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化粧

採録


お化粧は肌にすごく悪いんじゃないか?

 私はエステとか美容の方にはあまり関心がなかったので,積極的に発言してこなかったが,普段はメークばっちりの美人さんなのに,スッピンの顔(顔の怪我の治療のために外来を受診される患者さんは必然的にスッピン状態である)の落差というか,素肌が実年齢以上に老けている様子を多数見るにつけ,日常的な化粧が肌を老化させ,肌が破壊されているんじゃないかと思っている。

 こういう人たちは,普段から人前に出る職業の人が多く,お化粧も上手である。恐らく,若い頃から日常的にメークをしてきたんじゃないだろうか。そのために皮膚が荒れて老化し,それを隠すためにさらに一日中メークを続け,それがさらに肌の状態を悪化させ・・・となり,それが実年齢をはるかに越える老け方をした皮膚を作ったんじゃないだろうか。

 まず,純粋に化学的に考えると,クリームにも乳液にも界面活性剤が含まれている。いずれも「油と水が混ざったもの」だからだ。実際,皮膚科の教科書の「軟膏学」の部分を読むと,「クリームには界面活性剤が含まれているため,傷ついて皮膚に使用すると状態を悪化させる。従って,クリーム基剤のものは健常の皮膚にしか用いてはならない」というような記述が見つかる。もちろん,お化粧用のクリームと皮膚科治療のクリームは全く同じかどうかまでは自信がないが,化学的に考えればどちらも同じだろうと思う。

 だとすれば,クリームや乳液中の界面活性剤の全ての疎水基が油との結合に使われて不活性になっている,という状態は考えられないので,これは皮膚の皮脂に結合してそれを溶かして除去しているだけではないかと思われる。

 もちろん,そのためにクリームには油分が含まれているのかもしれないが,わざわざ奪っておいて補うというのは,銀行から奪った金をその銀行に預けに行くみたいなもので,腑に落ちないのである。第一,人間の皮脂以上に人間の肌に最適の油なんてあるんだろうか。もしも人間の皮膚に最適の油が皮脂だったら,それを落として他の油に置き換えるのは,とんでもない愚行ではないかと思う。

 皮膚から分泌される皮脂は邪魔者なのだろうか。落とさなければいけない駄目油なのだろうか。
 そうではないはずだ。皮脂は人間の共生者,表皮ブドウ球菌などの大切な食料である。表皮ブドウ球菌がいてこそ人間は健康を保っていられる。その大切な共生者の食料を洗い流し,彼らの食料にならない油を塗るという行為は,もしかしたらとんでもなく恐ろしい行為ではないのだろうか。

 そもそも「皮膚について汚れを落とし」という概念自体が間違っているのではないだろうか。皮膚の油分は,落とさなければならない汚れなのだろうか。

 そして,それをさらに確信させる画像がある。ABC(アメリカン・バカコメディ)振興会に最近掲載されたシャロン・ストーンのスッピン顔だ(ちなみにこのサイトには,アメリカのセレブたちのお馬鹿な行動とかスキャンダル満載だ)。えっ,どこにシャロンがいるの? も,もしかしてこの乳のでかいオバサンがシャロン? 話題(?)の映画《氷の微笑2》ではとても49歳とは思えないエロっぽいお姿を見せてくれているが,ここにはその面影は微塵もない。その下にあるメイク後の彼女の顔とのギャップ,まさに驚愕画像である。

 特に実年齢以上に老けているのは彼女の首筋と右手である。どう見ても60代の首と手にしか見えない。さすがはハリウッドのメークの力はすごいなぁ,と思うが,49歳でここまで老けちゃうというのはどういうことなのだろうか。

 もちろんこれは何も,シャロン・ストーンに限った話ではない。ためしに「ハリウッド・セレブスッピン画像集」とGoogle検索かけると,わが目を疑うような惨状である。
キャメロン・ディアスが・・・!
ジェニファー・ロペスが・・・!
クリスティーナ・アップルゲイトが・・・!
キャサリン・ゼタ・ジョーンズが・・・!

 もちろん,素顔美人の女優さんも多いだろうし,もしかしたらそちらの方が多いのかもしれない。もしかしたら,肌が荒れている女優さんは少数派なのかもしれない。
 しかし,上記の美人女優さんたちのこの老け方はどう見ても尋常ではないのである。彼女たちはもちろん,莫大なエステ費用を出して,日々美肌の維持に努めているはずなのに・・・。

 以前,ワコールの矯正下着の開発担当者という方のお話を伺ったことがある。さすがはワコール,「ビフォア・アフター」で全然体型が変化する様子には,さすがに驚いてしまった。
 そこで,会場からの質問コーナーで「矯正下着の限界はどこにありますか」という質問があった。すると「脱いだらおしまいです。本来の体型に戻ってしまいます。それが下着の限界です。体型が下着で変わるわけがないじゃないですか」という答えがあり,会場は爆笑の渦に巻き込まれたが,ちょっとそれを思い出してしまった。

 いずれにしても,若いうちからメークをばっちり決めるのは考え物だと思う。まだ若いのにメークを落とすと素肌は皺とシミだらけ,それを隠すためにもっと手間をかけての化粧が必要になり,それがさらに皮膚の老化に拍車をかけて・・・という悪循環に巻き込まれても,オジサン知らないからね。

 前回,「お化粧は肌に悪い」と書いたが,化粧とか美容品というのは,要するに河川の護岸工事と同じではないだろうか

 本来の皮膚とは他種類の皮膚常在菌が生存する生態系であり,人間は常在菌に栄養(=皮脂などの分泌物)と生育場所を提供し,その見返り(?)として常在菌は皮膚を弱酸性環境に維持して病原菌の侵入を防いでいる。

 一方,本来の河川というのは川岸に葦などの植物が生え,川底には苔などが生え,他種類の魚が泳ぎ,川岸近くには小魚や昆虫が棲み,それを狙って両生類や鳥も棲んでいる。多種多様な生育環境があり,そこに適応した他種類の生物が生息し,生態系というネットワークを形成している。だから,自然河川は皮膚に似ている。

 しかし,川岸の雑草が汚いという理由で川岸に除草剤を撒いて葦を刈り,護岸をコンクリートで固め,川底の苔で滑ると危険だと考えて苔をはぎ取ってコンクリートで固めるのが文化的だという考えがあった。その結果,河川を中心とした生態系は破壊され,多種多様な固有種は消えて少種類の生物と外来生物などに置き換わっていく。

 化粧とか美容品というのは,実は護岸工事をして葦を刈っているのと同じではないかと思う。「皮膚に付いた汚れとバイキンを洗い落として,化粧水をつけ,乳液とクリームで肌の状態を整え・・・」というを常識だと思っているから,女性は誰しも化粧をして美容品を買い求めているが,これはもしかしたら,生命豊かな森を切り開いて緑のペンキを塗って樹木の代わりにしているようなものではないだろうか。

 皮膚常在菌の生存に必要な皮脂を乳液とクリームに含まれる界面活性剤で溶かして除去し,その上で,常在菌が利用できない油分を補うのは,森の腐葉土を「ミミズや虫がいて気持ちが悪い」という理由ではぎ取り,ミミズや虫が住めないようにアスファルトを敷き詰めるのと,本質は同じだろう。

 ここまで来て初めて,なぜ人間は化粧をするのか,という命題に行き着く。あまりにも常識的な行為なので,なぜしているかといまさら問われても困ると思う。
 恐らく,もっとも原始的な化粧は呪術の手段だったはずだ。超自然的な力を得ようとして,恐ろしげな隈取りをしたりしたわけだろう。そして次第に「美容」という概念が加わっていただろうと思う。

 ここで問題は,「顔の肌を洗って何かを塗る」という行為の中には,「それは皮膚の健康にいいことなのか?」という発想が初めからなかったことである。その後,美容業界は様々な研究をして新商品を出しているが,それらを見ても,「皮膚には皮膚常在菌がいて,それが皮膚の健康を守り,ひいては人間の健康も守っている」という発想は皆無である。皮膚という組織のことを知らずに,皮膚に塗るものを売っているんじゃないだろうかと思う。

 このあたりは,腸内常在菌とはかなり違っていて,腸内常在菌はことあるごとに取り上げられ,ビフィズス菌のことを考えた食生活の重要性についても,一般の人もよく知っている。テレビコマーシャルなどで繰り返し繰り返し,「ビフィズス菌が大事だよ」と流されているからだ。

 このあたりが,存在すら顧みられない皮膚常在菌とは大違いだ。ビフィズス菌のように,「皮膚常在菌を健康に保って,本当の素肌美人になろう」なんて記事が「NONO」とか「ViVi」,「女性自身」あたりに載るようになったらいいのだが,そういう日は来るのだろうか。

 なぜ,美容のために化粧をするのか。それはパラダイムだからだ。「女性は美しくあらねばならないし,美しくあるべきだ」,「化粧で女性は美しくなれる」というパラダイムを皆で信じているからである。このパラダイムが成立する限り,美容業界も化粧品メーカーも安泰である。だから,次々とユーザーを獲得するためには教育が欠かせない。そのために,少女向け雑誌などを通じて化粧法と化粧品情報を載せて小さい頃からこの業界に取り込もうとするし,その試みは成功しているといえる。

 化粧が必要だという科学的証明はない。しかし,女性の誰もが化粧は必要だと思っている。だから化粧はパラダイムなのである。

 しかも,早い時期から化粧を始めてしまうと,「化粧をしない」という選択肢は頭から消えてしまうし,化粧で肌が荒れてしまえばスッピンの状態では外を歩けなくなるから,自動的に化粧品で荒れた肌を隠し続けることになる。要するにこのあたりは,覚醒剤と覚醒剤中毒患者の関係と同じである。

 化粧をするのはパラダイムだから,化粧は必須だと思って毎日しているのだろう。しかし,スッピンで歩くことが当たり前で化粧をするのは原始時代の人間と同じだよ,というのが常識になったら化粧業界は崩壊してしまう。だから,「化粧はパラダイムだ」というのがばれないように,化粧を常識とすべく,化粧業界は日々,努力しているわけだ。

 万一,化粧品で肌が荒れたとしても,「お客様に合わなかったようですね。ではこちらの商品を・・・」と薦めればいい。客も店も「化粧は必需品」というパラダイムを信じているから,化粧品で肌が荒れればそれを化粧品で修正しようとする。「化粧品を使わない」という選択枝がないからだ。

 この「化粧パラダイム」は強力だ。何しろ,パラダイム内部の住人の数はほぼ全ての女性,つまり人類の半分である。この人たち(=女性全て)が「化粧をしない方が肌の状態がよく,皮膚の老化も防げる」ということを誰かが言い始めても,それが世界中の女性に伝わることなんて,まず絶対にあり得ないだろう。パラダイムシフトを起こそうにもこれほど信者が多い場合には不可能ではないかと思われる。



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