼吸。結局どうしようもなくて諦めて、救急車を呼んだら緊急治療室に運ばれ、そこからさらにオペ室に連れて行かれて緊急虫垂炎切除術を受けた。オペが成功した次の日、彼女は外科医に聞いた。「本当に手術が必要だったって確信はある?」外科医は驚いて「私はあなたの命を救ったんですよ!」と答えた。
シンディは退院になる前にあらゆることを考えてみた。ナースや他のスタッフに質問し、彼らが彼女の疾病保険のお金を狙って不必要なオペを強要したのではないかと疑惑を抱いた。彼女は誰に対しても怒り、病院を告訴すると脅かした。
シンディの不信と疑惑から彼女は明らかに妄想性パーソナリティ障害と診断される。

命に関わるかもしれない虫垂炎だったとしても、それを他人の悪企みではないかと解釈して、彼女は医者に行かずに我慢しようとしたし、医者に行けば行くでひどい目に会うかもしれない。常に他人の悪意や企みが予想される。
 
成人初期までに、シンディは人々が彼女を利用して騙そうとしていると確信していた。その結果、彼女はたいていの人に避けられていた。例外は20代の短い期間、性的関係にあった時だが、そのときも彼女は、セックス・パートナーたちは信用出来ないといつも信じていた。彼女はそのうち病院を恨むのに飽きて、弁護士に訴訟の相談をした。弁護士は現実に何の損害も生じていない事を指摘して裁判にはならなかった。

キーポイント
患者が妄想を抱いていたら、妄想性パーソナリティ障害ではなくシゾフレニーの可能性が高い。妄想性パーソナリティ障害の場合、短期精神病性エピソードはあるだろうが、幻覚妄想状態が続く事はまれである。

Ⅰ軸診断は双極性障害で躁状態となるだろう。患者にはいろいろな色の沢山の顔が見えて、彼らが話しているのが聞こえている。あなたは最新の抗精神病薬を処方して一週間すると幻聴は消えている。しかし不幸なことに彼女はあなたを疑い他の誰をも疑っている。彼女はいつも他人を疑ってきたし、単純な状況にも隠された意味を読み取るのだとあなたは気がつく。この場合は、あなたはカルテにこう記す。Ⅰ軸:双極Ⅰ型、躁状態、Ⅱ軸:妄想性パーソナリティ障害。
PPDやその他のパーソナリティ障害の診断をするときには、うつ病や精神病の診断ほど素早くはできない。患者を何度も診察し治療しながら、彼らがどのような思考感情行動パターンにとらわれているのか考えることになる。そのあとでパーソナリティ障害の診断が可能になる。
DSMIV-TRではPPDの診断には次の項目の4つ以上を満たすことが求められている。
1.充分な根拠がないのに、他人がたくらみ自分に危害を加え欺くのではないかと疑っている。
2.友人や同僚の忠誠心や信頼性を理由もなく疑うことで心が一杯になっている。
3.情報が悪用されるのではないかと根拠なく恐れて他人を信用しない。
4.親切な意見に隠された悪意を読み取ったり強迫的な意味を見いだしたりする。
5.恨みを抱き続ける。侮辱、傷つけ、軽蔑を許さない。
6.他人には分からない、人格や評判についての攻撃を感知する。そして即座に怒りで反応し反撃する。
7.配偶者や性的パートナーの貞節に関して、正当な理由なく繰り返し疑惑を抱く。

キーポイント
PPDは個人的対人関係や親密な対人関係で極端な困難を経験する。

PPD患者が治療を求めて来院するとき、多くの場合は、大うつ病などのⅠ軸診断で苦しんでいる。
Ⅰ軸診断の症状が激しいので、パーソナリティ障害はすぐには分からない。
あなたはうつ病の治療として抗うつ剤と週に一回の精神療法を用いる。
患者は最終的にはよく眠れて、食欲も改善し、気分もよくなる。しかし彼らは依然として疑い深く信用しないことにあなたは気がつく。患者は依然として恋人も重要な他者も見つけられない。その時点であなたはⅡ軸のパーソナリティ障害について考えはじめる。

もし彼らが奇跡的に実際にデートしようとしているならば、問題が起きるだろうから準備をしたほうがいい。みんなが信用に値せず何かを企んでいるとの訴えを聞くことになるだろう。
PPD患者は幻滅する運命にあるし、新しい友人を信用しない。もっとも可能性のある結末は、関係は破れて、患者はまた一人きりになることだろう。

多くのPPD患者にとって職場は困難である。ただコンピュータに向かって他人と何も交流しないならやっていけるだろう。
会議に出なければならなくなったとすれば、患者は同僚に生け贄にされて、馬鹿にされると感じているだろう。
患者はいつもの問い合わせでも隠された意味を感じないわけにはいかない。
PPD患者は容易には他人を許さない。入念な復讐の計画を練る。
そのプランを実行しないように彼らを説得しよう。
あなたは現実的な検証をすることで彼らを助けることができる。職場のいざこざの詳細を検討して妄想性の思考が対人関係能力を妨げていることを指摘することができる。

PPDは全人口の0.5%から2.5%に見られると考えられている。
彼らは精神科医に会おうとしないことが多い。それほどに他人を信用しないのである。しかし不安症状、うつ病、精神病があるときには治療を求めるだろう。偏屈な人や変わり者の中にたくさんPDD患者がいる。

--------
全般的診断基準

全般的診断基準は以下の6項目からなります。

次のうち二つ以上が障害されている。
認知(自分や他人、出来事を理解し、考えたりすること)
感情(感情の反応の広さ、強さ、不安定さ、適切さ)
対人関係
衝動のコントロール
その人格には柔軟性がなく、広範囲に見られる。
その人格によって自分が悩むか社会を悩ませている。
小児期、青年期から長期間続いている
精神疾患(シゾフレニー、気分障害など)の症状でもない。
薬物や一般的身体疾患(脳器質性障害)によるものではない。


DSM‐Ⅳによる妄想性人格障害(Paranoid Personality Disorder)の診断基準
全般的な疑いの深さの傾向が成人期早期までに始まり、種々の状況から明らかになる。人々の行為や出来事を故意に自分をけなしたり脅かすものと不当に解釈する。それは以下の7つの基準のうち、少なくとも4項目以上があてはまる。
1. 十分な根拠がないにもかかわらず、他人が自分を利用したり危害を加えようとしていると思い込む。
2. 友人などの誠実さを不当に疑い、その不信感に心を奪われている。
3. 何か情報を漏らすと自分に不利に用いられると恐れ、他人(友人)に秘密を打ち明けようとしない。
4. 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなしたり脅かすような意味があると思い込む。
5. 侮辱されたり傷つけられるようなことがあると、深く根に持ち恨みを抱き続ける。
6. 自分の評判や噂話に過敏で、勝手に人から不当に攻撃されていると感じ取り、怒ったり逆恨みしたりする。
7. 根拠もないのに、配偶者や恋人に対して浮気や不倫の疑いを抱く。

ーーーーー
おおむね、妄想性パーソナリティ障害の場合は、本人ではなくて周囲が深く悩む感じではある。
そして悩んでも解決が見つからないのも通常である。どのように考えたとしても説得したとしても、結論は同じ。むしろ、弁明の分だけ状況は悪くなるようだ。

一番簡単な説得は「それであなたが幸せになりますか」というものだろうが、もうその時点では幸せなんか問題ではなくて、疑惑だけが心を占めているのだと思う。
 
病理としてはシゾフレニーに近い感じはするので、薬剤が効くものかどうかと思うが、ちろん、彼らは薬剤は拒否する。薬剤は典型的な迫害であり、はかりごとである。
それでは、精神療法はどうかと言えば、結局は彼らは自分の判断回路をオープンにしない。他人に何か意見を言われるが、そのとき、すべての意見は疑惑の対象になってしまい、自分の判断回路に影響を与えるものではないのだ。
精神科医にとって、すべての患者の言葉は分析の対象であるのに似ていて、妄想性パーソナリティ障害患者にとって、他人の言葉のすべては、疑いの対象になる。
だから、「あなたはどこに住んでいますか?」と聞かれて、「そのことと治療とどんな関係がありますか?」と聞き返すのは、実に精神構造として似ていなくもない。
さらに患者が「その質問は治療に役立つんですか」とさらに前の質問を対象化することも考えられる。
かたや、すべてを分析の対象として、かたや、すべてを疑惑の対象とする。
そして誰も幸せにならない。 
 
そう、誰も幸せにならないのに、なぜ、というのが根本の疑問である。
知能が低いわけでもない。
ただ頭の中の天秤が大きくずれている。

誰の説得も無効なのはなぜなのだろう。
 
 
存在は確かに認知されているものの有効な手段は乏しい。
逆に、この人たちがどのようにして安定するのか、どのようにして幸せになるのか、研究したいものだと思う。 
 
やむを得ずしているに違いないのだが、
それでも、どこか、一部、幸せを感じているのではないだろうか。
だから続けるのではないだろうか。
その幸せが誰にも分からない。 
 
 


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パーソナリティ障害 総論

パーソナリティ障害
総論

ポイント
・パーソナリティ障害は思考と感情、行動の硬直した持続的なパターンである。
・ある環境条件が与えられたとき、思考と感情、行動について、患者の示すパターンと周囲の人が予想するパターンが異なっている。
・始まりは思春期か成人初期である。
・パーソナリティ障害は機能障害に至り不適応を呈する。

パーソナリティ障害患者は自分の不適応行動に関して不安を感じない。
-------Kaplan and Sadock's Synopsis of Psychiatry

パーソナリティ障害の人々は世界についての考え方と感じ方がある方式で固まってしまっている。その考え方と感じ方は自分と他人を不幸にする。
彼らは自分の行動に問題があるとは考えないので、概して自分を変える動機がない。
多くの精神療法家は、パーソナリティ障害を理解しているので、これらの患者にあまり変化を期待しない。
精神科医はうつ病、シゾフレニー、その他のDSMのⅠ軸診断の疾患に対してはずっと楽観的である。
さらに治療への勇気をくじくよくない知らせだが、パーソナリティ障害はすべて遺伝因子が関与しているというエビデンスがある。
家族歴はスキゾタイパル、境界性パーソナリティ障害、その他のパーソナリティ障害が遺伝的なものであることを明らかにする。
遺伝因子に対して環境因子を言うならば、もちろん、環境が関与して妄想性パーソナリティ障害や他の防衛を強化している。

分類

現在、10種のパーソナリティ障害、1種の総合カテゴリー、さらに研究が必要な2つの診断基準セットが特定されている。

1.妄想性パーソナリティ障害。不信と疑惑のパターン。他人は悪意を持っているとみなす。
2.シゾイド(スキゾイド)・パーソナリティ障害。他人と距離を取るパターン。狭い感情変化。
3.シゾタイパル(スキゾタイパル)・パーソナリティ障害。対人関係が非常に不快なパターン。思考と認知の歪み。
4.反社会的パーソナリティ障害。他人の権利を侵害するパターン。
5.境界性パーソナリティ障害。自己が不安定で他人を操作するパターン。
6.演技性パーソナリティ障害。過剰な感情と注目を求めるパターン。
7.自己愛性パーソナリティ障害。誇大性、共感欠如、賞賛要求のパターン。
8.回避性パーソナリティ障害。否定的評価を恐れるがゆえに社会的に引きこもるパターン。
9.依存性パーソナリティ障害。しがみつく程度にまで世話されることを要求するパターン。
10.強迫性パーソナリティ障害。コントロール感と完全性に過剰にこだわるパターン。
11.受動攻撃性パーソナリティ障害。さらに研究が必要。否定的態度と受動的抵抗から構成されるパターン。
12.自己敗北的パーソナリティ障害。さらに研究が必要。自分の利益に反する行動を取るパターン。
13.特定不能のパーソナリティ障害。どれにもぴったりしないくずかご診断。

----------キーポイント
すべてのパーソナリティ障害はⅡ軸の診断である。パーソナリティ障害患者がどのような臨床症状(Ⅰ軸)を呈しているか注意すること。------------

診断をより簡単にするためにパーソナリティ障害は3群に分類されている。
・クラスターA(奇妙な群)
妄想性
シゾイド(シゾイド)
シゾタイパル(スキゾイド)
・クラスターB(劇的な群)
反社会性
境界性
演技性
自己愛性
・クラスターC(不安な群)
回避性
依存性
強迫性

----------キーポイント
パーソナリティ傾向はパーソナリティ障害ではない。パーソナリティ傾向は正常範囲であり、環境に適応したパターンである。孤立したり苦痛になった時にのみ病気と呼ぶ。----------

----------症例スケッチ
37歳の弁護士がはじめて私を訪れた。床まで届くカーテンが閉じられていたのに、彼女は窓から遠く離れた椅子を選んで座った。
私が面接を始める前に、彼女をどう呼ぶかについて彼女は厳格なルールを要求した。ファーストネームで呼んではならず、Mrs.Xと呼ばなければならないという。面接の後で私のノートのコピーを即座に要求した。また彼女の用意した書類にサインするように求められた。そこには私が彼女についての情報を他の治療者や保険会社に漏らさないことと指示されていた。
私は彼女の希望に従ったが、すぐに考えたのは、彼女の診断の一部はパーソナリティ障害のひとつだろうということだった。
Mrs.Xは柔軟性がなかったので、面接を可能な限りコントロールしようとした。この不適応パターンは成人初期に始まっていた。すべての人間に対する広汎性の疑惑があるのでみんな彼女から遠ざかった。彼女はその反応を見て、他人は自分に悪意を抱いていると信じた。診察の前に、私が彼女を裏切り、傷つけるだろうと想定した。私の診断はⅡ軸として妄想性パーソナリティ障害、Ⅰ軸として大うつ病だった。
パーソナリティ障害の持続する思考、感情、行動のパターンは、幅広い状況に及び、苦痛をもたらし、対人関係障害を呈する。またパーソナリティ障害の診断をする時は、注意深く物質乱用と身体的疾患を除外しなければならない。どちらもパーソナリティ障害と紛らわしいことがある。----------

ーーーーー
こんな具合に総論を展開することがいいことかどうか疑問がある。
総論としては共通事項を抜き出して、個々のパーソナリティ障害の定義よりも一段上の定義を示したいわけだが、もともとがそういう始まりではないものなのだから無理があると思う。
しかし、それはパーソナリティの問題ですねと共通して認識できるわけだし、パーソナリティ傾向とパーソナリティ障害もおおむねは区別できるのだから、漠然と上位概念があるのだろうとは思う。
多分、クジラを魚と分類しているようなことがあるのだろうとは思う。
海の中にいて泳いでいるものとする認識と哺乳類という認識とは次元が違う。
クジラを魚ではないと言うのもまた不具合な話で、水の中の生き物で、漁師が捕獲するもの、という意味で、クジラも魚としてもいいのだろうとは思う。
クジラを魚と認識して何か実際上の不都合があるだろうか?多分ない。



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パーソナリティ障害  はじめに

パーソナリティ障害
はじめに

私の診察を受ける前に暴れてクリニックから飛び出した患者がいた。境界性パーソナリティ障害の女性だった。
ソーシャル・ワーカーから、薬剤はどうすればいいかについて私に診察して欲しいと相談があった。そのとき私はすでに診断を聞いていたのだが、秘書からクリニツクでのその女性の行動を聞いただけでも同じ診断ができていたはずだと思う。
私は約束の時間に5分だけ遅れた。この患者はその遅れが我慢できなかったようだ。平手打ちを食らったような感じだったのだろうと思う。
そのあとで患者はソーシャル・ワーカーに私のクリニックは汚くて職員は無礼だと不満を述べた。
ソーシャル・ワーカーは私の同僚で、何度もクリニックに来たことがあるので、彼女の言うことは正しくないと分かっていた。そして患者が診察も受けずに飛び出し、こうした不平を言うことにも驚かなかった。
我々は境界性パーソナリティ障害の診断で一致した。
しかし私は患者の行動も心理も理解はできたものの、罪悪感が残った。
あとで分かったことだが、患者は見捨てられ、虐待された感じがしたようだ。本当は薬は飲みたくなかったことも分かった。
ソーシャル・ワーカーによればこの患者はしばしば見捨てられたように感じ、それは両親が彼女を見捨てたからだとのことだった。

しかしそれでもやはり、このようなネガティブな経験は容易に忘れられるものではない。
私は同僚に相談し、たくさんの似たような経験を聞いて、やっと気持ちが楽になった。
実際、精神科医同士の話でよく話題になるのはパーソナリティ障害なのである。
シゾフレニーや大うつ病、パニック障害に対しては、我々にはたくさんの有効な薬剤や精神療法がある。しかしパーソナリティ障害に対しての武器は限られていて、しばしば無効である。
優秀な医師が境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害に対しての革新的な治療法をいつもいつも書いているのだが、現実には我々にはいまだに何の武器もなく、病院でもクリニックでもパーソナリティ障害患者に悩まされている。
午前3時に電話が鳴ればそれは境界性パーソナリティ障害患者からだろう。
何十万円かの治療費を未払いにしているのは?それも境界性パーソナリティ障害だろう。
あなたがその人のせいで史上最悪の医師であると感じさせられるとしたら?それも境界性パーソナリティ障害だろう。
リストはいくらでも続けられる。医師はみな、これら幾つもの悲惨な体験を共有している。

パーソナリティ障害は治療困難で悪名高い。
患者は昔の鉄の鎧を身にまとっているようなものだ。
確かに敵の剣から守ってくれるのだが、おかげで誰の心も寄せ付けない。
性格というものは世界とのつきあい方だが、それが硬くて不具合なのだ。
他の人達は短パンとTシャツで身軽に動いているのに、患者は中世の鎧を身に着けて、動くたびにガチンガチンと音を立てている。
患者がその鎧を身に着けたのはずっと昔のこと、多分十代の頃で、その時の「不幸の矢弾(シェイクスピア、ハムレット)」に対処するにはそれがベストだったのだろう。
しかし現在となっては鎧は不具合で不適応ある。患者にとって重荷だし、周囲の誰にとっても過酷な試練である。
我々は患者が鎧を脱ぎ捨てる手助けをしたいが、我々にできることは鎧の顔面部分に開いている小さな穴に向かって叫ぶことくらいかもしれない。叫んだところでどうなるかとも思わざるを得ない。

パーソナリティ障害をいろいろな種類に分類することは理解に役立つ。
患者がクリニックから飛び出したのは、見捨てられたと感じて激怒したからだと理解していれば、もしいつか診察する機会があった時にとても役立つだろう。
診察する機会がないとしても、医師の側の罪悪感や無力感を解消する助けになるだろう。

また一方で、患者を単純に分類に当てはめて理解することは危険である。
パーソナリティ障害は個々人であまりにも異なるものなので分類も難しい。そこで、鎧を着せたままにして、何かの診断のラベルを貼って満足してしまえたら、それでもういいという誘惑にもかられるが、それではいけないだろう。

ここではパーソナリティ障害のすべての分類を解説して、実際の症例を紹介したいと思う。
鎧の中にどのような人がいるか、感じ取ってほしい。



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A cognitive−behavioural therapy assessment model for use in everyday clinical practice

Motivational interviewing

Solution-focused brief therapy

Poverty, social inequality and mental health

Improving standards in clinical record-keeping

Emotional and physical health benefits of expressive writing

A cognitive−behavioural therapy assessment model for use in
everyday clinical practice



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日本全国の地方紙を読む

http://dragon-tv.net/html/user/
ここで全国の新聞が読める

 



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“『荒れる』のは、それだけ鬱屈した感情があるから
『引きこもる』のは、そうでもしないとどんどん傷つく現実があるから
『ウソをつく』のは、本当のことを言ったら、余計ひどい目にあるから 
『やる気がない』のは、やる気で意見を言っても必ず否定されてきたから”


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「日本の平成24年度予算案は約90兆円。そのうち、税金で集める予定になっているのはおよそ42兆円だけ。つまり、日本国民は、政府に90兆円の仕事をしてくださいと言いながら、自分たちは42兆円しか払わないのです。90兆円の仕事をしてもらいたいなら90兆円の税金を払う。あるいは、42兆円しか払いたくないのであれば、政府には42兆円の仕事だけしてくださいと頼む。どちらかだと思います。」

「日本の平成24年度予算案は約90兆円。そのうち、税金で集める予定になっているのはおよそ42兆円だけ。つまり、日本国民は、政府に90兆円の仕事をしてくださいと言いながら、自分たちは42兆円しか払わないのです。90兆円の仕事をしてもらいたいなら90兆円の税金を払う。あるいは、42兆円しか払いたくないのであれば、政府には42兆円の仕事だけしてくださいと頼む。どちらかだと思います。」

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