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共依存

1970年代以降、アルコール依存症の治療に関わってきた人々の間で「共依存」という概念が産まれました。たとえばこういうケースがそれに該当します。

共依存:概要
典型例としては、アルコール依存の夫は妻に多くの迷惑をかけるが、同時に妻は夫の介護などに自分の価値を見出しているような状態である。この共依存は、患者の自立する機会を阻害し、家族もまたアルコール依存症患者を回復させるような活動を拒んだりする。

ろくに仕事もせずアルコールに溺れ、しょっちゅう妻や子供に暴力をふるうような、第三者から見たらどうしようもない「ダメ男」となかなか別れない妻が、なぜ別れないの? と聞かれてこんな答を返すのが象徴的な例ですね。

「私がいないと、ダメになってしまうのよ、あの人」

 ダメ男をかいがいしく支える妻、のようですが、実はこういうケースでは、どちらにしても「自分の力で相手をコントロールしようとしている」ことがその後分かってきました。

2013-03-10-1


ダメ夫のほうは男ですから力が強いので暴力をともなう形で、「自分の言うことを聞かせる」ことで相手をコントロールし、コントロールすることで「自分には力がある」ことを確認しようとします。
ところがだいたいそういう「ダメ夫」は生活力などないのが普通で、生活面では妻に頼っています。そして「献身的な妻」のほうは「この人は私がいないと本当にダメになる」と考えることで「自分には力がある」ことを確認しようとします。この場合、「妻」にとっては夫が「ダメ男」のほうが都合がいいので、暴力をふるわれても世話を焼くことで、ダメ男がダメ男であり続けることを助長しているケースがある、という、そんな関係がアルコール依存症の治療の過程で多数発見されたことから、共依存という概念が産まれたわけです。

共依存というのは「共に(お互いに)相手に依存している」ということで、おおざっぱにいうと「自分以外の誰かをコントロールする」ことで「自分に力がある」ことを確認しようという行動なんですね。

共依存はもともと「アルコール依存症男性の治療」という関係の中から概念化されたので、「ダメ男とその妻」という例がよく引き合いに出されますが、性別は実は関係なく、男女が逆でも、あるいは男同士女同士でも、夫婦ではなく上司部下や友人あるいは親と子の間でも共依存的人間関係は存在します。

まあ率直に言って不健康な人間関係ですが、共依存という現象そのものは今回、主題ではありません。注目して欲しいのは、その過程で出てくる「コントロール」という行動です。

目的:自分に力があることを確認する・・・ために
手段:自分以外の誰か/何かをコントロールしようとする

という行動が共依存的人間関係の根本にあるのですが、そもそも

「自分に力があることを確認したい」

と思っている人というのはどういう人かというと

「自分に力があるという実感がない人」

なんです。ない、と感じているから、欲しくなる。それ自体は当然すぎるぐらい当然起きてくる感情なんですが、問題は

「自分の力」を確認するために、
他人の行動をコントロールしようとすること

です。これが非常に深刻な弊害を引き起こします。歓迎できないことではあるんですが、かといって誰でもちょっとしたきっかけで陥ってしまうことがある人間の心理の闇と言いますか暗部と言いますか、なので、こういうパターンが存在することは知っておきたいのです。非常によくあるんですよこれが・・・・・

こういう、「他者をコントロールする欲求」に走った人物が取る典型的な行動をいくつか挙げておきます。

(1) 相手の些細な欠点をあげつらって「おまえはダメな奴だ」と自尊心を傷つける
(2) 「おまえの言うことは間違っている」と相手の主張を常に否定する
(3) 「俺の言うとおりにしろ」と自分の主張を押しつける
(4) 相手が自分のアドバイスに従わずに成功すると、不愉快に感じる

 (4)番について補足しますと、「あなたのためを思って言っているのよ」というセリフをつけてアドバイスをしたがる人物が結構いますが、本当に「その人のため」を思っているのであれば、自分のアドバイスに従わずに成功しても素直に喜べるはずなのに、そういう人物はかえって不機嫌になったりします。理由は明らかで、

 相手が自分のアドバイスに従わなかった→自分には相手を従わせる力が無い。
 自分のアドバイスと違う方法で成功した→自分には正しい方法を見つける力が無い。


というわけで、「自分には力が無い」ということを思い知らされるイベントがダブルパンチになるからです。こういう人物にとって大事なのは「自分の言うことを聞く人間がいる」ことであって、「相手が成功する」ことじゃないんですね。

さて、既に書いたように、このような「他者をコントロールする欲求」の根本は「自分には力が無い」という思いです。心理学用語でいうと自己効力感の不在。

人間は、自己効力感を持てない状態に長期間おかれた後、環境が変わると他者に対して非常に攻撃的になることがあります。よく知られているのが、親に虐待された子供を親から引き離して、「安心できる」はずの環境で育てはじめた時に、周囲に暴力をふるい出すことがあるという現象で、その暴力は「攻撃しても反撃されない対象」に向かいます。要は1発殴ったら10発返ってくるような相手にはちょっかい出さないわけで、反撃されないという意味で「弱い相手」に向かうわけです。これは「自己効力感を取り戻そうとする行動」のひとつであり、その意味でごく自然な行動なのでしょう。ただ、それに対応しなければならない周囲の保護者には覚悟が要りますが。


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