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熱い人

渡邉:今回は中学校で陸上競技日本一の教え子をたくさんつくられた原田先生を講師に迎えて話をうかがいたいと思います。

 原田先生は20年間中学校の教師をされ、大阪の荒れた学校を立て直し、7年間で13回、生徒を陸上競技日本一に導きました。その後、教育関係の会社を立ち上げ、現在は「原田教育研究所」の代表を務めていらっしゃいます。では、お願いいたします。


原田隆史氏
原田:今日は起業のための教育ということで、渡邉さんから依頼をいただきました。私は「仕事と思うな、人生と思え!」をテーマに話を進めたいと思います。目の前のことに全力投球、手抜きをしないでやりなさい、ということですね。

 私が中学校で3年間育てた子供が、どういう大人になったかを追跡調査しました。例えば、世界の女性指揮者の中でナンバー1と言われる西本智実が私の最初の教え子でした。ほかにも、スポーツの世界ではアテネオリンピックの水泳バタフライで銀メダルを取った山本貴司とか、政治家とか、いろんなすばらしい人がいます。

 世の中で本当にリーダーとして活躍して、結果を出す人から感じられる生き方の姿勢を一言で述べると、「仕事と思うな、人生と思え!」です。目の前のことにひたすら全力投球するということです。

シナリオストーリーとセルフイメージ

 人が結果を出すためには、戦略や戦術が必要です。私は「シナリオストーリー」と呼んでいます。シナリオを描いて、それが頭の中で鮮明になってきたものを「イメージ」と言います。

 人はイメージの生き物です。自分に対してイメージしている通りの人間になるんです。これを「セルフイメージ」と言いますが、そのイメージを仕事や日常生活で向上させなければなりません。そのイメージを鮮明にするためには我々はどうすれば良いのでしょうか。

 1番目は映像にすることです。実際に絵で描いてみたりするのもいいでしょう。

 2番目は、その本当の目標や目的が達成したときの状況を音で表現することです。

 陸上競技を指導していた私の経験ですが、日本一の瞬間、聞こえないはずの砲丸の着地音が「ドーン」と心臓に響いたのを聞いたのです。そして、その時に聞こえてきたのは「ヤッター良かったね。おめでとう!」でした。 その成功、達成した瞬間の音を聞くのです。

 3番目は、それが本当に達成した時に体でどう感じるかです。心臓のドキドキバクバクを感じるでしょうか。額から汗が一気に吹き出すでしょうか。たぶん渡邉美樹会長が最初に株式を公開した時に、証券取引所で鐘を鳴らしたと思うのですが、どうでしたか。


渡邉美樹(筆者)
渡邉:今、原田先生が言われたように、私は起業して10年で店頭公開という夢に日付を入れました。実際には2年遅れましたが、12年間「店頭公開」という言葉を意識しない日は1日もありませんでした。毎日、毎日、日付を入れイメージしてきました。だから当日は不思議な気持ちであり、これからが本番だという思いでした。

原田:そうなんですよね。完璧なイメージが既にできていた。

 起業を目標にしていて、それが達成された時はどういう気持ち、感情なのでしょうか。そして、上記の1、2、3をまとめて、その気持ち、感情を言葉にするとどうなるのでしょうか。きっと「幸せ」でしょう。 幸せな感情をいっぱい感じるでしょう。これが4番目の切り口で、この「幸せな感情」をリアルに引き出し感じるのです。

 私はプロゴルフもラクビーもプロ野球も知りませんが、なぜそういった人たちを指導して結果を出せるかというと、成功したときのイメージをリアルに引き出し、作ることができるのです。

 最終的なゴールのイメージを、映像、文字、音、体内の変化、その時に感じる幸せな感情でリアルに表現します。そしてこれらを何度も繰り返し、成功のイメージをリアルに引き出し、作ることができるのです。

 その感情を感じながらイメージトレーニングをすることが大切です。

 普段、24時間何気なく生活していた人が、その自分の最終ゴールをイメージし、反復すると、ゴールに対する工夫とか、ヒントとか気づきとかのイメージが湧いてくるようになる。だから強く強く願わないとダメなんです。そうすると長期的なやる気、モチベーションが湧いてきます。

やる気には2種類ある


 人の「やる気」には2種類あります。「長期的なやる気モチベーション」と「短期的なやる気テンション」です。朝起きて、自分がちょっと元気がなくてテンションが下がっている時は、自身のテンションのスイッチを入れるために、何かしないとダメなんです。あなたが社長なら朝、出社して社員に元気がないなと思った時は、何かをしかけなければなりません。

 大きな声を出すとか、笑わせるとか、体を動かすとかしますね。気合いを発するとか、動作を変えたらいいんです。音楽を聞いたり、元気の出る写真を見たりするのもいい。瞬時に下がっていた自分の心が、パッと上がるような技を持ちましょう。

 そして、長期的にやる気を高めるためには、目的、目標設定です。未来に「こうなりたい」「こうしたい」というゴールをしっかりと作りましょう。

渡邉:原田さんは中学校の陸上競技で日本一の選手をたくさん育てられたそうですが、どのように指導されたのですか。

原田:私は中学校の教師をしていた7年間で、教え子が陸上競技で13回、日本一になりました。日本一は技術でして、作るんです。

 私もはじめは、日本一をつくる優秀な先生が、高い資質や能力を持った子供と出会って、日本一が誕生すると思っていました。全国大会で賞状やメダルを取るのは、すごい先生がすごい生徒と出会うしかないと思っていたわけですね。ところが、それは違った。ある県の山間部の学校で、生徒数が60人しかいない学校からも日本一が生まれるのです。

 校長先生が陸上部の監督をされていたので聞いてみました。「原田君、陸上部の日本一はつくるんだよ。生徒を待っていたらダメです」とおっしゃいました。目からウロコが落ちましたね。「生徒を待ってはダメ。待つ教師はダメだった時、子供のせいにする。だから、あなた自身で作りなさい。そのためには目標と目的、そして計画が必要です」。言わんとするのは、日本一を連続して育成するためのスキルがこの世に存在するということなのです。 

仕事をしながら、自分の心を高める

 また、日本一を育成する中で、私が目指したのは「自立した人」です。人は人格の土台の上に能力を発揮します。勉強ができる。スポーツができる。仕事ができる。これらは素晴らしいことです。でも、そのことばかりに長けていて、人格、人間性、心の面の成長が乏しかったらどうでしょうか。

 芸能で優れていても薬物犯罪に加担したり、優秀なスポーツ選手が破廉恥な事件を起こす例があります。仕事、スポーツ、勉強の成果、人としての人間力、心の面のバランスが必要だと思います。渡邉会長いかがですか。

渡邉:まさしくその通りです。

原田:私はまだまだ人間的にも成長が必要と自覚しているので、何かあればお寺に行っていました。でも、お寺に行く時間もなかなか取れなくなってきたので、仕事をしながら同時に人格を磨きたいと思うようになりました。仕事をしながら、自分の心の面を同時に高める方法はないか考えたのです。そして世の中のモデルを研究している中から見つけました。

「人を助ける」
「仲間や部下を教え導く」
「自他を愛する」

 この3つでした。

 つまり、仕事、勉強、スポーツをしながら、助ける、教え導く、自他を愛する、ということを同時に行えば自立心が養えるのではないかというのが、私の仮説でした。

 それを家庭教育プログラム、学校の先生育成プログラム、企業の人育成プログラムに入れてみました。そうしたら、指導していた人々が自立し始めたのです。これを「心づくり指導」、「原田メソッド」と呼びます。

心のコップが上を向いている人

 私はかつて「現在は頑張れても、未来は分からない」と教わりました。だから、しんどいことがあると、「どうせ無理」と思ったり、口癖のように言っていました。なぜと聞かれたら、「そんなことはやったことがないから」と答えていました。

 ところが、とても荒れていた学校を立て直した先生や、荒れていた職場を日本一にした経営者たちの思考法は、私と全く逆でした。優秀な指導者は、まず未来をつくります。「目標は陸上競技で日本一。目的は生徒の自立、そして、学校地域の誇りプライドを再生する」という具合です。


 未来を表すキーワードはいっぱいあります。目的、目標、ミッション、ビジョン、思い、志、理念、夢など。それをまずつくって、そうして設定した未来から、現在の自分を見る。すると、現在と未来のギャップを感じます。

 何かを成そうとする人は、そのギャップでイライラしたり、焦ったりする。それをモチベーションと言います。モチベーションというのは、何か頑張った後に得られる報酬とかお金だけではないのだということも私は学びました。 

 では過去はどうしましょうか。明解です。どうすることもできないから置いておくのです。これで気が楽になります。私は教師生活の中で教え子が命を失うという、とてもつらい経験をしました。ですが、過去は仕方ないからいつまでもクヨクヨしないで、ひとまず置いておこう思うと心が癒されたのです。

 そのような発想ができる人を「主体者意識のある人」と言います。これを私たちは「心のコップが上を向いている人」と言います。本気、真面目、真剣、積極的、素直――。コップが上を向いているから、我々もスキルやノウハウの方法を注げる。そして、結果が出るということです。

顔につばを吐いて「死ね」と言った生徒

 もしこの心のコップがふさがっていて、常に被害者意識で「どうせ無理」とまず思うような思考では、たとえ“達人教師”に指導を受けても結果は出せない。昔の私はそれを、スキルやノウハウのせいだとか、学校や地域が荒れているから私のやり方がうまくいかないとか、親が悪いとか思っていました。

 私の心のコップが下を向いていたからです。どうせ無理と思う人は、過去にとらわれています。そして未来が描けないのです。描こうとしないのです。皆さんこれはやめましょう。そして、心のコップを上に向けながら主体者意識で頑張りましょう。

渡邉:では、人の心のコップを上に向けるためには、どんなことをすれば良いのですか。

 私は20年間で3つの学校を回りました。最後の大阪市内の学校は当時、多くの問題を抱えていました。暴力を振るう生徒もいました。でも、そういう暴力的なエネルギーは、裏を返せば、すごい力があるということです。目標や方向性を与えてやれば結果が出ると確信したので、やる気が湧きました。

 そこでまず「校門指導」を始めました。朝、学校に来る生徒に「おはよう」と挨拶するわけです。すると、ある生徒は私に「死ね」と言いました。「お前、心が歪んでコップが上向いてないやろう」という状況です。そこからのスタートでした。


渡邉:それはまた、すごい状況ですね。そこから立て直そうと思うのはすごい覚悟だったと思います。

原田:地域の小学校から私の中学校に入ってくる生徒のうち4分の1ほどが、私立中学など他校に行きます。お金持ちや教育熱心な家庭の子供は、しんどい学校に来ません。そのことを子供たちもよく分かっていて、「どうせ俺らはダメや」という気持ちになっています。夢や、目標、自身やプライドなどなかったのです。

 私は周りの先生や大人に「この学校を日本一の学校にしましょう。1年で落ち着いた、みんなが行きたくなる学校にします。そして3年後に陸上競技で日本一を達成します。みなさん協力して下さい。またそれぞれが何かを目指すよう、お願いします」と言って、スタートしました。

 まず、陸上部の子供たちを集めました。当初はだらしなかったです。「こんにちは。原田や、今日からみんなの監督や。みんなも俺のこと知ってるやろ。みんなを日本一にするから頑張ろう」といったら、即座に「どうせ無理や」と返ってきました。万事、そんな感じです。

 家庭訪問をして調べてみると、経済的に厳しい家庭や母子家庭,父子家庭、不在家庭などがありました。とてもかわいそうだったのは、お父さんとお母さんが共に亡くなり、ほとんど子供たちだけで暮らしているという家庭でした。中には親が犯罪を犯し、離れて暮らしているという者もいて、自分もいずれそうなると思い、最初から未来を悲観していました。だから、荒れるんです。

 私は「親は関係ないやろ。俺はそんなことでお前を蔑視しない。そんなことお前と関係ない」と、そこから話をしていきます。そして「一緒になんとしても日本一を目指そう」というところまで持っていったわけです。

 かと言って、金髪、たばこ、ナイフをとがめると、ワーっと言い返してくる。親が刑務所にいて、自分もいずれそうなると思っていて、最初から未来を悲観しているから荒れるんです。私は「親は関係ないやろ。俺はそんなん知らんし」と、そこから話をしていきます。そして「一緒に日本一を目指そう」というところまで持っていったわけです。

掲げる目標は一貫して「日本一」

 私は20年間教職に就きましたが、掲げた目標は一貫して「日本一」なんです。ですが最後の中学校に行くまで、13年間は日本一はありませんでした。ところが、最後の中学校に転勤して、とても厳しい環境や生活の子供たちに出会って、わずか7年で13回、日本一を取ってしまったのです。

 それは私の中に大きな変化があったからです。目標は20年間変わらず日本一だったのですが、私はここで初めて「目的」を持ったのです。この子らを自立させる、この子らに人として自信を持たせる、そして、この地域や学校に誇りを持つこと。それが目的です。

 目標は陸上競技日本一。目的は子供の自立、地域の誇りプライドです。それを私も持った。そしたら、エネルギーが200倍になり、その結果が一気に日本一になったわけです。

 ここまでは、全体のお話をしました。後半は学校や組織を日本一にするために取り組んだ実際の集団の育成方法と、個人を日本一にするための極意をお話ししたいと思います。

渡邉:原田さんにはここまで、大阪の荒れている中学校を落ち着かせ、陸上競技で日本一をたくさん取らせた経験などを語っていただきました。続いて、日本一にするために取り組んだ学校や集団の育成方法と、個人を日本一にするためのコツをうかがいたいと思います。

原田:では、より具体的な話をしていきたいと思います。


原田隆史氏
 1年で学校の秩序を回復させ、安心・安全な学校にする。犯罪をゼロにし、いじめ不登校を減らす。3年で陸上競技日本一。そして、経済的に恵まれない生徒から奨学金をいただき、授業料免除で進学させる。この二つを達成し、生徒、教師、地域の自信と誇りを再生し、「やればできる」の本気を育成する。ハッキリとした目標と目的です。1年後と3年後に必ず結果を出さなければならない。という崖っぷちに立ちました。まず学校を日本一にするために、人のコップを上に向ける取り組みから始めました。

 人の心のコップを上に向ける所、すなわち禅寺に修行に行き、3つのことを教わりました。また、荒れている学校を短期間で立て直した教師を訪ねたところ、驚いたことにお二人ともそれと同じことをされていました。やはり、仕事や勉強、スポーツを教える前に、人の真面目で積極的な態度や、真剣な姿勢を育成しておかないと、成果は出ない。必ず3つのことをするんだということです。

パフォーマンスの伸びしろをつくる

渡邉:その3つとは何ですか。

原田:それは、「時を守る」「場を清める」「礼を正す」です。

 つまり時間厳守、荒み除去、お掃除、お手伝い、奉仕活動、挨拶と返事、ありがとう、といったものですね。人の心のコップを上に向ける「再建の3原則」と言われています。

 学校でもこの3つを徹底させました。赴任した時は、80名の授業で50名が遅刻、一つのクラスで忘れ物250個という驚くべき状況でした。荒れている学校では、廊下や階段はガムと唾だらけで、ゴミ箱はいつも満杯のままです。「おはよう」と言っても無視、場合によっては「死ね」ですからね。

 学校でもこの3つを徹底させました。赴任した時は、生徒も先生も時間を守っていませんでした。保護者も授業参観で時間通りに来ないのですよ。廊下や階段はガムと唾だらけで、ゴミ箱はいつも満杯のままです。「おはよう」と言っても、返ってくるのは「死ね」ですしね。

 だから、再建の3原則は本当に大事だと思います。そして、奉仕活動や清掃活動を続けると、人の心のコップが上を向いてきて、精神的に安定します。そして、心のコップが上を向いている人が頑張って活動を始めると、周りの人はノウハウを教えてくれたり、困っている時に助けてくれたりするようになるのです。

 つまり心が一番重要です。仕事、勉強、スポーツ、人生のパフォーマンスに一番影響を及ぼすのは心です。「心身一元論」です。心も体も健康で体力があり、私生活を充実させることによって、パフォーマンスの大きな伸びしろができるのです。

 やはり、心のコップが塞がってしまい、生き方の態度や学ぶ姿勢が悪いままでは結果が出ない。そして、人の心のコップを上に向ける態度や姿勢は、教育によって改善することができると私は悟ったのです。

人の関わりは3種類

 職場や学校、家庭での人と人との関わりは3種類あります。

 1つ目は厳しくする。慣れあいになってはいけません。
 2つ目は、優しくする。悩みがあったら真剣に聞いてあげてください。
 3つ目は楽しくする。盛り上げて元気を出しましょう。
 厳しい関わり、優しい関わり、楽しい関わりというのが、家庭、学校、職場にバランスよくあると非常に良いのです。

 この3つの関わりを日々行いながら、我々は学校マネジメント、職場マネジメント、家族経営、すなわち、家族マネジメントをするのです。

 そこで、職場や学校、スポーツクラブ、組織や集団を上手にマネジメントしている人にコツを聞きました。すると、異口同音に同じことを言いました。それは「アメとムチ」です。

渡邉:職場のマネジメントのアメとムチとは何ですか。

原田:アメとは、仲間、社員、部下に対して優しく、楽しく関わること。そして、ムチとは、厳しくするということです。

 職場を上手にマネジメントするリーダーはいったい何によって厳しさを発揮しているのか。それは、結果を出すためのルール、職場を生き生き元気にするための約束事なんです。徹底すると、職場の人間関係のトラブルが減少し、職場に秩序ができて、ピリッとした空気になり、結果につながります。


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 繰り返しますが、組織職場のマネジメントは、優しい関わりで人を元気にしながら、職場のルール、マナーを皆で共有し、それを徹底してピリッとさせることです。

 そして、マネジメントのコツは、上司が仕事や部下への思いをしっかり語りながら、職職場全体の様子をつかみ、全体に対してかかわることと、その職場の中にいる社員一人ひとりに対して、個別にかかわることが大切です。個人に対しての関わりと、職場全体に対しての関わりの2つが必要です。個人にばかり関わって、会社全体を放っておいてはダメなんです。その逆も要注意です。

職場と個人を「アセスメントする」

 人は4種類に分類できます。

満足群:元気があって、自分の仕事の規律、約束を持ってる。
承認群:結果は出せているが、元気がない。
配慮群:元気はあるが、結果はまだ出ない。あるいは誰かとトラブルを抱えている。
成長群:急いで助ける必要がある。結果も出ていない。徐々にだらしなくなって怠惰になり、元気も下がっている。

 こうして社員個人や、職場の状態を観察します。これを「アセスメントする」と言います。アセスメントできると、改善のアプローチが見えてきます。これはたいへん大切なことです。職場や個人を用意にアセスメントできる力を持てば的確なアプローチができるのでエリアマネジャーになれます。優秀なマネージャーは職場の空気を感じるんです。

 こうやって、アセスメントとマネージメントする力があると、多店舗展開もできますね。ワタミの店長やエリアマネジャーはいかがでしょうか。だいたい合ってますか。

渡邉:その通り、合っています。優秀な店長やエリアマネジャーのいる店舗は良い空気が流れ、売上も自然とついてきます。

4種類の「ストローク」

原田: 次に、ストロークの勉強をしましょう。ストロークとは心理学用語で「心の栄養」という意味です。

 人は食事の栄養で体を作ります。その一方で、人とのコミュニケーションでやる気や元気を作ります。これを心の栄養、つまりストロークと言うのです。

 ストロークには種類があります。

[1]肉体的ストローク:人を肯定する方法には、握手をする。ハイタッチ、肩を叩いて送り出す。などのスキンシップがあります。

[2]心理的ストローク:あやす、うなずく、励ます、拍手をする、目を見て話す、身を乗り出して聞く、じっくり話を聞く、礼をいう、公正な評価をするなど。最も大切なのは、相手の話に感情移入して、その人の気持ちになって聞いてあげるということでしょう。

[3]条件付きストローク:「そのネクタイ、いいね」「今の電話の応対は良かった」など何が素晴らしいかを具体的に褒める。

[4]無条件付きストローク:「あなたがいてくれるだけでうれしい」といったもの。人の存在そのものに対しての肯定と愛情です。

 ただし、褒めるばかりではダメですので、否定することも必要です。

渡邉:否定のコツは何ですか。

原田:コツは1つ。「部分否定は構わないが、人格否定はやめなさい」です。


 例えば、遅刻をする人には、「遅刻がダメだ」と遅刻に対してのみ部分を否定する。そうでなく「遅刻ばかりするお前がダメだ」「どこかに行ってしまえ」「やめろ」などと言うのは人格否定です。人は人格を否定されるとやる気、元気が下がります。単純ですが非常に大事なテクニックです。

 そして、ストロークの与え方と受け取り方には原理原則があります。意識して、お互いを元気にしようと思ってストロークを与えてください。挨拶は挨拶だけの意味ではありません。相手を元気にするための「おはようございます」を意識してストロークを与えると、響くように返ってきて自身も元気になるんです。

 ストロークは、欲しくなったらもらいにいってもいいですよ。自分の元気が下がってきたら、身近な人で、皆さんのことを理解してくれ、元気をくれる人のところへ行き、一緒に食事をしたり、お酒を飲んだり、話をしたりする。お菓子を食べてお茶を飲む。それでいいのです。

 ストロークを与えてくれる人を「メンター」と言います。心の友、メンターを意図してたくさん持ちましょう。そして反対に、自分のところに「元気をください」と頼って来る人を「メンティー」と言います。身の回りに、メンターやメンティーがいるか、ぜひ考えてください。 

プラスの習慣を形成する

 最後は個人の能力発揮についてです。

 私が教師を務めた松虫中学校では(前回参照)、時を守る、場を清める、礼を正す。を実践して、問題が急速に減少し、校内での暴力事件はなくなり、1年間で学校は生まれ変わりました。

 次は、二つ目の目標、個人パフォーマンスを高め、陸上競技で日本一を目指すことに注力しました。そこで、個人で極めて高い結果を何度も出している人や指導者から学びました。すると明らかな4つの共通する特徴がありました。

 1番目はやはり決めていました。目標と目的をを定めていることです。例えば「オリンピックで金メダルを取る」。

 私はそれまで目標をはっきり決めていなかった。頑張って教えて精一杯教育して強い選手を育成しよう。「今日も頑張って仕事した、陸上競技を教えた。ビールがうまい」という感じです。その時はあまり結果が出ない。頑張ることが目標になっていたからです。頑張るのは当たり前で、その上で具体的にどうしたいという目標、目的のゴールをセッテイングしなければなりません。

 2番目は「勝利意識」です。敵は誰でもなく自分であり、自分と戦う覚悟を決めなければなりません。やると決めたら、最後までやる。勝利意識は続けることで強くなります。

 3番目は、プラスの習慣を形成することです。パフォーマンス向上のために、毎日継続して何かをやります。例えば、職場に一番に出社し、清掃をする。出張先から家族にメールをしてストロークを与える。などでも良いです。仕事、起業にも役に立つような習慣を形成します。

 4番目は、毎日思考することです。つまり、毎日、目標や目的を考えていないと絶対ダメです。そして、日々思いついた工夫やヒントは文字にして書き留める。それをためていき、折に触れて見るようにします。すると頭の中でのイメージがだんだん鮮明になってきて、成功の確度が段違いに上がるようになります。

 この4つが個人パフォーマンス向上の原理原則です。これは「心づくり指導」と呼び、教育の中に入れました。

我々の未来には4種類


渡邉美樹(筆者)
渡邉:なるほど。改めて整理していただくと、自分で実践しやすくなりますね。では、具体的に未来の夢を実現させていくための方法論などはあるのでしょうか。

原田:我々の未来には4種類あります。それは、


[1]自分の形ある有形の未来(目標や目的)
[2]自分の無形の心の喜び
[3]社会他者の有形の形ある未来
[4]社会他者の無形の心の喜び。です。

 プロ野球、福岡ソフトバンクホークスに和田毅投手がいます。彼の有形の目標は、年間20勝です。

 彼は1球投げるごとに、また、1勝するごとに、ワクチンを寄付しています。そのワクチンでアフリカなどの子供たちを病気から救っているのです。つまり、彼が勝てば社会他者、つまり幼い子供たちの命が救われるという具体的な感覚を持ちながら、年間20勝頑張ろうとしている。言い換えれば、和田投手は「自分の形ある未来の目標」と「社会他者の形ある未来の目標」を共に感じながら生きているのです。

 もう1つ、和田投手は年間20勝すると「自身の無形の心」すなわち、人の命をワクチンで救えるという、自信や満足感を獲得します。そして、子供たちはワクチンにより命が救われるという夢や希望を持つことができます。自分の活動が見えない社会や他者に勇気や元気を与えることを感じながら頑張っています。

具体的な未来を書く

 次に達成するための方法論です。より具体的な未来を描きます。達成期日を決めて、達成したか否かを判断できる形で書く。ただ単に「頑張る」とかではダメです。そして、文頭は「私は」から始めます。

 次は「それが達成できたら、自分の心の中はどうなるか」を書く。「自信がつく」とか「元気が出る」とかですね。私は陸上競技で日本一の監督になった時に、「自己超越」「至高体験」を感じました。

 そして次です。有形の目標を達成して心が喜びで満たされた時、家族や地域の人々、部下、同僚、仲間などにもたらす具体的なプラス成果を書きます。起業に成功すれば、雇用を創出できるとか、社員の給与が上がるとかです。

 最後は社会・他者の無形です。目標を達成した時、地域に対して何を与えられるでしょうか。地域の元気、誇り、プライド、やる気…。それを4つ目の未来として書きます。

 4つの未来のうち、どれか1つでも未来が生まれた瞬間に、実は、我々は同時に4つの未来を持つことになるのです。それを気づいていないだけです。勇気と自信を持って、そのことに気づきましょう。

渡邉:これで自分を奮い立たせる方法はいくらでも工夫できそうな気がしますね。「4つの未来」の使い方もアレンジできそうな気がします。

原田:世の中には「たすき掛けの法則」というのがあります。社会他者の無形の喜びを増やせば増やすほど、自分の有形の目標、目的が促進されるものです。そして、自分の無形の心の喜びを増やせば増やすほど、精神的に余裕が生まれるので、他者の有形の目標をお手伝いします。

 我々は、自分のことと他人のこと、見えるものと見えないものを同時に感じながら、4つの未来の中で、たくましく生きています。今まで、プロスポーツ選手から、芸能人、国内外の企業経営者の方まで指導した経験がありますが、「社会他者の無形」が大きくて「自分の有形」を達成できなかった人はいません。確率論的に言うと、無形が大きくなればなるほど達成の可能性が高まるのです。

絡めるほどモチベーションが高まる


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 このように未来の4つの目標、目的をしっかりと考え、意識すればするほどモチベーションが高まります。ですから、長期的なモチベーションは、その人の未来の目標、目的のとらえ方と感じ方にかかっているんです。ここが一番大事なところです。

 自信のない、ちっぽけな未来の目標、目的を薄い鉛筆でサラサラっと書く程度ではダメなんです。自分でしっかりと4つの未来を考え、とても強い思いや願いをかけながら、いつも周りの人を元気にするような本当の目標、目的を作って欲しいのです。

目標には期日を入れる

 前回学んだように、目標を達成した時、どんな状況が映像として目の前に広がるでしょうか。どんな音が聞こえますか。体はどんな感じがして、どう反応するでしょうか。その時の気持ちは。これら五感と感情をすべて使いながら未来をリアルに体感してください。しかも楽しく、ワクワクとです。

 それを今の言葉で言うと「イメージトレーニング」となります。これが最新式の未来づくりの簡単なやり方です。ここまでできたら後は簡単で、最終ゴールに向けて毎日、何かを続けてください。それを「ルーティン行動」と言います。そうすると、習慣が形成されて、潜在意識の中の97%を占める「無意識」が勝手に働くので、自然に結果が出るようになります。

 次に、「いつまでに」という途中経過の期日を入れることです。そして最後にもう1つ、支援者・助けてくれる人を作ることです。絶対に1人で成功はできません。

 繰り返しますと、「明確な未来を掲げながら、毎日何を続けるか」「目標の途中に小さな階段として経過目標を入れる」「誰に助けてもらうか」の3つが揃うと、非常に高確率で未来に近づきます。渡邉会長も、夢を語る時に、よくおっしゃってますよね。

渡邉:その通りですね。「夢に日付を入れる」ことは非常に大切です。原田さん、ありがとうございました。



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