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“「文明と文化の違いを述べよ」と言われて「文明は腹の足しに、文化は心の足しになるもの」と分かり易く説いた学者がいる”

“「文明と文化の違いを述べよ」と言われて「文明は腹の足しに、文化は心の足しになるもの」と分かり易く説いた学者がいる”


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韓国ドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々(字幕版)」 すごいものだなあ。ドラマの枠でこんなのが作れるのか。 適度に説明が丁寧で繰り返しがあって、映画よりわかりやすい。 映像は美しく凝っている。 日本の少女漫画「ぼくの地球を守って」を少し思い出したりした

韓国ドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々(字幕版)」

すごいものだなあ。ドラマの枠でこんなのが作れるのか。

適度に説明が丁寧で繰り返しがあって、映画よりわかりやすい。

映像は美しく凝っている。

関係者のやる気が伝わって来る感じがする。


日本の少女漫画「ぼくの地球を守って」を少し思い出したりした


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問うに落ちず語るに落ちる

問うに落ちず語るに落ちるとは、秘密というものは、人に聞かれたときは用心して漏らさないものが、自分から話し出したときはついうっかり口をすべらせて真実を話してしまうものだということ。


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こころの薬箱 広場恐怖

先日「わたしはエレベーターと美容院が怖い。広場は怖くない」だから、「パニック障害、広場恐怖なし」だという人がいた。特定の場所や状況が怖くて回避したりする状態のことを広場恐怖と呼んでいるのだけれど、と説明するのだが、「だから先生、わたしは広場は怖くないんです」と言う。こうなると別の障害を考えなくてはならない。それにしても、agoraという言葉と広場という言葉の意味の領域の違い、それと文化背景が惹き起こした「居心地の悪さ」のように思う。toposでもよかったけれどagoraを使うのが格好良かったのだろうと思う。
確かに、電車恐怖、新幹線恐怖、歯医者恐怖、駅の雑踏恐怖、エレベーター恐怖、高速道路渋滞恐怖、レジで並ぶ恐怖、さらには外出恐怖まで、これを一括して広場恐怖と呼ぶのは不親切だろう。学校のテストなら引っかけ問題によく出題されそうだ。引っかかるのは素直な人とも言えるのだが。
素直な自分を大切にするのもいいことです。


参考サイト・・・http://www.pref.kanagawa.jp/docs/nx3/cnt/f450063/p585852.html


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こころの薬箱 欲を捨てるか ストレスを捨てるか

欲を捨てるか ストレスを捨てるか
ストレスを解決するにはまず欲を捨てることです。
しかし人間は欲が深い生き物ですから、多少のストレスを引き受けても、欲望を満たそうとし
ます。ここが難しいところです。欲を捨てるか、ストレスを捨てるかです。
限界まで働く私たち
現代社会の特徴は、人間の能力を限界まで発揮させる点ではないでしょうか。
頭のいい人も世界にはたくさんいます。野球の上手な人も、上には上がいます。走るのが速く
ても、もっと速い人が世界にはいるものです。昔ならば例外は除いて、生まれ育った土地で農業
を継続したものでしょう。
中井久夫先生の紹介していた面白い説があります。「すべての人は無能である」というのです
。なぜかと言えば、たとえば会社を思い浮かべます。社長から平社員まで、それぞれの能力を要
求されるとします。入社して、自分の能力の限界近くまでは出世しますが、それ以上は無理だと
周囲が判断します。そのとき部長だったとすれば、「平凡な部長」と言われるのだと思います。
能力があれば次の挑戦に駆り立てられます。
たとえば野球選手でも同じです。小学校で抜群の運動神経を誇っていた子供は、リトルリーグ
に挑戦します。能力があれば中学でも続け、さらに選抜されて甲子園を目指します。それでもま
だ余力があればプロ野球があり、それでもまだ能力があれば、アメリカのメジャーリーグに挑戦
します。たいていは、どこかの段階で能力の壁にあたったり、ケガに苦しんだりします。最後
には、「プロとしては平凡だった」などと言われます。
このように考えると、すべての人が能力を試され、限界まで働き、結果として自分の限界を悟
らされる、そんな社会に思えないでしょうか?
可能性が開かれているということは、つまり、限界を知らされることでもあるのです。夏の甲
子園で最後まで負けないのは一校だけで、あとは全部、負けを経験するのです。
労働の蓄積が可能になった
なぜそんな大変な社会になったのでしょうか。
第一は生産構造の変化だと思います。昔、フランスの王は大変な権力を誇っていたものですが
、税金では苦労しました。当時の農民は農作物を売買してお金を蓄えることがなかったので、税
金は農作物そのものでした。王のもとには莫大な農産物が集中しますが、全部を食べられるわけ
ではありません。そこで毎夜宴会を催し、あるいは宝石、美術品を購入して浪費します。農作物
が腐る前に消費するしかなかったのです。そのような社会では、労働もほどほどにということに
なります。限界まで働いてたくさんの麦を収穫しても、どうせ食べきれなくて腐るだけです。み
んなそれぞれ自分の食べる分は生産しているので、売ることもできません。そこで、自然な程度
の労働量に落ち着いていました。
現代では貨幣社会が確立していますから、事情は違います。10倍働いて10倍貯金することもで
きます。5年間限界まで働いて、あとの5年はボランティアで汗を流すことも可能です。貨幣で蓄
えることができるからです。実は貨幣価値は時間とともに変化するもので、信用しすぎてもいけ
ないのですが、農作物のように腐るものではありません。
また、銀行の仕事を思い浮かべましょう。手数料を1%と仮定します。100億円の契約なら1億円
です。100万円の契約なら1万円です。100倍の儲けになりますが、100倍の汗を流したでしょうか
?農作物の生産ならば、100倍の麦を生産するためには100倍の時間と汗が必要かもしれません。
銀行の仕事は書類にゼロを二つ多く書くだけなのです。
たぶん、昔も、漁に出てたまたま大きな魚を捕まえたり、偶然水利のよい土地を見つけたりな
どして、実際の汗の量とは比例しない例もあったと思います。しかし大きな魚を捕まえても、保
存しておけないし、腐る前にみんなに分けるしかなかったのではないでしょうか。その人は共同
体内部での評価は高まったと思いますから、それが財産といえば財産でしょうか。
チャンスは増えたが勝ち続ける人はいない
第二には人の移動と情報の移動が飛躍的に簡単になったことがあげられます。人間は比較され
、挑戦を求められ、限界まで働くようにし向けられています。むろん多くの人がチャンスの拡大
を望んだのですが、結局泣くことになりました。甲子園を目指して、敗戦すると泣くようなもの
でしょうか。
ブルーカラーの生産能率管理は昔からきつかったのですが、コンピューターや社内メールの発
達で、ホワイトカラーの労働生産率が厳密に管理されるようになりました。このこともストレス
社会を加速しています。
ストレスから解放されるのは大変そうです。逃げても逃げ切れないなと思います。
ある提案
就職難の現在、提案されているのは、「大卒の人はプライドを捨てて高卒の仕事をすればいい
」というものです。提案した人は、わかりやすいように学歴で表現していますが、学歴でなくて
も構いません。能力ということです。自分の上限の能力を発揮できて、最高の評価をしてもらえ
る職場を望んでいたのでは、現状の日本では就職は難しいし、それはそのまま解決不能のストレ
スを抱え込むことになります。それよりも、自分の最高能力以下でできる仕事につけばいいとい
うのです。自分はもっと能力を発揮してもっと収入を得られて、もっと地位が高まると思ってい
ても、そうしないのです。もちろん、それまでそこで働いていた誰かが追い出されることになり
ますが。
この方式だと、限界を試されることにはなりません。でも人間には欲望があります。その場所
にいる自分に我慢できなくなり、チャレンジしたくなってしまいます。みなさんは欲望を捨てら
れますか?
つまり、欲を捨てるか、ストレスを捨てるかです。


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こころの薬箱 精神療法 解釈の例 論語を精神分析

精神療法 解釈の例 論語を精神分析
世界の古典である論語であるが、学校で習うとまことに味気ないものです。 まずは復習。始
まりの一節を読みましょう。
「子いわく、学びて時にこれを習う、またよろこばしからずや。朋(とも)あり遠方より来
たる、また楽しからずや。人に知られずしてうらまず、また君子ならずや。」
一般の解釈は、こうなります。「孔子が言われる、学んだことをいつも繰り返し習っていると
、いつの間のにか理解が深まって自分のものとなっている。これはなんと嬉しいことではないか
。友人が遠方から来る、これは楽しいことだ。世間の人が自分の学徳を認めてくれなくても、怒
ったり不満に思ったりしない、これは立派な人である。」
平たく言うと、「復習しなさい。音楽のフレーズが演奏できるようになったら折に触れて弾き
直してコツを忘れないように。野球で縦のスライダーを覚えたら、感触を忘れないようにときど
き練習しなさい。友人が遠方から来たら嬉しい。他人のことは気にするな。ただ学問しなさい。
そうでしょうか。これが世界に冠たる古典の第一節なのでしょうか。これでは高校生は眠って
しまいます。あまりにも当たり前です。
孔子先生の言葉をすこし深く解釈すると、こうです。
学んで時にこれを習う、またよろこばしからずや。これは「暗記したらいつでも暗唱して忘れ
ないようにしなければならない。わたしの弟子たちにはこんな当たり前のことを言わないといけ
ないくらい愚か者が多いので絶望だ。いいかげん一回教えたら忘れるな。」
朋あり遠方より来たる、また楽しからずや。「本当の友は遠くにしかいない。近くにいるのは
友達は呼べないような奴らばかりだ。」これも絶望の言葉。こんな言葉を言われた孔子の弟子た
ちはどんなに失望しただろう。
人に知られずして憤らず、また君子ならずや。「君子は淡々と生きろ、それができないで何が
君子か。もともと世間からの評価には深く絶望している。しかしわたし孔子も、このように人に
知られたくて言葉を残し弟子たちを食わせている。情けない。これも絶望である。」
というわけで、いきなり深い絶望を記しているのだと思う。弟子に絶望、自分に絶望、世間に
絶望で、どこにも希望がない。
「孔子さん、いいじゃないですか。まずこの絶望に直面しましょう。」ここまでが精神療法第
一ステップとなります。


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こころの薬箱 精神科についての理解

精神科についての理解
裁判官の場合
世間の人の精神科についての理解はどんなものだろう。いろいろな誤解や偏見も理由のあるこ
とだろうからそれはそれとして、先日、裁判官の抱く精神科についてのイメージが問題にな
った。
これは判決文の中で明白に示されるので、単に誤解だといってすますわけにもいかない面が
ある。
そのときの話はこうである。どうしても死にたいと言って危険なので精神科病院に入院して
もらった。しかし病棟内で自殺してしまった。そのときの病院の責任はどうか。裁判官はカルテ
により、医師の診察頻度や観察内容を吟味する。看護記録により、看護の密度や観察内容を
知る。
しかしそれらは裁判官に知らせるために書かれているわけではないから、当然省略もある。現
場の人間なら当然こう解釈するが、知らない人はこんな風に誤解するだろうなと思われると、そ
の通りに裁判官は誤解する。
極端な例では、診断がうつ病なら、自殺に関して注意義務はハードルが高くなる、それ以外の
診断であれば、自殺は偶発的なもので仕方なかったと考えた人もいるらしい。(そのときの弁護
士さんの説明ではそんな感じでした。私は実際の判決文を検討していません。不正確かもしれま
せん。)
看護士の見回りが15分に1回がいいか、30分に1回なら充分か、1時間に1回ならどうかなどの
点も論点となったらしい。
島根県では司法修習生が精神科病院に一日体験入院するという。そのようにして精神科につい
ての理解が深まるのはいいことだと思う。
保護者の考え
またこんな例もあった。
患者さん本人は自分のことを病気だと思っていない。相談を受けたお医者さんは入院が必要と
判断して、ご家族に説明した。もともともめている家族だった。妻は入院に反対した。両親は入
院に賛成した。法律としては妻の同意が優先順位が高いので、入院に関しての同意は得られない
ことになる。しかしお医者さんは妻の態度、言葉からして、妻もおそらく病気ではないかと思
った。さらに難しいことに、妻は外国人で日本国籍がないのだという。(わたしは不勉強で、日
本人と結婚したら日本国籍になるのかと思っていた。そうでもないらしい。選択できるのだ
ろう。)両親は「日本国籍のない妻に保護者たり得る資格があるのか」と言ったらしい。法律と
しては国籍は問題なく、戸籍上の妻であれば、保護者として適格だそうだ。結局入院は見送りで
ある。
法律はそうなる。しかしその先のこととして、妻が病気ではないかと疑った医者の判断は宙に
浮いたままである。法律は一般的な常識判断を抽象化して条文としてまとめたものであり、さら
にその運用に関して人々の知恵が結集されてゆくものであろうが、微妙なところでまだまだ届か
ないと思う。


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こころの薬箱 明確化、直面化、解釈、徹底操作

明確化、直面化、解釈、徹底操作
前回映画の一部を紹介した。
タルコフスキー「ストーカー」で描かれている「物体」は、プリズムのようだ。プリズムが日
光を分解して見せるように、「物体」は人間の内部を分析してみせる。実はそれが精神療法にお
ける第一歩である。 精神分析的治療理論の一ページには次のような一節がある。
<精神療法の目的は患者さんの心の形や仕組み(病理構造)を自分の目に見える形に変換し、自
分で問題を取り扱えるようにすることにある。その方法として明確化、直面化、解釈という操作
を繰り返してゆく。>
なんと明晰で簡潔で含蓄に富む美しい一節だろう。これですべてを言い切っている。コローの
完璧な遠近法の風景画のようだ。現実の私たちはこのようにはできないが。
カウンセリングや精神療法といっても、かなりの幅がある。
一つのタイプはロジャース的と言われているもので、受容的・共感的な手法である。相談者は
話をしながら、自分で解決に到達する。ただ聞いているだけなどということはなくて、これはこ
れでかなりの熟練を必要とする。
もう一方のタイプは分析的スタイルで、明確化、直面化、解釈を反復し徹底操作する。これは
さらに熟練を要する。
中間的スタイルもある。どのタイプのスタイルがよいかは、相談者の精神病理と治療者の特性
による。
たとえばあるオフィスでは治療者と相談者は3メートルの距離をおいて座る。部屋はあまり明る
くない。治療者は自分の表情のわずかな変化を隠すことができる。治療者の人格的影響は可能な
限りゼロに近づく。ただ静かな鏡のようだ。あるいは日光を分解するプリズムのようである。(
人格的影響がゼロになるように部屋を設定したいという人格の影響を強く受けているとも言
える。)
週に四日ないし三日通い、一回一時間、料金は一万円、これを最低一年は続けるから、時間も
費用も大きな負担となる。
映画「ストーカー」の場合
さて、映画ストーカーの場合、絶望した兄は死んでしまったというけれど、それは直面化に耐
えられなかったからだということになる。兄は自分の「心の形や仕組み」を明確化して提示さ
れた。自分の中には金持ちになりたい欲望と、弟に対する愛情と二つがあり、最終的には金持ち
になりたい欲望が強かった。この結論をしっかり受け止めればよかった。そして「そうだな、人
間にはそういう面もあるな」と納得すればよかった。それだけのことである。いまのわたしなら
そう言える。
それが人間だとあっさり通り過ぎてしまわないところがタルコフスキーのいいところなのだけ
れど、それは映画の話だ。現実の生活を生きるにはそれではナイーヴすぎる。
映画「惑星ソラリス」の場合
映画「惑星ソラリス」の場合の、「心の形や仕組み」について言えば、妻を愛していたが、彼
の心の中には妻の腰の紐をほどけない理由があった。「それはあなたの心の中の問題なのだ、自
分でも気づいていない、妻への、あるいは女性への、または人間への、未解決の何かがある」そ
のように開始して次第に限定して明確化する。そしてその後は直面化である。それは何か。目を
そらしてはいけない。そしてそれはどのように解釈されるか。可能な解釈を検討し、もっとも合
理的整合的な解釈を受け入れる。そのように精神療法は進む。


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こころの薬箱 こころの奥底にあるもの

こころの奥底にあるもの
タルコフスキ-「ストーカー」
人のこころの奥底に何があるか、思う。
こころの奥底に何があるか、患者さんの例を挙げることは適切ではないので、映画を例にとる
。映画の解説としての正確な表現ではない。記憶の中のわたしなりのストーリーである。
若い頃、タルコフスキー監督の「ストーカー」を見た。当時はストーカーという言葉が現在
の「つきまとい、待ち伏せ、押し掛け」の意味はなかったように思う。案内人といった程度の意
味ではなかったかと記憶する。
宇宙からある物体が地球に落ちてきた。その物体に手を触れると、その人間のこころの一番奥
底にある欲望が現実になると言われていた。人々はその物体に手を触れ、欲望を実現したいと思
うが、その物体がどこにあるのか明らかではなく、探し当てたどり着くことは容易ではない。そ
こで人々は案内人「ストーカー」に依頼する。案内人は場所にたどり着く複雑微妙な方法を知っ
ている。その日は物理学者など三名が物体に接触しようとして案内を頼んでいた。困難な道の途
中で案内人は問いかける。
「自分のこころの奥底の欲望など実現して何になる?以前案内した兄弟がいた。道の途中で弟
はケガをして死んでしまった。兄は嘆き悲しんだ。自分の一番の望みは弟の命の復活だと言った
。兄はついに物体にたどり着き、弟の蘇りを祈った。時がたち、弟は生き返ることなく、兄はど
んどん金持ちになった。兄は自分のこころの一番奥底の欲望を日々見せつけられる思いだったの
だろう、自ら命を絶ってしまった。」
映画としてこの部分が中心ではないと思う。タルコフスキーらしい水の描写とか、精神の敬虔
さなどがむしろ話題となると思う。しかしわたしにとってはこの部分が大切だった。
タルコフスキー「惑星ソラリス」
同じタルコフスキーによる「惑星ソラリス」では次のような場面がある。
ある宇宙空間では人間の想念が現実化する。深く愛する妻を亡くした男は妻を思う。妻は現実
の存在として目の前に現れる。愛そうとして腰のひもをほどこうとするが、どうしてもほどけ
ない。
なぜなのか。その部分がわたしにとって印象的だった。
最近新しく「ソラリス」が映画化された。興味をもって観た。女優は美しかった。しかしタル
コフスキーの描いた問いかけはなかった。
ソフィーの選択
映画についてはこんなこともあった。
ウィリアム・スタイロン原作、パクラ監督の「ソフィーの選択」(1982年)の一場面である。
魅力的な統合失調症患者、ネイサン・ランドーが同居人ソフィーと友人スティンゴに妄想を語る
。製薬会社ファイザーの研究員をしていて、ポリオの特効薬を開発したという。奇妙に興奮した
様子だった。スティンゴは疑問に思いネイサンの兄を訪ねる。兄は成功した泌尿器科医である。
趣味のいいリビングで話をしていると美しい妻が長椅子の後ろを通って「ちょっと出かけてく
るわ」と声をかける。その美しいこと。
あとで友人にそのことを話したら、そんな場面はそもそもなかったという。小説では出てきた
かもしれない、小説で読んだ場面でしょう、と。
「それがあなたのこころの奥底にあるものね」。


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こころの薬箱 自立訓練法

自律訓練法
どんなときに有効ですか?
たとえば、何か気になることがあるときに、「とらわれ」の心理に陥ることがあります。あまり
気にしてはいけないと思っていると、なおさら気になってしまうのが「とらわれ」の心理です。
何かして気分を変えようと思うのですが、うまくいきません。そんなとき、いろいろな方法があ
りますが、特に有効性の高い方法が自律訓練法です。
予期不安に有効と聞きましたが?
そうです。大変有効です。予期不安とは、たとえば、「電車に乗ると心臓がドキドキして困る」
と悩んでいる人が、「また電車に乗ってドキドキしてしまったらどうしよう」と不安を予期して
不安になってしまう状態をいいます。この人の場合、まだ電車に乗っていないのに、不安が高ま
ってしまうのです。こんな時に、自律訓練法を試してみて下さい。
不眠症に有効ですか?
有効です。ふとんに入って自律訓練法を練習していて、眠り込んでしまった体験のある人は多い
と思います。心身をリラックスさせる方法ですから、寝る前にやれば、寝付きがよくなります。
試験前の緊張をほぐすのに有効ですか?
有効です。特別な道具などいっさい不必要ですから、試験会場でもできます。待ち時間のあいだ
に自律訓練法をしていると落ち着くと思います。
副作用はありますか?
特にありません。
なぜ有効なのですか?
次のようなたとえ話で考えてみて下さい。心の中を真っ暗な洞窟だと考えてみます。真っ暗だと
どうしようもないので、懐中電灯で照らします。普段の状態であれば、懐中電灯であちこちを照
らしてみて、洞窟の中の状態がだんだん全体的に把握されてきます。わたしたちの不安が高まっ
て「とらわれ」の状態になると、心の中は不安でいっぱいになってしまいます。これを洞窟のた
とえで説明すると、懐中電灯で洞窟の中の「不安」という立て札を偶然照らしてしまったあな
たは、もう懐中電灯を他の方向に向けることができなくなっているのです。「別の方向に向け
よう」と焦るのですが、どうしても「不安」という立て札を照らしてしまうのです。
そこで自律訓練法ですが、まず、心の中の懐中電灯を自由な方向に向けることができるようにな
ります。そうすれば、心の中には不安だけではなくていろいろなものがあるのだと理解できて、
安心できます。これが第一段階です。
自律訓練法には第二段階があります。それは、懐中電灯の光の範囲を変えることにたとえられ
ます。普通の懐中電灯は一度に狭い部分だけしか照らすことができません。しかし電球部分を工
夫すれば、360度近くの広い範囲を照らすことができるようになるでしょう。狭い部分をいくつも
見て総合するのではなく、一度に広い範囲を見渡せるようになるのです。意識がこのような状態
になれば、とてもすばらしいではないでしょうか。禅やヨーガでめざしている状態の一部分はこ
のようなものと考えられます。自律訓練法に熟達すれば、そのようなことも可能になります。
当院で実際の方法を指導していますので、体験してみて下さい。
薬を減らすことができますか?
不安に対処するために薬を使っている人は、自律訓練法を併用することで薬を減らすことができ
ます。副作用がつらい人、薬が嫌いな人、妊娠・出産・授乳を予定している人などの場合には自
律訓練法を積極的に考えてみて下さい。また、病気や薬に関係なく、積極的リラクゼーションテ
クニックとして有効活用している人たちも増えてきています。おためしください。


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こころの薬箱 積極的リラクゼーション・テクニック、自立訓練法

積極的リラクゼーション・テクニック
わたしの体験・自律訓練法との出会い
ある実習コースで、自律訓練法を教えてもらいました。それまで存在と理論は知っていましたが
、自分から身につけようという考えはありませんでした。一回経験してみたら、なるほどいいか
もしれないと思ったものです。しばらくは自分でトレーニングしたりはしなかったのですが、そ
の後わたしも人並みにストレスに直面しました。そのときに自律訓練法でかなり救われました。
合う人と合わない人がいるようですが、わたしの場合は合っていたと思うわけです。自分にその
ような体験があるので、多分この人には向くだろうなと思う人にはお勧めしています。
積極的リラクゼーションとは
リラックスしている状態といえば、寝ている状態や横になってテレビを眺めている場面を思い浮
かべるでしょう。それも大切な時間です。しかし積極的リラクゼーションはそれとは違う、「も
っとリラクゼーション」の状態を指します。聞いた話では、日本の古武道の構えは、なるべく脱
力してどこにも余分な力をかけず、さまざまな攻撃に瞬時に対応できるようにするものだそう
です。積極的筋肉弛緩状態ということで、類似点があるかもしれません。
コムボールでたとえてみましょう。軟式テニスのボールを考えて下さい。
ストレス状態とはボールが凹んでいる状態です。回復しようとするのですが、凹まされています
。軟式ボールというよりは、アルミ缶ですね。元に戻りません。
寝ている時は凹みがない状態で、これはストレスのない状態です。凹みはなくてまん丸です。
リラクゼーション状態は少々のことでは凹まない、凹んでもすぐに元に戻る、復元力の高まった
状態です。まん丸ですが、もっと生き生きしている感じです。赤ちゃんの肌みたいです。
筋弛緩訓練。筋肉から脳へ。
E・ジェイコブソンは全身の筋肉を順番にゆるめていく方法、つまり筋弛緩法を開発しました。東
洋のヨーガや瞑想では、目的としては精神的解脱や悟りのためなのですが、身体的には「筋肉の
緩んだ状態」を実現していたことが分かっています。結果として積極的筋肉弛緩状態、つまり積
極的リラクゼーションを実現していました。
人間はストレス・不安・緊張時には筋肉が緊張します。呼吸が浅くなり速くなります。脈拍が
速くなります。それならば、この逆をやって、筋肉を緊張から解き放ち、ゆるめれば、呼吸をゆ
っくり深くすれば、脳の働きを変化させることができるのではないかと考えました。心臓の脈拍
については一般の人はコントロールできませんが、達人はできるようです。身体を変化させれば
、脳が変化します。脳が変化すれば、自律神経系、内分泌系、免疫系を介して、全身に変化が起
こります。
自律訓練法などで筋弛緩・呼吸トレーニングをすれば、緊張緩和、疲労感減少、爽快感増大、
ストレス耐性増強、交感神経抑制、副交感神経賦活、免疫能増大が起こります。しかも副作用は
全くないのです。
トレーニングの時間
一回のトレーニングの時間による効果の違いが分かっています。
3分から5分のトレーニングでは緩む方向。(リラクゼーション)
10分から20分では元気が出てくる。頭の中がすっきりしてエネルギーがわいてくる。(アクテ
ィべーション)
このような違いがあります。また、一回短期効果と反復長期効果も異なることが分かっています
。わたしたちの目的は、反復長期効果を実現することです。毎日続けてトレーニングするとスト
レスに強くなり、血圧が安定し、体質改善につながります。
具体的な方法
具体的な方法は次のようです。短く言うと、「身体の形をを整え、呼吸を整え、心を整える」こ
とです。古い言葉では「調身、調息、調心」と言います。
正しく座る。どこにも余分な力が入っていない。
ゆっくりと、規則的に、吐く息を長く、呼吸を整える。
言葉、文章、祈り、筋肉運動の繰り返しなどに心を集中する。
雑念が浮かんできたらそのままやり過ごし、再び繰り返しの作業にもどり心を集中する。
これだけです。 自律訓練法では、呼吸を緩やかにしながら、心の焦点を、「両手が重い」「両手
が熱い」などと順次変更していきます。段階がいくつもあるのですが、それは上級編で、初級者
は熱感までで充分ではないでしょうか。自律訓練法では解除作業も大切です。
もっと簡便な方法・呼吸集中法
自律訓練法は誰かに教えてもらわないと難しいかもしれません。ここでは自分で簡単にできる簡
便な方法をお伝えします。やはり「調身、調息、調心」が基本です。
横になるか、椅子に腰掛けます。楽な姿勢にして、体のどこにも余分な力が入っていない状
態にします。余分な力を入れないということは、正しい自然な姿勢になるということです。
海辺か森の中か、自分のリラックスできる情景をイメージして下さい。
ゆったりと腹式呼吸をします。深呼吸ほど深くはなく。とてもゆっくりと。
息を吸って、吐いて、吐く息を長めに、これで一回と数えます。10まで数えたら1に戻り、
続けます。
どんどん呼吸だけに集中します。驚くくらい無念無想になります。
雑念が浮かぶけれど、放っておいて、また呼吸に心を集中させましょう。どんどん呼吸だけに集
中できるようになります。呼吸している自分だけが存在するようになります。一日一回、10分間
、行いましょう。3ヶ月から4ヶ月して、自分の心が平静であることに気付くでしょう。ストレス
を感じた時にも、10分間だけこの呼吸法を行うことで、クールに対応できるようになります。自
動車を停めて、少しのあいだ。電車に乗りながら少しの時間。睡眠前の10分間。自分なりに時間
を決めて習慣化すればよいでしょう。
効果が実感できたら、周りの人に教えてあげましょう。心の平和な人が増えることは誰にとっ
てもよいことだと思います。
合わない人
自律訓練法はわたしたちの経験では、非暗示性の高い人には合いません。過呼吸に傾きがちの人
も合いません。簡便な「呼吸集中法」は特に問題ないと思います。トレーニング中に次々に妄想
がわいてきて圧倒される人は中止して下さい。


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こころの薬箱 抗うつ剤の飲み方

抗うつ剤の飲み方
第1回目 つまり初診の日
もし、「うつ病」「うつ状態」であると診断されたら、治療と抗うつ剤について、説明があり
ます。
1. うつ病、うつ状態は、必ず治る病気です。きちんと治療しましょう。薬は勝手に増やしたり、
また、勝手に減らしたり、勝手に中止したりしないで下さい。
2. 脳の中で伝達物質の不具合が起こっている、身体的な疾患です。「怠け病」「気の病」や「性
格が悪いから」ではありません。自分を責めないで下さい。
3. 病気を治すことは医師に任せ、なるべく休養をとりましょう。
4. 辞職、離婚、引越し、財産処分など、重大な決定は延期しましょう。
5. 抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかります。効果が出て楽になる前に、副作用が出ること
がありますが、薬をやめないようにしましょう。4〜5回かけて、だんだん増やしていって、標
準量まで到達します。
6-1. 不眠、食欲不振、めまい、肩こり、全身疲労など、身体症状もつらいものですから、総合的
にケアしましょう。気になることは、気軽に相談してください。うつ病やうつ状態の場合には、
不安やイライラをともなうこともあり、抗不安薬を併用することも多いものです。また、抗不安
薬は、不眠、食欲不振、めまい、肩こり、頭痛などにもよく効くので、全身状態を楽にしてくれ
ます。さらに、一部の抗不安薬は、うつに対して速効性があります。以上のように、抗うつ剤に
抗不安薬を併用することも検討に値する選択肢です。
6-2. 漢方薬が全身状態を楽にしてくれることがあります。相談しましょう。
7. 知識のない人に、「根性だ」「気合だ」と言われることがあります。世間とはそういうもの
です。がっかりしないで、科学的に治療しましょう。
8. 治る過程は一直線でなく一進一退を繰り返すものです。三寒四温といいます。焦らないで、2
〜3ヶ月先を目標にしましょう。
9. 治療の中盤に入ると、「頑張ってもっと早く治したい。何とかしたいのに、一日動くと次の日
は動けない。どうして気力が出ないのか。」と悩むことがあります。ここで焦らないで、辛抱す
ることです。
10. クリニックは、仕事が終わったあとの夜の時間帯は混み合います。できれば、空いている昼
の時間帯に通院しましょう。
11. 時間のない人は、薬局に処方箋を提出して、あとでお薬を受けとってもいいでしょう。
12. 最初は一週間に一回の通院を予定して、不具合や不安があったら、それ以外でもお話をしま
しよう。薬だけを漫然と飲んでいるのは、慢性化につながります。本当に必要なのか、判断し
ましょう。本当に必要なら、一年でも二年でも飲みましょう。合理的に対処しましよう。
などと説明があります。
抗うつ剤の最初の副作用は、吐き気、眠気、めまい、下痢、便秘などです。体質、全身状態、薬
の種類、量に応じて、これらの副作用に対応するお薬も併用します。
第2回目
症状は服用開始1〜2週間後から徐々に改善していきます。うつ病の薬物療法は、計画的で継続
した服薬が重要です。効果が現れるまで徐々に増やして患者さんに合う量に調整します。これは
決して悪くなったからではありません。段階的に増やして標準量まで到達します。そして、数
カ月、その量を維持します。薬を減量するときにも、段階的に減らします。そのほかにも飲む時
間を変えるなど、微調整を加えていきます。
風邪薬や痛み止めは、最初から量が決まっていますが、メンタルのお薬はそうではありません。
少量からはじめて、調整していきます。
第3回目
うつ病は、ストレスなどが原因となって、脳の中のセロトニンやノルアドレナリンといった神経
伝達物質が足りなくなったために、疲れたり気力がなくなったり、気分が落ち込んだりする病気
です。
このお薬は、足りなくなっているセロトニンを増やして脳の中のバランスを整えてくれますが、
効果が出てくるまで少し時間がかかります。これで2週間経ちましたので、そろそろ少しだけ楽
になっているのではないでしょうか。 少しよくなったかな、と感じられるようになるまでに1〜
2週間、あるいはもう少しかかることもあるわけです。セロトニンが増えてきちんと脳の中で働
くようになれば症状は我慢し易くなりますから、焦らずにゆっくりと治療をしていきましょう。
詳しく言うと、SSRIは、セロトニン(5-HT)の再取り込みを選択的かつ強力に阻害し、シナプス
間隙の5-HTを増加させることによって抗うつ作用を発揮します。投与後は比較的速やかに5-HTの
再取り込みを阻害しますが、抗うつ作用を発揮するまでには1〜2週間、あるいはそれ以上の時
間がかかることがあります。これには、5-HT放出に関するフィードバック機構が関与しており、
SSRIの効果発現には、うつ病でアップレギュレートされている5-HT自己受容体の脱感作が必要で
、それに1〜2週間かかるためだと考えられています。
難しいかもしれませんが、そのような、脳内の物質メカニズムの問題なのだということを理解し
てください。「気合」の問題ではないのです。
第4回目
薬剤量が増えていくことが不安になるかもしれません。
だんだんと薬の量を増やしていくのは、標準量まで持っていこうとしているためです。飲み始め
に多い吐き気などの副作用に注意しながら、少量から始めて少しずつ服用量を増やしていきます
。病気が悪くなっているのではありません。
悪心、嘔気などの消化器症状は、嘔吐中枢の5-HT3受容体刺激によるものです。投与初期に一過性
に現れることが多い症状です。処置をしなくても消失する場合がほとんどですが、これによって
服薬を中止してしまう人もいます。また、通院をやめてしまう人もいます。
ですから、できるだけ少ない量から開始し、その後も副作用の発現に注意しながら段階的に増
量し、効果が現れるまで充分に増量することが普通です。必要に応じて、制吐剤を使用すること
もあります。うつ状態の場合には、食欲不振となっている場合が多いですから、胃薬を併用する
ことは合理的です。
投与初期に発現する副作用は、SSRIの作用を実感できない時期に発現するため、患者さんは「副
作用が強く、効果が少ない薬」という印象を持つことがあります。副作用は最初の2〜3日から
一週間がピークで、効果そのものは、2週間以降くらいに出てきます。この差をよく理解して、自
己判断で服薬を中止しないようにしましょう。
薬剤血中濃度が少なくても、当座は楽になりますが、体質を改善するためには、標準量まで上
げて、それを一定に保つことが重要であると考えています。薬に何を求めるかによるわけです。
一時的なリリーフでいいなら、低用量でいいと思いますが、長期的な見通しを持って対処する
なら、標準量を維持してみることが得策でしょう。このあたりは、人生観や価値観とも関係しま
すので、お考えを聞かせてください。また、医学の現状もお話します。
第5回目
抗うつ剤は標準量まで到達して、服用開始初期に感じていた悪心や傾眠の副作用もすっかり消え
ていると思います。 心配ないようなら、副作用対策のお薬は、中止にします。
治療の初期から使っていた抗不安薬や睡眠導入剤は、継続したほうが安全な場合が多いと思い
ます。
このお薬を飲むと、死んでしまいたいと思うことがあると聞いたので心配だという人もいます。
確かにこのお薬を飲み始めてしばらくの間は、まれに不安感やイライラ(焦燥感といいます)した気
分が強くなることがあります。また、うつ病の患者さんの、死んでしまいたいという気持ち(希死
念慮といいます)を強めてしまうこともあります。しかし、こうした気分は一時的なもので、治療
を続けていると自然におさまってきます。不安感やイライラした気分が強くてつらい場合には、
しばらくの間、抗不安薬を一緒に飲むことで、この時期を上手に乗り越えることができます。抗
不安薬を上手に併用しましょう。抗不安薬を合理的に利用することによって、抗うつ剤を飲み続
けることができれば、大変有用です。
第6回目
自己判断で服薬の減量や中止をしないようにしましょう。この時期になると、かなり落ち着いて
くるものです。したがって、一部の人は、自分で薬をこっそりやめていたりします。薬をやめら
れれば完治が近いと考えるようです。しかしそんなことはありません。せっかく順調に回復して
いた脳内物質の流れが、また滞ってしまいます。
薬の効き始めに二週間くらいかかったことでも分かるように、薬を中止した影響が出てくるのも
、中止してからしばらくたってからになります。そのときに反省してまた薬を飲み始めたとして
、それだけ治療が遅れてしまいます。完全に治って会社に復帰して、業務も通常通りにこなせる
ところまでしっかり薬を飲んで、その後に、減量していくようにしましょう。
脳が自分の力で十分なセロトニンを作ることができるようになるまでには少なくとも半年はかか
るといわれています。薬を飲み続けることによるマイナスは何もありませんから、焦らずに治療
を続けていきましょう。
SSRIを急激に中止すると、めまい、嗜眠、ぴりぴり感覚、嘔気、鮮明な夢、焦燥感、気分の落ち
込みなどの中止後発現症状が出現することがあります。中止後発現症状のほとんどは一時的で軽
度ですが、まれに重篤になることがあります。自己判断による薬剤の急激な減量・中止は危険な
ので、決して行わないようにしましょう。
症状が改善してきたときや、逆に効果が実感できないときに、自己判断による服薬中止は起こり
やすいものです。症状が改善してきた場合、せっかく有効なお薬が見つかったのですから、少な
くとも半年程度、できれば年単位の治療継続が必要であることをご理解いただきたいと思います
。もしそれが不安で不快で、意に沿わないなら、話し合いましょう。どこかに誤解や思い込みが
あるかもしれません、また、我々治療者の側に、患者さんの人生についての理解の不足があるか
もしれません。よく話し合えば、一致点が見つかると思います。
第7回目
おおむねこの頃には、生活リズムも整い、復帰に向けて何かしようかと思う頃です。復職に向
けて、時間割を決めて、作業や読書に取り組んでみるのがよいでしょう。あくまでも少しずつ
です。
新聞を二時間も読み続ければ、かなり疲れます。図書館で雑誌を数冊、二時間も読めば、それな
りに疲れるものです。その疲れの程度を測定するつもりで、最初は一時間、次には二時間、集中
読書をしてみて下さい。
しかし一方で、今ひとつ効果がないと感じる人もいるはずです。
ひとつの抗うつ剤について、標準量まで増やして、その量を維持し、約6週間たって、改善が見ら
れないようならば、その薬は無効であると考えてよいでしょう。抗うつ剤を変更する場合にも、
徐々に入れ替えることが原則です。場合によっては、一度に交換する方法もありますが、やはり
原則は、部分的に入れ替えてゆく方法になります。
効果が実感できない場合、改善が得られるまでに約6週間という時間が必要であることをご理解く
ださい。それを過ぎて主観的に効果が実感できず、客観的にも効果が認められない場合には、薬
剤変更を検討します。
また、不眠、食欲不振、頭痛、身体のだるさなど身体症状の変化を注意深く報告してください。
抗うつ薬の効果発現の経過は「少し眠りが深くなった」「少し食欲が出てきた」「イライラする
ことが減った」などわずかな変化として現れることも多いので、本人の自覚としては、「よくな
っていない」と感じてしまうこともあるようです。
不安や焦燥感が強い場合や、うつの改善が今ひとつ思わしくない場合には、抗不安薬や漢方薬を
調整してみることも選択肢に入れて相談します。


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こころの薬箱 老年期の心身症、うつ、認知症

老年期の心身症
ある程度お年を召してからの心身の健康について考えてみましょう。ご本人にとっても、またご
家族にとっても、大変切実な問題です。
診察室での実際の言葉
お年を召した方ならば、いまご覧になっているコンピューターの文字が小さくて読みにくいと感
じる人は少なくないでしょう。見る、聞く、歩く、そんな基本的な面で不自由を感じているのだ
と皆さんはおっしゃいます。疲れが回復しにくくなります。病気に過敏になります。ひとつだけ
ではなくいろいろな病気になります。そして心も弱気になるでしょう。人によっては頑固になっ
たり、神経質になったりします。寂しがり屋になります。将来に悲観的になる人もいます。友達
がだんだん少なくなります。たとえば引っ越したあと新しい友達ができにくいでしょう。病院
に行ってくすりを何種類も飲んでいる人もいます。くすりの副作用が出やすいのも特徴です。
他者に依存せざるを得ない場面が多くなります。家族のために生きてきたのに家族は優しくして
くれないと感じることも多いでしょう。病気や不具合をかかえながら生きて行くのは孤独でつら
いものです。なぜもっと理解してもらえないのでしょう。若い世代とは考え方・感じ方の違いが
あります。たとえば、気に入っていた茶碗なのに、若い家族に「汚いから捨てなさい」と言われ
てしまいます。これではプライドを保てないでしょう。自分たちは戦争もくぐり抜けてきた世代
なのにと思うとしくなります。社会の変化がはやすぎると感じています。またたとえば伴侶に先
立たれるつらさは格別です。しかしそれもいつかは訪れることです。
実際に相談場面で聞いた言葉を整理して書いたものですが、つらいですね。
老年期の病気の特徴
お年を召してから病気に悩まれる方が多いのは事実でしょう。若い頃のように簡単には治らなく
なるのも仕方のないことです。たとえば、一人の人が白内障、膝と腰の痛み、胃潰瘍、皮膚のか
ゆみ、ゆううつ、排尿障害、便秘、肩こりなどをかかえながら生きているのがむしろ普通でし
ょう。また、脳血管障害やアルツハイマーによる認知症の心配も現実のものになってきます。あ
れこれ考えるととてもゆううつですね。
診断 認知症と心身症の区別
さて、高齢になってふさぎ込んだりしていると、とりあえず認知症ではないかと疑われます。こ
れはとても困ったことですね。認知症ではなくても、認知症に似た物忘れが見られることがあり
ます。仮性認知症とまとめて呼んでいますが、うつ状態、意識障害、栄養障害などでも認知症に
似た状態になることがあるのです。認知症ではないのに認知症扱いされたらいやなものでしょう
。きちんと鑑別診断したいものです。
お年を召してからは心身症になりやすくなります。それは老年期になると心身の両面で他者や環
境に依存せざるを得ないようになることが多いからです。一人でがんばり抜くことは若い頃に比
べると難しくなります。そのぶんだけいろいろな点で周囲と妥協しなくてはならなくなります。
それはいままでさまざまな困難を切り抜けてきた人にとっては屈辱的とも思えるようです。
いろいろなストレスにさらされますが、それから逃げることもできません。いやだからといって
家出することもできません。経済的・体力的に余裕があれば別ですが、そうでない場合には妥協
しなくてはいけません。老齢期には特有のストレスがあります。そこで心身症になる人も多いの
です。
認知症といわれた人の中には心身症の人も混じっています。老齢期になると体の変調が心の変調
に出やすいので、認知症かと誤解されます。
積極的な「心の健康」を
しかし以上のようにお困りの患者さんたちの一方で、とても元気ではつらつとしているお年寄り
の方もたくさんいらっしゃいます。社会的役割を引き受け、経験と知恵を生かし、若い人にはで
きないような活躍をなさっています。こうした方々と接すると、やはり心の持ちようが大切なの
だなと実感されます。積極的な心の健康は可能だと思います。
そしてその人たちの場合、悩みを自分だけで悩んでいないようです。あなたの悩みはあなただけ
がかかえている特殊なものではないかもしれません。そして、似たような悩みを持った誰かが、
頭のいい解決方法を考えているかもしれません。
プライバシーを完全に保護できるクリニックで、一度相談してみるのも現代的な方法ではない
でしょうか。


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こころの薬箱 なぜ漢方か

なぜ漢方か
漢方薬という言葉が定着しているのでここでも漢方薬と表記します。しかしわたしたち SMapG は
和漢薬と呼んだ方がいいと考えています。日本人に合ったものを工夫してきた歴史があるから
です。ストレス診療では漢方薬を積極的に使います。理由としては二つあります。
まず、体調を整えるには漢方治療が適しているということがあげられます。うつ、パニック、自
律神経失調症、更年期障害、不定愁訴、不安などではたいてい背景に過労や心労があるものです
。老年期記憶障害、登校拒否などでも用いることがあります。
ふたつめの理由としては、患者さんの要望が強いことがあげられます。これまで漢方薬を使って
いて、体に合うから続けたいと考えている人がたくさんいらっしゃいます。この信頼感はとても
大切なことですから、その漢方薬をベースにして、発展的に薬剤を工夫します。
西洋薬の場合には「薬にまかせた」という気分になるのに対して、漢方薬の場合には、「薬を飲
みながら、症状と対話しつつ、毎日を暮らす」、そんな気分になることができるようです。
においや味については、最近の処方薬局用顆粒製剤はとてものみやすくできているので、たいて
いの人に違和感なく服用していただけると思います。
漢方薬の選択
一般の漢方診断の本を開いてみると、症状と体質を診て、処方すると説明しています。わたした
ちは「性格」も診断の軸に加えることを提案します。心理面も考慮しなければならない領域では
、性格の把握が特に大切です。
症状はストレスに対する反応という側面があり、誰にでも起こりうることです。症状は、「困っ
たもの」ではありますが、身体が発信しているメッセージでもあります。そのメッセージは何を
伝えようとしているのか、理解することが大切です。たいていは無理をしているのです。そこで
症状診断と体質診断に性格診断とストレス診断を加味して処方するのが合理的でしょう。
「ストレス + 体質 + 性格」 この三者のかかわりを考慮して診断して処方します。
有毒物の除去
生薬の原材料は自然産物ですから、細菌などの有毒物の混入をどのように防ぐかについても重大
な注意が払われています。生薬そのままの場合にはその点を一つ一つについて厳密に確認するこ
とはできません。この点では、生薬よりも、顆粒製剤に利点があると考えられます。
生薬の効きめのばらつき
煎じて飲むタイプの生薬では、有効成分のばらつきが避けられません。野菜を食べるときに、い
い野菜とそうでもない野菜とのばらつきがあることは当然で、漢方薬の成分についても同じこと
が言えます。こうしたばらつきは自然産物の場合には避けられないものですが、製薬会社ではう
まく品質管理をして、有効成分が一定になるように工夫しています。また、会社によって品質管
理の精度にばらつきがあるともいわれています。さらに、一般売薬と処方薬局製剤では、効果に
差があるとのご感想もよく耳にします。
漢方薬の安全性
以前、漢方薬の副作用が話題になりました。小柴胡湯で肺に副作用が出て、死亡する場合がある
との報道でした。その他にも、いくつかの成分について、過量となったときの危険について注意
するよう呼びかけられています。このあたりは疾患、体質、既往歴を考慮しての医学的診断にな
ります。
飲み方
コップ一杯の水で飲んで下さい。のどや舌に残っていやな感じがする場合には、あらかじめぬる
めのお湯に溶かしても結構です。
食前、食間(つまり午前10時とか午後3時とかの空腹時)が原則といわれます。確かにそうなの
ですが、特にこだわる必要はないようです。夕食後でも、就寝前でも問題はありません。自分の
生活にあった時間を決めて、気長に使って下さい。
飲み忘れたら、そのまま忘れて下さい。気にしないで次の時間に決められた通りに飲んで下
さい。
漢方薬にジェネリック薬はありますか?市販薬
も同じ名前ですが、内容も同じですか?
原料として生薬を用いていますので、化学物質として同一のものはできません。ジェネリック薬
にはなりません。たとえば補中益気湯などは同じ名前でもメーカーによって内容成分が異なり
ます。まったく違う薬ではありませんし、効果の傾向としては同じなのですが、微妙に違います
市販薬と健康保険を使って医者が処方する漢方薬は同一メーカーでもすこし内容が違います。
バファリンが市販薬と処方薬で内容が異なるのと似ています。


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こころの薬箱 男女更年期 男女更年期障害

男女更年期
男女更年期障害
男女とも40歳を過ぎると、いろいろな悩みに更年期障害が関係していないかどうか、気になると
ころです。女性更年期は昔から有名ですが、最近は男性更年期障害がマスコミで取り上げられて
います。女性の場合、最近では閉経年齢はおよそ50歳といわれています。卵巣機能の低下は40歳
代から始まりますから、人によっては40歳代から更年期障害に悩まされることになります。
症状
その典型的な症状を紹介すると、およそ次のようなものです。
顔が熱くなる。ほてる。
汗をかきやすい。
腰や手足が冷える。
息切れがする。
手足がしびれる。
手足の感覚が鈍い。
夜なかなか寝付かれない。
夜眠っても、すぐ目を覚ましやすい。
興奮しやすい。
神経質である。
つまらないことにクヨクヨする。(ゆううつになることが多い)。
めまいや吐き気がある。
疲れやすい。
肩こり・腰痛・手足の節々の痛みがある。
頭が痛い。
心臓がドキドキする。
皮膚をアリがはうような感じがする。
いかがですか?身体症状と精神症状の両方が同じくらいの比重で考えられています。生活のな
かで生じる心理的ストレスが症状に大きく関係していることが多いと考えられています。そのよ
うな点で、更年期障害は心身相関の強い状態と考えられ、わたしたち心療内科の領域で治療に
あたっています。
原因
第一には卵巣機能の低下による性ホルモンの減少が原因となります。それに伴って、性ホルモン
産生を刺激する物質が増加します。この両者の働きにより、内分泌系と自律神経系が不安定にな
ります。
第二はこころの問題です。40歳代から50歳代にかけては心理的にも変化が大きく、ストレスの多
い時期に当たります。たとえば子供の独立、親の病気、夫の仕事上の変化(出向、退職など)、
経済環境の変化などがあります。また、若さが失われていく自分をどのように受け入れることが
できるかも難しい問題です。昔からどの女性も通過してきた問題ですが、現代に生きる女性にと
ってはなお一層困難に感じられる問題ではないでしょうか。このように心理的原因も無視できな
いのが更年期障害の特徴です。
男性も同様で、ホルモンの減少は身体に影響を及ぼします。疲れやすい、疲れが抜けにくい、集
中力がなくなる、酒に悪酔いする、性生活ではEDの悩みなどが現れます。
治療
性ホルモンの減少が原因というなら、それを補充すればいいはずだというので、ホルモン補充療
法があります。ご存じのように、これについてはいろいろな意見があります。まず副作用の問題
があります。次には、性ホルモンの減少自体は正常のプロセスですから、どこまで人為的に調整
すべきかという問題があるでしょう。極端にいえば、苦しくても我慢すべきだ、それが人間の自
然であると考える人もいるわけです。このあたりは考え方や感じ方に個人差が大きい分野です
から、充分なカウンセリングが必要だと思います。考えてみれば、性ホルモンの減少と一言でい
っても、減少のパターンを細かく見ると、それぞれにタイプがあるわけです。このあたりも大切
なことでしょう。
さらには心理的要素への配慮が大切です。これに関しては心理テストなども使いながら把握をす
すめます。カウンセリングのなかで理解を深めましょう。
以上のことを前提として、必要と判断される場合にはお薬の相談をします。ホルモン剤ばかりで
はありません。漢方薬、自律神経調整薬、抗不安薬なども適切に用いることにします。また、め
まいや頭痛などが特につらい場合にはそれぞれに対策があります。
まず一時的に薬で症状を和らげて、そのあいだにカウンセリングで生活全体の対策を考えるのも
合理的です。生活の質を維持しながら、すこしずつ楽になっていくように調整したいですね。
イメージとしては「なだらかな着陸」です。
性生活 ED ピル
これまでは体調不良の場合の性生活についてはあまり積極的に語られていなかったと思います。
しかし「生活の質」の点で考えた場合、性生活は大切なものだと思います。人間同士の交流とし
てもっとおおらかに語られていいのではないでしょうか。現在では男性EDに対してのバイアグラ
、レビトラ、また女性用には低用量ピルなどが処方できるようになっています。役に立つかどう
か試してみるのもいいかもしれません。


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こころの薬箱 児童思春期 ADD,ADHD

児童思春期
ADD,ADHD
ADD、ADHDはそれぞれ注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害を指します。学校での不適応が問題
となることが多く、学校の担任の先生や学校カウンセラーから医療に紹介があります。お薬もあ
る程度は効くのですが、我慢強く成長を待つことも大切です。教育と医療の連携が必要とされる
分野です。
最近はチェックリストなどで自分でADD・ADHDと診断して来院される方が増えてきました。3
割くらいはADD(ADHD)で、残りはほかの障害が考えられるとの意見もあります。ADDは人口
の3-9%(診断基準の幅によります)という大変多い障害です。成人になると多動性が少なくな
って、「落ち着きが出てくる」ようになりますが、注意障害は持続します。家庭や職場で支障が
出ます。
ADDの治療では薬物療法は下支えに過ぎません。積極的にこの障害を学び、さまざまな工夫を
する必要があります。カウンセラーをコーチとして歩んでゆきましょう。
言葉の発達の遅れ
・原因……言葉の発達の遅れにはいろいろな原因があるので、まず原因を正しく把握することが
第一です。難聴のように身体的な原因もあります。また、言葉を聞いて意味が分かるのにもかか
わらず、自分で言葉を言うのは不自由な子もいます。
・治療……お母さんに指導方法を覚えていただき、家で反復して練習します。
不登校
・診断……診断という固い言葉ではなく、「楽な気持ちで素直に言える」雰囲気がまず大切です
。その中から問題点を知ることができれば一歩前進です。原因としては学習困難、対人関係の
困難、いじめなどが多いようです。睡眠リズム障害、朝の低血圧、子供の不安性障害など、生活
指導と少量の薬物が有効な状態の場合もあります。
・治療……過去よりも未来に焦点を当てて話し合います。必要に応じて具体的な行動の指導をし
ます。また、多くはありませんが、漢方薬を含めたお薬をおすすめする場合もあります。家庭内
暴力でお困りの方、また、親子関係の修復でお困りの方は、相談数も大変多く、方針決定も簡単
ではありませんが、まずお母さんをはじめご家族を支えることを目標として相談をスタートする
場合もあります。不登校も長くなると子供さんの問題だけではなく、家族全体のあり方の問題
になっていることもあります。問題を局所的にとらえずに、全体的に、長期的な目でとらえまし
ょう。家族相談を積極的に利用しましょう。
学習障害(LD)
・診断……現時点での能力測定をしてみると、全般的には能力が低くないのに、ある特定の分野
だけで発達の遅れがみられることがあります。学習障害のお子さんではこのパターンが多くみら
れます。発達測定テストを用い、同時に課題遂行時の様子を観察して、遅れのある分野はどこな
のかを正確に見極めることがスタートになります。
・治療……個別集中指導で対処します。たとえば、まずはじめに数の概念をしっかり覚えていた
だけば、その後の算数の学習はとても楽になります。必要に応じて少量の薬剤が有効です。
薬について
子供さんや若い人には薬はなるべく使わないようにしましょう。これが原則です。発達途中であ
ることを念頭に置いて、長い目で見守りましょう。しかし場合によっては少量の薬を短期間使う
ことが、効果的な場合があります。変化のきっかけを作ることができるわけです。この点につい
ては、当院の専門家のアドバイスを理解していただいた上で、最終的にはお子さんとご家族が決
定するということになります。
どのお子さんも、自分は他人にとっていい子でありたいし、特に親の希望に沿う子でありたいも
のです。しかしそれができず、どんどん自信をなくしていきます。クラスの厄介者扱いされたり
して自信をなくしてしまうこともあります。こんな場合に、少量の薬剤で少し落ち着きのある子
になれば、それからあとは自信を回復できるのです。人間は自信のあるなしでこんなにも違うも
のかと思います。自信あるいは自尊心といってもいいでしょう。大切にしましょう。
教育との連携を大切に
子供さんはまずなによりも教育の場で生活しています。学校の先生や教育センターのカウンセラ
ーの先生と連携協力して治療にあたります。教育者にしかできないことがたくさんあります。


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こころの薬箱 引きこもりがちのきみに

引きこもりがちのきみに
学校や職場から引きこもって家族を心配させているきみ。ときどき真剣に悩むきみ。
そんなきみにメッセージが届けばいいと思ってこの文章を書いています。
まずある引きこもりの男性の話を聞いてみまし
ょう。
はじめはとてもつらかった。学校や職場に行くことはみんなが普通にしていることだから、みん
ながしていることを自分はできない、まずそう思ってつらいです。次には家族が心配するので、
それもつらいですね。何とかしなくちゃと何度も思って、そのたびにつらくなった。家にいても
どこにいても、なんとなく居心地が悪かった。まあ、当然ですよね。
最近は、引きこもりも長くなってくるとなんとなく慣れてきますね。そしてときどき昔のつらい
感じを思い出してつらくなる。それから、これからどうするかな、と考えさせられる機会もあ
って、その時にもつらい思いをする。
誰に相談したらいいかも分からない。どうして自分が学校(職場)に行けなくなったか、いま
となっては正確に説明できないようにも思う。自分なりには分かっていますよ。言いたくないで
すけど。ぼくは頭悪くないから、そんなことは分かってる。でもまあ、だれかに話して分かって
もらうのも難しそうで、それであきらめているんです。
でも親はときどききついことをいう。ぼくのためを思って言ってくれていると分かっているけ
れど、この自分のどうしようもなさを分かってもらえなくて、ついつい口げんかになってしまう
。言い返す元気もないときは無視して自分の部屋に閉じこもる。
この自分の苦しさは誰にも分からないのではないかと思う。分かってもらったところで、解決が
できるだろうか。解決どころか、もしかしたら自分は世間の人たちに比べてとても感性が優れて
いて、そのせいでこんな生活をしているのではないだろうか。だとすれば、無理矢理いまの生活
を変えることはない。
でもそうは言っても、将来のこともある。仕事は、結婚は、と考えるとちょっとね。さすがに不
安です。
親が心配するのは、まあ、極端にいえば勝手にしてもらえばいいんだけど、結局自分の人生な
んで、そろそろどうにか、ね。
しばらく引きこもっていた人たちってどんなふうにして変わっていくんですか?
だいたい雰囲気が伝わりましたか?
医療機関にはこんなタイプの若い人たちがたくさんいらしています。引きこもりが長い人も、短
い人もいます。カウンセリングを続ける人、薬物や自律訓練法を補助に使う人、紹介してもらっ
たいろいろな場所で新しい生活を試みる人、さまざまです。友達が多い人もひとりもいない人も
います。共通しているのは、過去のことはひとまずいいじゃないか、これから少しでも自分の希
望する方向に人生を向けるためにはどうすればいいか相談しよう、この点です。過去について根
ほり葉ほり調査しても、いまが突然変わるわけじゃありません。
また、いまが前進の時期ではないと感じるなら、ひとまず引きこもっていましょう。でも、その
とき、すこしでもきみが幸せな感じの持てる引きこもり方があるのではないでしょうか?
よその引きこもりの人たちはどうしているんだろう。どのようにして次の生活に踏み出したのだ
ろう。そんなことに興味はありませんか?
自分が来たくないなら、ご家族の方に代理できてもらいましょう。そして間接的にでもいいから
相談しましょう。
人間は学校(職場)に行くために生まれたのではありませんよね。その通りです。しあわせにな
るために生まれたのだと思います。学校で勉強するようになったのは人類の長い歴史で最近の百
年程度のものです。学校(職場)に行くか行かないかではなく、「しあわせになること」を一緒
に考えませんか?
きみのしあわせって、どんなこと?そこから話しませんか?


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こころの薬箱 家庭内虐待 アダルトチルドレン

家庭内虐待 アダルトチルドレン
統計数字
2005年6月30日付朝日新聞夕刊によれば、2004年一年間で児童虐待死が49件である。2003年
は41件。児童虐待防止法では「保護者が監視する児童に対し、暴行やわいせつな行為、長時間の
放置や心理的外傷を与えること」を児童虐待と定義している。被害児童の1/3は1歳未満、6歳以下
が9割である。殺人容疑などで逮捕された61人のうち、実母は28人、実父は19人、養継父母と内縁
者は6人。親としてつらいとき、あるいは自分の周囲でつらそうにしている人がいる場合、相談窓
口はまず第一に児童相談所である。緊急の場合には施設への入所もできる。病診、診療所、保健
所も相談に応じているし、女性センターなどでも受け付けている。
話すだけで楽になることがあるので、ぜひ考えてみてください。
まず、「虐待 沈黙を破った母親たち」岩波書店(1999年刊)から引用してみましょう。「母親
が子どもを虐待する」ケースについての本です。少し耳を傾けて下さい。「こころの薬箱」に適
切なように改変してあります。
「わたしはいま、家庭から離れて、夫に子供を預けて、診療所でケアを受けています。虐待して
しまう母親もまた、やはり子供のころ親から十分愛されていなかったということを知って下さい
。虐待の問題を考えるときに、親に罰を与えるという立場で話してほしくないのです。できたら
共感してほしいと思います。」
「虐待というのはいきなり子供の頭蓋骨陥没からはじまるとは思えないんです。最初はこの子
なんか憎たらしいとか、ちょっと突き飛ばしてみたくなるとか、それぐらいからはじまると思う
んです。そんな子供と親との相性の悪さに気づいた時点から、相談できるような窓口がもっとあ
ったらいいな、と思います。虐待防止のための窓口がありますよぐらい宣伝してほしいなと思い
ます。」
「保育園や学校がお休みになったり、長期の休みになったりすると、子供と接する時間が長
くなってしまい、親のいらいらがつのって子供に当たることが多くなってしまうんです。夫に相
談しても、夫は仕事や自分の趣味で忙しい。そうすると、母親が一人で子どもを抱えてうつ状態
になってしまう。休日も安心して子どもを見てもらえる場所がほしい。一時間でも二時間でもい
いですから、安心してみてもらえる場所がほしい。」
「虐待で苦しんでいるのは子どもだけじゃない。母親の苦悩にも目を向けてほしい」
「いまわたしは診療所でケアしてもらって、共感してもらって、とてもいやされています。悩
んでいる母親はわたしだけじゃない。あなただけじゃないんですよ。」
「虐待してしまう親も子供のころ、親から十分愛されていなかった。親を罰するより共感して
ほしい。」
「夫は相談にのってくれない。子どもを安心してみてもらえる場所がほしい。」
「虐待からの救出とケアは子どもだけでなく親にも必要だ。」
「虐待している親自身も心を病み、虐待に苦しんでいる。」
「親が子供を虐待してしまう原因を知り、専門家の手助けを受けながら病んだ心を癒せる社会
システムがない限り、虐待問題の解決にはならない。」
「親が子供を愛する代わりに、虐待へと追いつめられてていくのはなぜなのだろうか。親の心
の闇とは何なのか。」
「虐待してしまう親に共感するとはどういうことなのか。どうすればいいのか。」
「虐待に苦しんでいる母親は、子どもを愛せなかった自分をものすごく責めている。第三者の
前で虐待の体験を語ることは、つらい過去を再現することでもっと自分を責めることになる。き
ちんとした親の治療体制がない限り、話せない。」
ケアが必要
さて、虐待といえば、母親が子供を虐待するほかにも、父親→子ども、祖父母→孫、夫→妻、妻
→夫、姑→嫁、嫁→姑などもあります。それぞれに事情が異なります。また、肉体的暴力のほか
、言葉による暴力や、「無視することによる暴力」もあります。男性の暴力の背景に、女性の言
葉の暴力がある場合を何度も経験しています。女性は言語能力が高く、記憶していることを言語
化できるため、男性は「あんなに昔のことをよく細かく覚えているものだ」とあきれたりします
。言葉で言い返せないので暴力をふるいます。
肉体的暴力、言葉の暴力、無視などに長時間さらされていると、人間の心には取り返しのつかな
いような傷が生じるのです。ですから、このような暴力や無視の被害者をケアすることはわれわ
れ医療分野でも大切な仕事です。
そして、今日お伝えしたいのは、「加害者となっている側にも、精神的問題があり、専門家によ
るケアが必要なのだ」ということです。上に紹介した本で分かるように、虐待せざるをえない母
親はとても苦しんでいるのです。ケースによっては、子どもの側に発達上の問題が隠されていて
、それを解決しない限りは、健全な母子関係が難しいこともあります。わたしたちは以上のよう
な多様な側面からのアプローチを試みています。悩んでいる方は是非一度医療機関を訪ねてみて
下さい。
アダルトチルドレン 共依存 アルコール症
機能不全家庭 AC,ACOA,ACOD
アダルトチルドレン関連についても、カウンセラーが担当して相談に応じています。機能不全家
庭で育った成人が苦しむ様々な悩みです。典型的にはアルコール症の父親、そんな父を補助する
ことで生きている母親、そういった両親に育てられた人です。簡単な解決はないのですが、じっ
くりと取り組みましょう。
参考に少し硬い解説をしてみましょう。アダルトチルドレン AC, ACOA: Adult children of
alcoholic アルコール依存症の親のもとで成人した子ども。親がアルコール症で家族機能に欠損
があったために、成人してから苦しんでいる人たちをさす。親がアルコール症以外でも、薬物依
存やギャンブル依存などで家族機能に欠損があった場合には同様のことが起こりうるので、
ACOD: Adult children of dysfunctional family(機能欠損家族で成人した子ども)と呼ぶこともある
。子供の頃から問題を起こさず症状も出さず、いい子として適応し、優等生といわれて周囲の人
の支えとなるが、成人する頃に息切れを起こす。孤立感・孤独感,極端な自己評価の低さ、愛と
同情の混同、怒りや批判へのおびえ、自分の感情に気づき表現する能力の欠如、自己肯定感の
なさ、絶望的なまでの愛情と承認の欲求がみられる。さらに自己非難、失敗することの恐怖、支
配することの欲求、頑固さ、一貫性のなさがある。これらの特徴の中でもっとも本質的と思われ
るのは「自己承認への欲求」であり、診察室における「居場所がない」「生きていてもいいのだ
ろうか」「この世に存在していてもいいのだろうか」などの言葉となる。「自分はACだからこん
なに苦しいんだ」と自分で気づいたときにはじめて救われる側面がある。アルコール依存症者、
共依存の配偶者、ACの子どもの三者がセットになって病理を形成している。


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こころの薬箱 レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS):むずむず足症候群

レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS):むずむず足症候群。
睡眠中に周期性四肢運動(periodic limb movement:PLM)と呼ばれる足関節の不随意性の背屈運
動を,約80%の患者で伴う。このため、RLS患者は,主に睡眠障害を主訴として受診することが
多い。
簡単に言うと、足がむずむずして眠れない。
睡眠不足の結果として、日中の疲労感、傾眠、焦燥感、不安、抑うつ、困惑などがみられる。さ
らに、家庭や職場でのパフォーマンスが低下し、評価が下がることがある。長時間座っていられ
ないこともある。
米国における有病率は10%前後と推定されており、RLSの発症年齢は、20歳以下の若年層におけ
る初発が全体の45%近くにおよび,その後加齢とともに漸減する傾向がみられる。一方、51歳以
上69歳以下の層でも15%以上と高い値を示し、二峰性を示す。
特発性RLSにおいては,遺伝的要因が明確に関与していると思われる例が全例の40%以上を占め
,関与が疑われる例を含めると半数以上に達する。
RLSと鉄欠乏との関連についてはよく知られているが、RLS患者の血漿中の鉄濃度やフェリチン
濃度は正常であることが多い。しかし、CSF中のフェリチンおよびトランスフェリン濃度を調べ
てみると、鉄欠乏が示唆される。
中枢ドーパミン機能障害が関与している可能性が高い。RLSと中枢ドーパミン機能については、
ドーパミン療法がRLSに奏効する点、パーキンソン病とRLSの合併が多く認められる点、PETに
よる観察により、D2受容体、尾状核、被殻においてドーパミン結合の低下が認められる点など
から、両者が密接に関連することが示唆されている。また、鉄はドーパミン合成の律速酵素であ
るチロシンヒドロキシラーゼの補因子であるため、鉄とドーパミンの相互作用がRLSに関与して
いる可能性もある。
RLSの診断にあたっては、病歴を確認し投薬歴についても聴取する必要がある。神経学的診断に
関しては、特発性RLSでは特異性のある異常所見がないある場合もあり、注意が必要である。
RLSは比較的診断のつきやすい疾患であり,治療も奏効することが多いため,患者の早期発見に
努めることが重要である。
不眠といっても、睡眠導入剤だけでは解決しない例。
*****
治療については、大きく分けて、ベンゾジアゼピン系、ドーパミン系、抗てんかん系、さらに文
献によれば、高血圧の薬、たとえばインデラル、抗うつ剤、たとえば、SSRI、四環系、三環系な
どがある。
従って、まずランドセン。ベンゾジアゼピン系で眠くもなり、抗てんかん作用もあるので合理的
と解釈しているが、本当の作用機序は不明。
ドーパミン系ならばビ・シフロール。これもメカニズムは不明。鉄剤たとえばフェロミアを加え
るのもトライする価値はあるかもしれない。
インデラル、ジェイゾロフト、デジレル、トリプタノールなどは、これらを使うまでもなく、解
決したので、経験がない。


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こころの薬箱 強迫性障害(OCD)

強迫性障害(OCD)
推薦図書の一冊として「手を洗うのが止められない」という本を紹介したことがあります。この
本が強迫性障害の一般向けの解説書です。
「もう汚くないことは分かっているのだけれど、そしてあまり洗うと手が荒れると分かっている
のだけれど、それでも手を洗うのが止められない」のです。なんとなく分かりますか?手洗い以
外にもたくさんの例が挙げられています。
また「神経症の時代」という本では作家・倉田百三の強迫症状を紹介しています。実は有名人で
強迫性障害の実例をたくさん挙げることができます。有名人になると、内面をそのまま行動に出
しても許されることもあり、他人にもわかりやすいようです。有名人でない場合には、自分がど
のように評価されるか恐れるので、あまりストレートに外に出さないのでしょう。
強迫性障害は、強迫症、強迫神経症などとも言います。なお、強迫は「脅迫」とはまったく関係
がありません。もっと日本語として日常的な言葉で表現できないものかと思いますが、今のとこ
ろは妙案がありません。
どんな場合を強迫性障害と言いますか?
症状の紹介をしましょう。
「鍵を確かめるのを止められない」
「ガスの元栓を確かめるのを止められない」
「偉い人のいる会議の席上で、とんでもない言葉を言ってしまうのではないかという不安を止め
られない」
「頭の中である言葉が何度も鳴り響いて止められない」
「車を運転していて信号待ちしているときに、前の車のナンバープレートの数字を加減乗除して
1にしないと気がすまない。信号が青になるまでに完成しないとその日は悪い日になるのでどう
しても完成しないといけない。」
といったようなことです。もっと微妙な例では、「お医者さんにはどこも悪くないと言われるが
、自分はきっと病気だという考えが繰り返し浮かんできて不安になる」などもあります。これだ
けでは強迫性障害と即断できませんが、微妙にその要素が潜んでいそうですね。
まとめて言うと、自分の考えや行動がばかばかしいと分かっていて、止めたいと思うのだけれど
も止められない、それが苦しい、これが強迫性障害です。いやだと思っているのですがどうしよ
うもない。しかし「何者かにさせられている」のではありません。嫌々ながら、しかし自分でや
っているのです。客観的には心配しなくてもいいことだと自分でも分かっています。これを自我
境界と現実把握は保たれているといいます。症状として非常に軽度なものになると、「慎重な
性格」と思われる場合もあります。その場合は強迫性性格と呼びます。
背景についての意見
日本には強迫性障害の人はとても多いのですが、それは教育にその背景があるかもしれません。
日本の親の子供に対するしつけは、「片付けなさい、整理整頓しなさい、手を洗いなさい、清潔
にしなさい、きちんとしなさい、テストの時には間違いがないか確認しなさい」等々、強迫性格
を育てる方向の指導が多いのです。しつけとしては、「人に優しくしなさい、ユーモアを忘れな
いようにしなさい、自己主張をしなさい」など、強迫性性格に関係しないものも多くあるので
すが、日本ではこうしたことはいわゆる「しつけ」とは考えられていないかもしれません。とく
によい子たちは強迫性の成分をすこし多く持っているようです。日本の親はやや強迫性格の傾向
のある子供をいい子だと考える傾向があると思います。
診断
典型的な強迫性障害であるか、あるいは背景に(たとえば)うつ病などの病気がないか、そのあ
たりの鑑別が大切です。表面にあらわれた症状に対して薬を使ったり精神療法を試みたりしても
、それは表面的な対応でしかありません。
治療
薬物療法、行動療法、認知療法などがあります。特に薬は有望です。パキシルCRやデプロメール
を使います。状態によってはレキソタン=セニランを併用します。少し時間がかかりますが効果が
あります。
心理的なことになぜ薬が効くのかと考える人もいるでしょう。しかし薬が効くということは事
実として確かなことです。この現象は「脳と心」に関して考える材料を提供しています。みなさ
んは脳と心と魂についてどうお考えですか?


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こころの薬箱 ストレス脆弱性モデル

ストレス脆弱性モデル
精神病の原因については長い間、生物学説と心理学説の交代が振り子のように続いてきた。しか
し実際には両方の要因があるだろうということで、ストレス脆弱性モデルで説明している。
もともと生物学的に脆弱性(Vulnerability)があり、そこに過剰なストレスが加われば、発病する
とする。
コップと水でたとえてみよう。
生物学的脆弱性とは、コップは平均200㏄であるのに、生まれつき100㏄ということだ。注がれる
水がストレスとして、水が50㏄であれば、どちらも特に問題は起こらない。注がれる水が150㏄で
あれば、200㏄のコップは大丈夫であるが100㏄のコップはあふれてしまう。水が300㏄であれば
、どちらもあふれてしまう。
このように、生まれつきの要因(つまり脆弱性)もあるし、後天的な要因(つまりストレス)もあると
いうことだ。自分は100㏄なのだと認識して、ストレスを100㏄以内にすれば安全に暮らせる。そ
のためにSocial Skillをトレーニングする(SST)。


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こころの薬箱 痛みと妄想

痛みと妄想
相談者の語る話を聞いて妄想なのかそうでないのか判断することが難しい局面がある。
たとえば、キムタクがわたしを好きで、毎晩会いに来る、というのなら、だいたいは妄想だろう
と思う。
逆に、わたしはキムタクが大好きで、いろいろ集めていると言えば、たぶん普通の範囲だろうけ
れど、妄想かもしれないと疑いは残る。
キムタクがあなたを好きかどうかはキムタクに聞いてみれば分かることで、妄想かどうかの検証
はしやすいし、常識が教えるものがある。
あなたがキムタクを好きかどうかは、特に妄想というほどのことでもないが、妄想か否かを判定
する手だてに乏しい。
特に判断に困るのが内蔵系・筋肉系の痛みである。腹が痛いとか、腰が痛いとか、立って歩けな
いほどだとか、訴える。
夏樹静子さん著「椅子が怖い」「心療内科を訪ねて—心が痛み、心が治す」とか柳沢桂子さんの
本に書かれている。
整形外科や内科で身体的検査を繰り返す。血液検査や患部と疑わしい部分の写真を参考にして、
訴えを説明できるだけの所見が得られない場合、心因的なものではないかと疑う。診断名として
は身体表現性障害、心因性疼痛などが用意されている。
たとえば腰痛に限定してみる。腰のあたりのMRIでは特に所見がないとき。牽引やMS温湿布をす
るのだけれど、心配の仕方としても過剰なような印象がするとき。そんな場合に心療内科がリエ
ゾン・コンサルテーションに呼ばれる。
腰痛の原因としては、まず写真に写る腰のあたりの問題がある。細かく言うと神経根の圧迫の
問題、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症、腰椎すべり症がまずあげられる。脊椎変性
症などという言葉も使う。腫瘍や血管性の病変の可能性もある。「排尿、尿意コントロールが
困難、肛門・生殖器のあたりのしびれ、両足のしびれ・異和感・脱力、足のふらつき」などがあ
る場合には器質性の可能性が高いと言える。
次には、写真には写らないような筋膜炎(MyalgiaまたはMyofacial Pain Syndrome 筋膜性疼痛症
候群)や関連痛(痛みの原因は局所にはなく、離れた場所が原因だという場合、これは解剖学的
に説明可能)などの可能性を考える。
最後に心因性疼痛を考える。
しかしいろいろと困難はある。
まず、写真の所見と症状とを因果関係ありと認定するのが難しい。腰が痛くない人でも、写真を
撮れば腰椎の異常は見つかることも多い。老化が主な要因だからだ。誰にでもある程度の変化を
病気の原因として特定している可能性がある。
次に、腰痛を訴える人に対して、写真を提示して、「ここの圧迫のせいで痛いんです。治りは悪
いですが、牽引をしてだめなら手術も考えましょう」などと言われると、病状は固定してしまう
。これも問題である。活動を制限し仕事を長く休むほど病状は固定し悪化するとの報告もある。
しかし一方、局所の状態が悪いから、動けないし仕事も無理だとの論理も成り立つ。
次には骨は写真によく写るが、筋膜炎などになると写りにくいことで診断がつきにくいことが問
題である。伝統医学の鍼灸などは筋炎の場合にトリガーポイントを刺激することで痛みを解決し
ているらしい。
本人が痛みを訴える場所と炎症の場所が離れている場合も、見落としがちである。
ここまでの手続きを経過して、やっと心因性疼痛の検討である。
検査所見で全く問題がなく、筋炎、関連痛の可能性もないとなったとき、心因性疼痛を疑う。こ
の場合は症状は解剖学に一致しないことが多い。固定している人もあるが、浮動性の場合もある
。多くは他にも悩みを抱えている。ある種の性格特徴がある。背景に糖尿病などが隠れているこ
とがあるので、きちんと除外する。
ここまで来て、最初の問題が浮上する。その痛みは妄想かもしれない。痛みの実体はなく、ただ
固い信念だけがあるのかもしれない。しかしそれを妄想と確定する手段がない。
心因性といっても、完全に妄想の領域のものもあれば、持続的な交感神経興奮→血流不全→内因
性発痛物質の蓄積→痛み・コリといった経路も考えられる。これは心因性疼痛と筋膜炎の混合の
ような状態である。
このような事情で、腰痛、腹痛、めまい、頭痛など、診断・治療とも困難な例も少なくない。


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こころの薬箱 頭痛・偏頭痛

頭痛・偏頭痛
医者であり、一般向け読み物のライターでもあるオリバー・サックスに「偏頭痛百科」という本
があり、翻訳も出ています。最新の知識とは言えませんが、頭痛の苦しみはよく伝わってきます
。頭痛の原因を調べてみると、MRIやCTで何か病変が見つかることは圧倒的に少ないようです。
大部分は写真に原因が写らない慢性頭痛です。致命的なことはありませんが、生活を大きく制限
することも多いものです。
片頭痛は(偏頭痛とも書きます)必ず片側でもありませんし、腹痛が実は片頭痛発作の変形だっ
たというような「頭痛なき偏頭痛」についての議論もあるほどで、わかりにくい分野です。
しかし最近は大きな進歩があり、予防薬、治療薬ともいろいろと選択できます。患者さんも治療
者も、多少は楽になりました。
分類
大胆に単純化して分類すれば、まず血管性(片頭痛)、緊張性(肩こりの延長)、心因性(スト
レス)の三種に分けて考え、次にさらに細かい分類に進む、と考えたらいいと思います。これら
いくつかの頭痛が一人の人に混在していることもあります。このあたりの見立てが大切です。
頭痛の診断には、精密な問診が重要です。さらに心理的要因が深くかかわっていることも多い
ので、症状だけではなく、生育、性格、生活状況、ストレス因子、これらの把握が必要になり
ます。
頭痛の相談ではどんなことを伝えればよいですか?
診察室でお伺いしたいことは次のようなことです。あらかじめまとめておいて、お話しいただけ
れば幸いです。
どこがどんな痛みか、詳しく。
たとえば、次のようなことです。「ズキン、ズキン」「ガツン、ガツン」「拍動性」「痛いと言
うより、重い感じ」「頭がしめつけられる感じ」「頭に帽子をかぶったような」「ジワーッと
」「頭の片方が」「後頭部が」「目の奥のあたりが」「刺すように」「耳の奥で響くような」
いつ始まって、どのくらい続くか。
たとえば、「朝に起こり、5分くらい」「夕方に始まり、夜まで」「寝ているときにも」など。
起こりやすい状況は何かあるか。
たとえば「生理との関係」「食事との関係」「睡眠との関係」「仕事」「ストレス」。
頭痛前後の頭痛以外の症状。
たとえば、「吐き気」「涙目」「めまい」「図形が見える」「肩こりがひどい」など。
頭痛が始まったら、あなたはどう過ごしているか。楽になる方法があるか。「一日横になってし
まう」「5分くらい我慢する」など。
何歳頃から始まったか。年齢が進むにつれてどう変化しているか。家族に頭痛の人はいるか。
治療 はどのようにしますか?
1 薬
大きく分けると、痛くなってしまってからの薬と、痛くならないように予防する薬とがあります
。患者さんの個別の特徴に合わせて、片頭痛薬、鎮痛剤、抗セロトニン薬、βブロッカー、カルシ
ウム拮抗薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、漢方薬などを工夫して処方します。適切な選択に成功す
れば楽になります。ただ単に「このタイプの頭痛だからこの薬」というわけではないところが難
しいところです。下記トリプタン系薬剤を参照。
2 生活調整……頭痛のひきがねを発見して回避する
自分の頭痛のひきがねについてある程度わかっている人も多いものです。代表的なものをあげ
ます。
(1)生理……生理前、生理中、排卵期、更年期など。生理との関係に気づいている人は多いもの
です。
(2)睡眠……寝不足など。
(3)ストレス……なんといっても一番多い。けんかした次の日にひどい頭痛が始まって、一日何
もできなかった、など。
(4)食事……チョコレート、赤ワイン、チーズ、ナッツ。わかっている範囲で避ければいいでし
ょう。
3 頭痛日記 が役に立つ
2であげた「頭痛のひきがね」を再度考えてみると、生理にしても睡眠にしても、「心身全体の
調子が落ちている」ことが背景にあるようです。そうした生活と体調の総合的な様子をつかむた
めに、頭痛日記が役に立ちます。頭痛が始まったとき、終わった時を中心にして、睡眠、食事、
対人関係、仕事、などを書き加えて日記をつけます。そのなかから生活調整のヒントをつかむわ
けです。診察の時にとても参考になります。また、薬剤使用の時間を加えればさらに役立ちます
トリプタン系薬剤
片頭痛についてはトリプタン系薬剤が特効薬として使われている。日本で保険適用可能な製品
名でいうと、イミグラン、マクサルト、レルパックス、ゾーミックの四種がある。片頭痛は脳血
管の収縮と拡張に伴って生じると言われ、トリプタン製剤は脳血管セロトニン系に作用して脳血
管の過剰な拡張を抑制すると言われる。三叉神経を介しての作用も言われている。
保険適応症は片頭痛のみ。イミグラン注射は群発頭痛にも適応がある。実際には片頭痛と筋収
縮型頭痛の混合型もあり、その場合にも効果があると思われる。服用については、一日一錠で充
分である。2時間を置けばもう一錠服用可能と説明されるが、追加するよりは、パキシルなどを併
用するか、片頭痛予防薬であるミグシスを併用する方がよいようである。四種薬剤の使い分けが
問題となる。確かに効果の早い遅い、副作用の違いは言われるところであるが、各個人で試して
みて確認するしかないようである。実験の数値は参考程度だと思う。現状では大雑把に体質とし
か言いようがない。即効性についてはイミグラン点鼻液が優位。口腔内速崩錠のあるマクサルト
とゾーミックについては、よい点でもあるが、扱いが難しいのが難点である。レルパックスは親
切なパッケージで特徴がある。週に一錠、多くても週に二錠くらいが目安と思う。それ以上使う
ようであれば、生活の見直し、他に基礎疾患がないか見直し、さらにSSRIや予防薬ミグシスの併
用を考慮する。
副作用については、一般的に安全性の高い薬剤であるとの印象がある。
脳血管に選択的ではあるが冠動脈にも若干の作用をもつので、心臓の悪い人、脳血管障害の既
往のある人、血圧が極端に高かったり低かったりする人は注意が必要である。エルゴタミンおよ
びエルゴタミン誘導体との併用は禁忌である(24時間)。ジヒデルゴットは低血圧の治療によく使わ
れている。片頭痛の患者は低血圧患者が多く、この薬が使われている可能性が高いので注意する
セロトニン系を介するのでセロトニン薬SSRIとは併用注意であると記載されているが、
実際にはたとえばパキシルは片頭痛を予防する方向で作用するとの印象
がある。私たちの治療する患者さんはうつ傾向のある人たちが多いからかもしれない。
くも膜下出血・髄膜炎など生命に危険のある頭痛に安易に用いて診断・治療が遅れることはよ
くないので、鑑別診断が大切である。
片頭痛患者にはトリプタンの効果が不十分なケース、いわゆるnonresponderが存在する。トリ
プタンが効果不十分となる要因として、片頭痛時には胃内容停滞がおこり、経口薬の吸収を遅延
することがあげられる。その場合にはイミグラン点鼻液を試みる。
片頭痛予防薬ミグシスは大変有用と感じている。長年続いていた「閃輝暗点」が消失したとい
う人が何人もいる。


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こころの薬箱 めまい

めまい
めまいで悩む人のなんと多いことでしょう。それでだけではありません。「どんなめまいで
すか?」と聞かれたとき、ことばでうまく伝えられずに悩む人のなんと多いことでしょう。
「めまいがする」といってもその内容には実にさまざまな可能性があります。めまいで悩んでい
る人はまず、耳鼻科か神経内科または脳外科を受診してみて下さい。そこでは詳しい問診、身体
診察、血液検査、さらに必要に応じてMRIまたはCTなどの検査が行われます。耳鼻科では聴力検
査やめまい誘発テストを行うこともあります。診察の結果が出ると、脳血管障害、耳鼻科的問題
、メニエール病、貧血などと説明されるでしょう。しかしそのような可能性が否定され、「特に
どこも悪くないですね。ストレスじゃないですか?」と言われる人も多いのです。
どこも悪くないと言われても納得できませんよね。「でも、めまいはあるんです。わたしはどう
したらいいんですか?」とあなたは言うでしょう。先生は「では心療内科で相談して下さい、ス
トレスの方面の専門ですから。紹介状を書きますね」と言うでしょう。
先生に手渡されたパンフレットには心療内科の説明が書いてあります。近いから明日行ってみよ
うと思います。「自分のめまいをどう説明すればいいのだろうか、自分の説明が悪いから原因が
見つからないのではないか」そんな風に悩やみつつ、あなたはクリニックを訪ねます。
診察
というわけで、心療内科の診察室です。あなたにお尋ねしたいのは次のようなことです。
次のような言葉がどれか当てはまりますか?
・天井が回転する。
・自分がふらふらする。雲の上を歩いているよう。
・血の気が引いていくような感じ。気が遠くなるような。
どんなときに起こりやすいか、気づいていますか?
めまいはこの一ヶ月で何度くらい起こりましたか?
めまいが起こったらあなたはどうしていますか?横になってしまいますか?
一回のめまいはどのくらい続きますか?一日?2時間?20秒?
めまいの他に症状はありますか?たとえば、耳が聞こえない、耳鳴り、耳の圧迫感、ほっぺたの
あたりがぴりぴりする、言葉が不明瞭になる、頭痛、肩こり、下痢など。
薬は飲んでいますか?健康食品などは使っていますか?
自律神経症状の特徴
血液検査でもMRIなどの写真でも異常がない場合、自律神経失調症としてとらえてみてはどうか、
と考えてみることになります。自律神経症状とは、頭痛、耳鳴り、下痢、便秘、疲れ易さ、不眠
、食欲不振、動悸、息切れなどを指しますが、めまいも自律神経症状のひとつです。ストレスが
関係した自律神経失調症または心身症の見立てには次のような特徴が参考になります。
・長い間、出たり消えたりして続いている。
・季節や環境が変わると出てくる。
・体調の変動が影響している。
・生理周期と関係あることもある。
・めまい止めの薬は多少役に立つが、安心できるほどの効き目ではない。
・小さい頃から吐いたり腹が痛くなる体質だった。
・ストレスの多い生活をしている。
・充分に休養すると多少は楽になる。
・疲れやすい。
・冷え症がある。
また診断には心理テストが役に立ちます。不安の程度、ストレスの程度、不安に対処する能力、
ストレスを解消する能力、他人とどのようにかかわっているか、環境適応の程度、さらには更年
期の程度なども加えて、心理面を把握します。
治療 
治療は大きく分けて3つの分野があります。
1.薬の工夫。通常のめまい止めの他にいろいろな考え方ができます。漢方薬なども適切に選択すれ
ば役に立ちます。
2.自律訓練法。自律訓練法はストレスに対処する力を高めてくれます。しばらく練習してみて下
さい。上手になれば薬を減らすことができます。
3.ストレス・コントロール。これが一番大切です。生活のいろいろな側面をチェックしてみまし
ょう。若い頃と同じように無理を続けていませんか?ストレスをストレスと認識できるようにな
ることが最初の課題です。


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こころの薬箱 月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)、PMS、PMDD

月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)、PMS、PMDD
月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)
最近では月経に関係した気分不安定(身体的不安定を伴うこともある)をまとめて、月経に関連し
た気分障害(Premenstrual Mood Disorder)と呼ぶ。1890年代にはMenstrual Psychiatric Disorderと
呼ばれたものである。
現在の月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)を細分す
ると、PMS(Premenstrual Tension Syndrome)やPMDD(Premenstrual dysphoric disorder)がある。
PMSは1953年から用いられている用語で月経前緊張症候群と訳される。最近ではTension「緊張
」を省略して、Premenstrual Syndrome(月経前症候群)をPMSとすることも多い。
PMDDは1994年DSM-IVから用いられている用語で月経前不快気分障害と訳される。
女性の場合、月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)は20代から50代まで及ぶ。女
性の20〜40%が経験し、2〜10%は仕事や人間関係に支障を来していると報告されている(1995
米国)。
そのなかで月経前緊張症候群または月経前症候群(PMS)は、症状に個人差が大きく多彩であ
るが、身体症状として多いのは「食欲の変化、吐き気・嘔吐、頭痛、腹痛、乳房緊満感、のぼせ
・発汗、疲労・倦怠感、浮腫(むくみ)」などであり、精神症状としては「不安・抑うつ、緊張
、睡眠異常、焦燥感(イライラ)、情緒不安定、集中力・判断力の低下」などである。
月経前不快気分障害(PMDD)の症状はPMSの精神症状の重症型と位置づけられる。「著しい抑うつ
気分、著しい不安、著しい情緒不安定、活動に対する興味の減退などの症状が過去1年にわたって
ほとんどの月経周期の黄体期の最後の週に周期的に現れ、月経の次の週には消退するパターンを
とる」ことが特徴とされる。原因として黄体ホルモンの関与が考えられるものの、患者の血中プ
ロゲステロン濃度にほとんど変化が認められないことから、黄体ホルモンのみで発生機序を説明
することはできない。PMDDのリスクファクターとして、1.ライフイベント・ストレス、2.経産回
数が少ない場合、3.気分障害などの精神科既往歴のある場合、4.遺伝(双子研究で優位差あり)が
あげられる。
PMSの診断にはICD-10を用いる。「精神症状がマイルドであり、黄体期の身体症状として腹部
膨満、胸部圧痛、体重増加、腫脹、疼痛、集中力困難、食欲の変化」のなかの一項目でも該当す
ればPMSとする。
PMDDの診断にはDSM-IVを用いる。PMDDは「特定不能のうつ病性障害」に分類されており、仕
事や人間関係が損なわれることがある。
治療についてはSSRIが有効であると言われ、北米、豪州、韓国ではPMDDに対してSSRIの適応が
認められている。日本では認められていない。PMDDにおいては、うつ病の場合よりも効果発現
が早い、血中セロトニン濃度異常があるなど理由から、SSRIが第一選択薬として積極的に用いる
べきだと提唱されている。副作用として悪心嘔吐があるが、1〜4週の服用継続で消失することが
多い。投与法としては間欠投与法が勧められている。症状悪化時期を推定しつつ用いるもので、
合理的である。
付随的なものとして、認知行動療法が有効。家族に対して精神療法的なアプローチが有効。むく
みに対して利尿剤、痛みに鎮痛剤を用いる。性ホルモンは効果ないものの、40歳以上の女性に対
してはホルモン補充療法として使用することがある。抗不安薬はSSRIが効かなかった時の第二選
択薬であるとされている。
現状では日本ではSSRIよりもエチゾラムなどの抗不安薬が選択されることが多いと思う。それで
充分にコントロールできると思うが、今後SSRI以降の薬剤にシフトしてゆくのだろう。


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こころの薬箱 過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群(IBS)
「このごろ下痢でお腹が痛い。トイレに行って出してしまうと落ち着くんだけれど、またお腹が
痛くなる。そんなことの繰り返しで、外出もおっくうになってしまう。仕事に支障が出ている。
会社ではリストラの話も出ているのに、こんな体調では目をつけられてしまう。胃腸科で調べて
もらったけれど、特に悪いところはないといわれた。病名は過敏性腸症候群というそうだ。スト
レスに関係する病気で、心療内科に行けば相談できるらしい。」
そんなわけで、過敏性腸症候群の人が心療内科ににいらっしゃいます。
診断
過敏性腸症候群は過敏性大腸症候群と同じものをさしています。診断の手がかりとしては、以下
の項目のうち、6つ以上あてはまれば、疑わしいといわれています。
血液検査やエックス線検査で異常がないことが前提になります。また、お腹の調子以外に自律神
経症状がないかどうか、ストレス関連症状がないかどうか、細かく調べることも必要です。
・子供の頃、腹痛をおこしていた
・激しい腹痛で、救急で医者に診てもらったことがある
・以前からときどき腹痛がある
・お腹をあたためると腹痛が軽くなる
・排便すると腹痛が軽くなる
・下痢、便秘、ガスがたまるなどで困る
・排便すると腹痛が起こる
・腹痛を伴う下痢がある
・下痢と便秘が交代でおこる
・下痢と便秘が以前からときどきある
・うさぎの糞のようにころころした便である
・うさぎの糞のようなころころした便が出て腹痛がある
・便の中に粘液がまじっている
病型として分類すると、1.下痢型、2.便秘型、3.下痢と便秘の交代型、4.ガスがたまってお腹が張
るタイプなどがあります。
原因
過敏性腸症候群ではストレスが原因となり、自律神経の異常が発生し、腸に症状が出ると考えら
れます。
・ストレス‥‥原因の中でもっとも多く、重要なものと考えられています。仕事のストレス、家庭
のストレス、学校のストレス、更年期のストレスなどがあり、いくつかのストレス要因が重なっ
ている場合もしばしばあります。
・性格‥‥神経質な人、気にしやすい人、責任感が強い人、几帳面な人などにおこりやすいよう
です。もちろんそれ以外の人にもおこります。
・体質‥‥もともと胃腸が弱い体質の人がいます。遺伝的に胃腸が弱い人もいます。このタイプの
人はストレスが胃腸に出やすいようです。
・食事‥‥暴飲暴食、食欲不振、過量のアルコールなど、心当たりはありませんか?
・睡眠‥‥睡眠不足はストレスの原因でもあり結果でもあります。
治療
「症状に応じた手当」と、「原因に応じた治療」の二つを考えます。
まず「手当」です。症状は下痢、便秘、ガスなどですから、それらを調整する薬を使いましょう
。下剤や下痢止めですね。弱いものから強力なものまで、さまざまあります。ヨーグルトを食べ
ることも勧められます。一日200グラム程度を持続してみて下さい。ヨーグルトにきな粉を混ぜる
こともしばしば勧められます。これだけですべて解決するわけではありませんが、症状が少しで
も緩和されれば、自分の状況についてゆとりを持って見通しよく考えることができるようになり
ます。
「原因」に応じた治療としては次のようなものがあります。
・充分な睡眠。
ストレスに対抗するために睡眠はとても大切です。睡眠を確保する工夫をしましょう。眠れない
ときには薬の助けを借りることも検討してみましょう。
・食事の見直し。
規則正しい食事、バランスのとれた食事内容が大切です。ゆっくり、楽しみながら食事ができて
いますか?
・ストレス解消。
これは言うほど簡単ではありませんね。仕事がストレスと分かっていても、どうしようもない状
況で、多くの人は働いています。しかしそれでも、なんとか、現在よりも少しでもしのぎやすく
するために、一緒に工夫を考えましょう。瞬間的な大きなストレスも大変な苦しみですが、持
続的・慢性的な、耐えられるぎりぎりのストレスも大変苦しいものです。
・自律訓練法。
短い時間で簡単にできます。何度かトレーニングして身につけて下さい。ストレス・マネジメン
トの初級編です。
・カウンセリング。
お話の中で自分の置かれた状況を整理してみましょう。話しても何も変わらないとあきらめない
で下さい。自分が変われば周囲が変わることもあります。時間を稼いでいるだけでも大きな希望
がもてます。時間がたてば少しずつすべてが変わるものです。
・性格傾向の把握。
心理テストなどを使って自分の性格傾向をつかみましょう。それを生活改善に役立てましょう。
・薬。
ときに漢方薬や西洋薬で調整して、それが回復のきっかけになることがあります。話し合ってみ
ましょう。


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こころの薬箱 自律神経失調症

自律神経失調症


自律神経とは

末梢神経には随意神経と自律神経があります。自律神経は交感神経と副交感神経から成り立って

います。自律神経の失調状態とは、交感神経と副交感神経の働くタイミングがうまくいかず、バ

ランスが失われた状態をいいます。たとえとして、自動車を思い浮かべて下さい。交感神経はア

クセル、副交感神経はブレーキと考えてみましょう。日中の活動中は交感神経が働いています。

そのとき副交感神経は休んでいます。寝ている時には副交感神経が働きます。そのとき交感神経

は休んでいます。つまり、アクセルを踏む時はブレーキは離し、ブレーキを踏む時にはアクセル

は離しています。アクセルとブレーキのタイミングが悪いと、困ったことになります。交感神経

と副交感神経が同時に働いたとすれば、アクセルとブレーキを両方同時に踏み込むことになり

ます。これではいくら何でもうまくいきません。このあたりのタイミングの調整については、普

通は人間が意識しなくても自動的に行われています。


症状

自律神経はどんな部分の調整をしているのでしょうか。不調になった場合、その症状としてはど

のようなものがあるでしょうか?代表的なものを一部分だけあげてみましょう。

全身……疲れ易さ、不眠、食欲不振

呼吸……息苦しさ、過呼吸発作

心臓……動悸(ドキドキ)

血液循環……冷え症・ほてり

汗……冷や汗、多汗

耳……耳鳴り、めまい

頭……頭が重い、頭痛

精神面……イライラ、ゆううつ、やる気が出ない、不安、緊張、怒りっぽい

のど……のどのあたりにに何か詰まっている感じ

生殖器……インポテンツ

筋肉……肩こり

自律神経失調症は、昔から若い女性と更年期の女性に多いといわれてきました。ストレスに悩ん

でも解消の方法がなかった人たちに多く発生したのでしょう。さらにホルモンの変動が病状を悪

化させるわけです。現代では男性も同じです。逃げられないストレスに毎日持続的にさらされて

いると自律神経の働きが乱れてきて、症状が始まります。


治療はどのようにしますか?

1.まず症状の成り立ちを正確につかむ。

表面に現れている症状が自律神経失調症状であり、その原因が自律神経の乱れであるというとこ

ろまでは多くの人に共通していますが、乱れの原因についてはさまざまです。

・生活習慣の乱れ……不規則な食事、栄養の偏り、睡眠時間の不足、不規則な睡眠リズム。これ

らは生活習慣の乱れとしてまとめることができます。これは自律神経の乱れの原因でもあり、同

時に結果でもあります。

ホルモンを含めた身体状態・体質……更年期障害に代表されるように、ホルモン状態が不安定だ

と自律神経の調整が乱れてきます。

・性格傾向……自分をおさえて他人に合わせる人、感情を自由に発散する環境にない人、このタ

イプの人は適応過剰になりやすく、自律神経症状を呈しやすいことがわかっています。また環境

に合わせきれずに、不適応を起こす人も多いものです。このタイプの人は典型的なストレス病を

呈します。性格のチェックには面接と心理テストが役立ちます。

・ストレス・過労……性格と関連しますが、ストレス・過労状態を長い間続けていると自律神経

が乱れてきます。過労状態では常に緊張を強いられます。しかし緊張状態のままでは充分な食事

やよい睡眠が得られません。緊張とリラックスの適度なリズムが必要なのです。慢性ストレス・

過労状態は、わたしたちのこころとからだのリズムを奪います。

2.適した治療法を選択する。

生活指導(食事、睡眠、運動、人間関係、その他)

薬物療法(漢方薬も積極的に活用します)

精神療法(カウンセリング)

自律訓練法(自分で手軽にできるトレーニングです)

これらの治療法があります。症状の成り立ちがきちんと把握されていれば、治療法の選択も合理

的にできます。お気軽にご相談下さい。


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こころの薬箱 不眠 最近の考え方 薬のやめ方

不眠 最近の考え方 薬のやめ方
不眠症・最近の考え方
患者さんの中には睡眠薬を「クセになるのではないかと心配だ」と考えている人がたくさんいら
っしゃいます。実際には現在の睡眠薬は、かなり改良されています。昔の薬とは違います。量が
どんどん増えたり、「依存性」が生じたりすることはありません。
一度睡眠薬を飲み始めると睡眠薬なしでは眠れなくなってしまうのではないか心配です。
睡眠薬を利用して毎日よく眠れるようにすることが肝心です。よくなれば睡眠薬をやめられま
すが、無理をしてやめる必要はありません。使い続けているうちに、自然に飲み忘れる日が増え
ていき、「もう飲まなくていいな」と感じることができます。自然にやめられます。
やめ方を教えて下さい。
一時的にストレスがあった場合、不眠症は大変起こりやすいのですが、次のように説明します。
「まず毎日安心して眠れるように睡眠薬を使いましょう。よく眠ることがクセになったら、薬は
自然とやめられるようになります」。過度に心配しなくて大丈夫です。
睡眠薬の減量は、完全に眠れるようになってから、2ヶ月様子を見て、開始します。焦って急にや
めると、反跳性不眠(悪夢、中途覚醒)や退薬症状(頭痛、頭重、めまい、不安、焦燥、いら
いら)が起こることがあります。その恐怖感からかえって、薬に対して神経質になってしまうこ
とがあります。かならず、正しいやめ方をしましょう。一回の量を少しずつ減らしていくか、週
に一回程度の休薬日を設けるか、患者さんの状態によって考えていきましょう。わたしたちは一
日量を1→3/4→1/2→1/4→0というような減らし方をおすすめしています。
その際に少しでも不眠が再発したら焦らずにしばらく減量は中止します。体調が回復すれば必ず
やめられるのです。
長い間の不眠です。体質でしょうか。
一方、体質的に慢性の不眠症の患者さんがいらっしゃいます。その場合には、10年、20年と長期
連用しても問題ありません。そうした患者さんは副作用もなく、適切な睡眠習慣を維持し、人生
を広げています。睡眠薬を適切に使用して、「自分が睡眠をコントロールできる」という自信
を持って下さい。そこから人生全般に対しての積極的な姿勢も生まれ、人生を拡大することがで
きるようになります。無理に薬を止めて、不眠が再発し、自信をなくし、人生が萎縮する、それ
が一番残念なことだと思います。よく相談しましょう。専門医はあなたを守ります。
睡眠障害対処12の指針(厚生労働省研究班報告より改編)
睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分。睡眠の長い人、短い人がいて、季
節によっても変化する。8時間にこだわらない。歳をとると必要な睡眠時間は短くなる。
刺激物を避け、寝る前には自分なりのリラックス法。就寝前4時間のカフェイン摂取は避
ける。就寝前1時間の喫煙は避ける。軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレー
ニングなどのリラックス法。
眠くなってから床につく、就寝時刻にこだわりすぎない。眠ろうとする意気ごみが頭をさえ
させ寝つきを悪くする。
同じ時刻に毎日起床。早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる。日曜に遅くまで床で過ご
すと、月曜の朝がつらくなる。
光の利用でよい睡眠。朝、日光にあたる。日光を浴びると脳内のメラトニンが調整される。
規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣。朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
。運動習慣は熟眠を促進。
昼寝をするなら、午後3時前の20〜30分。長い昼寝はかえってぼんやりのもと。夕方以降の
昼寝は夜の睡眠に悪影響。
眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに。寝床で長く過ごしすぎると熟眠感がな
くなる。
睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意。背景に睡眠の病気
があることがある。専門の治療が必要。
十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に。長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に
支障がある場合は専門医に。車の運転にくれぐれも注意。
睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと。睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚
める原因となる。睡眠の質が悪くなる。
睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全。一定時刻に服用し就寝。アルコールとの併用はし
ない。生活の質の改善を目指す。


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こころの薬箱 パニック障害

パニック障害
最近、新聞・雑誌やテレビで、パニック障害の話をよくみかけるようになりました。みなさまも
いろいろな話を聞いていらっしゃることと思います。それに伴って、心療内科にも「パニック障
害ではないか」との相談で訪れる方々が増えています。また、かかりつけの一般内科の先生にす
すめられて受診する方々も多くなっています。いまでは治療法がほぼ確立しているので、症状は
かなりコントロールできます。
最近増えたのだろうか?
昔は、不安神経症、心臓神経症、過呼吸症候群など、さまざまな名前で呼んで、それぞれ別のも
のと考えていました。しかしこれらは、「不安が非常に高まった状態」が根本で共通していると
考えられます。その結果として身体にさまざまな症状があらわれます。根本をとらえて、パニッ
ク障害と名付けました。とらえ方が変わったため、増えたように感じられますが、昔から多くあ
りました。
最近はよく効く薬物(特効薬といっていいでしょう)が使われるようになり、さらに自律訓練法
や行動療法が効果的であるということが分かって、治療にも希望が持てるようになりました。治
療すれば治る病気なので、このことを一般の方にも医療関係者にもよく知ってもらうことが大切
になってきました。それで、最近よく目にするようになったわけです。「こころの辞典」でも紹
介したように、若い女性に多く、過呼吸症候群をおこして救急車で運ばれる人の数は、東京都で
一年に12000人以上との統計があります。決して珍しいものではありません。
どんなときにパニック障害を考えるのでしょうか?
症状の例をあげてみましょう。「激しい不安」が根本で、さまざまな身体症状が伴います。どの
身体症状が出るかは、人により場合によりいろいろです。
心臓がどきどきする。
呼吸が苦しい。
息がしにくい。
のどに何かつまったような感じがする。
めまいや鳴り、ふらつきがひどい。
冷や汗が出る。
手足やからだ全体がふるえる。しびれる。
一般内科などで身体の検査をしてもはっきりした理由が見つからない。
死ぬのではないかと思うほどの恐怖。
自分が自分でない感じ。
激しい不安。
特定の場所・場面が苦手になる。例えば、電車、美容院、歯医者などが代表的。
精神病の一種でしょうか?
いわゆる精神病ではなく、心身症の一つと位置づけられています。ストレスと関連して起こる、
ストレス病の一つです。
治るのでしょうか?
大丈夫です。治ります。
原因は何でしょうか?
現在のところ不明です。しかし例えば、乳酸ソーダの話などは参考になるかもしれません。わた
したちが疲れきったとき、筋肉には乳酸ソーダという物質がたまっています。一種の老廃物です
。この物質を注射すると、パニック発作が起こるという実験があります。つまり、過労状態の時
にパニック発作は起こりやすくなるのです。この他にもいろいろなタイプがあるので、参考程度
のことではありますが、「過労状態を避けること」「疲れたら積極的に休むこと」によって、乳
酸ソーダを過剰に蓄積させないことが予防になると考えることができます。このような面からも
、ストレスをコントロールすることの大切さが分かります。
治療はどうしますか?どのくらいの期間かかりますか?入院は必要ですか?
治療は大きく分けて、薬と薬以外に分けられます。
薬物療法については、特効薬もあり、仕事などを中断することなく、手軽に試すことができるの
で大変有効です。こみいった話をしなくても、治ることも多くあります。
薬以外では、精神療法、行動療法、認知療法、自律訓練法、生活指導などを組み合わせて用い
ます。
治療の期間は人によりさまざまです。ストレスコントロールが大切なのですが、ストレスをなく
するためには仕事や勉強を一部諦めることが必要にもなります。その場合、どの程度妥協できる
かが問題になります。多少の不具合をかかえながらも自分の人生にとって大切なことは諦めない
ように、調整しましょう。パニック障害が始まってからの年月が長い人は治療にも長い期間が必
要になる傾向があります。生活に支障がない程度にまで回復することを目標として設定するなら
、それほど長くはかかりません。入院はたいていの場合必要ありません。


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こころの薬箱 適応障害

適応障害


適応がうまくできないとき、主に自律神経系の症状を呈する。持続的緊張状態の結果、交感神経

の過剰活動となり、症状発現に至る。いったん症状が出ると不安が強まり予期不安から症状の固

定化、さらには悪化を招く。治療は当然適応改善であるが、それは環境と個性の関係の問題で

あり、適応が当然よいとも言えない面がある。昔から議論されている論点であり、たとえば次の

ように表現されている。


---引用開始

適応ということを心的な健康のただ一つの基準にした医学的精神療法はハインツ・ハルトマン

まで遡る。 (中略) 彼は言う。「その生産性、人生を楽しむ能力、心の平衡が保たれてい

れば、個人はよく適応してると言える。失敗とは、適応の欠如のことである」。(中略)社会制

度自体がそもそも適応に値するかどうかは問われないのである。(中略)

その文化が適応する価値があるかという問いは、深刻に問われない。もしあなたがそれに適応

していれば幸福であり、健康であるが、もしそうでなければ病気であり、障害を起こしているの

である。かくして適応は、それが適応すべき文化の価値をあらかじめ密かに受け入れている。

ケン・ウィルバー著『進化の構造 上』 P556

---引用終わり


こう言い切っては単純化しすぎであると思うのだが、敢えて言いきった上で、ケン・ウィルバー

は適応主義を批判する。わたしはハルトマンの言い分を吟味していないし、部分的な引用を信用

してはいけないと思っているが、ケン・ウィルバーの言葉は正しいと思う。

しかし、かなり真剣に問い直したとして、「その文化には適応する価値がある」と納得できる、

よい面が多分にあるはずだと思う。また、社会の側に問題があると結論を出したとしても、そこ

から先、どうすればいいというのだろうか。

ケン・ウィルバーは体制を鋭く批判する知性として社会体制に組み込まれていると言える。この

社会にかなりうまく適応して機能していると言えるのではないか。彼は執筆することが自分の天

職だと「ダイモン」にまつわる話の中で述懐している。

とりあえず困っている人に、そもそもこの文化に適応する価値があるのかなどと言ってみても話

が迂遠すぎると思う。このあたりは文筆家と臨床家の立場の違いということになるのだろうか。

100年か1000年かかけてケン・ウィルバーの思考は浸透し実現するのだろう。一方、患者さんたち

はとりあえず早くアルコールをやめたいし、過食をやめたいし、虐待と暴力とニグレクトをやめ

たいのである。

社会を変えるには二つの方向がある。技術の革新などによって社会の仕組みを変えて、その結果

人の思考を変化させる方向が一つ。人の思考をまず変化させて社会を変化させる方向がもう一つ

である。前者は比較的速い変化であるが、後者は時間がかかる。トヨタやマイクロソフトは社会

を急激に変えた。結果として人間の思考も変えた。一方、キリスト教の愛の教えは2000年たって

、まだまだ静かにのみ人間のこころの変革と社会変革を進行中である。




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