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情報将校

かつて、帝国海軍でも、きわめつきの情報将校だったという人の話を、随分前ですが、聞いたことがあります。その人は、ヨーロッパの大使館に駐在武官として赴任しつつ、大きな諜報網を組織していたというのですが、その情報活動の大きな部分というのは、現地の新聞雑誌を、克明に読むことだった、と聞きました。

つまり、普通に駅などに売っている新聞を毎日買ってきて、しっかりと読む。それが何よりも大事だというのです。

このように聞くと、諜報活動という言葉から浮かぶイメージと大分違うのですが、それが大事で、もちろんエージェントも使うし、情報を盗むような危ない橋も渡るのだけれども、しかしいずれにしろ、その活動の基本は、どこにでもある、誰でも入手できる情報をしっかりと把握しておくことだというのです。

というのも、エージェントによってもたらされた、貴重な情報というのも、どうしてそれが貴重なのかは、基本的な社会なり政治、経済の認識というものがきちんと出来ていないとわからないのです。

スパイ小説などと違って、現実には、秘密基地の写真などというものが本当に貴重な情報としてやりとりされるのではないのですね。本当に貴重な情報は、一見地味なところにあって、それを貴重と見抜くための努力の方が、情報取得よりも数倍も大変なのです。

たとえば、この人の経験だと、一九三八年くらいに、イギリスからオランダに輸出された馬をドイツの業者が大量に買いつけている、という話を貿易業者から得た。この情報から、彼はドイツの開戦意図を察したというのです。

というのも、当時からドイツの機甲師団は有名で、広く宣伝されていました。しかし、実際には戦車はあるものの、弾薬や食料を運ぶトラック等はまったく準備されていなかった。そういうルポが、なんとドイツの雑誌に、小さく出ていて、はやく機械化を急がなければならない、といったことを訴えている。

その記事に彼は着目していたわけです。そう考えると、ドイツが攻勢に出るためには、トラックに代わる軍馬が是非とも必要なわけですが、いよいよその調達に乗り出したのだ、ということがその情報からすぐわかる。

つまりは、何が貴重な情報なのか、ということがわかっていない人間にとっては、どんな情報もまったく無意味なのであって、まず大事なのは、その貴重さを見抜くための蓄積なのです。








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