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怒りの感情を抑える

採録 認知行動療法的なことも書いてある 
 
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怒りの感情を抑えると、どんなマイナスが生じるか、3つ挙げておこう。

 第1に、「ささいなことにイライラする」。

 飲み屋での中年男性同士の会話。

 「近頃つまらんことでイライラするんだよね。テレビ、それもNHKの女子アナがやたらと笑うんだよな。お笑い芸人じゃあるまいし。いい加減にしろ、って言いたい」

 「オレも、女性の天気予報士の声の甲高いのにはイライラする」

 「それに電車のアナウンスもイラつくんだよ。『この電車は途中混雑のため、ただ今1分遅れで走っております。お急ぎのところご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません。深くお詫び申し上げます』。ばか丁寧に詫びられると、1分くらいで深くお詫びはないだろう、ふざけるなって腹が立つ」

 「反対に10分以上遅れると、急にアナウンスが少なくなったりしてね」

 耳に入ってきた2人の会話、私にも思い当たることなので思わず頷いてしまった。

 妻にも話したところ、「だったらすぐに投書するなり、メモして駅員に渡すなりすればいいじゃない?」。

 「でも、それも大袈裟だし」と口をつぐんでしまう。

 「おかしい。変だ」と感じたら、発信元に直接、その感情をぶつければいいのに、抑え込んでしまうために慢性的不機嫌に陥る。文句を言ったり、相手を責めたりしたくなるのは感情を抑えていることから起こる。

 第2に、「人の話が聞けなくなる」。

 ムシャクシャしているのに言わずに我慢していたのでは、人の話を聞く余裕は生まれない。

 <部長はいくらなんでもひどすぎる!>。内心苛立っている課長は、部長が何か言っても表面上聞いているふりをしているだけだ。

 「部長、私は正直言うと怒っているんです。なぜ、私に相談してくださらなかったのか。それで、責任だけおまえが取れというのでは、私はどうしていいか分かりません」

 これだけのことを言ったうえでなら、部長が一体どういうつもりだったのか、真剣に聞く気になるはずだ。人は自分の気持ちを伝えた後なら、相手の話を聞こうという気になるものである。

 第3に、「相手にいやがらせをする」。

 無理ばかり言う先輩に、言い返したいのにそれができないでいる後輩。彼はやがて頼まれたことになかなか着手しなかったり、やることはやっても手を抜いていたり、時に「あっ忘れていました」などと言って、いやがらせという手段を用いる。それも、意識してではなく、本人も気づかないままやってしまう。

 心理学の本によると、こうした態度を「受動的攻撃」と呼ぶそうである。

 「あれ、やっといてくれた?」

 「あっ、まだです。これからです」

 「困るね、早くやってよ」

 こんなやり取りが何回も続くようなら、単に仕事が遅いだけではなく、面白くない感情がくすぶっている結果なのかもしれない。

 これらのようなマイナスを解消するには、怒りの感情を言葉にして伝えるのが何よりである。怒りの感情の伝え方について、これまでもいくつか述べてきたが、ここでまとめて触れておきたい。

 すぐにカッとなる「瞬間湯沸かし器型」の人はもちろん、普段は落ち着いている人間でも、イライラし、怒りが込み上げてくると、頭に血が上って一気に怒りの感情をぶちまけてしまう恐れがある。

 腹を立て、感情をまき散らすことと、怒りの感情を伝えることは、大きな違いがある。

 感情をむき出しにして怒れば、人間関係は一気に壊れてしまう。「怒る」のは人間関係の修復のためであって、壊すことではない。

 カッとなったまま、言い換えれば怒りに任せて怒るのではなく、一拍置いて少しでも自分の気持ちを落ち着かせる。そのうえで、怒りの言葉を口にしよう。

 気持ちを落着かせる方法には3つある。

1)深呼吸をする

 よく言われるように、「カッとなったら一呼吸」である。カッとなって過剰反応をすると、攻撃的になるだけで我を忘れてしまう。自分を取り戻すための「間合い」が、一呼吸だと思えばよい。

 私は子供の頃から喘息で、今も悩まされている。そのせいか、呼吸と言うと「吸う」ことだと思い込んでいた。発作が起こって、息苦しくなると、普段気にならない空気の汚れがいやに気になって、明るい光りの中にほこりがキラキラ舞って目に入ってくることがある。

 でも、呼吸とは文字通り「呼」が先なのだ。まず、息を吐くこと。吐いて吸う。

 「ハァーッ」とゆっくり息を吐く。そして鼻からたっぷり息を吸い込む。ひたすら、呼吸に意識を集中する。このようにして呼吸を整えるとよい。

 すると、次第に気持ちが落ち着いてきて、自分が戻ってくるのである。

 以前は私も吸うことばかり考えて、あわてて苦しんだりしたのだが、近頃は息が苦しくなると吐くことから始めて、その後で吸うようにしている。

 カッとなったら、まず息を吐く。そして吸って、自分の気持ちを整えよう。

2)体を動かす

 「怒る」ことに馴れていない人は、いざ怒ろうとすると、緊張に襲われて身体や表情がこわばってくる。

 こんな時、言葉で<力を抜け、リラックスするんだ>といくら言い聞かせても、その言葉に縛られて、かえって体は硬くなる。

 アランの『幸福論』にこんな一節がある。

 舞台に立つのを死ぬほど怖がっていたピアニストが、演奏を始めるや否や、たちまち立ち直ってしまうのをどう説明したらよいか。

 アランはこう説明する。「体の運動が我々を恐怖から解放するのだ。ピアニストはあの指の柔らかい運びによって恐怖を追い払ってしまったのだ」。

 「立ち上がる」

 「伸びをする」

 「一歩、二歩、歩いてみる」

 「首を回し、肩をほぐす」

 そんな軽い動作をするだけで、気持ちがほぐれる。

 宅配便の配達員が小走りにやってくるのは、急いでいるだけでなく、走ることで暗い気分を追い払って、明るい表情を作り出しているのである。

3)イメージを浮かべる

 私の事務所の近くにある湯島天神の鳥居の脇に、大きなイチョウの木がある。去年の11月中旬のある日、ふと見上げたら黄色いイチョウの葉がいっぱいに広がって、思わず見とれてしまった。近くにいた男女2人連れがスマートフォンを手に取って、寄りそって画面に見入っていた。

 ほどなく、男性が「カッとなった時、この画面を見て気を静めるっていうのはどうだろう」。「いいかもね。でも、できるかな」。「湯島天神のおまじないと思ってやるさ」。「私が腹を立てた時にも使ってよね」。

 腹が立った瞬間、自分の怒った顔をイメージして、「こりゃいかん」と気持ちを落ち着かせる方法もあるだろう。だが、それよりスマホの「見事な黄色いイチョウの葉」が映った画面の方が、気持ちを変えるのには効き目がありそうだ。あなたはどう思うだろうか。

 相手の態度にムっとする。「そんな言い方はない」と癇にさわる。でも、いざとなると怒りを口に出せない。時間が経つほど、言い出しにくくなる。

 Fさんはそんな時、気心の知れた同僚から「なんか不機嫌そうだけど、気に入らないことでもあるのか」と、声をかけられた。

 きっかけは、上司に「キミ、困るじゃないか。1カ所数字が抜けていたぞ。オレが気づいたからいいけど、上に出す資料だから、しっかり確認してもらわないとな」と言われ、資料を突き返されたことだった。

 Fさんは、仕事は速いが細かい点を見落とす癖があって、自分でも気にしているだけに、たった1カ所数字の記入漏れくらいで資料を突き返され、内心面白くなかった。つい、「分かってます」とうるさそうに答え、上司から「分かっていないから言っているんだ」と強い口調で言い返された。

 「すいません」と謝ったものの、Fさんは内心釈然とせず、怒りがくすぶり始めたのだった。

 短気な性格のFさんだから、このままでは怒りが爆発して上司とやり合ってしまうかもしれない。怒りの感情は目に見えないだけに、内心でくすぶって自分でも把握しにくい。

 そこで、紙に書いて可視化してみたらどうか。

 その際の要素は、

A)自分は何に対して怒りを感じているのか?
B)それは誰に対してか?
C)どの程度の怒りか?

 この3点について、紙に書き出してみる。書いてみることによって怒りの正体が明らかになるし、新たに気づくことが出てくることもある。

 Aについては、資料を突き返されたこと、「分かっていないから言っているんだ」と強い口調で怒られたこと。さらに、上司に「仕事を甘く見ているんじゃないか」と思われているような気がしたこと。でも、怒りを感じたそもそもの原因は細かい点に不注意であることを、自分でも気にしていて、不安だったからではないか。

 Bについても、上司に対してだけでなく、自分に対して<不用意なやつ>と腹を立てていたことに気づく。

 Cは、まだ「イライラ」「腹立たしい」気持ちがくすぶっている程度。ただし、上司から再び「おい、資料の順番が違っている。なんでこういうつまらないミスをするんだ!」と怒られたら、Fさんはカッとなって「そんなに大声で怒ることもないでしょう」と言い返し、「大声を出しているのはおまえの方だろう」と言い争いになるかもしれない。

 これではお互い、不快な思いが残るだけだ。紙に書いて、気持ちを整理しておけば次のように話せるだろう。

 「実は私も気になっていまして…。ですから指摘されると、不安になってどうしたものかと悩んでしまうんです」

 こう伝えれば、上司もFさんが仕事を甘く見ているのではなく、実は気にしているのだと分かり、「キミは仕事が速いし、できるんだから、最後のチェックさえ怠らなければ何も問題はないんだよ」と、好意的なアドバイスをしてくれるだろう。

 自分が感じたことを整理して、早い段階で述べておけば、相手にもこちらの気持ちが伝わって、お互いに協力的な関係が築けるのだ。

 怒りの程度にも、いくつか段階がある。

1)軽い怒り、小さな怒り:ちょっと気になる、困る、注意したいなど

2)イライラする、腹立たしい:やる気がない、よく間違える相手に対してイラっとする

3)頭にくる、カッとなる:人を無視する、非を認めないなどに対して強い怒り

4)許せない、激怒する:ひどすぎる仕打ち、ルール違反、理不尽など断じて引けない憤怒

5)キレる、怒り狂う:自己中心の怒りからくるもの、または我慢のしすぎ

 怒る時のものの言い方も、この段階に従って激しさを増し、強い口調になり、最後には怒鳴り合いになってしまう。

 とはいえ、怒るのは「現状を回復したい」「もっとよくしたい」「人間関係の修復を図りたい」との目的であることを想起すれば、言い方もその目的に沿ったものであるべきだ。

 3つ、要点を挙げておく。

 1つは、大きい声を出さない。

 普通の声で話す。感情が高ぶると、つい大声を出してしまう。大声を出すと、相手の感情を刺激するだけでなく、自分の気持ちにまで影響を与え、一層感情を高ぶらせる結果になる。声を荒立てるのは、怒りを相手に無理矢理押しつけているのであり、いわば声で脅しているのである。

 自信のない人ほど、居丈高に大声で怒る。こんな言葉がある。「本当に自信のあるものは静かで、しかも威厳を備えている」。

 2つ目は、どう感じたかを具体的に指摘する。

 いきなり、「人をばかにするにもほどがあります!」などと言う。これは感情をむき出しにしているだけで、相手の行為や発言のどの部分に腹を立てているのか、伝わらない。「決める時は一言相談してください。そうでないとばかにされたとしか思えません」。

 3つ目は相手を非難しない。

 感情が紛らわしいのは、非難や決めつけに姿を変えるからである。

 「キミは全く当てにならない人だ」。これは怒りの感情表現ではない。決めつけであり、非難しているのである。

 「私は怒っている。頼んだ仕事をキミがやってくれないので、これからの予定が立てられないのだ」。まず、「私はこう感じている」と切り出すことだ。

 「あなたはなんてひどい人なの。あきれてものが言えない」。これも決めつけであり、非難である。

 「私は『そんなことも知らないのか』っていう言葉で傷つきました。とても、つらい気持ちになったんです」

 自分の気持ちを伝えるようにしよう。誰でも自分が怒っていたり、傷ついていたりするのを人に知られたくないので、傷ついたこと、不安に感じたことを素直に口に出せずに、つい相手を責めてしまうのだ。

 怒りの感情を伝えるうえで、ここが最大のポイントになるのではないか。




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