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隠性収入

中国では多くの人々が、表に出る正規の給料だけ見ていても、あまり意味がないと指摘する。筆者の何人かの中国人の知り合いも、周りの友人はみな、正規の給料の他に、表に出ない収入を得ていると言う。特に、公務員や大型国有企業の幹部らは、給料の形ではない様々なフリンジ・ベネフィットの恩恵を受けており、また現金収入についても、「白色収入(合法的な正規の収入)」以外に腐敗や汚職による非合法的な「黒色収入」、白色と黒色の中間である「灰色収入」が大きいと見られている。そして、これら黒色収入、灰色収入が、「隠性収入」の大半を占めているというわけである。しかし、中国の友人らの言い振りからすると、こうした表に出ない収入の存在は、中国社会の中で、より広範かつ一般的のようである。 隠性収入の推計を専門にしている中国人学者も存在する。そうした学者が存在すること自体が面白いが、それによると(中国改革基金会国民経済研究所副所長が、上海交通大学海外教育院主催シンポジウムで明らかにしたもの、2012年1月11日付人民網)、2008年の隠性収入総額は約9.3兆元(同年GDP31.6兆元の約30%の規模)と増加傾向にある。そのうち80%は高額所得上位20%の層(*)、62%が上位10%の層に帰属している。よって、通常統計では、上位10%の平均所得は下位10%の23倍と言われているが、実際には65倍の格差があるというわけだ。仮にこのような巨額の隠性収入が存在するとした場合、それはどのようなインプリケーションを持つことになるのか? (*)別の推計では、隠性収入の80%は、人口の10%を占める特権階級に属するとされている(社会科学院人口労働経済研究所長、5月2日付中青在线)。 第一に、仮に恒常的に30%程度の隠性収入が存在してきたとすると、統計上は、ドル換算で、2010年、中国のGDPは日本を上回って世界第二位となったとされているが、実際は、リーマン・ショック以前の2007年頃には、既に日本を大きく上回っていたことになる。人民元相場が過小評価されてきたきらいがあることを勘案し、購買力平価(PPP)ベースで見ると、2001年、すでに中国のGDPは日本を抜いているが(IMF統計)、さらにこれに隠性収入を加味すると、単純計算では、日中GDPの逆転は、実質的には、1997,8年のアジア金融危機頃、あるいはその直前に生じていたことになる。 第二は、所得格差との関係である。上記推計では、明らかに、隠性収入を考慮すると、所得格差は表向きの統計で言われている以上に大きいことになる。いつの間にか、全国および都市部のジニ係数(所得分配の不平等度を示す係数で、高いほど所得格差が大きい)を発表しなくなった国家統計局は、1月17日の記者会見で、その理由を問われ、現状、都市部の高所得者の収入の正確な把握が困難で、そのため都市部のジニ係数が低めに出るきらいがあるためと述べており、当局も高所得層ほど隠性収入が多い可能性を示唆している。しかしこれに対しては、必ずしもそうではないとの指摘もある。たとえば、中国経営網評論(2011年3月)は、多くの農民は出稼ぎで得た収入を隠しており、これが考慮されていないジニ係数は、実態より高めに出ていると指摘している。筆者の周りも含め、一般の中国人家庭が、正規の給与だけからは考えられないような豊かな生活をしているという印象は、あちこちで聞かれる。隠性収入は、普遍的に社会全体に広まっていると思われるが、少なくとも、現金でない様々なフリンジ・ベネフィットは大型国有企業幹部等の高収入者の方が恵まれており、それらも含めた実質的な所得格差は、統計上のそれより大きい可能性の方が高い。しかし他方で、低収入者の隠性収入の限界効用はより高いはずであり、隠性収入の存在によって、所得格差拡大に対する不満が爆発しないで済んできたということも言えるかもしれない(言い換えれば、隠性収入の存在が、良くも悪くも社会の安定化に寄与している)。 第三、隠性収入は表にでないため、徴税を免れている。中国の給与に対する所得税は累進税率になっており、7所得階層別に3-45%の累進税率、課税最低限(起征点)は月当り3,500元である(昨年改訂されたもの)。元来中国では、個人所得税の税収全体に占める比率は大きくなく(2011年実績で見ると、税収8兆9,720億元のうち、個人所得税は6,054億元と約6.7%、過去10年間で見ても、おおむね6-7%で推移しており、主たる税項目は、増値税、営業税、消費税等の間接税)、個人所得税は、政府の収入源としてより、その所得再分配機能が期待されているものだ。然るに、給与以外の個人営業所得は5階層別で5-35%、特許権収入や利子、キャピタルゲインは20%のフラット税率で、総合課税がなされておらず、個人所得税の所得再配分機能は不十分と指摘されてきた。こうした給与以外の収入も、表に出ていれば(顕性収入)、たとえ低い税率であれ課税されるが、こうした収入は捕捉が難しく、隠性収入の一部になり、課税すらされていないことが多い。さらに、隠性収入全体が伝えられるような規模ということになると、個人所得税の所得再分配効果は、言われている以上に形骸化していることになる。隠性収入を「顕化(表に出すこと)」によって課税対象とし、税制の所得再分配機能を高めることは正しい方向だが、上述のように、課税を免れている隠性収入の存在が社会の安定に一定の寄与をしているとすれば、問題はなかなか複雑と言わざるを得ない。

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貧困層の問題、格差の問題、急速に進行する高齢化、途上国のままで高齢化してしまうことに伴う困難、情報端末が人々の意識を変化させてしまう問題

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2011年世界銀行調査レポート「貧困削減:ブラジル、中国、インド比較」でも、1981-2005年、3カ国とも、1日1.25ドル以下で暮らす絶対貧困層の対総人口比率は低下しているが、その程度は、中国84%⇒16%、ブラジル17%⇒8%、インド60%⇒42%と、中国のパフォーマンスが際立っている。絶対貧困人口で見ても、1990年から2005年にかけ、中国では4億75百万人減少している。

新基準は1日1.8ドルに相当し、中所得国の平均的な貧困基準になっているとの推計もある(世界銀行)。何れにせよ、新基準でも貧困人口が7,8千万-1億人程度にまで大きく増加する見込み。
1億人の人が一日2ドルで暮らしているのだそうだ。

しかしある報告では、経済的に豊かな都市生活の意味を知らず、貧しい農村での昔ながらの、のどかな暮らしに満足している人々も多いのだそうだ。


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