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アルコール消毒剤が効きにくい危険な細菌

病院では感染を防ぐために、擦り込み式のアルコールベースのジェルや液体の消毒剤が広く使用されている。
しかし、こうしたアルコール消毒剤が効きにくい危険な細菌が増えていることを示唆する研究結果を、メルボルン大学(オーストラリア)の分子微生物学者であるTimothy Stinear氏らが「Science Translational Medicine」8月1日号に発表した。
この細菌はエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)と呼ばれる腸内細菌の一種で、さまざまな抗菌薬への耐性を獲得し、医療関連感染の主な原因となっている。
専門家の一人で米ジョンズ・ホプキンス医療安全センターのAmesh Adalja氏は「エンテロコッカス・フェシウムは血流感染から尿路感染まで幅広い感染症をもたらす。
米疾病対策センター(CDC)の推計では、バンコマイシン耐性のエンテロコッカス・フェシウムの感染による死亡者数は米国だけで年間1,000人を超える」と話している。
Stinear 氏らは今回、1997~2015年にメルボルンの2カ所の病院で採取したエンテロコッカス・フェシウムの139のサンプルを用いて、濃度70%のイソプロパノール(アルコール)の消毒剤に曝して消毒効果を調べた。
その結果、2004年よりも前に採取された菌と比べて、2009年以降に採取された菌は消毒剤に耐性を示す割合が高かった。
次に、Stinear 氏らは、さまざまな菌株のエンテロコッカス・フェシウムをマウスが入ったケージの床に付着させた後に、アルコール消毒剤で拭うという実験を行った。
その結果、消毒剤に耐性がある菌は生き残り、ケージの中のマウスの腸内に定着していることが分かった。
さらに、アルコール消毒剤が効かないエンテロコッカス・フェシウムの遺伝子解析から、細胞内代謝に関連する複数の遺伝子変異が認められた。
Stinear 氏らによれば、これらの遺伝子変異がエンテロコッカス・フェシウムの細胞膜のアルコール溶剤に対する耐性を強めた可能性が考えられるという。
Stinear 氏は「オーストラリアの病院では、この20年でアルコールベースの手指消毒剤を用いる頻度は10倍になるなど、アルコール消毒を中心とした院内感染コントロールが厳格に行われるようになった」と説明している。
今回の結果を踏まえ、こうした環境の変化に適応するためにエンテロコッカス・フェシウムも変化したのではとの見方を示している。
Adalja氏も「エンテロコッカス属の細菌は厳しい環境下でも生き延びるために巧みに進化する。
そのため、アルコール消毒剤に耐性を示すようになったこと自体に驚きはない」と話している。
しかし、アルコール消毒剤は院内感染予防に重要な役割を果たしており、アルコールに耐性を示す菌が増えているのは極めて重大な問題だとし、アルコール消毒剤に代わる消毒剤や洗浄方法を探す必要性を指摘している。
一方、Stinear氏は、現時点で取りうる対策として、より高濃度のアルコール消毒剤を用いて念入りに手指を消毒するように助言。
病院のスタッフは十分な量の消毒剤で、時間をかけて手指を隈なく消毒し、細菌やウイルスを死滅させるようにすべきだと呼び掛けている。


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