SSブログ

コップに水が半分入っています=まだ☓まだ確率+もう☓もう確率+・・・・

思うのだが
コップにまだ半分水がある

コップにはもう半分しか水がない

どちらも正しいわけで
では正しい認識とはどういうものだろうか
と疑問に思わないだろうか

ーーー
量子力学では
未来の状態を確率をつけて複数個想定して
その総合として記述するのだと思うが
そのような方式は考えられるだろう

コップに水が半分入っています
というのがその総合状態で
まだ☓まだ確率+もう☓もう確率+・・・・
確率の総和=1
となるのだろう 



共通テーマ:日記・雑感

Bipolarity

(1)ベンゾジアゼピンはやめて抗うつ薬に
という時代から
(2)SSRIやSNRIがあるけれども大切なのは気分安定薬だろう
という流れは理解できるのだが
その前提として
単極性障害と双極性障害の鑑別ができないといけない

ポイントは躁病エピソード、軽躁病エピソード、混合性エピソードの把握にある
しかし
東京やニューヨークのような場所だと
多少躁病でもいいから
ときどきすごいことをやってくれというような要求はあると思う

普段は多少迷惑でもいいから
ここぞと言うときにすごいことをしてくれ
という要求はあって
それには双極性タイプが案外ぴったりなんだろうと思う

たとえば会社同士で交渉をするときとか
プレゼンをぶつけるときに
会社内の躁状態傾向の人を集めてぶつければ強い

躁状態はずっとは続かないでやがてうつ病になる
そうすると会社としては
その人を後ろに配置して
前面には現在躁状態という人を並べればいい

問題は相手の会社も同じように躁状態の人を選抜しているはずで
要求は徐々にエスカレートするだろうという点である

そんなことも背景にあり
問題は
躁病タイプの問題が見えなくなってしまうことである

軽躁病の場合は
職業でも対人関係でも
特に支障はなく、主観的にはむしろ絶好調なのだから
厄介である

これが地縁血縁が濃い農村社会とかならば
病像の把握として有利な点もあると思うのだ

何かに秀でてとても優秀という場合
往々にして双極性障害または双極性特性を持つわけだから
そこをどの程度病理として見るかは簡単な問題ではない

Bipolarity と名付けて スペクトラムとして
双極性の傾向を考える
昔で言う
精力性とか強力性、stheincの問題

それもわかりにくい例もあって
難しい



共通テーマ:日記・雑感

コラージュ的な夢

不思議な夢だった
昔の場面がいろいろとコラージュされていて
それなりにひとつながりの物語になっている
尋常でない人物ととってもやばい場面の連続なのだが
その場面が新しく意味づけされて
夢だから当然であるが
いちいち納得の高度な説得力なのである
そーか!と思っていたが
目が覚めてみると
やはり何のことはない、夢なのである

考えてみると
それぞれの人間の存在などというものも
期待というか約束というか、そんなもので成立しているに過ぎないようだ
いなければいないで
それなりに困らないでやっていけると思う
人間の存在もこの社会も真空である

夢の中では夜空の星みたいなものだと説明されていた
その星がそこにあると思ってみているから
期待もするし、そこにあれば安心するのだが
なければないで別段困らない
人間の存在というものもその程度のものだ
というのである

おしどり夫婦の俳優が
飛行機から飛び降りて
タイミングよく紐を引っ張り
妻のパラシュートを開く
二人は親密に振る舞い
ナレーションが流れる





共通テーマ:日記・雑感

フラッシュバック

書いていて昔がフラッシュバックする
不思議なような楽しみである
情景と感情がセットになっている
 
このようなことが起こるのは多分
脳の一部がフリーになっているからなのだろう



共通テーマ:日記・雑感

マインド・ツリー

マインド・マップとか
マインド・ツリーとか
色いろあるのだが

むかし、カルテを、ほとんど今で言うマインドツリーみたいにして
書いている先輩がいたんです

周囲にはとても不評で、
エピソードになっていない、
物語になっていない、
語り・ナラティブになっていないと散々に言われ
しかし言われても当人はそのようにしか記録できず
困っていたものです

我々は文章も時間と共に順番に読んで理解する
音楽だと時間をかけて演奏を聞いて感銘を受ける

しかしこの先輩のマインド・ツリーだと
物語として理解するのは少し難しい
情報の集まりであるから、何かしら理解はできるけれど、
そこからどんな物語を生成するかは
読む側の責任になってくる

だからたぶん、物語になる一歩手前の、情報の集まり
個別の情報同士の関係は図示されている
と言った具合だ

楽譜だってたとえばモーツァルトなんかは
実時間をかけないで 
一挙に理解するし感銘を受けるのだろう

ーーーーー
そんなわけで、
頭の構造がマインドマップの人がいるわけで、
とてもとても他人を説得できるような頭ではない
自分で何かを理解するにはそれでいいのだろうが
話を聞いていてもよく理解出来ない
話が急に飛んだり
実務的でない話のうちはいいんです
趣味の話とかならばね
でも実際にどうするという話しになると
そのように話が飛んでいたのでは付き合いきれない 

特質というべきか
やや病気というべきか

ーーーーー



共通テーマ:日記・雑感

蘭の開花と雪

IMG_005012.png

2012年2月

一年間待合室でともに過ごした蘭の鉢植えが花を咲かせた

もともとのDNAが元気らしい 

IMG_00511.png

蘭が咲いて春らしい雰囲気になったところで東京に雪

 

IMG_005522.png

雪の後、二つ目の蘭の花が咲いたので
やはりうれしい

 



共通テーマ:日記・雑感

ホイットニー・ヒューストン48歳

採録  hanging out の用例

-----------------------------------------------------------
 2月11日、米国の人気歌手、ホイットニー・ヒューストンが48歳で急逝し、米国のメディアはこの話題で持ちきりになった。

 ABCニュースに登場したあるコメンテーターは彼女の死を“sad demise”と表現した。筆者が在籍するモントレー国際大学院で通訳・翻訳を専攻する英語ネイティブの学生や教員に確認したところ、demiseは「死」を表現する言葉としては、deathよりは硬く、passing away よりは柔らかい印象だという。“sad demise”を日本語にするなら、「非業の死」「哀れな最期」などがしっくりきそうだ。

 また、deathやpassing awayが死亡という事実のみを表すのに対し、demiseは破滅・崩壊していくプロセスを指すこともある。ホイットニーのdemiseと言った場合、それは死亡した事実だけではなく、drug abuse(薬物乱用)やdomestic abuse(家庭内暴力)によって名声を失っていった過去十数年の状況も指している、というのが確認したネイティブの一致した見方だった。メディアでは“substance abuse”という表現も使われていた。訳すとこれも「薬物中毒」になるが、“drug abuse”より範囲が広く、いわゆる薬物に加えてアルコールも含まれる。

健全そのものの「国家の宝」だったホイットニー

 メジャーデビューした1985年から90年代前半にかけてのホイットニーは、“national treasure”(国家の宝)といわれた伸びやかな歌声に加えて、清純派のイメージが売りだった。ロサンゼルス・タイムズは2月12日の死亡記事で“wholesome”という言葉を使っている。MIISの同級生、スティーブンは「wholesomeというと、母親がエプロンをしていて、子供の髪型は7:3に整えられ、毎晩6時に帰宅する父親を待って家族全員で食卓を囲み、日曜日には教会に行くような1960年代の家庭のイメージ」と語った。要は「健全そのもの」ということだ。

 だが92年に歌手ボビー・ブラウンと結婚すると、ホイットニーの運命は暗転する。2002年、ABCの人気司会者ダイアン・ソーヤーとのインタビューで、彼女の不道徳なイメージは決定的になってしまった。cocaine(コカイン), pills(合法・非合法のピル), marijuana(マリファナ)の使用を暗に認めたうえで、廉価版のコカインcrackについてこう語ったのだ。

 “Crack is cheap. I make too much money to ever smoke crack. Let’s get that straight. Okay? We don’t do crack. We don’t do that. Crack is wack.”(クラックなんて安物よ。私は稼ぎが良すぎるからクラックなんかやらない。それだけははっきりさせておくわ。いい? 私たちはクラックはやらない。絶対にね。クラックなんか最低。)

 「コカインは金持ちでお洒落な人がやるもの、クラックはホームレスがやる格好悪いもの」とMIISで日英翻訳を教えるターニャ・パウンド准教授は説明する。ホイットニーはクラックの使用を強く否定することで「自分はそこまで堕ちていない」と言いたかったのだろうが、逆効果だったようで、“crack is wack”は彼女の名(迷)言としてすっかり有名になってしまった。

 あるテレビ番組は凋落が始まってからのホイットニーを“self-destructive public spectacle”(自滅型のゴシップタレント)と表現した。“spectacular”と言えば肯定的な意味もあるが、“spectacle” というと明らかに否定的な言葉で、「恥さらし」に近い。

 生前のホイットニーと親しかったセリーヌ・ディオンはABCのニュース番組に電話出演し、“It is very unfortunate that drugs and bad people or bad influence took over.”と語った。unfortunateは「残念」の意味に加えて、“it should not happen”(あってはならないこと)というニュアンスもあるという。「薬物や悪い人々の影響がホイットニーの命を奪ってしまうなんて本当に残念、理不尽だ」と言っているのだ。

米国社会に深く蔓延する薬物中毒

 そしてセリーヌ・ディオンは、ホイットニーと同じように、晩年のエルビス・プレスリー、マリリン・モンロー、マイケル・ジャクソン、エイミー・ワインハウスらが薬物依存に陥ったことに言及し、こう言った。

 “I am scared of show business, I am scared of drugs and I am scare of hanging out. That’s why I don’t do parties, that’s why I don’t hang out, that’s why I am not a part of show business because we have to be afraid.”
Whitney Houston Death: Celine Dion, Inspired by Houston, Says Her 'Music Will Live Forever' 
 (ショー・ビジネスは怖い、ドラッグも怖い、芸能界の人たちと付き合うのも怖い。だから私はパーティもやらないし、芸能界の人たちとは付き合わないし、ショー・ビジネスとも距離を置くようにしている。だって恐怖心を持つのが当然だもの)

 とはいえ、薬物の蔓延はショー・ビジネスの世界に限った話ではないようだ。MIISのある学生は「コカインやクラックはともかく、マリファナについては高校や大学時代に米国人の少なくとも50%は経験していると思う。多くの人がアルコールと変わらない印象を持っている」と説明する。

 実際、カリフォルニア州などではマリファナの合法化を支持する声が根強い。「小金持ちのパーティに行くと、アルコールと一緒にcoke(cocaineのスラング)やgrass(marijuanaのスラング)を勧められることが多い。crackが出されることはまずないけどね」という声もあった。

 2月18日付のロサンゼルス・タイムズの記事は“We're a culture of addicts”と書いている。「我々は中毒文化に侵されている」といった意味だろうか。「ドラッグ、不健康な食べ物、リアリティショー、一瞬たりとも手放せなくなった最先端のデジタル機器などを通じて、別世界や一時的な気晴らしに逃避している」と記事は指摘する。ホイットニーの死と薬物との因果関係は不明だが、晩年には薬物の影響で全盛期とは似ても似つかないしゃがれ声に変わってしまった彼女の凋落は、米国人には他人事とは思えないのかもしれない。

「君は、素晴らしかったよ」と悼んだケビン・コスナー

 18日に開かれた葬儀で弔辞を読んだ俳優のケビン・コスナーは、「ホイットニーはいつも“Am I good enough?”(私、これでいいのかな?)と自問していた」と語った。そして「そういうプレッシャーが彼女を大スターにし、また身を滅ぼす原因にもなった」と振り返った。そして最後にこう語りかけている。
“Whitney, if you could hear me now, I would tell you, you weren’t just good enough. You were great.”

 この部分は日本のメディアでも取り上げられ、「ホイットニー、君は偉大だった」「偉大なことを成し遂げた」などと訳されていたが、パウンド准教授に確認したところ「君はこれでいいどころじゃない、素晴らしかったよ」とするのが原文のニュアンスに近いようだ。

 人間離れした才能に恵まれていながら、あまりに人間的な弱さを抱えていた点が、ホイットニーの根強い人気の理由だったのかもしれない。





共通テーマ:日記・雑感

アルツハイマー型認知症治療剤「レミニール」

2011年3月 新規アルツハイマー型認知症治療剤「レミニール[レジスタードトレードマーク]」を新発売しました。[晴れ]

ガランタミンはマツユキソウ(Galanthus woronowi)の球茎から単離された第3級アルカロイドです[晴れ]。薬理試験の結果、ガランタミンは、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用により脳内アセチルコリン(ACh)濃度を上昇させるとともに、既存薬とは異なりAPL*としてニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のACh結合部とは異なる部位(アロステリック部位)に結合し、AChによるnAChRの活性化を増強させることが示されました(APL作用)。これら2つの薬理作用(デュアル・アクション)により、アルツハイマー型認知症で低下しているコリン機能を賦活化し、認知症症状の進行を抑制します。

海外ではアルツハイマー型認知症患者を対象とした臨床試験を実施し、2010年4月「軽度から中等度のアルツハイマー型認知症」の治療薬として、錠剤、内用液は米国、フランス、英国、ドイツを含む、73の国と地域で承認されています。

本邦では、ガランタミン製剤(レミニール[レジスタードトレードマーク])として、錠剤に加え、嚥下機能等の問題による服薬コンプライアンス低下に対して有用と考えられる口腔内崩壊錠及び内用液の3種類の剤形で製造販売承認を申請し、2011年1月に承認されました。

*APL:allosteric potentiating ligand,アロステリック活性化リガンド
*国内で承認された効能・効果は「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」です。

ーーーーー
デュアル・アクション 



共通テーマ:日記・雑感

抗うつ薬とリチウム

うつ病の抑うつ感や気分の落ち込みを改善する抗うつ薬には、『三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬・SSRI・SNRI』など色々な種類がありますが、最も早い時期に開発された抗うつ薬はMAO阻害薬と三環系抗うつ薬でした。1951年にアメリカのニュージャージー州にあるホフマン・ラ・ロシュ社が、結核の治療薬(抗結核薬)としてヒドラジン化合物のイソニアジドとイプロニアジドを開発しました。ヒドラジンは元々、第二次世界大戦でドイツのV-2ロケットの燃料に用いられた物質で『爆発性・毒性』を有していますが、化学変化を起こさせることで各種の医薬品を合成することができます。

イソニアジドとイプロニアジドは、MAO阻害薬(モノアミン酸化酵素阻害薬)に分類されますが、イソニアジドのほうは抗結核薬として用いられています。1952年にイソニアジドやイプロニアジドを投与された結核患者の中に、『気分の高揚感・爽快感・多幸感』を訴える人がでて、その後のイプロニアジドの臨床試験でうつ病の改善効果が認められるようになります。1956年にはアメリカの精神科医ネイサン・S・クラインJ.C.ソウンダースH.P.ルーマーが、ニューヨークのロックランド州立病院でイプロニアジド(商品名:マーシリッド)の臨床試験を行い、精神賦活剤としてうつ病治療に有効性があることを確認しました。

モノアミン酸化酵素(MAO)を阻害して、シナプス間隙におけるモノアミンを増やすとされるMAO阻害薬には、チラミンが蓄積することによる『激しい頭痛・血圧上昇・肝疾患・出血傾向』などの副作用があります。現在では副作用の強さや処方用量のコントロールの難しさから、うつ病治療にMAO阻害薬が使われることは相当に少なくなっています。そういった副作用を回避するために、MAO阻害薬を服用している患者は、『赤ワイン・チーズ・漬け物・発酵食品』といったチラミンを多く含む食品の摂取を控えるようにしなければなりません。

MAO阻害薬が開発されていた同時期の1950年代に、『古典的な持続睡眠療法』のための薬剤開発をしていたスイスの精神科医ローラント・クーンは、鎮静・催眠作用ではなくて高揚・気分改善作用を持つ三環系抗うつ薬(TAD)の『イミプラミン』を開発しました。イミプラミンは抗精神病薬で使われていたフェノチアジンと類似した化学構造を持っていますが、3つの環状構造を持つことから『三環系抗うつ薬』と呼ばれます。ローラント・クーンは1957年に、チューリッヒで開かれた国際精神医学会議に出席して、イミプラミンのうつ病症状の改善効果と前向きな認知・行動の誘発効果について語りました・

イミプラミンは『うつ病の抑うつ感・気分の落ち込み』に対して選択的に作用するものの、薬理作用が発生するまでには1~3週間程度の時間が必要になるとされ、躁病(manic)や統合失調症、激怒発作を伴ううつ病には効果が認められませんでした。1957年に初めてのMAO阻害薬としての抗うつ薬であるイプロニアジドが販売されましたが、1958年にはガイギー社がイミプラミンを商品名トフラニールとして販売し始めました。現在では三環系抗うつ薬は古典的な薬とされますが、薬理機序の特徴としてはSSRIのような『セロトニン選択性』が認められず、『セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリン』といった複数の神経伝達物質の再取り込みを阻害して気分を高揚させると合理的に推定されています。

気分が異常なハイテンションになって多弁・軽率・大胆になり、冷静で的確な認識能力(判断能力)を喪失してしまう精神疾患が『躁病・躁状態』ですが、躁状態とうつ状態を交互に繰り返す精神疾患を『双極性障害(躁鬱病)』といいます。気分が過度に興奮して日常生活に支障がでてくる躁病を改善する抗そう薬として、最も多く利用されているのが『炭酸リチウム(商品名:リーマス)』ですが、リチウムは元々さまざまな病気・症状に対して医学的に利用され続けていました。リチウムはハイテンションを抑制する『抗躁薬』ですが、うつ状態の気分を持ち上げる効果もあるので『気分安定薬』と呼ばれます。

リチウムは1871年にスウェーデンの化学者ヨハン・アウグスト・アルヴェッドソンに発見された金属元素であり、19世紀初頭から神経活動を鎮静するということで『てんかん・リウマチ・痛風・腎臓結石・神経痛・膀胱結石・湿疹』などの治療に使われていました。リチウム含量が多い水が、リウマチや神経痛、てんかん、痛風などに効くという触れ込みで、いわゆる『水ビジネス』がアメリカで流行したこともありました。リチウムが躁状態の気分の高ぶりを抑制してくれるという考え方は、臨床試験が実施される以前からあり、ニューヨークのベルビュー病院の神経科医ウィリアム・A・ハモンドは臭化リチウムを躁病の治療に用いていたのです。

リチウムの名前は1940年代のアメリカで『リチウム塩の健康被害』を起こしたことで世界的に知られることになりますが、これは高血圧症の減塩治療のために『塩化ナトリウム(一般の食卓塩)』『リチウム塩』に置き換えることで発生した健康被害でした。リチウム塩を日常的に摂取し続けると『心機能低下・手足の振るえ・運動障害の歩行困難』の副作用が起こり、心臓に持病があるような人では死亡リスクも高くなってくることが分かったのでした。

リチウムに躁病を改善する効果があることは、オーストラリアの医師ジョン・ケイドのモルモットを用いた行き当たりばったりの動物実験によって確認されることになりますが、ジョン・ケイドは自分自身で『炭酸リチウム』を服用してから躁鬱病患者へのリチウム療法に取り組んだのでした。双極性障害の気分の急激な変動と興奮を抑制するために、気分安定薬の炭酸リチウムが用いられるようになっていますが、炭酸リチウム以外にも気分を安定させるためにカルバマゼピンやバルプロ酸といった抗けいれん薬が投与されることもあります。現在では、炭酸リチウムは躁状態と抑うつ状態に対する改善効果が高い薬剤として認知されていますが、リチウムがどのような生理学的メカニズムによって、双極性障害の症状を和らげるのかについては不明な部分が多く残されています。

 

 



共通テーマ:日記・雑感

睡眠薬

睡眠薬は、心理的葛藤、緊張、不安感、焦燥感、人間関係の悩み、職場・家庭・学校環境でのストレス、身体の病気による苦痛や不快感など実に様々な原因によって引き起こされる『眠れない苦痛や悩み』を主訴とする睡眠障害を治療する薬です。

現在、睡眠障害を改善する為に処方される睡眠薬の大部分は、化学構造的にベンゾジアゼピン系に分類されるもので、副作用が比較的軽いという特徴があります。更に、睡眠薬処方の際に最も懸念されていた大量服用による致死性がなく、薬物相互作用及び耐性や身体依存性が生じ難いという従来の睡眠薬(バルビツール酸系及び非バルビツール酸系)の欠点を補う優れた特性を持ち、安全性の高い薬剤として知られています。安全性の高さとして、呼吸器系や循環器系の抑制作用が弱いことも挙げられるでしょう。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、マイナートランキライザー(緩和な精神安定剤)とも呼ばれ、抗不安薬と同じ分類になるものが多くを占めます。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用機序の概略は、『中枢神経系(主として大脳辺縁系)の活動を抑制するGABA(アミノ酸の一種)という神経伝達物質の働きを良くして、リラックスした状態を作り出し催眠効果を発現する』という事です。睡眠薬を処方する場合には、患者の睡眠の型(パターン)を知り、どのような形で不眠の症状が現れているかを把握した上で、適切な作用をもった睡眠薬を選択する事が重要になってきます。

次に薬剤の血中濃度半減期(生物学的半減期)について簡単に説明します。睡眠薬に限らず薬を飲むと、薬が血液中に溶け込んでそれが脳内(他の薬剤では身体内部の各器官・組織)に送り届けられる事で鎮静作用(他の薬剤では諸作用)が働き、眠気を起こすのですが、血液中の薬物の濃度は時間の経過に従って当然に低くなっていきます。

その場合に、薬の効き目が弱くなる時点として、血液中の薬の濃度が半分になる時を血中濃度半減期と呼びます。体内に残留しない通常の薬では、半減期以降は次第に薬の作用が弱くなっていき、最後には作用が消失するという事を意味するので、生物学的半減期は重要な作用持続時間の指標となるのです。特に、症状に合った睡眠薬をセレクトする場合には、それぞれの睡眠薬の作用時間を考慮する必要があるのですが、その場合には、それぞれの薬の生物学的半減期の違いを利用している事になります。

つまり、寝ようとしてもなかなか寝付けなくて困っている人には、半減期の早い短時間作用型の睡眠薬を処方したり、眠りが浅くて眠っている途中に何度も目覚めてしまう人には、半減期の長い中時間~長時間型の睡眠薬を処方したりといった感じで、不眠症状に合わせた薬の使い分けをしているのです。

眠れないという睡眠障害のパターンには、大きく分けて4つのパターンがあります。

  • 入眠障害(就眠障害)
    (眠ろうと思ってベッドや布団に入っても、寝つきが悪くてなかなか眠る事が出来ない不眠のタイプです:短時間型の睡眠薬に適応)
  • 熟眠障害
    (浅眠ともいい、眠りに就くことは比較的簡単に出来るのに、眠った後の眠りが浅くて睡眠の途中で何度も目が覚めてしまうという不眠のタイプです:中~長時間型の睡眠薬に適応)
  • 早朝覚醒
    (まだ眠れる時間が沢山あるのに、異常に早い時間(早朝や短時間の睡眠後)に目が覚めてしまい、それ以後は眠れなくなるという不眠のタイプです:中~長時間型の睡眠薬に適応)
  • 多夢
    (恐怖や不安を喚起するような眠りを妨げる夢ばかりを見て、質の良い睡眠をとれないという不眠のタイプです:状況を見て、適した睡眠薬を与薬)

このように不眠にはいろいろな種類の症状があるので、その症状に合わせた作用時間の睡眠薬を選んでいるというわけです。

上記に不眠症状の代表的なパターンを示したのですが、反対に『理想的な眠り』について考えてみると、『全体の睡眠時間が十分に長い』『眠ろうと思った時に寝つきが良く、短時間で眠りに就ける』『覚醒回数が少なく、一旦、睡眠に入ると途中で何度も目覚めない』『覚醒した場合の覚醒時間が短い』『睡眠から覚めた時に、だるさや脱力感がなく、爽やかである』といった特徴を上げる事が出来ます。

睡眠障害の治療は、そのような理想的な眠りを得る事を最終的な目標として行われなければならないでしょう。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の一覧
一般名商品名作用時間
トリアゾラムハルシオン超短時間型
ブロチゾラムレンドルミン短時間型
エチゾラムデパス短時間型
ロルメタゼパムエバミール短時間型
塩酸リルマザホンリスミー短時間型
ニトラゼパムベンザリン、ネルボン中時間型
ニメタゼパムエリミン中時間型
エスタゾラムユーロジン中時間型
フルニトラゼパムロヒプノール、サイレース中時間型
塩酸フルラゼパムベノジール、ダルメート長時間型
ハロキサゾラムソメリン長時間型
クアゼパムドラール長時間型
ゾルピデムマイスリー超短時間型・非ベンゾジアゼピン系
ゾピクロンアモバン短時間型・非ベンゾジアゼピン系

バルビツール酸系睡眠薬の一覧
(現在では、抗けいれん薬・静脈麻酔としての使用が多い)
一般名商品名作用時間
ヘキソバルビタールチクロパン短時間型
ペントバルビタールラボナ短時間型
アモバルビタールイソミタール中時間型
バルビタールホエイ長時間型
フェノバルビタールフィノバール長時間型
ブロムワレリル尿素ブロバリン短時間型(その他の睡眠薬)



共通テーマ:日記・雑感

ベンゾジアゼピンについて

抗不安薬と睡眠薬(睡眠導入剤)は、緩和な精神安定剤という薬効から『マイナートランキライザー』と呼ばれます。

抗不安薬と睡眠薬は化学的分類が同一の薬剤が多く、作用と副作用も共通している部分が多いので、一緒にしてマイナートランキライザーと言うのです。そして、数多くあるマイナートランキライザーの個々のお薬の中で、中枢神経系に作用して不安や興奮を鎮める作用に優れているものを症状や主訴に合わせて抗不安薬として用い、催眠作用の強いものや悩んでいる不眠症状に適した特性を持つ薬剤が睡眠薬として処方されます。

不安や不快な緊張、イライラなどの不安定な精神症状を改善する抗不安薬と睡眠障害で眠れず悩んでいる人を眠りに誘ってくれる睡眠薬は、不安障害やパニック障害、睡眠障害といった薬の名前に直接対応した精神疾患だけでなく、心理的ストレスが原因で起こっていると思われる頭痛・腹痛・胃部不快感・動悸・肩こり・腰痛・手足の痛みなどの心身症的な症状に対して処方される事もありますので、『自分は不安感や情緒不安定で悩んでいるわけでもないのに、何故、抗不安薬が処方されたのだろうか?』と不思議に思った方は医師に、処方されたお薬の説明をして貰うと安心できるのではないかと思います。

現在、マイナートランキライザー(抗不安薬&睡眠薬)として使用されている薬剤の圧倒的大部分は、化学的に『ベンゾジアゼピン系』に分類される薬剤です。抗不安・催眠効果のある精神安定剤はベンゾジアゼピン系以外にもバルビツール酸系・非バルビツール酸系(バルビツール酸系の改良版)などがありますが、現在、抗不安・催眠作用を目的として処方される薬剤の殆どはベンゾジアゼピン系です。

ベンゾジアゼピン系薬剤が主流として使用されている最大の理由は、耐性(身体が薬剤に慣れて効果が出難くなる)や依存性が生じ難い事と、副作用が比較的少ないので安全性が高いからです。

昔、睡眠薬一般に対して抱かれていた『大量に飲むと死ぬ』『1回飲み始めると、薬物依存になって止められなくなる』といったイメージは、バルビツール酸系睡眠薬に対するもので、現在のベンゾジアゼピン系の精神安定剤(睡眠薬)では、相当量のOD(オーバードーズ:過量投与)をしても死に至る事は通常なく、禁断症状が出て飲まずにはいられないといった薬物依存状態にはなりません。また、ベンゾジアゼピン系薬剤は、REM睡眠の抑制が少ないので、寝ている間に夢を見る確率が上がり、質の良い睡眠を取り易くなっているという長所もあります。

マイナートランキライザーの副作用としては、『一過性の健忘(記憶障害)』『眠気(車の運転や危険な機械の操作は避けて下さい)』『倦怠感・脱力感(ボーっとして集中力が出ないなど)』『筋弛緩作用によるめまい・ふらつき(頭がクラクラする時には、転倒の危険がある為、無理して動かないで下さい)』『呼吸の抑制』『頭痛』『不快感』などが代表的なものとしてありますが、お薬の種類によって副作用の出方にも特徴がありますので、副作用についても医師の説明を受けるようにしましょう。

また、長期間高用量のマイナートランキライザー服用をしていて、突然、自己判断で服用を中断すると『反跳性不眠』と言われるリバウンドとしての強い不眠や不安感を感じる副作用が出る危険性があるので、服用を止める時には医師に相談して段階的に減薬していく事が必要でしょう。

妊婦のベンゾジアゼピン系薬剤の服用によって、胎児への催奇形性の影響が報告されていますので、妊婦の方には慎重な投与が必要で、原則として処方しない事となっています。また、ベンゾジアゼピン系薬剤は母乳の中にも代謝される為、睡眠薬や抗不安薬を飲んでいるお母さんは、赤ちゃんへの授乳もしない様にした方が良いです。

ベンゾジアゼピン系は、安全性の高い薬ですが、アルコールとの併用は神経抑制作用(鎮静と催眠などの作用)とアルコールの酩酊作用を共に増強するので危険です。お薬をお酒と一緒に飲まないという事は基本的な事ですが、ついついうっかりしてアルコールを飲んだ後に睡眠薬を飲んだりしない様に気をつけましょう。

次に、マイナートランキライザー(ベンゾジアゼピン系)の作用機序を説明します。

このお薬の作用を簡単明快に分かり易くまとめると、『中枢神経系の過剰な働きを抑える事で、穏やかなリラックスした気持ちにさせて、落ち着いた心理状態を生み出すという作用』です。

マイナートランキライザーがどのような過程を経て精神の安定効果をもたらすかというと、『GABA;ガンマアミノ酪酸(アミノ酸の一種)』という神経伝達物質の働きを強める事で効果を発揮します。GABAは、気持ちを高揚させるノルアドレナリンやセロトニンといった興奮性の神経伝達物質の働きを抑えて、心をリラックスさせる神経抑制作用を持っています。

ベンゾジアゼピン系薬剤と結合する神経の部位であるベンゾジアゼピン受容体は、GABAと結合するGABA受容体と非常に近い隣接した位置にあり、ベンゾジアゼピン系のマイナートランキライザーが神経細胞内に入ってくるとベンゾジアゼピン受容体にくっつく事でGABA受容体の働きも活性化させます。結果として中枢神経系の活動が抑制されて、不安や緊張、イライラ、不眠といった精神状態を改善する作用を発揮します。

ベンゾジアゼピン系薬剤の代表的な作用には、以下の5つがあります。

  • 抗不安作用(不安や緊張、焦燥、イライラなどの不安定な精神状態を和らげます。不安感や気持ちの落ち着かなさを訴えるような心身症・不安障害・うつ病・自律神経失調症など幅広い適応症を持ちます。)
  • 催眠作用(中枢神経系を抑制して、眠気を起こさせます。お薬の種類によって、作用持続時間と強さが異なりますので、医師は個々の不眠症状に合わせて適切な薬剤をセレクトしています。)
  • 筋弛緩作用(筋肉の緊張を緩める作用があり、筋緊張性頭痛やストレス緩和の効果がありますが、日常生活に支障を来たすレベルの脱力感や倦怠感といった副作用として出る場合もあります。)
  • 鎮静作用(中枢神経系の過剰な働きを抑えるので、激しい興奮や気分の異常な高揚、錯乱、暴れ回っている状態などを鎮静する作用があり、静脈注射での投与であれば短時間で鎮静の効果を発現します。)
  • 抗痙攣(けいれん)作用(癲癇や小児熱性痙攣、神経症などによるけいれん発作を抑えたり、予防したりする効果があります。けいれん重積状態の場合には、ジアゼパムやクロナゼパムを静脈注射する事もあります。)

ベンゾジアゼピン系&チエノジアゼピン系抗不安薬の一覧
一般名商品名作用時間・強度
エチゾラム(チエノジアゼピン系)デパス、エチカーム他短時間・強
クロチアゼパム(チエノジアゼピン系)リーゼ、ロミニアン他短時間・弱
ブロマゼパムレキソタン、セニラン他中時間・中
クロキサゾラムセパゾン長時間・強
アルプラゾラムソラナックス、コンスタン中時間・強
オキサゼパムハイロング、プリミズム他中時間・弱
クロルジアゼポキシドバランス、コントール他長時間・弱
ジアゼパムセルシン、ホリゾン他長時間・中
フルタゾラムコレミナール短時間・弱
ロラゼパムワイパックス中時間・強
フルジアゼパムエリスパン長時間・強
メキサゾラムメレックス長時間・強
メダゼパムナーシス長時間・弱
オキサゾラムセレナール長時間・弱
ロフラゼプ酸エチルメイラックス、スカルナーゼ他超長期(90時間以上)・中~強
フルトプラマゼパムレスタス超長期(90時間以上)・強
プラゼパムセダプラン超長期(90時間以上)・弱
クロナゼパム(抗てんかん用途)リボトリール長時間・中
ヒドロキシジン(非ベンゾジアゼピン系抗ヒスタミン薬)アタラックスP、ピゾン、アラモン本来は皮膚疾患用途だが抗不安効果あり。
メプロバメート(非ベンゾジアゼピン系)アトラキシン依存性が強い・急性中毒に注意。
タンドスピロン(セロトニン作用性抗不安薬))セディール抗不安に加え、抗うつ作用もある。

作用時間は、『長時間=24時間以上』『中時間=12~24時間以内』『短時間=6時間以内』を目安として考えてください。



共通テーマ:日記・雑感

抗うつ薬の解説

うつ病のセロトニン仮説と抗うつ薬の薬理機序

抗うつ薬には、三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬・SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬)・MAO阻害薬などの種類があります。憂鬱感や気分の落ち込み、不安感を改善する抗うつ薬の作用機序は、脳内のセロトニン・レベルやノルアドレナリン・レベルによって精神状態や気分の高低が決定されるという脳内モノアミン仮説(アミン仮説)を前提としています。つまり、脳内の神経細胞(ニューロン)終末と他の神経細胞終末との間にあるシナプス間隙において、セロトニン(5-HT)やノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質(情報伝達物質)の分泌・受容が行われるというのがモノアミン仮説です。

脳内の情報伝達物質の交換によって精神活動が営まれるというモノアミン仮説(セロトニン仮説)を前提とすると、不快で苦痛な精神症状(抑うつ感・不安感・パニック・強迫観念)を治療したり予防する為には、脳内の情報伝達物質の分量をコントロールすれば良いという考えに行き着きます。モノアミンの一種であるセロトニン(5-HT)は、人間の脳幹に近い縫線核の細胞内で産生されて、ニューロンの末端まで運搬されシナプス小胞に貯蔵されます。シナプス小胞に貯蔵されたセロトニンは、脳内の情報交換を行う時に微弱電流(インパルス)の電気刺激(神経興奮)によって、シナプス間隙に放出されます。シナプス間隙に放出されたセロトニンの一部は、セロトニントランスポーターという部位に再び吸収されるのですがこの現象を「再取込」といいます。パキシルやルボックス、ジェイゾロフトなどSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:選択的セロトニン再取込阻害薬)に分類される薬剤は、このセロトニントランスポーターに特異的(選択的)に結合して再取込を阻害することで、うつ病の気分や感情の障害を改善するとされています。

脳内の化学的な情報伝達の結果、シナプス間隙に存在するセロトニン(鎮静系の化学物質)やノルアドレナリン(賦活系の化学物質)の分量が過度に少なくなると精神運動制止(精神運動抑制)が起きて、抑うつ感や億劫感、焦燥感、不安感といったうつ病の心身症状が発症してくると考えられています。セロトニンが不足した場合とノルアドレナリンが不足した場合との症状や問題の区別について明瞭な基準は存在しませんが、モノアミン仮説の理論モデルでは鎮静系の精神作用を持つセロトニンが不足すると不安感や焦燥感、パニックなどの不安中核症状が発現しやすいと考えられています。反対に、賦活系の作用を及ぼすのではないかと推測されているノルアドレナリンの分量が不足すると、抑うつ感や億劫感、倦怠感(無気力)などの精神運動制止の症状が発現しやすくなると考えられています。しかし、精神疾患の病態や経過、あるいは患者の主訴や悩みからセロトニン系とノルアドレナリン系のどちらの神経伝達が障害されているのかを特定するような事は、現段階の医学技術や理論水準では不可能です。

現代の精神神経医学や精神薬理学は、20世紀半ばまでの精神外科的療法(エガス・モニス考案のロボトミー等)に代表される危険な精神医療と比較すれば飛躍的な前進を遂げたとは言えますが、うつ病の生理学的な病理メカニズムや薬物の実際的な作用機序について、具体的な内容は殆ど明らかになっていないという問題を残しています。セロトニン仮説に基づく抗うつ薬の作用機序は、薬物療法の統計学的な効果や動物実験のデータから帰納的に考えられたものに過ぎません。

セロトニン(5-HT)という生態ホルモンは、中枢神経系の脳器官以外にも、胃腸など消化器や血液中の血小板に存在しています。セロトニンは、気分の高揚や落ち込み、感情の興奮や抑制、意欲の亢進や減退といったうつ病症状の精神機能の変調に関係している一方で、『睡眠覚醒・体温調節・摂食行動・性行為・内分泌(ホルモン分泌)の調整・認知機能・生体リズム・概日リズム(サーカディアンリズム)』といった生体の生理学的機能(本能行動)にも影響を与えていると言われています。

セロトニン系の神経伝達過程の障害やセロトニン・レベルの低下が引き起こす精神症状や身体疾患、不適応行動には多種多様なものがあり、現時点で推測されているセロトニン系の心身障害には『気分障害(うつ病)・統合失調症・全般性不安障害・社会不安障害・パニック障害・強迫性障害・自閉症・物質嗜癖(薬物依存)・攻撃性の亢進(暴力行為の誘発)』などがあります。その為、セロトニンの分泌量が減少するセロトニン・レベルの低下が何を意味しているのか、どういった症状の原因となっているのかを厳密に実証主義的に特定することが出来ないという問題もあるのです。

セロトニン仮説を中核とするモノアミン仮説は、飽くまで理論的な仮説モデルとして提起されているだけなので、実証科学(客観具体的な根拠に基づく科学)として確固たる根拠に支えられているわけではないのです。その為、実際にどのような神経生理学的過程を経てうつ病が発症するのかという問題が今後の精神医学や生理心理学の課題として残されており、fMRIやPETの画像診断法(客観的な検査データ)などによってうつ病を正確に鑑別診断できることが期待されています。モノアミン仮説に基づく薬物療法を的確に実施する為に、精神医学的な診断に望まれることとして、うつ病患者と健常者を確実に区別する為の診断基準や医学検査の確立があります。

ベンゾジアゼピン系から抗うつ薬へ

精神医学の薬物療法は、抗精神病薬クロルプロマジンの開発を受けて20世紀半ばくらいから急速に進歩したが、精神分析による精神療法が隆盛していた19世紀末から20世紀初頭頃には薬物療法は殆ど進歩していませんでした。19世紀には、神経学的(心因反応的)な異常とされていた神経症や心理社会的ストレスを主要因とする身体疾患である心身症の治療に対する薬物療法に、鎮静作用を持つアルコールやモルヒネ、コカインなど依存性(嗜癖性)の強い麻薬が使用されていました。

20世紀初頭には、ブロム化合物(臭化物)とバルビツール酸系の睡眠薬が、不眠症状(睡眠障害)や錯乱・興奮・焦燥を示す患者の精神医療に使用されるようになり、1930年代には、慢性的な疲労感や倦怠感、無気力に効果があるとされた中枢神経刺激薬デキストロアンフェタミンが流行しました。その後、デキストロアンフェタミンは、精神鎮静薬アモバルビタール(バルビツール酸系)と化学合成されてデキサミルという疲労回復・精神覚醒の効果のある薬剤となりましたが、精神刺激薬に見られやすい依存性や耐性が問題となりました。現在、ADHDの諸症状(多動・注意散漫・集中力の低下・衝動性・逸脱行動)を改善する為の薬剤として、デキストロアンフェタミンと類似した化学構造を持つ中枢神経刺激薬の塩酸メチルフェニデートが用いられることがあります。ADHDに対する効果では、メチルフェニデート(商品名・リタリン)のほうが症状改善の有効性が高いという臨床試験結果が出ています。

効果的な薬物療法の大きな転機になった開発として、1952年の抗精神病薬クロルプロマジン(商品名:コントミン,ウインタミン)の発見に続く、1954年の抗不安薬メプロバメート(商品名:ミルタウン, アトラキシン)があります。メプロバメートは、チェコスロバキア出身のアメリカ人研究者フランク・バーガーが筋弛緩薬の実験を行っている時に発見されました。それまでの強力な神経鎮静薬(麻酔薬・筋弛緩薬)と比べて鎮静作用がマイルドだったので、メプロバメートはトランキライザー(精神安定剤)と呼ばれるようになりました。

神経症を始めとする精神疾患に見られる不安や緊張の症状の強度は、自律神経系の交感神経の興奮の度合いで測定されることがあり、その場合には、筋緊張・発汗・体温上昇・呼吸心拍の上昇を緩和する必要があります。その時に処方されるのが、筋弛緩薬を起源として開発された鎮静効果のやや弱いメプロバメートでした。しかし、後に、身体依存性が強く急性中毒の恐れもあることが分かり、安全性の観点から抗不安薬としてメプロバメートを利用しないほうが良いと考えられるようになりました。

バルビツール酸系の睡眠薬やメプロバメートの抗不安薬(鎮静薬)に代わって、不安症状や睡眠障害に処方されるようになったのは、1957年に発見された依存性が低く安全なベンゾジアゼピン系の抗不安薬(マイナートランキライザー)でした。メプロバメートもベンゾジアゼピン系も、大脳新皮質や脳幹には殆ど作用しませんが、大脳辺縁系の神経活動を選択的に抑制することで情動の興奮や身体の緊張に伴う障害を改善します。アメリカでは1960年代に、ロシュ社が販売したベンゾジアゼピン系薬剤のヴァリウム(商品名)が頻繁に処方され、その消費量の増大を肯定するように全ての精神疾患の中核症状は『不安(anxiety)』であると考えられるようになりました。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・本態性高血圧・頭痛といった心身症の原因となる不安を緩和し、睡眠障害や食欲不振、神経過敏・強迫観念といった不安によって引き起こされる症状を改善するという形で大規模な宣伝が為され、膨大な量のベンゾジアゼピン系薬剤が販売消費されました。

1960年代から1970年代にかけて、欧米で爆発的な売上げを上げたベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は、1980年代に急速に売上げを落としてあっという間にベンゾジアゼピンの医薬品市場は崩壊しました。ベンゾジアゼピンの人気と需要が下落するきっかけとなったのは、薬物療法に反対する一部の医師が、ベンゾジアゼピンの乱用による薬物依存(嗜癖・中毒・副作用)の危険性を指摘したことでした。テレビや新聞、雑誌で、『ベンゾジアゼピンは、薬物依存性が強く精神を荒廃させる危険な薬物である』という安全性と有効性の科学的検証を無視した反ベンゾジアゼピンのキャンペーンが張られたことで、欧米におけるベンゾジアゼピンの売上げは続落し遂には多くの市場からベンゾジアゼピンは撤退することになりました。

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、臨床試験(治験)の結果から見ても精神医療の臨床経験から考えても、安全性と有効性のバランスの取れた使いやすい向精神薬です。少なくとも、抗精神病薬や抗うつ薬、バルビツール酸系鎮静薬などの他の向精神薬と比較すると、ベンゾジアゼピン系鎮静薬は、依存性が弱く副作用の少ない安全な薬剤だと言えると思います。実際、日本においては、抗不安薬や睡眠薬として用いられるベンゾジアゼピン系の精神依存性や身体依存性、急性中毒などが問題視されたり非難の的となったことはありませんが、欧米において、ベンゾジアゼピン系の市場が崩壊し始めた時に、後に、抗うつ薬として大きな売上げを上げる「セロトニン調節系の薬剤」の開発研究が加速化していたことは興味深い現象だと思います。

アメリカのミードジョンソン社やイギリスのブリストルマイヤーズスクイブ社が主導して開発競争を始めたセロトニン調節系の薬剤の第一弾がブスピロン(商品名:バスパー)でしたが、その際に用いられたマーケティングの基本戦略は、依存性を生じる危険なベンゾジアゼピンに対して、依存性のない安全な抗不安薬バスパーの徹底的アピールでした。しかし、『依存性のない抗不安薬(トランキライザー)』というブスピロンのセールストークは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用や依存性の先入観が強固になっていた社会には通用せず、ブスピロンのマーケティングは失敗しました。欧米において、依存性のリスクの流布によって抗不安薬の市場が縮小し続ける中で、製薬会社は新たに『抗うつ薬(セロトニン調節系の薬剤)』という分野に利益増大の活路を見出そうとし始めたのでした。

依存性と危険性を実際以上に非難されたことによって、欧米の抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)の市場は急激に縮小しました。日本では依然としてベンゾジアゼピン系薬剤が、精神医療で最も多く消費されていますが、抗うつ薬よりも抗不安薬の処方が多い現象事態は“リスク対効果”を考えてもそれほど悪いことではありません。ベンゾジアゼピンの後を襲って、市場規模を段階的に拡大していったのが、セロトニン系の薬剤のマーケティングとうつ病の症状の啓蒙教育によって知名度を増した『抗うつ薬(特に、SSRI)』でした。抗うつ薬の歴史そのものは、ガイギー社のローランド・クーンが発見した三環系抗うつ薬イミプラミン(商品名トフラニール・イミドール)とロシュ社のネイサン・クラインが発見したモノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)・イプロニアジドに始まるとされていますが、ガイギー社とロシュ社は当時抗うつ薬の研究開発とマーケティングにそれほど熱心ではありませんでした。

初期の抗うつ薬市場の開拓に最も精力的に取り組んだのが、三環系抗うつ薬のアミトリプチリン(商品名:トリプタノール)を開発したメルク社で、フランク・エイドが出版した『うつ病を見逃さないために』という本を大量に買い取って、精神科の一般医に配布しうつ病診断に関する啓蒙的な情報の普及を行いました。しかし、メルク社のアミトリプチリンのマーケティングは商業的な成功とは程遠く、まだまだ抗精神病薬と抗不安薬のトランキライザーの売上げには及びませんでした。

トランキライザー中心の精神療法に抗うつ薬主流の薬物療法が食い込む転換点となった出来事は、パウル・キールホルツを頂点とする精神医学の権威たちが、不安障害の診断の中に少なくないうつ病患者が混じっていて、抗不安薬以上に抗うつ薬の積極的処方が必要とされていると述べたことでした。1972年には、ガイギー社の資金援助を受けて『うつ病の予防と治療のための委員会』の専門家会議が開かれるようになっていきます。1960年代には、精神医学の病名診断や薬物療法に反対する、反精神医学運動がイギリスの精神科医R.D.レインなどの元に激化していきますが、その反精神医学のうねりを圧倒するかのような製薬企業のうつ病キャンペーンが始められていきます。

統計学的な診断基準に操作主義を導入したDSM-Ⅲ(精神障害の統計・診断マニュアル)が1980年に発表され、それまでの抑うつ神経症に代えて大うつ病(Depression)のカテゴリーが設けられるようになります。『うつ病の予防と治療のための委員会』の会長だったパウル・キールホルツは、イーライリリー社(プロザックの開発会社)の経済援助の下に更に大々的なうつ病の治療キャンペーンを開催し、アメリカでは『DART(Depression-Awareness, Recognition, Treatment:うつ病‐気づき・診断・治療)キャンペーン』、イギリスでは『うつ病撲滅キャンペーン』が開かれました。

この製薬会社が主導する国際的なうつ病キャンペーンによって、うつ病が国民のメンタルヘルスを悪化させる危険な精神疾患であること、うつ病を適切に治療せずに放置することが国家経済(医療費・経済生産性)の大きなマイナス要因になることが宣伝されました。精神科医に対しては、うつ病を見逃さないようにする為の啓発的な教育を徹底し、薬物療法による早期発見と早期治療を原則とする精神医学界の潮流を作り上げることに製薬会社は成功しました。

うつ病や不安障害を適応症とする抗うつ薬が誕生して以降、うつ病であると年間に診断される人の数は劇的に増大し、抗うつ薬登場以前と比べると約1,000倍のうつ病患者が毎年生まれているといいます。この急速で劇的なうつ病患者数の増加が、うつ病を注意深く的確にスクリーニングしている結果なのか、それとも、どんなに軽度なうつ病でも絶対見逃さずに抗うつ薬で治療すべしという医学界や製薬業界の意向(キャンペーン)の影響なのかは判断が難しいところですが、余りにも短いスパンに患者数が激増したことを考えると過剰診断の可能性を考慮する必要はあるでしょう。抗うつ薬は適切な処方と期間で利用すればうつ病の症状を軽減させることに役立ちますが、うつ病の自覚症状が殆どなく抑うつ感や億劫感、不安感といった症状がそれほど強くない場合には、抗うつ薬の処方・服用に必要なうつ病の診断に慎重な態度で当たるべきだと思います。

抗うつ薬の一覧
グループ一般名商品名
三環系抗うつ薬(第一世代)
塩酸クロミプラミンアナフラニール
塩酸イミプラミントフラニール、イミドール他
塩酸ノルトリプチリンノリトレン
塩酸アミトリプチリントリプタノール他
塩酸トリミプラミンスルモンチール
三環系抗うつ薬(第二世代)
アモキサピンアモキサン
塩酸ロフェプラミンアンプリット
塩酸ドスレピンプロチアデン
四環系抗うつ薬(第二世代)
塩酸マプロチリンルジオミール
塩酸ミアンセリンテトラミド
マレイン酸セチプチリンテシプール
その他の第二世代抗うつ薬
塩酸トラゾドンレスリン、デジレル他
スルピリドドグマチール、アビリット、ミラドール他
炭酸リチウムリーマス他
SSRI(第三世代)
マレイン酸フルボキサミンデプロメール、ルボックス
塩酸パロキセチンパキシル
塩酸サートラリンジェイゾロフト
SNRI(第四世代)塩酸ミルナシプラントレドミン



共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。