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N Engl J Med(2017; 377: 553-561)に片頭痛の総説

片頭痛は前駆期にトリプタン系薬を開始、制吐薬を併用せよ!
 N Engl J Med(2017; 377: 553-561)に片頭痛の総説がありました。この著者Andrew Charlesは米・UCLA神経科のHeadache Research and Treatment Programのディレクターだそうで、特に片頭痛を研究しているようです。世界最新の片頭痛の総説です!
 この片頭痛総説の最重要点は下記8点です。
前兆は視覚変化、痺れ、構音障害、めまい、アロディニア(皮膚接触で不快感)
50歳以上の頭痛は片頭痛でなく二次性頭痛を考える
生活指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」
片頭痛発作で脳虚血や脳梗塞が起こることは極めてまれ
SSRI、PPI、経口避妊薬、HRT、鼻粘膜血管収縮薬、オピオイドは片頭痛を起こす! すぐに中止!
トリプタン系薬は前駆期に開始! NSAIDs併用も可。制吐薬を併用せよ
片頭痛予防にプロプラノール、カンデサルタン、トピラマート、三環系抗うつ薬、Cefaly deviceが有効
CGRP(calcitonin gene-related peptide)受容体のモノクローナル抗体が治験中
1.50歳以上の頭痛は片頭痛ではない
 私の家内は出産後、28歳ぐらいから片頭痛がありました。この総説によると片頭痛の初発は10~14歳から急増し35~39歳まで増加後に減少し、特に閉経後は減少するそうです。確かに家内も閉経後はなくなりました。
 家内が言うには歳を取って良かったと思うのは、片頭痛がなくなったことと、JRの「ジパング」が使えることだそうです。ジパングは60歳以上の女性が、JRを200km以上乗ると運賃がなんと3割引きになります。一方、男性はなぜか65歳以上からです。 片頭痛は基本的に若年者の疾患であり、「50歳以上で始まる頭痛は片頭痛でなく二次性頭痛」と考えます。
 片頭痛は、女性に多く男性の2~3倍で、ピークでは女性のなんと25%に発症しているというのです。女性の4人に1人が片頭痛というのには驚きました。「それでテレビで頭痛薬のCMが頻繁に流れているのか」と納得しました。「そう言えばCMに出てくるのはいつも女性だよなあ」と思いました。また女性の25人に1人はなんと月間15日以上の慢性の頭痛があるそうです。
 "Migraine"の語源を調べたところ、ギリシャ語の"hemikrania"(片側の頭痛)が訛って"migraine"になったのだそうです。片頭痛の前兆として視覚変化(visual changes: 波線、輝点・暗点の出現)が有名ですが、痺れ(numbness、tingling)、構音障害、めまい、アロディニア(皮膚を触ると不快感)などもあります。
2. 1時間以上続く前兆、72時間以上続く頭痛は片頭痛ではない!
 片頭痛の視野障害って、一体どういう風に見えるんだろうと思っていたのですが、YouTubeに動画がアップされていました。外部リンクをご参照ください。
 家内にこの動画を見せたところ、全くこの通りだとのことでした。こんな感じで視野が崩れ約30分続いたそうです。この歯車に見えるようなものが眩しかったそうです。 また音声過敏もありカラオケのように音が共鳴する感じだったそうです。
 この総説によると、視覚、知覚、構音障害は徐々に進行するものの1時間以内に治まり、 「1時間以上続く前兆は片頭痛でなく、二次性頭痛を考えよ」とのことです。また片頭痛での頭痛や頸部痛は突然でなく、徐々に始まり4時間から72時間続きます。「72時間以上続く頭痛も片頭痛でなく二次性頭痛を考えよ」なのです。
 典型的片頭痛の症状は以下の通りです。
【典型的片頭痛の症状】
4~72時間続く典型的な発作
発作間には症状がない
頭痛や頸部痛が突然でなく徐々に始まる!
視覚、知覚、構音障害が徐々に進行し1時間以内に治まる!
頭痛の前後にあくび、頸部痛、羞明、音過敏、疲労、気分変化がある
片頭痛の家族歴がある
 一方、二次性頭痛を考えるのは以下のような症状のときです。
 50歳以上で発症する頭痛は片頭痛ではないのです!
【二次性頭痛を示唆する症状】
新たな頭痛発症(特に50歳以上)!
72時間以上続く頭痛 ・視覚、聴力、構音障害の変化が1時間以上続く!
突然の頭痛、神経症状 ・神経検査で異常
発熱、全身症状がある
 芥川龍之介には片頭痛がありました。短編小説「歯車」はまさに片頭痛の前兆である、ギザギザした視覚変化を「歯車」として小説の題にしています。10歳代に発症したようです。 ネットの青空文庫で無料で読めます。こんな感じです。
...僕はそこを歩いてゐるうちにふと松林を思い出した。のみならず僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?―――と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だつた。僕はかう云ふ経験を前にも何度か持ち合わせてゐた。歯車は次第に数を殖(ふ)やし、半ば僕の視野を塞いでしまふが、それも長いことではない。暫らくの後には消え失(う)せる代りに今度は頭痛を感じはじめる、―――それはいつも同じことだつた。
―――二十前(はたち)にも見えないことはなかつた。僕は又はじまつたなと思ひ、左の目の視力をためす為に片手に右の目を塞いで見た。左の目は果たして何ともなかつた。 しかし右の瞼(まぶた)の裏には歯車が幾つもまはつてゐた。
 これを読むと歯車は片方の目だけで見えることが分かります。芥川は睡眠薬にVeronal (バルビタール)を多用していたようです。 この総説によると、片頭痛は喘息、脳卒中、不安、うつとの合併も多いそうです。上記の「歯車」は1927年(昭和2年)に発表されたのですが、同年、芥川は自宅で自殺しています。遺書で自殺の理由を「何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安」としています。やはり、うつ病だったのでしょうか。
3. 生活指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」
 片頭痛を引き起こすライフスタイルとしては、「不規則な食事、不規則な睡眠、カフェインの不規則摂取、ストレス」があります。また女性では生理の前、生理中に多いのです。以上から片頭痛は環境、ホルモンの変化、日々の不規則な食事、カフェイン、睡眠と関係すると言えます。ですから運動は片頭痛を減らすには合理的(sensible)なアプローチです。
 患者への指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」でしょうか。どうしてもカフェインをやめられない場合は、不規則的でなく規則的に飲むべきのようです。ただし片頭痛に対するライフスタイルのRCT(Randomized Control Trial)はありません。
 カフェインと片頭痛がどう関連するのか「Up to Date」で調べてみました。カフェインは頭痛にある程度有効な場合もあるのですが、日常的にカフェインを摂取しているときは慢性片頭痛や鎮痛剤のrebound headacheを起こすというのです。
 毎日カフェインを摂取している場合の慢性片頭痛のOR(オッズ比:1より大きいと有害)は2.9(95%CI 1.5~5.3)、鎮痛薬のrebound headacheのORは2.2(同 1.2~3.9)だそうです。「へー」と思ったのはcaffeine withdrawalの最も多い症状が頭痛なのだそうです。ですから頭痛持ちの方はカフェインはやめた方がよさそうです。
4. 片頭痛診断には頭痛より光・音過敏性、嘔気、機能障害の方が役立つ!
 この総説に「片頭痛発作のタイムライン」の表がありました。片頭痛のきっかけは、食事、光、音、匂いなどが引き金になることがあります。片頭痛は、①前駆症状(Premonitory)期→②前兆(Aura)期→③頭痛期→④後発症状(Postdrome)期の順で進行します。機能的画像診断では視床、視床下部、脳幹、皮質の活性化が見られるそうです。
 ギザギザの歯車が見える前兆期の前に前駆症状期があります。この時期のみに起こる症状はあくび、頻尿などです。また前駆症状期から後発症状期まで継続する症状があります。頸部痛、疲労感、気分変化、光・音過敏性です。嘔気は前駆症状期で少し遅れて始まり後発症状期まで継続します。頭痛だけでなく頸部痛も起こりうることに注意です。
 また前兆期から頭痛期の前半まで続く症状に、視野変化、痺れ、構音障害、認知能低下、めまいがあります。
 頭痛は頭痛期のみにあります。片頭痛の程度は人によりさまざまで、①から④まで全てがそろうわけではありません。
 頭痛期から後発症状まで続くのは、アロディニアなどです。
 片頭痛の診断は頭痛よりも光・音過敏性、嘔気、機能障害の方が役立つそうです。前兆や認知機能不全、めまい、疲労感などがあると医師は画像診断をオーダーしがちですが、症状が徐々に始まり一過性であれば不要だそうです。頸部痛も片頭痛で多いそうで、頸椎病変と間違われ頸椎の画像診断が行われてしまいます。また、片頭痛は医師や患者により副鼻腔由来と間違われ「sinus headache」などと診断されます。
 以下に簡単な片頭痛の診断クライテリアがあります。これを見ると「仕事や勉強の忌避が最低1日ある」という条件があり、片頭痛の方に仕事や勉強を強要してはいけないんだなあと思いました。また、「へー」と思ったのは頭痛がないphaseでは羞明(photophobia)がより強いのだそうです。
【簡単な片頭痛のクライテリア】(ID Migraine validation study)
 このクライテリアは93%の陽性的中率(陽性の場合に真に陽性である確率)です。過去3カ月、最低、次の2つを伴う頭痛が存在する。
嘔気あるいは胃部不快感(sickness to stomach)
羞明(頭痛のないときは羞明がより強い)
仕事や勉強の忌避が最低1日ある
 また前兆がない場合の片頭痛の診断クライテリアがあります。
【前兆なしの片頭痛の診断】 (ICHD-3:International Classification of Headache Disorders3版)
 次のクライテリアを満たす最低5回の頭痛発作があること。
4~72時間続く頭痛(未治療または治療失敗の場合)
次のうち、最低2つの特徴がある
片側性
拍動性
中等度から重度の頭痛
頭痛の為、散歩や階段昇降などの日常動作を避ける
頭痛発作中、最低次の1つがある
嘔気、嘔吐
羞明(photophobia)、音声過敏(phonophobia)
 私は今まで片頭痛って血管拡張による拍動でズキズキ(throbbing)すると思い込んでいたのですが、この20年でこれに対し疑問が持たれるようになった(refuted、反駁する)のだそうです。片頭痛の治療は血管を収縮させることではないというのです。なんと鼻粘膜血管収縮薬は片頭痛の原因になります。また片頭痛発作で脳虚血や脳梗塞が起こることは極めて稀だそうです。
5. SSRI、PPI、経口避妊薬、HRT、鼻粘膜血管収縮薬、オピオイドは片頭痛を起こす!
 私の場合、今まで片頭痛の患者にはトリプタン系薬(スマトリプタン、リザトリプタンなど)を処方してそれでおしまいでした。今回、この総説を読んで大変驚いたのは次のような片頭痛誘発薬があり、これらをまず中止せよということです! これらの中止で劇的に片頭痛が軽快する患者がいるそうです。
 この片頭痛を誘発する薬に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)が入っているのに仰天しました。よもやこんな薬が片頭痛の原因になるなんて思いもよりませんでした。また血管を収縮させる鼻粘膜充血除去薬、なんとオピオイドが含まれているのにも驚きました。オピオイドは、週1回か2回の内服でも片頭痛をひどくすることがあるのだそうです。知らないということは恐ろしいことだとつくづく思いました。
【片頭痛を誘発する薬】
SSRI(パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミン)
PPI(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールなど)
経口避妊薬 ・閉経後HRT(ホルモン補充療法)
鼻粘膜血管収縮薬(ナファゾリン、テトラヒドロゾリン・プレドニゾロン配合、トラマゾリン)
オピオイド
6. トリプタン系薬は前駆症状期に開始! NSAIDs併用も可。制吐薬を併用せよ
 片頭痛の治療にはトリプタン系薬(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン)がやはり有効です。しかし1錠700円から900円以上もしますから、つい患者は使用開始を遅らせがちだというのです。米国の保険会社は1カ月当たりの処方量を制限していますが、これはエビデンスに基づきません。トリプタン系薬は頭痛が始まる前に開始した方がより有効です。ですから前駆症状のときに開始するよう説明せよとのことです。
 トリプタン系薬が著効しない患者は、頭痛が既に中等度以上になってから内服するためと思われます。こうなるとmedication-overuse headache(MOH)と言って、月15回以上頭痛があってトリプタン系薬を10日以上使用する患者が出てきます。効かないので薬を継ぎ足すためです。ポイントは「前駆症状のときにトリプタン系薬を開始せよ!」です。トリプタン系薬が奏効しない場合は、NSAIDs併用が有効な場合があります。
 制吐薬(メトクロプラミドなど)も重要でありERでは非経口投与も可です。嘔気がある場合、トリプタン系薬はスマトリプタンなら経鼻、皮下注も可能です。
 頭痛薬の効果は以下のような感じです。NSAIDsはアスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ナプロキセンなどです。小生、今まで頭痛薬としてまずアセトアミノフェンを出すことが多かったのですが、「あまり効かないんだなあ」と知りました。これからは頭痛にはまずNSAIDsを出してそれからトリプタン系薬にしようと思いました。
トリプタン系薬:2時間で頭痛軽減16~51%、頭痛消失は9~32%
アセトアミノフェン:2時間で頭痛軽減19%、 頭痛消失 9%
NSAIDs:2時間で頭痛軽減17~29%、頭痛消失7~20
7. 片頭痛予防にプロプラノール、カンデサルタン、トピラマート、三環系抗うつ薬、Cefaly deviceが有効
 次に片頭痛の治療でなく予防です。片頭痛が週1回以上、月4回以上起こる場合は予防治療を行います。特に、β遮断薬のプロプラノール、ARBのカンデサルタンは40%で有効です。「なんでARBのブロプレスなんだい?」と思って調べたのですが、よく分かりませんでした。経験的にブロプレスに辿り着いたのでしょうか?
 また抗痙攣薬のトピラマート (商品名トピナ)や三環系抗うつ薬のアミトリプチリン(商品名トリプタノール)、ノルトリプチリン(商品名ノリトレン)が使われます。
 トピラマートは食欲抑制作用もあるので、特に肥満患者に使用します。三環系抗うつ薬は不眠のあるような患者に使うと良いそうです。ただし同じ抗うつ薬と言ってもSSRI(パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミン)は片頭痛誘発薬ですので要注意です。
 米国ではボツリヌス毒素も使用されるのですが、日本国内では顔面痙攣には適応があるものの片頭痛には承認されていません。またneuromodulationと言って、眼窩上神経を電気刺激するCefaly deviceと呼ばれる機器があり、米食品医薬品局(FDA)で片頭痛予防に推奨されています。この孫悟空の冠みたいな道具を毎日20分、前額部に装着するのだそうです(外部リンク参照)。
 また最近の動向として、神経伝達物質のneuropeptideであるCGRP(calcitonin gene-related peptide)が片頭痛を誘発するのだそうで、CGRP受容体に対するモノクローナル抗体が片頭痛に有効であるとして現在、PhaseⅡ、Ⅲの段階だそうで間もなく市販されそうです。
 この総説には冒頭症例があります。以下のような症例です。
【冒頭症例】
 23歳女性、過去2カ月で5回の頭痛発作(「前兆なしの片頭痛診断のクライテリア」では過去5回以上の頭痛発作があることが条件です。仲田註)。いずれもあくび(yawning)、光過敏性、うつ感で始まり、その後次第に頸部痛が後頭部に広がりついには右側の眼窩後部に痛みを感じる。1、2時間で耐えがたい痛みとなり嘔気、光・音への過敏性を伴う。
 5回のうち2回の発作では頸部痛とともに15分間、ギザギザの線(jagged lines)が視野に出現した。いずれの発作でも強い疲労感、集中力の低下、言葉を探すのが大変であった。頭痛は約24時間継続し(片頭痛は72時間以内です)寛解後は数時間、頸部痛(neck soreness)、疲労感、うつ感があった。この患者に対するあなたの評価と治療は?
【著者の回答】
 患者は片頭痛があり前兆はあるときとないときがある。発作が多発しても、完全寛解しred flags (突然の頭痛、発熱、他の疾患の併発、頭痛持続)がなくて神経所見正常なら画像診断は不要。現在の内服薬が誘因となっていないかを調べ、ライフスタイルをチェックする。規則的な食事、睡眠、運動を勧めカフェインを中止する。
 薬はトリプタン系薬、NSAIDs、制吐剤などを処方し発作が始まったら極力早く内服する。予防治療としてβ遮断薬、カンデサルタン、三環系抗うつ薬、トピラマート、ボツリヌス毒素のonabotulinumtoxin A(頭痛が月15日以上の時)を考慮。以上で効果なければneuromodulationも考える。
 それでは、片頭痛総説要点8の怒濤の反復です。
前兆は視覚変化、痺れ、構音障害、めまい、アロディニア(皮膚接触で不快感)
50歳以上の頭痛は片頭痛でなく二次性頭痛を考える
生活指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」
片頭痛発作で脳虚血や脳梗塞が起こることは極めてまれ
SSRI、PPI、経口避妊薬、HRT、鼻粘膜血管収縮薬、オピオイドは片頭痛を起こす! すぐに中止!
トリプタン系薬は前駆期に開始! NSAIDs併用も可。制吐薬を併用せよ
片頭痛予防にプロプラノール、カンデサルタン、トピラマート、三環系抗うつ薬、Cefaly deviceが有効
CGRP(calcitonin gene-related peptide)受容体のモノクローナル抗体が治験中


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