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「ベンゾジアゼピン (BZD) 依存症の治療」

 N Engl J Med (2017; 376: 1147-1157)に「ベンゾジアゼピン (BZD) 依存症の治療」の総説がありました。著者はドイツ・Ludwig Maximilian University精神科のMichael Soyka氏です。 最重要点は下記7点です。
BZDは1カ月以上の使用で半数が依存性に。半減期が短いほど依存性は高い
使用禁止は重症筋無力症、小脳・脊髄失調、睡眠時無呼吸、慢性肺疾患、狭隅角緑内障
離脱症状は痙攣が極めて一般的、聴覚過敏・羞明はBZD離脱に特異的
離脱症状は短時間作用性BZDが2~3日、長時間作用性が5~10日で発現
BZD減量は4~8週かけ毎週5割or 2週ごと10~25%減らせ
数種のBZDはジアゼパム1種にまとめよ
不眠に睡眠制限、大食い避け、定時就寝、昼寝避け、寝室静かに、TV・電灯避けよ
 以前、米国で家庭医として開業されている日本人の先生とお話しして大変驚いたことがあります。その先生のいらっしゃる州では、そもそも外来でBZDを処方できないというのです。BZDは多彩な副作用があることから州法で安易な処方が禁止されているのです。
 ですから、その先生は外来では眠剤としては、嗜癖性のないラメルテオン(商品名ロゼレム、 メラトニン受容体アゴニスト) か、トラゾドン(デジレル、抗うつ薬)を使用するのですが、デジレルの方が安価なのでもっぱらデジレルを処方しているというのです。
 この総説によるとBZDは2~4週の短期間の使用なら比較的安全ですが、それ以上では安全性は保障されず1カ月以上の使用で実に半数に依存性が見られるとのことです。わずか1カ月の処方で半数に依存性が生じるということに驚きです。
 この総説によると、基本的に全てのBZDは抗不安作用、催眠作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用、健忘作用があります。BZDは薬理学的に抗不安作用と催眠作用をクリアカットに分けられないのです。そして副作用としては傾眠、無気力、疲労感、過鎮静、昏迷、翌日までの持ち越し、集中力低下、依存性、筋弛緩、失調、中止による不眠、運転障害、交通事故、転倒骨折があります。
 ここまで読んでギクッとしたのは、最近ニュースでよく話題になる高齢者の交通事故です。認知症だけが交通事故の原因ではなく、私たちが安易に処方しているBZDによる可能性はないのでしょうか? BZDは認知能低下、記憶障害、集中力低下を起こします。アクセルとブレーキの踏み間違いなどありそうなことです。
 話は変わりますが、米国では大腿骨近位部骨折の発症は2000年ごろから減少に転じています。ところが日本では一向に減少する気配がありません。このことは、私は今まで大変不思議に思っておりました。米国での大腿骨近位部骨折減少の理由としてビスフォスフォネートなどの使用が挙げられています。しかし、それなら日本でも同じことです。この総説を読んで、にわかに不安になったのは日本で安易に処方されているBZDや日本でよくある polypharmacy (多数薬剤投与)による転倒の可能性はないのかということです。
 眠剤でなくとも4~5種類以上のpolypharmacy はそれだけで転倒の原因になります。先日、「フラフラする」という主訴のお婆さんが外来に来られました。他院で6種類ほどの、あまりコアでない薬を処方されていたので全て切ってみたら途端に主訴は全くケロリと改善してしまいました。
 私は「基本的に4~5種類以上の投薬は犯罪に近い」と思っております。ただし、心不全などでは5~6種類の投薬になってしまうのはやむをえないこともあります。ACE阻害薬、βブロッカー、スピロノラクトン、ワーファリン、スタチンを出したらこれで5種類です。 心不全は別として、私たちはBZDの処方やpolypharmacyにもっと過敏になるべきではないのでしょうか。
1.BZDは半減期が短いほど依存性高い!
 世界で最初に使われたBZDは1960年のクロルジアゼポキシド (商品名コントール、バランス)だそうです。1961年、クロルジアゼポキシドをプラセボに突然変更したところ痙攣、せん妄、精神症(psychosis)を起こし、BZDに離脱症状があることが分かったのです。
 BZDはGABA type A受容体(GABAA)に作用します。BZDの作用時間に長短があるのは、BZDの代謝の難易によります。意外だったのは半減期が短いほど依存性が高いというのです。短時間作用性BZD(トリアゾラムなど)は典型的には催眠に使われ、長時間作用性BZD(ジアゼパム、クロナゼパム)は抗不安作用や抗痙攣に使います。しかし、クリアカットに作用を分けることはできません。
 BZDを投与すべきでないのは重症筋無力症、小脳失調、脊髄失調、睡眠時無呼吸、慢性呼吸器疾患、狭隅角緑内障、中枢神経抑制される中毒などです。老人の不眠、興奮(agitation)、せん妄(delirium)に使うべきでなく、使うとしても短期間にとどめよとのことです。特に高用量では記憶障害を起こします。BZD長期間投与と脳萎縮、認知症との関係は議論が多い(controversial)そうです。
 中脳の腹側被蓋野と側坐核付近でドパミン放出を起こす薬剤は一般に嗜癖性があります。たばこは側坐核でドパミンを放出し、ニコチン依存症治療薬チャンピックスはこのドパミン放出を減らすのです。なおブータンではたばこは麻薬と同様の国禁の扱いになりました。BZDはGABAAを仲介して腹側被蓋野でドパミンニューロンを活性化します。
2.離脱症状は痙攣が極めて一般的、聴覚過敏、羞明は離脱に特異的
 離脱症候群は特に短時間作用性BZDでは2~3日以内に出現します。超短時間作用性BZDにはハルシオン(商品名、以下同)、短時間作用性BZDにはデパス、リーゼ、コレミナール、レンドルミン、ロラメット、エバミール、リスミーなどがあります。
 長時間作用性BZD(商品名セルシン、セパゾン、エリスパン、コントール、バランス、セレナール、レスミット、メレックス、メイラックス、レスタス、ドラール、ダルメート、ソメリンなど)の場合、離脱症候群は5~10日で発現します。脳の過活動性(hyperexcitability)によります。痙攣は極めて一般的で特に突然のBZD中断で起こります。聴覚過敏(hyperacusis)、羞明(photophobia)はBZD離脱に特徴的なのだそうです。
 離脱症状で最も多い症状は筋緊張、脱力、痙攣、疼痛、発汗、戦慄、針を刺すような痛み、不安、パニック、不穏、興奮、抑うつ、震え、不眠、悪夢、食欲低下、頻脈、口腔乾燥、blurred vision、耳鳴り、傾眠、現実感消失などです。
 BZDの減量は4週から8週かけて行い、数カ月かけない方がよいそうです。減量スピードは毎週50%減らしていくか、あるいは2週ごとに10~25%減らします。また数種類のBZDを内服している場合はジアゼパム(商品名セルシン)1種にまとめた方がよいとのことです。
 不眠に対する一般療法としては睡眠制限(決まった睡眠時間枠で眠る)、睡眠前の大食いを避ける、決まった時間に就寝、昼寝を避け、寝室を静かにしテレビやライトを避けます。
 BZD離脱中の「うつ」に対しては抗うつ薬、安定薬としてはカルバマゼピン (商品名テグレトール)やBZD以外の抗不安薬、例えばプレガバリン(リリカ)、ガバペンチン(ガバペン)、BZD以外の眠剤などを使用します。
 不眠に対してはトラゾドン(レスリン、デジレル)や抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン(レスタミンコーワ)、ヒドロキシジン(アタラックス)、プロメタジン(ピレチア、ヒベルナ)などを使用します。
 意外だったのは、BZD離脱時、BZD拮抗薬のフルマゼニル(アネキセート)点滴のエビデンスも少ないのだそうで、アネキセート使用は痙攣、psychosisを起こす危険があるとか。なお全例にBZD減量は考えない方がよいそうです。
 プライマリケアではBZD使用についての簡単なパンフレットを配るだけでも効果があるそうです。認知行動療法(CBT;cognitive behavioral therapy)はBZD依存治療に最も使われているそうです。CBTには社会適性(social competence)訓練、リラクゼーション法、不安克服訓練などがあります。3カ月間でのBZD減量+CBTは有用とのことです。
 それではN Engl J Med 総説「ベンゾジアゼピン依存症の治療」最重要の7点の怒涛の反復です!
BZDは1カ月以上の使用で半数が依存性に。半減期が短いほど依存性は高い
使用禁止は重症筋無力症、小脳・脊髄失調、睡眠時無呼吸、慢性肺疾患、狭隅角緑内障
離脱症状は痙攣が極めて一般的、聴覚過敏・羞明はBZD離脱に特異的
離脱症状は短時間作用性BZDが2~3日、長時間作用性が5~10日で発現
BZD減量は4~8週かけ毎週5割or 2週ごと10~25%減らせ
数種のBZDはジアゼパム1種にまとめよ
不眠に睡眠制限、大食い避け、定時就寝、昼寝避け、寝室静かに、TV・電灯避けよ


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