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「追い出し部屋」別名ガス室

採録

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「追い出し部屋」の背景と対策

リストラ対象者を一堂に集める
「配属先は『追い出し部屋』」の衝撃

昨年末の『朝日新聞』(12月31日)の一面に、「配属先は『追い出し部屋』」と見出しの立った印象的な記事が載った。「追い出し部屋」とは、パナソニック・グループの従業員がそう呼ぶ、リストラ対象社員を集めてまとめて置いておく部署のことだ。

横浜市にある同グループの子会社にその部屋はあり、がらんとした室内に100台の古い机とパソコンが並んでおり、他の部署から応援要請があればそれに応えるのが仕事だという。

?「追い出し部屋」は、もちろん会社の正式な名称ではなく、「事業・人材強化センター」(BHC)が正式な部署名で、リストラ対象として狙われた社員は、上司から、会社が募集する希望退職に応じるか「BHC」への異動を受け入れるかの、二者択一を迫られるのだという。

記事によると、同類の部署は他社にもあり、たとえばソニー・グループでは「キャリアステーション室」、NECグループでは「プロジェクト支援センター」といった名称の部署が存在するという。

また、自分自身が社外での自分の出向先を見つけることを業務内容とする「企業開拓チーム」という部署を設けている朝日生命保険のような会社もある。

これらを「工夫」と呼ぶのがいいかどうかは迷うところだが、会社としては、実質的には指名解雇したい社員を自発的な「自己都合退職」に誘導するための有力な「仕組み」だ。

会社側から社員を個別に解雇しようとすると、就業規則違反などの正当な理由を用意しておかなければ、訴えられて敗訴するリスクがある。このため、「あなたの名誉のために、自己都合退職扱いにしてあげるから……」などと社員を説得して自分から辞めるように試みたり、それぞれの部署で社員の居心地を悪くして(つまり「虐めて」)自主退職に追い込んだりすることは、日本の多くの会社でこれまでに行われていた。

しかし、退職金でも雇用保険上も不利の多い自己都合退職をすんなり選択してくれるとは限らないし、各部署で「虐め」を実施すると、やりようによってはパワー・ハラスメントなどで訴えられる可能性があるし、職場の雰囲気が険悪なものになる。

業績の悪化で解雇したい対象が増えてきたこともあって、こうした自己都合退社実現のための器を各社が用意することになったのだろう。表向きには、仕事がある先への人事異動であって指名解雇ではないが、心が折れて自主退社したくなるように社員を仕向ける仕組みである。

人間の心を痛めつけることを手段として用いるのだから、「嫌な感じ」のやり方であることは間違いない。大企業の悪知恵ともい言いたくなる。

しかし、社長の一声で問答無用にクビが宣告されることの多い中小企業の解雇に比べると、いくらか丁寧で優しいような気もして、一概に非難する気にもならない。

「追い出し部屋」に
配属されたらどうするか

会社側としては、「やむをえない」事情が多々ある。

指名解雇は理由なしにできない。業績は短期間に回復する見込みはない。余剰人員を抱えている余裕はない。優秀な社員には残って欲しい。訴訟などのトラブルは起こしたくない。会社の評判は(なるべく)損ないたくない。

後でこうなる可能性を考えて、正社員の採用を絞って非正規労働者を使って来たのではあったが、「業績の悪化がこうした工夫を軽く追い越した」といった状況だろう。

仮に、自分が「追い出し部屋」への配属を打診されたら、どうするべきだろうか。

まず、やってはいけないのは、自分からあっさりと「一身上の都合により退職……」といった自己都合退社の辞表を書いてしまうことだ。今日まで働いてきた組織で自分が「不要だ」と言われているという現実と顔を付き合わせる状況は精神的に辛いが、生活を守るためにはひと頑張りしなければならない。

まず、「無条件で自己都合退社する意思はない」ことを会社側にはっきり告げるべきだろう。しかし同時に、その会社に残る選択肢は現実的でないことの覚悟も必要だ。目標を、転職と、そのために有利な条件の確保と、経済的により有利な退職の実現に、切り替えるべきだろう。

会社側が、希望退職者に対する優遇制度を提示している場合は、制度の内容を検討すべきだが、すぐに受け入れるのは止めた方がいい。

もう少し良い条件を引き出せる可能性があるし、「会社都合」でなく「自己都合」で辞めた場合には失業保険の条件が悪い。

検討、あるいは交渉に値するのは、転職先を見つけるための異動の先延ばしだろう。それまでどのような仕事をしていたのかによるが、多くの仕事で「今やっている仕事」を探す方がスムーズに職探しができ、条件もよりよいものを獲得しやすい場合が多い。

転職できれば辞める。そうでなければ
「追い出し部屋」行きを覚悟する

いい転職先が見つからなかったら、異動を受け入れると言って、異動を1~3ヵ月先に延ばしてもらえないかを交渉してみる手がある。もともと戦力外なのだし、それで穏便に辞めてくれるなら会社側も助かるはずなので、この条件を受け入れてくれる可能性はある。

ただしこの際にも、辞表を書いて渡してはいけない。条件はあくまでも、「転職できれば辞める。そうでなければ『追い出し部屋』行きを覚悟する」というものであるべきだ。

そして、引き延ばしが成功してもしなくても、「自力で」最大限に努力して、転職先を探す努力をしなければならない。

会社が用意する人材紹介会社は、社員を辞めさせることが優先であり、会社側と結託しているのだから、頼ってはならないと考えるのが常識だ。転職を強引に決めさせられることがあるかもしれないし、不適切な会社を紹介される心配もある。

もちろん、自分で探した人材紹介会社を使うことは悪くない。友人、知人、親戚、取引先など、あらゆるコネを使うのもOKだ。

なお、転職先を探す活動は、休日や平日の時間外など業務時間外の時間を必ず使い、面接などで必要がある場合には有給休暇を取ろう。時間管理をいい加減にしていると、勤務態度不良で解雇の口実を与えてしまう可能性がある。

いい転職先が見つかれば、場合によっては自己都合で辞めて(あげて)もいい。でも、できれば割増退職金をもらおう。自分は転職先が決まり、割増退職金をもらい、会社は1人片付いたことにほっとするという状況は、この問題の望ましい解決の1つだ。

クビになる人などたくさんいる
会社都合退社は不名誉ではない

転職先が見つかるまでは、元からいた部署にいるにせよ、「追い出し部屋」に異動させられた後にせよ、自分から辞めてはいけない。これが原則論だが、心と体(特に前者)がどこまでもつかは個人差があるだろうと思う。

どこまで争うか、争う場合に管理職ユニオンなど外部の団体などを使うかなどは個人の問題だが、力尽きて辞める場合は会社都合が原則だ。そうでないと、失業保険がすぐにもらえない(もらえる総額も減る)。

?「会社都合は不名誉であり、経歴に傷が付く」というような脅しを巧妙に述べられることがあるかも知れないが、無視しよう。相手は、後の訴訟リスクが怖いか、退職金を値切りたいと思っているだけなのだ(注:自己都合で辞めた場合に、退職金が会社都合の場合の5~6割程度になるような規定を設ける会社が多い)。

実質的にクビになる人など世の中にたくさんおり、「会社都合退社が不名誉だ」などということはない。

一方、完全に満足できる転職先はまず見つからないだろうが、どこかで割り切って転職先を決めるべきだ。

また、「追い出し部屋」要員に指名された段階で、その会社・職場への未練は断ち切らねばならない。自分にとっても相手にとっても、意味のある仕事ができることが大切だ。

企業にとっても社員にとっても
不毛な「追い出し部屋」をなくすために

?「追い出し部屋」は使いようによっては、企業にとってコスト削減につながる工夫と言えないこともないが、そのあり様は、企業にとってもリストラされる社員にとっても「不毛」だ。

このような非人道的かつ経済的にも無駄なやり方をなくすためには、正社員の金銭補償による解雇の条件を、明確に決めるべきではなかろうか。

正社員の権利を弱めることにつながるが、人材の流動性が増すので、転職先は見つかりやすくなるはずだ。また、前述のように多くの中小企業では、何の補償もなく、社長の一存で「クビ!」がまかり通っているのが現状だから、解雇のルールを明確にすることは、「労働者全体にとって」であるなら、悪い条件変更ではないはずだ。

条件は、官僚や裁判所に裁量の余地がないシンプルなものがよい。

たとえば、勤続年数に応じた月数分の現収入を(12ヵ月くらいの上限を設ける方がいいかもしれないが)、退職金とは別に一時金として支払うことで、雇用主は社員を自由に解雇できると決めておく。

社員の側も一定額の補償が必ず貰えるし、雇用主側もリストラ費用について計画が立ちやすい。

?「追い出し部屋」のような社会のムダが生じない仕組みにしたい。



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